第3章 戦慄
「すごーい。こんな感じなんだ」
「あんまり飛んでる感じがしないね」
周りからクラスメイトの歓声が沸き上がった。
「ほら、静かにしなさい」担任の橋本が注意するが、生徒は全く聞く耳を持たない。
「いよいよ飛んだな。どれぐらいで沖縄に着くんだっけ?」秋人が聞いてきた。
「二時間ちょいじゃなかったかな?」俺が答えた。
「そうか。その間どうしようか・・・スマホはもちろん圏外だからなパズモンができねーな」
「寝てればいいんじゃね?」
「いや、全然眠気ねーよ」
「昨日ぐっすり眠れたのか?」
「あぁ。俺別にそういうので寝れなくなるタイプじゃねーから」
「そうか」
秋人と会話しているうちにキャビンアテンダントがやってきた。なかなかの美人で制服も似合っていた。
「お客様お飲物は何になさいますか?」
「あ、はい。えっとー何がありますか?」
「コーヒー、紅茶、ウーロン茶、アップルジュース、オレンジジュース、コーンポタージュを提供しております」
「えーっと、じゃあオレンジジュースで。秋人は?」
「あぁ俺もオレンジで」
「かしこまりました」そういってCAは慣れた手つきでオレンジジュースをコップに汲んだ。
「はい、こちらになります」
「ありがとうございます」圭介はコップを二つ受け取り、秋人に渡した。ドキドキしたのはCAが美人だからか、はたまた違う理由なのか。
そうこうしている内に、30分ほどが経過した。秋人とは、仲が良く会話も尽きないが、さすがに一定の沈黙は訪れる。しかし別に気まずいとかいう感情はない。周りも出発時と比べて数段静かになった。やはり感動と言うのは最初だけなのだろう、飛行機が飛んでしまえば、それほど感動はないようだ。周りを見渡すと寝ている人も2割ぐらいいる。寝ているのはほとんど男子で、女子たちは会話が尽きることがないのか、ベラベラと話している。
俺と秋人は前の座席の背もたれについている画面でゲームができることに気付いた。テトリスをやってみたのだが、操作性があまり良くなく、すぐやめてしまった。
「なぁ秋人」
「ん?」
「やっぱり次の大会さ、スタメンはさ、俺と秋人と黒崎と宮田先輩と権田先輩だよな」なんやかんや、俺と秋人は部活の話になった。
「それがベストだよな。ただ相手がな・・・ん?」
「ん?どうした秋人?」
「いや、今さ前の方で何か聞こえなかった?」
「は?何かって何が?」
「なんか、怒声みたいな」
「怒声?いや・・・」と言いかけたところで、何と言っているのかは分からないがハッキリと大きな声が聞こえた。
「な、何だ?」
周りもざわついている。すると、前方から男が2人近づいてきた。その男が3組の座席の前に立った瞬間、圭介は自分の目を疑った。
2人組の男は目だし帽をかぶっていたのだ。しかも手に何かを持っている。拳銃だ。1人は拳銃を所持していて、1人はナイフを持っている。まさか・・・これは・・・。
「おらーーー!!騒ぐんじゃねー!!この飛行機は俺たちがのっとった!!」
一瞬の沈黙が訪れた。おそらくクラスのほとんどが今の状況を理解していないだろう。これはハイジャックだ。なんとハイジャックに遭遇したのだ。女子たちの悲鳴が聞こえる。
「なっ何なんだ君たちは」と担任の橋本が立ち上がろうとした時、犯人の1人は即座に銃を橋本に向けた。
「おい!動くんじゃねー!お前が先公だな大人しくしていろ。さもないと、この拳銃が頭をぶち抜くぜ」
橋本は拳銃を向けられ、恐れひれ伏し、静かに座った。
「大人しくしていろ。そうしていれば、沖縄に着くまで命は保証してやる」
「パイロットには、通常通り沖縄まで行くように命令した。それまで大人しくしているんだ。さもなくば、命はないぜ」
こいつらは本気だ。本気でハイジャックをしている。圭介は未だに信じられなかったが、現に目の前でハイジャックが起きている。こいつらの目的は何だ?金か?それとも、俺らの命か?正常な思考回路ができなくなっていた。
「おい、秋人これマジか?」犯人に聞こえないように小声で言った。
「マジみたいだな。ハイジャックされたみたいだ」
「マジかよ・・・」それ以上言葉が続かなかった。一体この先どうなってしまうのか。それはクラスの誰一人として分からないだろう。




