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皇子からの挑戦⑦

 ユリアスは、自分がまとめた東の領地と市場をつなぐ関所の人員配置の資料を見ながら、東宮へ通じる回廊を歩いていた。


「ユリアス殿」


 ユリアスがふと顔を上げると、昨日世話になった教会付き騎士イザベラが、手を振りながら向かって歩いてくるのが見えた。


「イザベラさん、昨日はありがとうございました。おかげで、殿下に怒られなくてすみました」

「それはよかった。どうだい、調子は」


 イザベラはいたずらっぽい口調で、分かり切ったことを聞いてくる。

 そんな彼女にユリアスは「見ての通りですよ」と半笑いしながら、資料のファイルを見せた。


「今度は資料集めなのかい? 大変だな。何の資料なんだ?」


 ユリアスは、話してもいいものかと少し迷ったが、関所の資料室を出入りしているのは多くの人に見られているので、かまわないかと、正直に答えることに――


「東領の関所関係ですよ。殿下が何をお知りになりたいのかよくわかりませんが……」


 頭の悪い自分にはさっぱり、という風に両手をあげておどけて見せる。

 イザベラは、ふむと顎に手を当てて何やら考え事を始めた。


「最近関所でおかしなことが起きてるから、その件について調べておいでなのかもしれないな」

「おかしなこととは?」

「詳しくは私も知らないんだ。でも、商導家と武導家がなにやら揉めているらしい」

「商導家と武道家ですか……」


 殿下に調べろと命じられたのは、東領から市場に通じる関所の人員配置。

 何か関係している可能性が高い。

 

「おや、もうこんな時間だ、カテドラルへ行かないと」

「カテドラルですか?」

「ユリアス殿は、行かれたことはないのか?」

「カテドラルは男子禁制なのではないのですか?」


 カテドラルは、アストラス帝国が信仰している『ローゼン教』の総本山で、教会の奥にある。

 そこはとても神聖な場所なので、基本神職者や、教会付きの騎士、侍女たちしかはいれないはず。

 

「本堂は入れるんだよ。バラ窓がとても美しいから、ぜひ見てみるといい」

「そうなんですか。いいことを聞きました」

「じゃあ、また」


 そういって、イザベラは教会の方へ向かって歩き出した。

 ユリアスも、自分の主がいる場所へ歩き出すと、背後から「ずいぶんと余裕だな……」と聞き覚えのある声が聞こえた。



「で、殿下――――?」

「まさか、こんなところで教会の騎士と油を売っていたとはな」

「いつから、そこに……?」

「お前たちが楽しそうに話している頃から」

「盗み聞きですか?! いるなら声を掛けてくださいよ!!」

「なぜ私がお前に声を掛けなければならない?」


 そう言いながら、ラザフォードはくるりと振り返り、一人すたすたを歩き出す。

 自分の失言に気づいたユリアスは顔を青ざめながら、急いでその後を追った。


「殿下、失言をお許しください」

「私は先に、執務室にある関所の記録を作物別・地域別に分類し、紙にまとめろ、と命じたはずだが、それはもう終わったのか?」

「いえ……。それはまだ手を付けておりません」

「ふ~ん、そうか」

「怒らないのですか?」


 少し前を歩く主の顔色を伺いながら、ユリアスは尋ねた。

 帰ってきた返答は「別に、期限までに終わればいいから、問題はない」とそっけない。

 ユリアスは、さっきイザベラから聞いたことを、主に尋ねようかと思ったが、やめておくことにした。

 聞いたところで、まともな返事が返ってくるとは思えない。


 執務室に戻り、ユリアスは山積みにされた、関所の記録を一つ一つ手にとり、作物別に仕分けする。

 太陽は沈み、部屋の灯りに火がともされていく。


「ユリアス!」

「わっと!」


 急に投げられた包みを空中でキャッチし、一体何だと、手の中のものを見つめる。

 

「一体、何ですか?」

「どうせ、昼も食べていないのだろう? ちゃんと食事はとりなさい」


 そういわれながら、包みを開けると、四角いサイコロのような黒いかけらが6つほど収まっていた。

 

「チョコレートだ。とりあえず口に入れとけ」

「ありがとう……ございます」


 ユリアスは礼を言いつつ、一粒を口に放り込んだ。

 カカオのいい香りと、ラズベリーの甘い酸味が口いっぱいに広がっていく。


「おいしい」

「だろう? そのチョコは国で一番だと思うが、まぁ、立場上そんなことは大っぴらにはできない。本当に残念だ」

「チョコレートがお好きなんですか?」


 もう一粒口に頬張りながら、ユリアスが尋ねた。


「そうだな。私がというか、私の友人の好物だったんだ」

「その方は……今は……?」


 ユリアスは顔を上げ、ラザフォードの青い瞳を見据えて尋ねた。


「もういないのだ」


 皇子はいつもの様子で言ったようだが、その声はどこか悲しげで、その瞳はとても遠くを見ていた。






 



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