プロローグ
晴れた空、流れる雲、辺り一面に咲くタンポポの花。先のことなど微塵も考えないまま、少年はただ過ぎる時間に身を委ねていた。
少年が十四歳の春だった。
「お兄ちゃーん!」
少し離れたところから、七歳の妹が両手をふる。ミルク色のワンピースと、背中まで伸びた髪がそよ風に揺れる。僕は微笑みを返した。
「ねぇねぇおにいちゃん、お花飾り作ってー!」
「はいはい、ちょっと待っててね」
彼はそう言ってタンポポを摘み、頭飾りを編み始める。
「お兄ちゃん、まだ?」
「もうすぐできるからね」
編んだ花をわっかにして、妹の頭に乗せる。
「はい。」
「わーい!ありがとお兄ちゃん!」
妹は喜んで、少年の周りを走り回った。
「真衣」
彼が妹の名前を呼ぶ。
「どしたの?お兄ちゃん」
「いいものを見せてあげよう」
彼は一面に咲くタンポポに向かってそっと手を振った。それに合わせてフワッと花びらが舞い上がり、しばらく空中を漂ってから、徐々に何かの形をとりはじめた。
「うわぁ!」
真衣が目を輝かせた。
「うさぎさんだ!こっちはねこさん!」
花びらは動物を形作り、まるで生きているかのように動き始めた。
「これお兄ちゃんが作ったの?」
真衣が訊ねる。
「そうだよ。魔法って言うんだ」
「魔法?」
「うん。誰にも言っちゃいけないよ?真衣とお兄ちゃんだけの秘密」
そう言って笑いかける。
「どうして秘密なの?」
「それはね、世の中が正しい形であるためだよ」
「うーん、よくわかんないけど、わかった!誰にも言わない!」
「ははっ、いい子だ」
少年が頭を撫でてやると、真衣は嬉しそうに目を細めた。
「真衣、これをあげる」
「ほぇ?」
彼が取り出したのは、小さな鎖のペンダントだった。鎖の先には蒼く透き通った石がついている。
「これなに?」
真衣が不思議そうに訊ねた。
「お守りだよ。次元石って言うんだ。真衣が困ったときにきっと助けてくれる」
「じげんせき?」
「そう。お兄ちゃんがいなくても、これがあれば大丈夫だよ」
「お兄ちゃん、いなくなっちゃうの?」
悲しそうな顔をする真衣に彼は優しく語りかける。
「お兄ちゃんの体が弱いのは知ってるだろ?」
「うん」
真衣が頷く。
「だからお兄ちゃんは、他の人より少し早く天国に行くかもしれないんだ。だけどね真衣、お兄ちゃんはいなくはならないよ。ずっと真衣のこと見てるから。」
「本当?」
「本当さ」
そう言うと真衣は安心したように笑った。
周りには花びらの動物たちが活々と跳び回っていた。
どうも、富士吉季です。
今回はいくつかに分けてみようかとおもいます。ですのでこのお話はプロローグになります。次からは少し時が進み、物語本編に入る予定です。話としては主人公が魔法で異次元から来る敵と戦いう感じのストーリーになります。興味をもたれたかたは、ぜひ続きも見てみてください。