遥の過去、
「遥っ? 大丈夫?
ごめんね、勝手に飛び出しちゃって……」
私がそうずんずんと腕を掴んだまま、歩いていく遥に声をかけると、遥は、後ろを振り向いた。そして、申し訳なさそうに眉を下げた。
「いや、こっちこそ何か無理矢理ですまん。
でも、奥様には気をつけろよ。…何かすごい人だから。」
私は、こくり、と頷いてみせると慌てて恥ずかしそうに腕から手を離す遥に尋ねた。
「遥って、どうしてここにいるの?」
遥の動きが止まったのを見て、私は、「ヤバッ、」と首を横に振った。
「こ、答えなくてもいいからね!」
すると、遥が微笑んだ。なんというか、遠い目をして微笑んでいる。ある意味、怖い。旦那様や奥様レベルの怖さが漂っている。私は、ぎこちなく微笑みを返した。
それをみて、遥は踵を返すと話しながら、歩き始めた。
「亜理紗と大して変わらないよ。
親がここに借金を作って、俺を売って今は、どっかで幸せに暮らしてる。
亜理紗は、親がいなくなったから、親を恨めばいいけど、
俺なんかは、小さい頃に大好きだった親と一緒にここに来たわけで、
寂しくて、憎くて、死にたくなるような感情のコントロールが
出来なかった。
一時期、壊れかけてた。
そんな所を奥様に目をつけてもらった。
最初の頃は、幼い俺が出来る仕事なんかも無いから、
借金が増えるだけで、俺はただ縁側でボーッとしてた。
でも、奥様に色々な事を教えてもらって、可愛がってもらって、
居場所が出来て、幸せだった。
でもさあ、大きくなるにつれ奥様に手、出されちゃって。
まあ、元からボディタッチとかキスとか、異常に多かったけど。
学校行ったりしているうちに奥様が変わっているって事に
気づいちゃって。
奥様にやめて、って言った途端、変なスイッチ入ったのかなあ。
軟禁されて、……恐ろしかったよ。
たまに夢で見てうなされるレベル。
それを旦那様がやりすぎ、ってことで俺をコレクションから
外してもらった。
まあ、しばらく雑用して、美羽お嬢様に目を付けられたんだ。
そして、世話係として働かせられて旦那様が『美羽の婚約者、
面倒だし、遥でいっか』っていうノリで決められてさ。
で、今はこんな感じ。
って…亜理紗?
大丈夫か? あ、一気に話しすぎた?
すまん、すまん。もうすぐ、旦那様の部屋だぞ?」
遥の過去が想像以上に壮絶だった。
この家で働いている人って皆こうなの?
悲しい過去を背負っているの?
私は、ポカーン、と口を開いたまま、
遥の質問にこくり、と頷いた。
***
遥の過去が想像以上でした。