奥様、
「あら、どちら様でしょうか。
可愛いお嬢さん。」
妖美な笑みを浮かべた黒髪の女性が、お茶を片手に、片手で扇子で扇ぎながら、こちらを見ている。着物を着崩しているような所から、若さが見える。たぶん、この人が長女の人だろう。
うーん、美形。私は、内心、そんな事を考えながら、口をパクパクと動かした。声がまた、出ない。まったく、使い物にならない喉である。
「あらまあ、可愛らしい事。
大丈夫かしら、緊張しちゃって…、
私、龍崎 薊。
そこにいるのが、私のコレクションの菫。」
優雅な仕草でお茶を置くと、薊さんは、扇子で部屋の隅で折り紙を折っている淡い紫の浴衣の女の子を指した。薊さんが、「菫、」と呼べば、菫ちゃんは、薊さんの隣にやってきて、私に会釈した。
礼儀正しい子だ…じゃなくて! コレクション!?
何か、ヤバい趣味をお持ちのようだ…。
「失礼致します、奥様。
こちらに亜理紗という娘がやってきませんでしたでしょうか。」
遥だ、私が、「ここにいる。」という前に薊さんが、答えた。
「いるわよ、遥。
久しぶりに顔を見せてちょうだいな。
まったく、美羽の婚約者になってからは、私のコレクションから外されちゃって…」
色々と突っ込みたい所はあるが、まずは、ひとつ。
「薊さん、奥様なんですか!?
てっきり、長女の方かと…」
私の言葉に部屋に入ってきた遥は、ため息をつき、薊さん、改め奥様は、嬉しそうに頬を緩めた。
「まあっ、嬉しい。
亜里沙ちゃん、だったかしら。
有難う、やっぱり、漸みたいな爺から言われるのより、
若い子に言われるとすごく嬉しいわ~。」
私と手を繋いで、ぶんぶん、と振る奥様は、やっぱり、若さが滲み出ていた。すると、奥様と私の間に菫ちゃんが無理矢理、入ってきた。
すると、更に奥様が嬉しそうに声を高めた。
「菫、やきもち妬いたの?
まったく、何て可愛い子なんでしょう…
そうだっ、亜里沙ちゃん、私のコレクションに入らない?
遥が抜けてから、コレクションは菫を含めて、3人だけよ?
寂しいのよ、もう…」
そういったかと思うと奥様は、私を自分の体のほうに引き寄せて、抱きしめた。そして、私の額、頬、鼻の頭と顔の至る所にちゅっちゅ、とキスを落としていく。それを呆れたように見ていた遥は、奥様の唇が鎖骨より下に行こうとしたところで、止めに入った。
「奥様、もう駄目です。
亜理紗は、旦那様に呼ばれてます。
早めに連れて行かないと俺が、怒られるんです。」
遥の言葉に奥様は、頬を膨らませたかと思うと、にやり、と笑った。そして、遥にちょいちょい、と手招きする。遥は、顔を歪めて、嫌そうな顔をしたが、やっぱり、奥様には逆らえないのかもしれない。畳の上に座って、近づいて来た。すると、奥様は、遥の頬を両手で包み込むと唇と唇を重ねた。
「―――っ!? ――…ぅん、やめっ、……っさま、―…ぅあっ、」
顔を真っ赤にして、途切れ途切れに遥が抵抗の言葉を並べるが、奥様には強く出れずにされるがままになっている。私は、目のやり場に困って、奥様の隣にいる菫ちゃんを見た。すると、菫ちゃんは、羨ましそうに2人のキスシーンを見ている。まだ一桁か、二桁になるばっかりであろう年齢の菫ちゃんが。遥と奥様の濃厚なキスシーンを見ている。なんとも、恐ろしい画である。
しばらくして、奥様が、チュッ、とリップ音を鳴らして遥から離れた。遥は、息切れしつつも、キッと奥様を睨みつけている。その視線に気づいて、奥様は、また妖美に微笑んだ。
「やっぱり、遥はディープキス、下手ねえ。
美羽としてないの? 練習しないと、婚約者から旦那に昇格できないわよ。」
遥は、顔が赤くなったのが、自分でも分かったのか、私の手首を掴むと部屋を出て行った。
「またね、亜里沙ちゃん。
私のコレクション入り、考えておいて。
遥は、いつでも、おいで。練習相手になってあげるわよ。」
***
奥様は色々とヤバい人のようです。