第4章 推理
長い沈黙が続いていた。クラスの誰一人として声を発そうとしない、いやできない。まだ状況を理解できていない生徒も多いのではないか。
「君たちの・・・目的は何だ」担任の橋本が声を振り絞って聞いた。
「あん?目的?」
「そうだ。君たちのやっていることはハイジャックだろう」橋本は堂々と言った。
「ならば、普通はパイロットに引き返すように命じて、出発地点に戻った段階で立て籠もり、金銭を要求するとかではないのか?それがテレビでもよく見るケースなのだが・・・」
『・・・よくハイジャック犯にこんな事が言えるな』と俺は内心で思った。
犯人の1人が答えた。
「ははは。先公さんよ。勝手に俺たちの目的を決めんじゃねーよ。金だって?そんなものには興味がねーんだよ俺たちの目的はな・・・はっ教えるわけねーだろ。てめーらは黙って俺たちの指示に従ってればいいんだよ」
「わっ分かった。ならば、生徒たちの命だけでも保障してくれ」
「さぁそれはどうかねぇ」
「ぐ・・・」
橋本とハイジャック犯とのやり取りを聞いている中、俺はいくつか妙な点に気付き、隣の秋人に話していた。
「なぁ秋人犯人たちはプロなのかアマなのかどっちなんだろ?」
「あん?どういう意味だよ?」
「普通に考えてみろよ。犯人は拳銃とナイフを所持しているんだぜ。飛行機に乗るには、軽い身体検査があるし、金属探知のゲートみたいなものをくぐっただろ。その二つをかいくぐったってことだろ」
「確かに、それはすげーな」
「でも、その反面見てみろよあいつらを。何か、重要な点に気付かねーか」
「んーーー・・・・あっ素手だ」
「そうだ。あいつら手袋も何もしていない。あれじゃ拳銃とナイフはもちろん、座席にもちょいちょい触れてるから指紋がべったりだよ」
「でもよ、拳銃とナイフに指紋が付いたところで、押収しなきゃどうしようもなくねーか?」
「いや、問題はそこじゃない。あいつらがこの先どうするつもりなのか知らないが、沖縄について、うまく逃亡したところで、座席の指紋を調べれば良いんだよ。そっから後は、飛行機には乗客リストみたいなのがあんだろ。それを調べて洗い出せば、すぐ御用じゃねーか」
「さすが圭介、頭いいなお前」
「そうでもないさ。それよりもうちょっと声のトーン落とせ秋人」
「ああ、分かった」
しばらく沈黙が続いた。張り詰めた空気が漂っている。沖縄まではあと一時間ぐらいか。
しかし橋本の言う通り金銭が目的じゃないみたいだなこいつらは。じゃあ一体何が・・・
そんなような事を考えていたところで、一人の女子が立ち上がった。すかさず犯人が銃を向けた。
「おい、お前!何してる!座れ!」
「あ、あのトイレに行きたいんですけど・・・」
ここで生理現象か悲惨だな、と圭介は思った。
「トイレだぁ?・・・まぁ良いだろ速く行って来い」
いいのかよ、と圭介は思った。やはりこの二人組何かがおかしい。隙がありすぎる。そもそもハイジャックに二人は少なすぎないか?後ろから体育教師の若井先生が全力で殴れば、こいつらノックアウトできそうだ、とさえ思った。
『待てよ』もう一つ重要な点に気付いた。こいつらは、何故後ろに行こうとしない。こいつらは前からやってきた。つまり一組と二組の生徒に
「俺たちがこの飛行機を乗っ取った。今から、他の組の奴らにもこのことを伝えてくるから、動くんじゃないぞ」みたいなことを言って後ろに来たに違いない。ならば、三組の後ろの四組、五組、六組にも自分たちがハイジャック犯だと伝えなければいけないのではないだろうか。何故それをしない。最後尾の六組なんかは、ハイジャックが起きていることすら気づいてないかもしれない。飛行機は意外に広い。ほとんど真ん中に位置する三組の前に陣取るのはわかるが・・・。
「おい、圭介」考え事をしているうちに、秋人に話しかけられた
「何だ?」
「あいつら、多分若いな」
それは、俺も思った。目だし帽をかぶっていて、目と口しか見えないが、声を聴いている限り、そんなに年を取っている感じではない。いいとこ二十代後半だ。
犯人の目的を推理しているうちに、沖縄到着まで三十分となっていた。未だに犯人二人の動きはない、と思っていたら
「そろそろ沖縄に着くな。じゃあお前行って来い」犯人の一人がもう一人に命令した
「ああ。分かった」そういってナイフを持った方の犯人が前方へと歩いて行った。
五分ほどして、機内放送が流れた。
ピンポンパンポン『南原高校高校二年生の諸君、こんにちは。俺だ、ハイジャック犯だ』
何故最初にこれをしなかったのか、と圭介は思った。最初に機内放送をしておけば、すべての組にハイジャック犯だと伝える必要がなかったのに(といっても四組、五組、六組には伝えてないが)
『沖縄まで後、三十分を切った。そこで俺たちの目的を教えてやろう』
何故ここにきて、ようやく目的を話す気になったんだ、と圭介は思ったが、そんな事はどうでもよかった。犯人の言葉に耳を澄ませた。
『俺たちの目的は・・・南原高校の教師全員を殺害することだ』
また一瞬沈黙が訪れた。誰もが言葉を失った。




