危ないオーラの家、
「旦那、有栖川の娘、という女が来ていますが、どうなさいますか。」
「通せ、」
襖の中から低い声がする。私は、ふう、と深呼吸すると足を踏み出した。
***
結局、危ないオーラの豪邸の門前で、きょろきょろ、そわそわ、と挙動不審にしていると、不振に思った人に捕まった。
やっぱり、怖い人が出てくるのかと思ったが、案外、普通の青年が出てきた。
「誰だ? ここが、どこか分かっているのか? お前みたいな娘が入るところではないぞ。」
青年は、眉間に皺を寄せて、首をかしげた。私は、慌てすぎて、言葉が出ず、口をパクパクさせてしまった。すると、青年が、困ったように私の顔の前で手を振る。よくよく見ると、美青年である。
「わ、…っす、すいません! えっと、こちらでお金をお借りしております、有栖川の娘です。こちらの代表のお方にお話をうかがいに参りました。」
ポニーテールを振り回すようにして、お辞儀する。すると、青年は、苦笑の表情を浮かべつつ、足を動かした。
「まあ、着いて来い。旦那様に聞いてみよう。」
「ありがとうございます!」
肩にかけていたバッグを抱きしめるようにしながら、青年の後を追った。すると、思い出したように青年が、後ろを振り向いた。
「そういえば、有栖川の娘、俺は、久瀬 遥。まあ、もう会うことはないと思うけど、 一応、教えとく。」
ニカッ、と遥は笑うと、そのまま、歩き始めた。私も、言葉を返す。
「亜、亜理沙! 私、有栖川 亜理沙! よ、宜しく、遥さん!」
私の言葉に遥は、後ろを向いたまま、ひらひらと手を上げた。
「遥でいいよ、亜理沙。」
***
危ないオーラの家は、案外、怖くないのかもしれません。