出会い①
「お前が、魔導家から来た側仕えか?」
自分をじっと見つめる青年は、金色の髪によく合うガラス玉のような碧をもつ青年だった。
肌は白く、美しい精悍な顔立ちで、自分よりも背が高い。
自分とは違う次元の人だと、一瞬で悟った。
聞くところによると、年齢はたしか今年で20。
年齢の割にずいぶん大人びている気がする。
「おい、お前は耳がないのか?」
「あ、はい! さようでございます」
その姿に圧倒されて、ユリアスは返事をするのを忘れていた。
遅れてした返事も、どもってしまい、最悪。
なにが、さようでございます、だ……
返事のタイミングを誤ったせいで、ユリアスはさっそく、「いろんなもの」を失った。
ユリアスは、自分に対し、ため息をつきたくなったが、実際についたのは、目の前の皇子だった。
「こんな返事もろくにできない奴を、私に送ってくるとは、魔導家には舐められたもんだ……。なあ、カイル」
「まぁ、まぁ。あなたに初めて会って緊張しているのですよ。大目に見てやってください」
カイルと呼ばれた皇子と同じくらいの背の男は、茶色の短髪、茶色の瞳。
腰には立派な剣を携え、胸元には獅子が描かれている赤い徽章が輝いている。
彼の助言のおかげで、とりあえず話を進める気になった皇子は、ユリアスを睨みながら言い放った。
「お前、名前は?」
「ユリアス・ヴィーゼントと申します、殿下」
「ユリアス、お前は今日から私の側仕えとなることを命じる。早速だが、ここにある本全て、西の塔にある書庫へ戻せ。それが終わったら、庭においてある植木鉢全てに水やりを。水は井戸から必ず汲んでくること。終わったら、薬剤師の元に行き荷物を受け取ってくること。あと、侍従から関所の調査票がくるからそれを優先事項順に並べておけ。それも終わったら、庭師の元へいき、新しい種をもらってくるように。その時必ず、植物の種類と水のやり方、その植物の効能と聞いてくるように……それから――」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなに覚えられません!」
「やる前から、できないというのか?」
「い、いや……できないというか……」
「やる気がないのか?」
美しい顔をキッとゆがませ、ユリアスを睨みつけた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、ユリアスは「やる気がないというわけでは……」と喉から絞り出した声で言う。
「じゃあ、やれ! さっさとやれ!」
「いつまでに?!」
「もちろん今日中だ。当たり前だろう?」
「きょ、今日中ですか?! あの……一人でですか?」
「お前以外に誰がいるんだ?」
確かに、自分以外の側仕えは部屋には見当たらない。
でも、第一皇子ならば、普通、側仕えは最低3人はいるはず。
そのように自分を送り出した父上に聞いていた。
「ほかの側仕えはどうされたんですか? 武導家、神導家、商導家からそれぞれ一名ずつ、遣わされたはずでは?」
「全員クビにした」
「は?」
予想外の返答に、ついいつもの口調になってしまった。
クビにしたとは一体何が……
ユリアスの頭の中は、いろんなことがぐるぐる回っていた。
「全員使えなかったからな。私は自分が信用できる者しか置かない主義だ。使えない者はいらぬ」
――つまり、自分も試されているということ
ユリアスは、ゴクリと唾を飲み込み、自分の置かれた状況を整理する。
これをやり遂げなければ、即クビ。
でも、一人でやるには大変な仕事量。
そして、もうすでに時は経ち、残りは半日。
「おい、やるのか? やらないのか?」
「それは……」
「いいんだぞ? 辞めたって。まぁ、魔導家が今後どうなるのかは……わかっているな?」
つまり、一族の命運は自分が握っているということ。
何もしないで、父や母、兄弟、そして分家の人たちが冷遇されてしまうのは、耐えられない。
ユリアスは次の瞬間、今日一番の大声を出した。
「やります! やらせていただきます!!」
それが悪夢の始まりだった。