旦那様の申し出、
「まあ、お前の父親がうちに多額の借金をしている事は、知っているね?」
酒を一口、喉に流し込んだ後、そう私に尋ねた。私は、やはり、夢ではなかった現実に喉がクッ、と奇妙な音をたてたが、気にせず頷いた。
「はい、父が借りたのは300万と聞いております。」
父が持っていた契約書には、そう明記されていた。私は、お茶をコトリ、と受け皿に置くとそう答えた。すると、何を言うわけでもなく遥に旦那様は、顎をしゃくった。
「はい、旦那様。」
スッと私に紙が差し出される。私は、それに目を通して、驚きに目を見開いた。
「すまねえね、亜里沙君の父親がなっかなか、お金を返さないものだから、
利子がついて、500万になっているんだ。」
300万でも返せる気がしないというのに、500万になったら返せるはずがない。私は、意識が遠のきそうになったが、そこは、我慢して、お茶を一気に飲み干した。
「何年かかるか分かりませんが、しっかりと返します。本当に父がご迷惑をおかけしてすいません。」
三つ指突いて、畳に額を擦り付けるようにして頭を下げた。すると、酒が入っているからか、旦那様は陽気なテンションで、笑い出した。
「かっかっか、馬鹿じゃないのかい。よくよく考えてごらん。亜里沙君が何年もかけて
金を揃えている内にさらに金額は増えるんだぜ?」
私は、息を詰めると静かに借金の返済方法を考えたが、見つからず、ため息をついた。すると、旦那様が、ニヤリと笑った。
「うちで働きな。うちで働いている間は、金が増える事は無い。500万分の働きをしてくれれば、大丈夫。
さらに、うちに住み込みで食費はもちろん、高校、行ってないんだろ?
行きたいなら学費は出す。」
魅力的な申し出である。更に私は今、高1の年齢なのだが、金がなくいけなかったところを行かせてくれるとまで言う。まだ、今からであれば勉強が間に合うかもしれない。
私の中は2つに分かれていた。
1つ目は、申し出に乗っかりたい私。
2つ目は、旦那様の何か企む様な表情に警戒する私。
***
さあ、どうしましょう。