第6章 正体
「そっそんな馬鹿な」犯人がかすれた声で言った。犯人の撃った拳銃は空砲だったのだ。その一瞬の隙を橋本先生は見逃さなかった。犯人の顔面に右ストレートパンチを食らわせた。その一撃で犯人はよろけた。すかさず、橋本は犯人に近づき柔道の固め技のような格好で犯人を押さえた。見事に、橋本先生と関口で犯人二人を取り押さえることに成功したのである。だが、まだ油断はできない。二人が柔道技で動きを封じているに過ぎないからだ。
「大人しくするんだ」橋本が言った。犯人はなおも抵抗している模様だ。周りの生徒はどうしていいのか分からず立ち尽くしている。その時
「なるほどそういうことか」転がった拳銃をクラスメイトの工藤が拾った。
「おい!工藤何してる。触るな!危ないぞ」先生が犯人を押さえたままの格好で言った。
「大丈夫だよ先生だって弾なんて入ってないもん」工藤の親は、警視庁で警部をやっている。なので銃の知識が多少あると前に工藤は話していた。
「ほっ本当だ。弾が一発も入ってない。しかしそんなのがらくたも同然じゃないか。何故そんなものを持って来たんだ」
「皆も薄々感づいていると思うけど」工藤が話し始めた。
「こいつらはプロじゃない。おそらく行き当たりばったりで今回の犯行に及んだんじゃないかな」と工藤が言った。
「行き当たりばったりだと?」クラスメイトの佐野が言った。
「あぁそうだよ。おかしい点を挙げていったらキリがないけど、こいつらの犯行には穴が多すぎるんだ。手袋をしていないとか、二人組が常に三組の前に陣取っていたのもおかしい。普通は前方と後方に分かれるのが妥当だ。まぁそんなところかな。で、どうだいそろそろ正体を明かしたら?ハイジャックさん?」
完全にハイジャック犯をなめた口調で工藤が言った。
「正体だと?ははは。まぁこうなっちまったら仕方がねーな。どうせ捕まるなら教えてやるよ俺たちの正体を。でも今のままじゃ身動きがとれねー。この関節技をほどいてくれねーか先公さんよ」
「そんな口車に乗るか・・・」と言ったところで、前方から騒がしい音が聞こえてきた。警察のSATだ。おそらく機長が着いてすぐに警察に連絡したのだろう。SATは六人ぐらい機内に突入してきて、即座に犯人二人に銃を向けた。橋本と関口が固め技で押さえている犯人に機動隊が銃を向けているという、シュールな画に見えた。
「ちっここまでか。機動隊の皆さんよしてくれやもう俺らは抵抗するつもりはねー。その前にこいつらに正体を明かしてーからこの目だし帽を取ってくれや」と犯人の一人が言った。
その言葉を聞いて機動隊の人達がひそひそと話し始めた。おそらくあの目だし帽の下にも何か隠し持っているのではないかと警戒しているのだろう。犯人が取ってくれと言っても、簡単に取るわけにはいかないようだ。
「取り合えず担任の先生ですか?あなたとそこの男子生徒君は、私と代わってください私がこいつらを取り押さえますんで」と機動隊の一人が言った。
「分かりました」そう言って橋本と関口は慎重に機動隊と交代した。
「あの、警察の皆さん。こいつらの言う通り目だし帽を取ってくれませんか?こいつらはうちの生徒を恐怖に苦しめた卑劣な輩です。せめてその面だけでもこちらに見せて生徒たちに謝らせたいのですが」
「うーーん・・・分かりました。いいでしょう。護送する時にはどのみちこの目だし帽を取るつもりですし。」
そう言って機動隊がそれぞれ犯人の前に立ち、犯人の目だし帽の頭根っこを持って思いっきり引っ張った。犯人の目だし帽が取れた。犯人の顔を見た瞬間、橋本先生が驚愕の声を上げた。
「おっお前らは・・・」




