戦士たち
この世界には魔法使いがいる。
と言っても、よくお伽噺に出てくるみたいに、杖を一振りするだけで何でもできるわけじゃない。都市伝説のようになろうと思ってなれるものでもない。
魔術師
魔導師
魔獣使い
抗魔師
忍術使い
そして呪術師
魔法使いには様々な形があり、本人は生まれたときから『力』を自覚していることもあれば、ある日突然目覚めることもある。しかしそのほとんどは周りと違うことによって孤立するのをを恐れ、一生をただの人間として生きる道を選ぶ。
だが例外は存在するものだ。
自らを犠牲にしてでも他人を救いたい者、その『力』の全てをただ知りたい者、己の欲望のために『力』を振るいたい者。同じ志を抱くあぶれ者たちは自然と惹かれあい、それがいつの間にか『組織』にまで膨れ上がる。
個としての衝突が絶えず、渾沌としていた勢力図が『守護』『破壊』『探求』の形で落ち着き出した頃、その停滞を壊すかのように、魔力の源『異次元』から獣たちがやって来た。たちまちにして静けさは破られ、各々が目指す目的のため3つの勢力は動き始める。
「うがー、疲れたー」
「いやお前1日寝てただけだから」
俺の声に横から友人がツッコんだ。
「うるせー、学校にいるだけで疲れんだよ」
「あぁそうかよ。しかし透夜、そんな毎日寝てばっかで大丈夫なのか?成績とか」
生野透夜、それが俺の名前だ。高校2年生、青春まっただ中の呪術師である。
「何を今さら。俺の成績くらい知ってんだろ?」
既に学校は終わり、今は下校途中。まだ秋口だというのに、太陽は随分と傾いている。
「まあな。しっかしなんであんな成績とれるんだ?お前が真面目に授業受けてるとこ見たことねえぞ?」
話しているのは俺の親友とも言うべきクラスメイトで魔術師、藍原亮。身長は俺より少し低い。顔は整っていて所謂「男前」で、少し明るみがかった髪はツンツンと逆立っている。全身暑苦しくない程度に、しかししっかりとついた筋肉は、見るからにスポーツマンといった体型だ。
「試験で稼ぐの」
「だからなんで授業聞かずに試験でいい点とれるのかって聞いてんだよ」
「そこはあれだ、才能ってやつだ」
「納得いかねえな」
そんなこと言われてもしょうがない。実際ちょこっと参考書に目を通せば大体は頭に入るんだ。別にカンニングしてる訳じゃない。
「そういや最近那月ちゃんといるとこ見ないけど?」
これ以上は不毛なので、別の話題を振ることにした。
「那月?あぁ、バイトが忙しいんだと」
亮はルックスがよく、学校ではかなりモテる方だ。昨日も後輩にラブレターなんぞ貰っていやがった。そんなもんでもちろん彼女がいる。片瀬那月。他校のひとつ下で、可愛らしい感じの娘である。明るく活発な性格で、二人は傍から見てもお似合いのカップルだ。学校が違うせいか、うちの学校には彼女の存在を知らない子が多いようで、今だに亮を狙う女の子が後を絶たない。
「ああ、そうだ、那月で思い出した」
ふと、亮が真剣な表情で言った。
「また出たのか?」
お化けのことではない。いや、ある意味お化けか。
「ああ、今回のは弱かったみたいだけどな」
「最近増えてるなぁ、次元獣」
次元獣。10年前、突如虚空からまるで次元を割るように現れたやつらは、目に入る人を次々に襲い始めた。その姿は様々で、映画に出てくるエイリアンの様なものもいれば、いろいろな動物の混ざったキメラのようなものもいる。次元獣の出現する地域はいくつかのエリアに別れていて、理由は不明だがその外に現れることはない。
当時、国は未知の脅威に対し、意外なほど迅速に対応した。それまで魔法絡みの事件、事故の対処に当たっていた防衛省の小さな機関を拡大、増員し、魔法使い3大勢力の一角『守護』と手を結んで、次元獣対する防衛機関、魔法防衛省を設立した。これにより、同じ思想を持った魔法使いの裏組織でしかなかった3大勢力の存在は、一般の人間に知れ渡ることとなった。
それぞれのエリアには最低一人、ハンターと呼ばれる『守護』勢力所属の強力な魔法使いが配置されていて、次元獣が発生すると片っ端から倒していく。
ここ、エリア3の担当は俺だ。自分で言うのはなんだが、今のところ無敵である。大概の次元獣なら余裕で瞬殺できる。だが残念なことに、出現する次元獣を全て1人で退治できるわけではない。他のエリアのやつらだってそうだ。発生を感知できなかったときや、間に合わなかったときにフォローがなくては被害を防ぎきれない。
そんな単独ハンターたちの情報・戦力面でバックアップにあたっているのが、WGと言う組織だ。
亮が次元獣のことを知っているのは、こいつがWGのメカニックだからである。小学生のころからメカオタクで、強い興味の影響か、幼少時から電子機器を分解して修理したり、改造したりと異常なまでのの才能を持ち合わせていたのだ。それを組織に見初められ、中学のときにスカウトされた。今では開発班のリーダーをしているらしい。メカニックだけあって普段は武装開発が仕事だが、データ収集のため現場に出ていたら戦闘にも慣れたとか言っていた。
「最近多すぎないか?そろそろ被害がでるぞ」
「そうだよな。俺一人じゃ限界があるしな」
そう、俺達には次元獣を何体もまとめて楽々葬れるほどの力はあるが、何でもできるわけではない。あくまで基本は人間なので、別々の場所に複数の次元獣が現れれば対処のしようがないのだ。
「強そうなのとそうじゃないのの予測はできるんだよな?WGの方でもうちょっと相手してくれないか?」
次元獣は特別な力がなくても倒せないことはない。まあテロ鎮圧の特殊部隊並みの装備は必要だが、そこは専門組織、専用の武装の百や二百は持っている。というかそれを作るためのメカニックだ。
「俺に言われても困るぜ。まあ伝えてはおく。・・・けどまわせる人員っていっても那月の隊くらいしか残ってないぞ? たしか」
「構わないよ。あの子たちなら問題ないだろ。それにしても那月ちゃん、よく戦闘員とかやってるよな」
彼女もWGのメンバーで、二人は組織の活動中に知り合ったらしい。
「ああ、俺も最初は驚いた。でも管制とかよりはよっぽど合ってんじゃねえの?強いし」
そう、強いのだ。よくわからんがやたらと強い。相手が次元獣でもある程度までなら亮と二人で倒せてしまう。亮の援護射撃もうまいが、那月ちゃんの戦闘能力は半端じゃない。
そうこうしながら歩いていると、交差点の信号に引っ掛かった。俺たちは足をとめる。
その時、俺のスマホに着信があった。数秒遅れて亮の端末も着信音を鳴らす。この時点でなんとなく相手は分かったが、一応ディスプレイを確認。案の定、WGからだ。
「もしもし」
スピーカーから聞こえてきたのはWGエリア3の女司令、ロディ=エレナスの温和そうな声だった。
「やあ透夜君、昨日はお疲れ様」
「どうも。そしてまたですか」
俺は手短に挨拶を返すと、用件を話すよう促した。GWからの電話の内容が世間話なわけがないからだ。この人が嫌いだからとかではない。
「うん、お察しの通り、次元穴だ。昨日の今日で悪いが、すぐに向かってほしい。藍原君はそこにいるね?」
「ええ、わかりました。行きます」
そう言って通話を切る。亮はすでに電話を終えていたようで、俺がスマホを仕舞うと同時に走り始める。俺も後を追って駆け出した。
2話です!
今回はヒロインを登場させる予定でしたが、説明や人物配置の紹介等が思いの外長くなってしまい、ここで一旦区切らせていただくことにしました。
前話から雰囲気をガラッとか変えました。『ディメンション』はこんな感じでやっていこうと思います。
※プロローグ・1話投稿当初から読んで下さっていた皆様、タイトルが変更になってややこしい思いをさせてしまいました。すみませんm(-_-)m
改めて構想を見直した際、いくつか設定をカットしたので結果としてタイトルを変更することになりました。