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第18話〜火ノ鳥〜

〜〜〜


ミシル・タイナは傷ついた身体で考えていた。

復讐すべき相手にようやく巡り合えたと思いきやその存在が突然消え、別の者と相対することになり、どうにもやり場のない感情があったことは認めるが、決して油断したわけではない。なのに鬼族の魔法というものがよもやここまで得体の知れないものだとは思っていなかった。


「どうした、人間よ?来ないのか?先ほどデュカ・リーナ様に向かった気迫はどうした?」



目の前の鬼族の大男、ジン・ガトウと名乗った者が全身傷だらけになった私へ嘲笑を含ませて言った。

何故私がここまで苦戦しているのか?

私が復讐すべき少女、デュカ・リーナというのだろう彼奴は確かに一見何の変哲もない少女に見えたが、実態はその恐るべき残虐性とこちらの想像もつかない手段で祖国を滅ぼしたほどの実力の持ち主だ。先ほども以前よりかなり腕を上げた筈の自分が軽くあしらわれたのだから・・・

だが、今私の目の前に居るジン・ガトウという鬼族の男はデュカ・リーナよりも明らかに格下に思える。そのような相手に私がここまで苦戦しているのは・・・



氷刃アイスダガー!」


ジン・ガトウがそう叫ぶとどこからともなく無数の透明な小さな短剣がかなりの速さで此方へ飛んできた。


「くっ!がっ!」

少なくとも数十本はあるその飛んできた短剣を剣で薙ぎ払い避けたがそれでも避けきれず二本ほどくらってしまった。先ほどから奴に突撃しようと近づくもこのように得体の知れない術を使ってくる。一度は奇襲で我が剣の間合いへ近づき斬りつけたが、


「ふん。まあ私の氷魔法の前には無駄か・・・それに私に近づけたとしても先ほどのようにこの、氷盾アイギスは抜けられないがなあっ!」


奴が左手に持つ透明な盾に受け止められた。


「貴様だけにあまり時間はかけられんな。行けっ!氷槍アイスジャベリン!」


言うと同時に奴が右手持っていた透明な槍を此方へ投擲してきた。

私はそれをなんとか弾いた、が


「終わりだ、人間!氷剣アイスブランド!」


いつの間にか、ジン・ガトウが私の懐に飛び込みどこから取り出したのか透明な剣を私に向かって振りおろしていた。


~~~



「へえ。無邪気なものね」


横の少女が気持ち良さそうに眠る目の前の幼い鳥の姿の神獣を見てそう呟いた。

私は一週間前から防御魔法を使いつつこの幼獣の世話をしてきたが・・・


「熱くはないのですか、デュカ・リーナさま?」


私は、防御魔法を使っているので数百度を超えているであろうこの中央の間でも別に平気なのだが、


「ええ、大丈夫よ。ありがとうフェニス」


と言われた。まあ、このお方は今までにそれこそ何回もフェニックスの転生に立ち会ってきたのだから、要らぬ心配だったとは思うが・・・


「それにしても・・・」


「?なんでしょう?」


デュカ・リーナさまが此方を見て言うので尋ねると、


「貴方も年を取ったわね・・・昔はババ、ババと甘えてきて可愛かったのだけれど・・・」


「ブッ!いつの話ですかっ!からかわないでくださいっ!そんな大昔の話を持ち出されても・・・」


気恥ずかしいことこの上ない。


「ああ、ごめんなさい。別に貴方がどうこう言うわけじゃなくてね。何時の時代でもアレは変わらないなと思っただけで。別に他意はないわ」


と寝ている神獣を見ながらそう言った。


「はあ。私は幼獣の姿を見るのは初めてなのですが、そういうものですか?」


1000年前や2000年前、フェニックスはこの島ではない場所で転生したという話を聞いたし実際見てもいないので私はそう言った。


「そうね。もちろん成獣も何回か見たことはあるのだけれど、やはりあまり変わらないわね」


「成程。それで、そろそろフェニックスを求めた理由を知りたいのですが・・・」


私がそう切り出すと、


「そうね。貴方はアレを護る義務があるものね。いいわ教えてあげましょう」


と言いながら眠っている神獣へ近づいた。


「ちょっ!お待ちくださいっ!」


私が慌てて追いかけると、デュカ・リーナ様は此方を振りむいて言った。


「要はね、私が犯した失敗を取り戻すためなの」


「失敗・・・ですか?」


「そう、私はこう見えて100歳を超えているのよ・・・この身体でね」


それを聞いて私は疑問に思った。闇の魔法ロストマジックによる転生の魔法というものがどういったものか詳しくは分からないが、通常鬼族というものは齢50を超えたあたりで成人の身体となる(知能、知識は個人差があるが)なので鬼族の身体ならば100歳を超えていると見た目は少なくとも大人でないとおかしい。


「まあ、緊急事態ではあったの。肉体と同時に魂が消滅させられそうだったというね・・・」


「!デュカ・リーナ様ほどのお方に一体なにが・・・」


「それはともかく、そのせいで最も手近な肉体にしょうがなく乗り移ったのよ・・・鬼族でもない人間の肉体にね・・・」


!?


「で、ですがその角は?」


「ああ、これ?おそらく人間の肉体に乗り移った際に私の膨大な魔力に全て元の身体のままだと耐えられなかったのでしょうね。いきなり生えてきたわ。それに肉体も年を取らなくなったしね。ただ・・・」


「それ以上は仰らなくて結構です。人間の肉体、ということを聞いて貴女の目的が何となく分かりましたから・・・」


「多分、貴方の考えている通りよ。私の目的は不死の神獣フェニックスの血。人間達が太古の昔より追い求めてやまない火の鳥の・・・不死の秘薬と呼ばれるその血・・・」


そう言うとデュカ・リーナ様は寂しそうに笑った。


~~~


ガギィンッ!



間一髪だった、か。

俺は今にもミシルの脳天に振り下ろされそうだった大男の透明な剣を何とか受けとめ、押し返した。


「・・・すまない、助かった・・・」


「貴様、何故!?」


ミシル、大男が俺に言った。俺はミシルへ


「いいって。それより変わろうか?こいつのほうが牛面よりは楽しめそうだ」


と大男を見ながら言った。大男は、


「なっ!やつはっ?」


と、先ほどまで俺達が戦っていた場所を見たが、


「居ないだと・・・?」


「ああ、胴斬りで真っ二つにしたら光って消えたぞ?お前ら鬼族は死ぬと消えるものなのか?」


「そんなわけがあるかっ!・・・おそらくは、召喚魔法の特徴か・・・やつめ、さんざん偉そうに言ってこの様か。いや、デュカ・リーナ様への文句になりそうなのでそれは言うまい・・・それよりも、この場をどうするかだ・・・私にこの人間を倒すことができるのか?先ほどの得体の知れないプレッシャーは何だったのだ・・・デュカ・リーナ様も私では足止め程度しかできないようなことを言っていたが・・・いや、いくらあの方とはいえ私の実力を完全に見切っているわけではあるまいが・・・」


大男が何かぶつぶつ言っていた。

独り言を言っているつもりだろうが全部聞こえているぞ。というか独り言多いなこいつ。



「で、どうするミシル?」

「いや、助けてもらって何だがこいつは私にやらせてくれ」


「要らない世話だったか?まあ、多分その剣で防いでただろうけど一応、な。じゃあ、俺は離れて見とくよ」



実際俺が防いだときミシルは剣を構えていたからな。俺が何もしなくても死ぬとは思えなかった。

ただ、それなりに強いと思っていたミシルが追い込まれていたんで少し焦っただけだ。

俺は邪魔をしないよう先ほど戦っていた場所あたりまで下がった。と言っても10mぐらいしか離れてないが。と、ミシルが叫んだ。



「いつまで、ぶつぶつ喋っているっ!行くぞっ、ジン・ガトウ!」


「はっ!奴は何処だっ!」

ジン・ガトウと呼ばれた大男が我に返ったように言った。

俺を探しているのか?


「貴様の相手は私だっ!他の誰にも邪魔はさせん!」


それを聞いたジン・ガトウは、


「ほう、そうか。ならば今度こそ、貴様を殺してやろう。その後であいつだ」


俺のほうを一瞥して、手にした透明な剣の切っ先をミシルに向けた。うん、そういうことはとりあえずミシルを倒してから言え。


「御託はいいっ!今度は貴様を貫くっ!」


ミシルが言うと同時にその身体と剣が淡く光りだした。オーラを剣と身体に集中させている。

俺がついさっき教えたオーラの闘法をもうあれだけ使いこなしているのは、よほど鍛練を積んでいるからだろう。ただ・・・

さっきまでは使っていなかったのか?それとも、使う気がしないぐらい戦意がなかったのか?

俺はミシルを見ながらそんなことを思っていた。そして、ミシルが剣と全身にオーラを集中させきったのか、



「行くぞっ!」


と、ジン・ガトウと呼ばれた大男に斬りかかろうとした。その時、



島が、揺れた。



〜〜〜


最古にして最強の鬼族と謳われたデュカ・リーナ様が、何故神獣が転生したばかりのこのタイミングで火喰い島に戻って来たのか、その理由がやっと分かった。つまり、


「その人間の身体の寿命が近いのですね?」


私が言うと、デュカ様は


「その通りよ。まあ、もう1つ理由があるのだけれどね・・・」


そのもう1つの理由を聞けばそれは・・・

私ごときではとても力にはなれそうにない話だった・・・


「でも、安心して頂戴。神獣の血をもらったらすぐに出ていくから、貴方達に迷惑はかけないわ」


そういうと、デュカ様は何処からともなく短剣を取り出した。


「デュカ様、それは?」


「ああ、これ?黒焔竜の牙を加工したダガーよ。衝撃にはそこまで強くはないけど、かなりの熱に耐えれるわ。大陸の鍛治師にもらったの・・・闇の大陸のね」

と言って神獣に近づいたがそこで神獣が気配に気づいたのか目を覚ました。


「ピェッ!?」


目の前の少女の持つダガーに驚いたのか神獣が驚いたように鳴いた。


「いい子だからじっとしていて頂戴。大丈夫。傷つけた所はすぐに治るから」


デュカ様が神獣を手で捕まえてそう言った。熱くは・・・ないのだろうな・・・


シャッ!


と神獣の身体をデュカ様のダガーが一閃し、神獣の身体から血が流れた。


「ピェェェッ!!」


不死の身体とはいえ痛みはあるのだろう。神獣が大きな声で鳴き出した。


「ごめんなさいね。でも、」


と、言いながらデュカ様が神獣の身体から流れる血を掬って、


「貴方の血が私には必要なの」


と、その血を口に含んだ。


「あら?何ともな・・・ウ、ウァァァァァァァッ!」


デュカ・リーナ様が何か言いかけ・・・苦しみだした。

そして大きな輝きと共に島が揺れた。



〜〜〜


なんだったんだ今の揺れは?すぐにおさまったが・・・

聞いた話じゃこの島の奥のほうには火山があるらしいが、今は活動してないとアズトが言ってたが・・・

火山の揺れじゃないのか?

俺が今の揺れについて考えていると、


「な、この膨大な魔力は・・・そうか!」


ジン・ガトウがミシルとの戦いをそっちのけで門の向こうの方を見ながら何かに気づいたように驚いていた。


「魔力・・・だと?貴様何を言っている?」


ミシルがそんなジン・ガトウの態度を訝しんで聞いた。


「貴様ら人間には分からないだろうが、私が今感じている魔力は丁度神獣が居るあたりだ・・・」


と、何故か透明な剣を納めた、いや消した・・・?


「ほう・・・それで、何故貴様は剣を納める?」


と俺と同じ疑問を覚えたのかミシルは警戒を解かないままジン・ガトウに尋ねた。


「なに、ここで私が戦う意味が無くなったというだけだ」


と、ミシルから少し距離を取るように離れた。


「戦う意味だと?」


「ああ、危険を冒すのは私の望むところではないからな。貴様ぐらいは殺してもよかったが・・・」


と、ちらりと俺のほうを見て言った。


「忠告しておいてやるが、貴様らはもう島から出たほうがいいぞ?どうせこの島の神獣は目的のモノとはちがうのだろう?」


「そうはいかんっ!私はあの女を倒すっ!」


ミシルが言った。


「身の程知らずが・・・自分でも分かっているのだろう?貴様の剣では決してあのお方に届かないということを」


「ぐっ!それでも・・・仇が居る場所が分かっていておめおめと引き下がれるかっ!」


「ふう。そこまで言うなら止めはしない・・・どうせ無駄だろうしな。私は引かせてもらう」


「待てっ!貴様は逃がすかっ!」


「ふっ、さらばだ。吹雪ブリーズ!」


ジン・ガトウが叫ぶと、辺りが急に吹雪に覆われ前が見えなくなった。



吹雪が晴れるとそこにジン・ガトウの姿はなかった・・・


「くっ!あの女に続きまたしても・・・」


ミシルが悔しがっていた。

俺は近づき、


「まあ落ち着けよ、ミシル。とりあえず撃退した、と思えばいいんじゃないか?」


「トウヤ・・・そう・・・だ・・・な」


俺が声をかけた途端ミシルが倒れた。

・・・多分オーラの使いすぎだろう。怪我も多いし、あれは加減が難しいからな。

さっきのオーラ量を考えれば捨て身でオーラを集中させていたのは分かっていた。あの剣が当たればジン・ガトウという大男程度ならおそらく倒せていた筈だが、奴が途中で逃げてよかったのかもな・・・

続けてたらミシルもおそらく無事ではすまなかっただろうから・・・


「それにしても、魔力・・・か」


さっきジン・ガトウが見ていた方向を見ながら俺は呟いた。

島が揺れたあと、ジン・ガトウがそう言ったとき俺もその方向を見てみたが、確かに何となく嫌な禍々しい雰囲気を感じた気がしたが、あれが魔力ってやつか?

だとしたら・・・


「ミシルさんっ!トウヤさんっ!無事ですか!?」


敵が居なくなったと判断したのだろう、俺たちの戦いに巻き込まれないために他の倒れている者やレンジのおっさんを連れて数百m後方の森あたりから様子を窺っていたアズトがこちらに駆け寄りながらそう言った。まあ、多少のとばっちりは傍にネクが居るから大丈夫だったとは思うが。


「ああ。いや、俺はともかくミシルはしばらく休憩が必要だろう。オーラを使い果たしているからな」


傷のほうも致命傷じゃなさそうだから、少し寝たら回復するだろう。オーラによる身体強化は治癒力も活性化される。


「そ、そうですか。ではこの辺りで休憩しましょうか」


「そうだな。それでミシルが回復したら・・・」


「ええ。先に進みま」


「他の奴らと合流して島を出よう」


「しょう・・・ええっ!?こ、ここまで来て何故ですかっ?」


「いや、な。一つには目的がほぼ達成されたということだ。当初の目的であるこの島が光った原因ってのは、鬼族の奴の話から判断するとほぼ間違いなく神獣のことだろう。なあおっさん?」


傍に居るレンジのおっさんに話を振ると、


「ああ。小僧の言う通りだ、俺はそう聞いた。神獣フェ二ックスが居るとな。だからアズト、お前の大元の依頼主にそれを報告しに一度帰り、もし再度くるなら出直すべきだろう。神官を連れて、な」


この目で見たわけではないが本当に神獣フェニックスが居た場合、その扱いに素人である俺達にできることは何もない。神獣、聖獣の類は取扱い注意ってやつだ。それらの扱いを生業とする神官以外のやつが下手なことをすると怪我をするだけじゃなく1つの国を焼き払われる、という逸話まである。


「で、でも神獣はともかく鬼族が実在したということは特殊なモノなどもあるかもしれませんが・・・」


ここまで来たら諦めきれないのかアズトが粘って言う。

俺は、


「確かに何かあるかもしれないけどな。ただ、これ以上進むのは危険が大きすぎる。ここまでは何とか来れたが、これから先はまだ強いやつが出てくるかもしれない。さっきいきなり消えた奴とかな・・・どちらにせよ俺たちは歓迎されてないから、間違いなく襲われるしな。もしこれ以上進むなら神官は別にしてもそれなりの戦力が居ると思うぞ?」


と説得を試みた。


「・・・確かにそうですね。ここまで進めたのもトウヤさんの力に因るところが大きいですしね・・・そのトウヤさんにそこまで言われたら・・・」


と、アズトが諦めたように言った。

そして道具袋から出した狼煙を空に向けて上げた。



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