東京の女
夜行バスは京都に向かう。期待と不安を頭に浮かべながら。
振動音はゆっくりと夜の道をたどり、眠りの浅い脳にギシギシとわずかな悲鳴を響かせる。
車内はもう消灯してしまった。
高速道路からカーテンの隙間に漏れる光が、スポットライトのように辺りを動き回る。
ケータイ電話を開けては閉じる男性。
隣に座る友人に小声で話しかける少女。
どうやら、私以外にも眠れない人がいるみたいだ。
ようやく、体が温まり始めた。カーテンを少しだけ開けて窓に触れる。冷たい。やっぱり、外は凍えるような寒さだ。そう感じると同時に、先ほどまでの出来事が確かに現実のものであったのだということがゆっくりと認識される。左手に冷気がじわじわとしみこんでいく。
――本当に、これでよかったのかな?
また、思考はその一途をたどった。自分の選択は正しかったのか、それとも――。
窓から手を離すと、青白くなった手に少しずつ血の色が戻り始めた。頭上から吹き付ける暖房の暖かい風が、再び思考回路をぼんやりさせる。
――今日はいろんな事があった。
隣の席を覗き込む。先ほどまで着ていた上着を枕にして丸めこんだ身体が閑静した車内に小さな寝息を立てる。緊張が解けてようやく安心したのだろう。今はもう深い眠りの中だ。
ふう。私も疲れた。
少しの間、考えるのはやめておこう。そろそろ眠らなくちゃ。いろいろ考えるのは起きてからでいい――。