誘惑に、
題名は、誘惑に、勝つか負けるか、という意味をこめて
こうなりました。
分かりづらいですかねえ…
はい、私、有栖川 亜理紗は、誘惑に、負けました。余裕の惨敗でした。
だって、私には家は、他の借金取りの人に売り払われてしまったし、中卒が500万があまり、増えない内に500万以上の金を稼ぐ事など、夢の夢のまた夢だ。それに、私を高校に通わせてくれるというし、もうどんな仕事だろうと、ここで働くしか道は無いわけです。
「んじゃあ、さっさと契約してもらおうか。もう、逃げられるのは散々なもんでね。
遥、亜里沙君がサインしたら、水仙の間に案内しろ。
亜里沙君、どうせ、荷物ないんだろ? 服とかいる物はこっちで、用意させるから、
安心してくれ、かっかっか…、」
旦那様は、私と遥を残して、酒を片手に大口開けて笑いながら、部屋を出て行った。私は、ジッと契約書と万年筆を見つめた後、手を動かした。
***
「書いたか、亜理紗。」
少し、心配そうに遥が尋ねてきた。そういえば、さっきから私の表情筋が働いていない。パッと見、ずっと無表情で怖かったのかも知れないな。申し訳ない。
「書いたよ、これから、お世話になります。」
ぎこちない微笑みを浮かべて、契約書を手渡すと遥が、はにかみを返してくれた。くっ、美形だなあ、おい! と私は、大興奮だったが心配されているというのにそんな言葉を返す事が出来ず、私は、「ありがとう」と次は、自然な笑みを浮かべることが出来た。
「じゃあ、部屋に案内する、着いて来い。」
契約書を着物の懐に入れると、襖を開いて廊下を歩き始めた遥を、私は慌てて追った。
***
所詮、人間は誘惑に弱いようです。