陽炎日記
【七不思議】
七不思議は、ある地域や場所において起こる不思議な7つの事柄を指す語。転じて、7つの不思議な物や現象を数え上げたものを指し、怪談の一形式としても有名である。
…Wikipedia引用。
トイレに現れる少女の霊、
夜中勝手に動き出す人体模型、
図書館の魔物、
観察池から這い出る血まみれの手
etc…etc。
これら、学校で起こったとされる不可思議な事件や現象を人は、学校の七不思議と呼んだりもします。
今回紹介する七不思議は
少し昔の咄、ある学校のある生徒が犯した罪、その罪を免れる為に生まれてしまった七不思議。
歪む踏切と炎天下の境界で
揺らぐカゲロウは囁いた
『 』
…ねぇ、見つかったアレってもしかして…七不思議の…?
…何?なんの話?
…ふざけないで!ほら”例”の…
…あぁ”アレ”ね〜でも、アレって、桜木の下じゃなかったけ?
…そうなの?…でも不気味じゃない…?10年も前のものがあんな所から…
…ホラーだねぇ〜(笑)
……。
…でも不気味ってよりちょっとかわいそう。10年も忘れられてたなんて…
…そうね。
……ピピピ
デジタルの目覚し時計が鳴っている。
眠いな…今何時だよ…12時?
なんだ…まだ12時じゃないか…
再び布団に潜り込もうとする。
しかし、これ以上の睡魔も襲ってこないようで、やもなく布団から出る。
語り部となる俺は吾桑達也の下
あと数年で三十路を迎える
残念独身野郎だよ
職業は作家。
だから12時まで寝れるんだ
昨日編集者に原稿を渡して
久々の休みを貰ったから。
いいじゃないか、1日くらい
1日中ゴロゴロしてる日があっても
そんなたわごとを一人ボヤいて
遅すぎる朝食をとる。
テレビをつける。
ニュースは丁度お昼の報道が始まった所だ。
『今朝、…譽栄高校の校庭から…が……』
ボーっとした頭で理解できることの範囲は限られている。
しかし、確かに聞いた。
画面の向こうから、聞き慣れた母校の名前を
譽栄高校…なにかあったのか…残念ながら、ニュースは聞き取る間も無く一度流れたきり流れてこなかった。
ケータイを使うか…いや、ガラケーではインターネットをするのに色々と面倒事が起こるから極力使いたくない。
パソコンは仕事を終わらせたばかりだから当分見たくもない。
そうだな…
『気分転換も兼ねて、行くかね』
伸びをして一言。
夕霧が赤く霞む午後六時頃。
僕は母校の門をくぐった。
少し遅いからだろうか、他に人影がない。クラブをした形跡も、職員室の灯すらついていない。
本来なら
多少不可解に思うはずなのだが
その日の僕は暑さに殺られたらしく
思考が散漫になっていた。
特に昔と変わり様のない校舎を眺めながら裏庭へ向かう。
薄暗い校舎の隙間を抜けると
林に囲まれた屋外プールがある。
中学時代、読書以外になにも興味を唆ることのなかった僕が初めて熱中したもの。水球だ。
高校時代、青春の全てをここに置いてきたつもりだ。
必ずインターハイまで進むと、友と誓っておきながら、現実は意地悪なもので、結局、地区予選敗退だった。あの今までかいた汗を全てただの水にしてしまった瞬間は忘れることができない。
そう考えると、あの頃の自分が今、こうなっているだなんて思ってもみなかったろうに。趣味で書いていた小説が選考作品のトップにノミネートされ、一躍作家デビュー駆け出し中の新人作家として、文学界で、ある程度の注目を集めているなんて、あの日の僕は思いもしないだろうな。
失笑しプールを後にしようとした時、人影を見た。
プールの向こう側、凛と佇む少女の姿を確かに見た。
この学校の生徒だろうか?
だが、人の気配のない学校に
たった一人、あんな所で何を…?
黒い長髪は少女の白い肌を際立たせ
夕焼けは彼女を鮮やに照らした。
……だが何故だ…?
僕は、どこかであの少女を見たことがあ
る。
彼女を知っている。
だがどこだ?
どこで出会った?
曖昧な記憶の隅を探っている内に、
相手もこちらに気づいたすると少女は、少し苦笑いをし、手を振ってきた。
思わず振り返してしまったが
彼女のことが思い出せないままなのだ。
少女が駆け寄ってきた。
『やぁ、』
とりあえず平穏を振る舞う
『久しぶり〜』
少女が笑う
『…久しぶり』とりあえず答える
『……。』少し不機嫌な様子だった。
『私の事…覚えてる…?』
不意な問いに思わずビクつく
『いや…その…』咄嗟に隠そうとするが少女は少し呆れて
『はぁ、まぁいいよ。慣れてるから』
途轍もなく申し訳なく気まずい空気、夏の暑さが頭を燻る
僅かな沈黙の後
『えっと…それで君は…』
と問いかけると少女が言った。
『ねぇ、歩かない?』
少女が指差す先には校舎と
一つの扉があった。
彼女と一緒に廊下を歩く、正直、最初は躊躇したが、今は彼女に頭が上がる訳でもないし、田舎だからだろうか、不法侵入に対してまるで無防備だ。
今考えてみると、10年以上も訪れていない母校だが、こうして歩いてみると、存外覚えていたりするものだとしみじみと感じた。
その間少女と様々な思い出を話した。彼女の名前、何故かいつまで経っても思い出せないのだが、こうして同じ思い出を共有できる今、個の名などどうでもいいと感じたのか、僕はそれを気にも留めていなかった。
『ヘェ〜小説家かぁー!すごいね!』
少女が驚きながら言った。
正直、知り合い…なのかはっきりとしないが…知り合いに仕事の事を話したのは今が初めてである。
ほとんど部屋から出ず作業に耽り
生活必需品や食料品を買う時くらいしか外出しない為、街で同級生と出会うこともなかった。
すると、不意に素朴な疑問が浮かんだ。何故、彼女はここにいるのか?
彼女に尋ねてみた。
『君は、どうしてここへ?さっきのテレビで?』
すると、少女が足取りを止めた。
少し俯いて
『うん、まぁそんなとこかなぁ…』
彼女は笑っていたがその顔はどこか寂しそうだった。
『ねぇ』短い静寂の後、少女が切り出す。
『君は、さ。”死ぬ”ってどんな事だと思う?』
日も落ち、ただ夕の名残気ばかり淋しい光が残る廊下に響く声。
『え?』思わず口から出た言葉だった。
『ずっと、考えてたんだ。ずっと、ずっと…何年も、何年も。ずっと考えてた…。でも、今わかったんだ。本当に死ぬって言うのは、愛した人から、愛された人から忘れられることなんだなぁ…って。だからさ、やっと今受け入れる事が出来たんだ。”自分の境遇”を。』
声は震えていた。
少女は俯いた顔を上げて笑ってみせた。笑顔から溢れた涙はその笑みが作られたものだと物語っていた。
彼女が急に何かを悟りったようで
話の流れが理解できない僕は、
『どうしたんだ…?』と問う事くらいしかできなかった。
『大丈夫。今日は楽しかった。ありがとうね。アソウ君。』
涙を拭い、少女が手を差し出す。
『あぁ、また縁があったら…
僕は路上にいた。
ただ一本の街灯が照らす路上に、僕は立っていた。どうやら、近所のようだ。
手には家を出て買いに行っていた、文具とお茶が入っていた。
あの少女の姿はない。
その翌日、新聞の見出しを見て、母校で起きた怪事件を思い出した。10年前の丁度昨日、ある女子生徒が失踪、彼女の両親は放任な人物だった為、事件が発覚するまで時間がかかり結局、迷宮入りとなった。その女子生徒の遺体が、あの高校のプールサイドの地面の下から発見されたそうだ。
そして思い出した。
あの少女の事を何もかも。
そして悟った。
僕は、人殺しだ。
僕は、最愛の彼女を殺害。
その後、性行為をした後、遺体を処理。この手早い手順と偶然が重なり、この事件は迷宮入り。
僕はネクロフィリアだったのか
否、僕、(())は至って健全な生徒だった。ただ僕を歪めたものそれは僕を取り巻くもの全てだった。
僕は周りのモノから身を守る為、自身の身代わりとなる人格形成を図り歪んだ倒錯思考を生み出した。
だが、飽くまで身代わりの用途で作ってしまった中途半端な人格はすぐに消え去り、僕の頭の中から消えてしまった。
今の今まで最愛の人の名前は愚か
彼女を手にかけた事すら忘れてしまっていたのだ。
故に彼女は言ったのだ。
あの路上にいたと気がつく寸前
彼女と手が触れた瞬間。
淡いストロボの世界に染まった
景色の中。
『忘れないで。』と。
最後までご閲覧ありがとうございました!
あまり怖くなかったでしょ?
今回は夏ホラーですが
どちらかというゾクっよりジワッという
感じのホラーを目指してみました!
ノスタルジックさも少しは出せたかな…?w