廊下での出会い、
「ここだ。とりあえず、女物の着物を用意してある。あ、着替えれるか?」
遥が着物を差し出して、そう尋ねてきた。旅館の部屋でテンションが上がっていた私は、着物と聞いて、喜んで頷いた。
「祖母に格好いいから、って頼み込んだから、着物着るのは、慣れてるから大丈夫。
わあ、可愛い水仙模様…」
着物は、淡い水色で裾に水仙が描いてある。私が、広げてはしゃいでいると静かに遥が部屋を出て行った。私は、それを見届けると着物に着替えた。
「亜理紗、出来たか?」
「ん、出来た。」
遥の尋ねに返すと遥が部屋に入ってきた。そして、スタスタと近づいてきたかと思ったら、無理矢理、鏡の前に座らせられた。
「わっ、遥!?
ど、どうしたの?」
何も言わず、遥は、どこからか巾着を取り出して、私の髪を梳き始めた。そして、丁寧に結い上げていく。気づけば、3分も経たずに綺麗に纏め上げられていた。最後に毛先をくるくるとパーマがかけられた。
「あ、りがと…っていうか、すごいね…」
私が苦笑しながらそう言うと、かあっ、と遥が頬を赤くした。そして、恥ずかしそうに俯いた。
「…ここの召使いの姉ちゃん達のを昔からしてたのもあるし、
…一応、お嬢様の世話係だし。
あ、旦那様には三人、子がいらっしゃってな。俺は、次女の世話してる。
たぶん、亜理紗も三人の誰かの世話をすると思う。」
遥はそそくさと片付けて、部屋を出ようとしている。私は、慌てて遥の後を追った。
廊下を歩いていると反対側から、ツインテールの少女と整った顔の長身の男性がやってくる。少女はきゃっきゃと男性に絡みつくように腕を組んでいる。
「亜理紗、お嬢様とお坊ちゃまだ。廊下の端で礼をしろ。」
小声で遥にそう指示され、私は、遥に習って礼をした。すると、少女は私と遥を見ると、高い声で話しかけてきた。
「あれ、はるじゃあん?
今は、美羽が兄様のお部屋に遊びに行ってたから、
玄関先でお掃除するんじゃなかったの~?」
クスクスと笑いながら、礼をしている遥の頭を撫でていく。すると、隣に居た男性が口を開いた。
「こら、美羽。世話係と言っても、遥は婚約者だぞ。頭を撫でるなよ。遥、すまないな。
美羽が迷惑かけてるだろ?」
低音で静かな声で遥に笑う声が、私に響いてきた。何となく、好きな低音ボイスである。
「いえ…坊ちゃまが謝られる必要はございません。
お嬢様の我が儘にはもう何年も付き合っているので…」
遥の言葉に美羽というお嬢様が、頬を膨らませた。まあ、礼をしているので、正確には見ていないが。
「ひどーい、遥。美羽が我が儘、いつ言ったのよぅ。
ねえ、兄様。」
私は、とりあえず、目立たないように息を潜めていた。すると、男性が美羽お嬢様の質問をかわす様にして、私に声をかけてきた。
「あー…うん、まあ、どうだろうな、
遥、この子は誰だ? 見たことない顔だな。」
げ、低音ボイスは、話に加わらずに聞いてたかった……、
***
廊下で面倒な出会いをしてしまったようです。