第17話〜鬼族〜
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ロナン・サタクは火喰い島の中央部に建つ神殿の中にある「回復の間」にて先ほど受けた傷の治療をしていた。そこには、
「いやあ、ロナン殿がここまで手傷を負われるとは・・・昨今の人間の強さというものは儂らが現役の頃よりも遥かに強くなっとりますのう」
と、年寄りじみた口調でロナンに話しかける者がいた。
「そうか・・・まあ、いくら複数居たとはいえこの俺がこうまで手こずるとは思わなかったな。それにマト婆程の戦闘経験者がそう言うとはな・・・」
「まあ、儂は戦闘よりもむしろこっちが専門ですがの。直接人間と戦ったことはほとんどないが、それでも現在の4柱の皆と戦えるほどの実力を持った人間など儂の今までの経験でも一回ぐらいしか見たことはないですぞ」
と、先ほどから俺の傷口に自らの手を当て治癒魔法による治療を施している。
このマト婆とはマトフ・サトイと言い現在この島で最高齢とされており、現在は2500歳をいくつか越えたところである。
鬼族の寿命は人間の凡そ30〜40倍程度で身体能力は基本的に数倍はあるが、マトフは俺が物心ついた頃見た目がすでに年寄りだった記憶がある。
「まあ、250年程前に訪れたあの一味は別じゃったがの」
そういえば俺はマト婆から強い人間がこの島に来た話を聞いたんだっけな。
「スサノオだったっけか?俺はまだガキだったんで実際見ずに聞いただけだが・・・」
「そうじゃのう。ロナン殿は当時まだ戦闘もできないぐらい腕白坊主じゃったからの」
「まあ、な。ただ当時の4柱、つまりあんたやガトウに聞いた話じゃそいつらも魔法を使ったらしいじゃねえか?今島に居る奴等も魔法みたいな技を使うが何か関係があるのか?」
俺が先ほどマト婆に説明したのは、魔法らしき術を使う人間の侵入者に手傷を負わされたという話だ。
「ふぅむ。断定はできんが、もしかしたらそやつらは(闘神)共の流れを汲む者かもしれんな。同じ国か、はたまたその血筋か・・・」
闘神とは250年前にこの島にやってきたスサノオという人間のことを示す。
何しろ身体能力で劣る筈の人間なのに4柱と互角の戦いをしたという話で、その戦い以降我等鬼族はそいつを畏怖を込めて闘神と呼んでいる。
「だが、それはそれでおかしな話じゃねえか?」
「そうじゃな・・・だから断定はできんのじゃ」
というのも、そのスサノオ共と当時の4柱は結局引き分けに終わった戦い以降、お互いの力を認めあい、また戦力の消耗を避けるため互いの領地への不可侵の契約を結んでいるはずだからだ。
「まあ、儂等にとってはそうでもないが250年という歳月は人間にとっては色々あるのかもしれんしのう・・・代替わりなどがあって契約も無いに等しい状態になっておるのかもしれん」
「ぬぅぅ。何て身勝手な奴等なんだ、人間め!」
「まてまて、ロナン殿。あくまでもそれは推測じゃ。別にそうと決まったわけではないわい」
「だがよ・・・」
傷の治療も終わり俺がマト婆と話していると、(回復の間)に誰かが急ぎ足で入ってきた。そして、
「ロナンッ!貴様!単独行動を取った挙げ句侵入者にやられ逃げ帰っただとっ!」
俺に向かって怒鳴った。
「はぁ。うるせぇな、フェニス。そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ。」
こいつはフェニス・カハラという小言の多い爺いだ。歳は2000何十歳ぐらいで見た目はごついおっさんだが、一応4柱の長で取りまとめをやっている。得意な魔法は防御それに結界を張ることだ。戦闘では鉄壁を誇る。
「そんなことよりも、フェニス。侵入者の人間共の目的は神獣だぞ。あんたがしっかり見張ってないと駄目だろうが」
「そんなことよりもだと。貴様は本当に・・・い、いや待て!今何と言った!?神獣だと!?」
俺はめんどくさいながらも答えてやった。
「ああ、どうやって知ったかは知らんが確かにそう言ってたな。最もこの島の何処に居るかとかは知らなそうだったが」
「恐らくですが、神獣を嗅ぎ付けられた原因は不死鳥転生の際の輝きでしょうね」
新たにもう1人(回復の間)に入って来ながらそう言った。
「ノルエル?どういうことだ?」
その人物はノルエル・ハザマと言い、鬼族には割合が少ない女性だ(この島の鬼族の総数は約500で男性は約400女性は約100)。また歳は4柱で最も若く150を数年前に過ぎたばかりだ。魔法は土属性を使い強さはそれなりだが、こいつには他の誰にもない能力、プラーナの流れを見ることができるという特殊能力がある。
「あの時、つまり不死鳥転生の時に島全体が眩い光に包まれましたよね。この島から一番近い人間の国、火の大陸ですか、あそこからここは50㎞と離れてないですから人間でもその光は視認が可能だと思われます」
成る程。そういうことか。
「それに、関係ないかも知れませんが・・・」
「ん、まだ何かあるのか、ノルエル?」
「いえ。侵入者が来たと思われる時からしばらくして精気兵の反応が途絶えたのですが・・・」
「なっ!お前まさか精気兵が侵入者にやられたとでも言うのか?・・・!いや、そうか・・・」
「はい。私もまさかとは思ったのですが、ロナンさんまでその有り様だと・・・」
「確かにな・・・俺が相対したやつとは別のやつだろうが、あいつらと同じぐらいの実力のやつが居るならその可能性は高いな・・・」
精気兵は俺が全力で風の魔法を駆使してようやく倒せるほどの強さだから、俺が苦戦した奴等ぐらいの強さの連中と出会っていたら仮にやられたとしても不思議ではない。フェニスが、
「くっ。ロナンが迂闊なだけかと思えば。そんな腕の立つ侵入者ならいよいよ不安になるな。こうなれば、ガトウと合流して此方から先に攻めるか・・・?」
ぶつぶつ呟いていた。
誰が迂闊だこの爺い。
だが、
「そうだな。それぐらい強い奴等だった。それかこの神殿に詰めている奴等を最低限神獣の警護に残して一気に此方から攻めるのはどうだ?50は居るだろう?」
と提案してみるも、
「いえ、それでは此方が手薄になりすぎます。侵入者は何方向から何人来ているかどれがどれぐらいの強さなのか、今のところ不明ですのでそれは危険かと」
ノルエルに一蹴された。
だが、どうするべきか。
恐らくまだ侵入者が此処に辿り着くまでは一日ぐらいの猶予はあるだろうから、とりあえずガトウを探して相談すべきか・・・
と、その時部屋に生暖かな風が吹き、
「今の子達は頭が悪いのかしら・・・」
頭に手をやり呆れたような声を出す少女が部屋に立っていた。
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どう見てもいきなり沸いて出たようにしか見えないその牛面がこの場にいる者を見回しながら唐突に喋りだした。
「まったく、あのお方は・・・何の説明もせずに・・・だが召喚されたということは、つまりいつもの如く視界に入る生物を全て殲滅すればよいだけ、ということか・・・まったく人使い、いや鬼使いの荒い御仁だ・・・」
というより何か愚痴を言っていた。
鬼族の大男が焦ったように、
「いや、待てっ!貴様は多分だがデュカ・リーナさまの仲間だろうっ?先ほどデュカさまが召喚魔法、見たことはないがおそらく召喚魔法で貴様を呼び出したのではないかっ!?それならば私はデュカ様の味方、むしろ家族とも言える存在だっ!此方を敵視するのはやめろっ!」
牛面に言っていた。
牛面は、
「なんだ、貴様は・・・?我は確かにあのお方、デュカ・リーナ様と召喚契約を結んでいるが、基本的には契約を結んだ本人以外は殲滅することになっているのだが・・・」
と、大男をなめまわすように見たあと、
「ふん。だが貴様があのお方に何となく似ているような気がするのも事実。そもそもあのお方が召喚しっぱなしで何の説明もせずに消えたから、訳も分からず言ってみただけだ。まあ、貴様は一応殺さずにおいてやる」
「ぐぐっ。まるで納得はいかないが・・・まあいい。とりあえずこの場に居る私以外を倒せば間違いはないはずだ」
「そうか」
どうでもいいが牛みたいな顔してよく喋るなこいつ。それに召喚魔法?召喚契約?何を言っているかさっぱりだ。ただ1つ分かっているのは、
「つまり俺たちを殺そうというわけだな、牛面。どうやるんだ?魔法ってやつか?それともそのバカでかい斧か?」
俺は牛面の持つ2つの斧を指しながら尋ねた。
「あぁん?なんだこの小さいのは。まあ、死ぬ前にどう死ぬか教えてやっても特に差し支えはないが・・・」
牛面が言ったが、大男が
「貴様、油断するなっ!確かにそいつは小さいが恐ろしく強いはずだ・・・何せデュカさまが私より強いと判断したのだからな・・・」
自分で言って落ち込んでいた。
それにしてもこいつら小さい小さいって・・・
いや、確かに大男は2m以上はありそうだし牛面はそれよりまだでかいから間違ってはないが・・・
「それは貴様が弱いだけではないのか?」
「ぬぐっ!そ、そんなことはない」
「そうか?まあいい。そんなに言うなら本気でやってやるとしよう。この二丁板斧でなっ!」
と牛面が言いながら両手に持っていた斧を此方へ向けた。
俺はそれを見ながら炎斬を抜いた。そして、
「ミシル。あの鬼族のほうは任せていいか?」
ミシルのほうを見て聞くと、
「あ、ああ。それは構わないが・・・奴は一体どこから?いや、あの女のことだ。また得体の知れない術を使ったのだろう」
1人で納得していた。ので、俺は牛面に向き直った。
「よし。行くぞっ、牛面!」
「牛面牛面と、この小さいのは・・・我が名はタウラ・ミノス!鉄島の覇者、タウラ・ミノスだっ!」
「鉄島?またよく分からん場所だな・・・とにかく行くぞっ、ミシル!」
「応っ!」
俺はタウラへ、ミシルは大男へと同時に斬りかかった。
〜〜〜
俺はその少女を見た瞬間、2つのことを思った。
1つは鬼族特有の角が生えているものの、見覚えのない顔に何か懐かしい感じがしたこと。
もう1つは自分より明らかに年若いその少女の見た目からは考えられないほど異常に禍々しい雰囲気が放たれていること。
つまり、
「戦う気はしねぇな・・・」
俺は呟いていた。他のやつからはよく好戦的だの戦闘狂だの言われる俺ですらそんな気分になった。当然、
「ええ、そうですね・・・ロナンさんの言う通りです・・・」
「ロナンですら、そうか・・・だが、知らない者のはずなのに妙に懐かしい感じがするな・・・」
ノルエルとフェニスも俺と同じ印象を受けたらしくやや気後れしながらそう言った。
「ふむ?儂もこの少女は見たことないが・・・何か懐かしい感じがするのぅ・・・」
マト婆までもがそう言ったところ、
「ふぅ。まあ無理もないわね。この姿ですものね・・・?先ほどもこのやり取りをしなかったかしら・・・」
少女が何か呟いていた。
「で、おそらくだけど貴方達が現在この島の4柱とやらね?守護者ではなく」
!!!
少女がそう言ったときこの場に居る者が全員驚愕した。
さらに少女は、
「ああ、そんなに驚かなくても。何故貴方達が分かったかと言うと、貴方達の魔力量と先ほどジンくんから聞いていた話から判断しただけよ」
「ジンくん?・・・ガトウのことか?」
俺は、率直に疑問をぶつけた。
「ええ、そうね。その子からこの島の現状を色々と聞いたの。で、今侵入者と戦っていると」
!こいつ、今ガトウが侵入者と戦っていると言ったのか?
「お、おいあんたっ!今ガトウは侵入者と、」
「ええ、戦っていると思うわ。それにしても・・・はぁ。まさか姿が違うだけでこの反応とはね・・・さすがに顔見知りにそんな態度を取られると少し落ち込むわね。まだ子供だった子はともかく、」
とフェニスを見ながら言い、
「まさか貴女までもがね、マトフ?」
マト婆を見ながらそう言った。
「なっ、顔見知りじゃと。儂はお主と会うたことなぞ・・・・・・!ま、まさかお主、い、いや貴女はっ!」
日頃マト婆が見せないとても慌てた反応をしていた。そして、
「デュカ・リーナさま・・・?」
と、恐る恐る言った。
「そう♪やっと分かってくれたのね。久しぶり。フェニスの坊やも久しぶりね」
言われたフェニスは口をあんぐりと開けて呆けていた。
「坊や?」
「・・・はっ!あまりの驚愕に我を失っていた。本当にこの者がデュカ・リーナさまなのか、マトフよ?」
「ええ、そうじゃフェニス殿。この方の放つ雰囲気は他の者が持ちようもない。まさしくかつてのデュカ・リーナさまと同じじゃ。じゃが・・・」
煮え切らない態度でマト婆が少女を見る。
「どうしてこんな姿かと言うことかしら、マトフ?」
「ああ。そうじゃ。デュカ・リーナさまがこの島を出る際は、今の儂よりもまだ婆さんじゃったはずじゃ。雰囲気こそ同じじゃが、その姿は・・・」
「そうね。あの頃の私の見た目はお婆ちゃんだった。貴女は・・・老けたわね。昔は若く美しく聡明だったのにね・・・」
少女がマト婆を軽く憐れみながらそう言った。
「ぬぐっ!・・・っだが、いったい何があったのじゃ、デュカ・リーナさま?」
マト婆が少女に尋ねると少女は闇の大陸というところで起こった出来事、それに伴い少女の身体に転生して現在の姿になったこと、目的を果たすために神獣に会いに来たことなどをかいつまんで俺達へ説明した。
そして、
「それで、先ほどの貴方達の頭の悪い会話に戻るのだけれど」
俺達の先ほどの会話を聞いていたのかそう言った。
「い、いや頭の悪いと言われましても。ロナンが苦戦するほどの者なら然るべき対処をするべきだと思い・・・」
フェニスが言い訳じみた言い方をしていた。
「いや、だからね?そもそも前提がおかしいの。人間が此処まで侵入してきて神獣まで辿り着くとしましょう。でも、だからなに?」
と少女デュカ・リーナが言い放った。
「?」
デュカ・リーナ以外の者は皆一様に首を傾げた。
それを見て呆れたように、
「いや、だからね、神獣・・・フェニックスはどんな特性を持っているかってこと。」
デュカ・リーナは言った。フェニックスの特性。そんなものはこの島の者なら誰でも知っている。
まず、決して死なない。1000年に一度ぐらいの割合で肉体が燃えつき滅ぶのだがその燃えつきる際の炎の中から肉体を再生させるためだ。ただし、その際に全魔力を使いきるのか、再生してから一年ぐらいは幼獣の姿で大した能力も魔力もない。そして、別名火喰い鳥ともいい、火を体内に取り込み無尽蔵に魔力へと変換するため、その身体は・・・
「そういうことかっ!」
俺はやっとデュカ・リーナの言わんとすることが分かった。
「つまり、神獣に会っても現状連れ去る手段がないということだなっ!」
「そういうこと。成獣なら喋ったり体温を調整できたりするでしょうけど。何せフェニックスの体温は最低でも400℃はあるから、魔法を使えない人間は触ることもできないわよ。まだ、飛べないでしょうしね」
そうだ。フェニスの奴が神獣を見張ったり世話をできるのは奴が防御の魔法を使っているからだ。当たり前のことになりすぎてすっかり忘れていた。
「ただ、例外として水属性の魔法を使える人間がいた場合は分からないけれど。魔力を探知した限りではそんな人間は居なかったわ」
「ということは、貴女も他者の魔力を測ることができるのか?」
「ええ。それはともかく。今の神獣の世話役は誰かしら」
と俺に聞いたので、俺はフェニスを示した。
それを見て少女はフェニスへ、
「じゃあ貴方、私を神獣のところへ案内して頂戴」
と、微笑んで言った。
〜〜〜
俺は先手必勝とばかりに上背の遥かに勝る牛面に斬りかかった、が
ギィン!
「力で劣るなら速さ、とでも考えたか小さいの・・・だが、無駄だっ!」
牛面の持つ巨大な二本の斧によって阻まれた。
「牛面のくせに素早い動きをするもんだ。だがっ!」
俺はさらに高速で何ヵ所か素早く斬りつけた。
その巨体に似合わずそれを全て斧で防ぐとその牛面は、
「ふん。速さだけなら大したものだが、死ねっ!」
今度は俺に両手で二丁の斧を振り回してきた。
ブォン、ブォン、ブォン、ブォン、ブォン、ブォン
うぉっ!意外と早いな。そ、それに頭を的確に狙ってくる。俺はその攻撃を全てかわしながら、
「当たらないな。そんな遅い攻撃じゃ!」
此方から斬りつけた。
ブシュッ!
牛面は攻撃に意識を割いていたのか今度は当たったが、浅い・・・!
「チッ!生意気な。思ったよりも早いか。だが、その程度の小さなカタナではかすり傷ぐらいしかつけれんぞっ」
牛面は言い、俺がつけた傷を意にも解さず二丁の斧を再び振り回した。
威力が足りないのか?
そう思った俺は防御と早さに割いていたオーラを炎斬にも集中させた。
とりあえずはあの斧をぶった斬る!
「ハァッ!」
俺はオーラを纏った炎斬で二丁の斧の切っ先の交差する場所を狙った。
ガギィィン!
「なにっ!」
しかし、手応えはあったものの斧を斬ることはできなかった。
牛面が、
「ほう・・・人間風情が大した威力だな。そのカタナの力か?いや、我と拮抗している・・・だと」
「カタナ?カタナってなんだ?」
お互いの武器がくっついて拮抗している状態で、また俺の知らない言葉を話す牛面に俺は聞いた。
「?その細く小さな刃はカタナというのではないのか?ムンっ!」
ググッと二丁の斧を押し付けながら、
「いや、これは剣だが・・・っらぁ!」
俺も炎斬を押しつける。
「そうか、まあどちらでもいい。どちらにせよこの二丁板斧ほどの業物ではないだろう。何せこれは鉄島一の鍛治師が鍛えたモノだからなっ!」
と、斧をさらに押しつけてくる。
「そ、その鉄島とはなんだっ?」
俺も押し返す、が
「・・・死に行く者が聞いても意味は無かろう・・・そろそろ終わりにするぞっ!」
牛面がさらに力を込めて押してきた。
俺の炎斬が押しきられ右手のほうの斧が俺を斬った。
「グァァッ!」
俺は斬られ、倒れた。
否、倒れたと見せかけ牛面の右横に飛び、
「ウォォッ!」
ズバッ!
牛面の右脇腹あたりを斬った。
「グァァァァッ!」
今度は効いたのか、牛面は苦しそうに声を上げた。
「き、貴様我が斧を食らって何故無傷なのだっ?」
そりゃそうだ。
オーラで強化した俺の身体は鉄より固い。鉄島とやらでの大した業物かもしれないが、所詮は鉄の斧で俺には通じない・・・まあ、重たい衝撃は多少あったが、あえて食らって隙を突いたのは成功したな。
「まあ、単純な話だ。お前より俺のほうが強いっていう」
いちいちオーラだの説明がめんどくさいので適当に答えた。
「ぐっ!に、人間風情がぁ!調子に乗るなぁ!」
と、牛面が怒鳴り
「我が本気を出すことになるとは・・・貴様は殺す」
「その様でか?」
「ふんっ!ハァァァ・・・!」
牛面が身体全体に力を込めるようにすると、みるみる身体の色が変わっていく。丁度斧の刃の部分のような色に・・・
「っ!なんだっ?」
俺が驚いたようにそう言うと、
「これが我が秘術っ!(鉄化の術)だっ!こうなれば貴様のカタナなど通さんぞ、人間っ!」
だからカタナってなんだ?と思いながら、俺は手近にあった石を拾って牛面の胴めがけて投げた。
キィン!
まるで金属のような音がした。
「フハハハ!分かったか人間!我が身体は鉄の硬度を誇る!(鉄牛鬼)の異名は伊達ではないのだっ!」
牛面が自慢げに何か言っていた。いや、お前の攻撃も俺には通じないんだが・・・
「はぁ」
俺は嘆息し溜め息を吐いた。
「ぬっ?どうした小さな人間、我の秘術に絶望したかっ?」
フハハ、と何が嬉しいのかそんなことを言っていた。
「いや、な。さっきの女が相手ならまだまだ面白そうだったな、と思っただけだ」
牛面との戦いが思ったよりつまらないと感じた俺はそう言いながら、大気中のプラーナを炎斬に集中させ始めた。
「ぬっ、デュカ・リーナさまのことかっ!?フ、フハハハッ!貴様ごときがあのお方の相手になるとでも?・・・言いたくはないがあのお方は我よりも遥かに強いぞ!」
プラーナを炎斬に取り入れた俺は、
「そうか、楽しみだな」
と言い、
「楽しみだとっ?貴様は我に今から、」
ズシャッ!
高速で一気に間合いを詰め炎斬を横薙ぎに牛面の胴へ斬りかかった。
「あ・・・?」
胴から真っ二つになった牛面が空を見上げた状態で驚いていた。
「今から、何だ?斬られる・・・か?」
「ガフッ!ば、バカなっ!鉄の・・・硬度を誇る我が・・・身体がぁっ!」
と、言いながら牛面の身体が光に包まれ、そして消えた・・・
「?鬼って死んだら消えるのか?そもそもあいつは何だったんだ?鬼?牛?」
考えてもよく分からなかった。
それにしても、(カタナ)とは一体何だ?牛面が言っていたように炎斬は剣ではなくカタナなのか?
ミシルの剣と炎斬を見比べて見ると、確かに炎斬は細く短いし形もミシルのは両刃なのに対して、炎斬は片刃で反りがあるが・・・
と、ミシルは大丈夫か?と思いだして少し離れた場所で戦っているミシルを見ると、
鎧が所々破損しながらも何とか立っているミシルと、いつの間に手にしたのか透明な槍らしき武器と盾を持った無傷の鬼族の大男が向かい会っていた。