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第16話〜理由〜

〜〜〜



ガルディアは現在眼前で繰り広げられている光景を見ながら数年前のことを思い出していた。

数年前ウォルス王国を訪問した際に錬兵場で見せてもらったような技を見れば、やはりあのミシルという男が持っていたのはウォルス王国の騎士が扱うバスタードソードだったと思える。ということはミシルという男は必然的にウォルス王国の騎士・・・だったと言うことができる。


というのも、あのミシルという男が今繰り出している剣技は剣の扱いに素人である自分から見てもバスタードソードという大剣を使うことを前提とした剣技だからだ。

ウォルス王国の騎士が使うつまりバスタードソードを使うことを前提とした剣技とは、剛剣技(ごうけんぎ)と言い主に対戦する相手の装備する武器や鎧を破壊する事を目的とし、(魔物と戦う場合はそのまま頭など急所を狙う)使い手には何より単純に膂力(りょりょく)、つまり力強さと併せて狙う場所の正確さが求められる。

今のミシルの動きはどう見ても少女の持つ武器らしき銀色の杖?を破壊しようと剣技を繰り出しているようにしか見えない。

また、バスタードソードは別名ソードブレイカーとも呼ばれ、並みの剣、例えばレヴィアスの騎士が使う片手で扱える程度の刃が真っ直ぐな刃渡り60〜70㎝ぐらいのブロードソード、よりも刃渡りは倍以上の長さがあり厚みや質量も数倍あって、かなり頑丈に作られている。

それを考えると、あのように武器を狙った大剣による剛剣技の息も吐かせぬ連続攻撃など常人や普通の武器なら数回受けるだけでも不可能に思える。

だが・・・



〜〜〜



ミシェール・オルレアン(現在はミシル・タイナと名乗っている)は、忘れもしないその少女の顔を見た瞬間少女に斬りかかった。

それは、三ヶ月程前に少女が行った所業に対する復讐心という感情も勿論あったが、何より先手を取らなければ以前のようにまた手も足も出ずにやられる、訳も分からないまま得体の知れない妙な術を使われる、という考えが頭にあったからだ。此方が戦いのイニシアチブを取るために頭の片隅ではそういった計算が働いていた。

目の前の少女にこの火の大陸に飛ばされてからこの三ヶ月・・・その間私はアズトの護衛をしたり仕事を手伝いつつ時間を見つけては自分の剣技に磨きをかけるべく王族護衛騎士の時よりも遥かに密度の濃い修練を重ねていた。

それにこの島に入ってからの道中、トウヤという少年に人の身体に流れる力、所謂オーラというものの使い方の基礎的な手解きを受けた(私が急に喋ったからだろう、トウヤを始め皆一様に驚いていたが、トウヤは私が強さの秘密を教えてほしいと頼むと快く教えてくれた)そのおかげかオーラを使う適性が私にあったのかオーラの基本的な利用方法、つまり身体的強化・装備武器防具強化の術を私は短時間で最低限身につけることができた。

そして、以前の時よりも、早さ・破壊力・頑丈さ、と戦いにおける様々な面で能力が上昇した私がまず狙ったのが厄介にも形を変える銀色の杖らしきものだった。のだが・・・



「くっ。このような細い杖が何故破壊できないっ!」

先ほどから私は少女の杖に何回、いや何十回と大剣を叩き込んでいるが、杖には傷1つついていない。息が切れ手を止めたところ、



「ふふっ。久しぶりの再会の挨拶がこれなんて・・・やはり貴方はいいわね♪それと、この(嘆きの杖)は材質こそただの銀だけど、太古の昔にとある大魔道士が魔術と呪術を組み合わせて作ったものだから、多少以前よりその剣の破壊力が上がったところで破壊はできないわよ?何せ使い手の魔力を吸いとって、強度を上げるから。まあ、人間には魔力の内包量は分かりづらいでしょうけど」


と言って少女は銀色の杖を此方へ向けた。


「それにこの杖の特性はそれだけじゃなくてね。憶えているかしら?この杖を持ったまま魔法を唱えると・・・ファング」


と、以前見たように杖が凄まじい勢いで長く伸びると同時に丸太のように太くなり此方へ向かってきた。だが、オーラを使えば動体視力なども上がるのか、私は何とかその杖の軌道を見切り直撃を免れた。



「へぇ。破壊力だけじゃなくてこの前よりも総合的な能力が上がっているわね。前は為す術もなく当たった(ファング)を避けるなんてね。見逃した甲斐があるってものだわ」


私が素早く攻撃を避けるのを見た少女が感心したようにそう言った。だが、


「見逃しただと・・・?

ふざけるなっ!私は貴様だけは絶対に許さないと誓った・・・!失われた国のために!摘まれた尊い命のために!私自身の尊厳のためにっ!」


・・・と言ったものの、理屈はよく分からないがあの杖を破壊するのはおそらく私の力では無理だろう。だが、得体の知れない妙な術、魔法とか言ったあれを使われる前に決着をつけねば・・・この少女は自分の手で倒さねば・・・

そう決心した私は、



「・・・行くぞ」


「どうぞ」


「セァァッ!」


少女へ必殺の連続突きを繰り出した。


「また、その技?そこは進歩がない、くっ」


呆れたように言っていたが私の突きが少女の右肩を捉えていた。以前三連突きをしたときは全ていなされたが、早さが上昇している今の私の突きはあのときより遥かに早く強力で、さらにもう1突き軌道を変えた突きを加えた四連突きのため、何とか当てることができた。


「・・・油断をしたつもりはないのだけれど。貴方本当に強くなったわね。もう少し高みに昇れば、この子に匹敵するのではないかしら?」


少女は傍にいる同種族らしき男を見ながらそう言った。その男が、


「デュカ・リーナさま、冗談はお止めください・・・それにそろそろお戯れも止められたほうが。下手に調子に乗せても強さに隔たりがありすぎるため却ってその人間が傷付くかと・・・」


と、少女をたしなめつつ、此方を憐れみの目で見ながら言った。


「なんだと。貴様っ!」


私はその大男に剣を向けた。が、


「そうね。この人間の成長を見るのが楽しくてつい遊んでしまったわ、御免なさい」


「い、いえ。謝られることでは・・・貴女様の考えることですから我等のような若造が及びもつかないこととは存じますが・・・」


「まあ、ね。でも、別に私を倒すために強くなって欲しいわけではないから、あながち遊びとは言えないのだけれど。要は確認みたいなものなの」


「確認、ですか?」


「そう」


勝手なことをつらつらと喋り出したので、


「黙れっ!貴様らの事情など知ったことかっ!」


私は怒鳴り大男に斬りかかろうとした。その時、


「まあ、待てよミシル」

今まで傍観していたトウヤがいつの間にか私の横に立ち話しかけてきた。


〜〜〜


理由も分からないままミシルが急に戦闘を始めたので邪魔をしないように俺はしばらく見ていたが、ミシルの殺気とは裏腹に鬼族の奴らには戦意がないように見えたのでそれが気になった俺はついミシルを止めていた。


「邪魔をするな、トウヤ!私は今からこいつらを斬り捨てるっ!」


「うん、それなんだけどなミシル?こいつらに何か恨みでもあるのか?いや確かに俺もさっき銀色を有無を言わさず斬り捨てたけど、あれはあいつがいきなり此方を攻撃してきたからだぞ」


「恨み・・・と言えば言葉で語りつくせないほどあるが・・・」


そう言いながらミシルは憎悪の目を特に少女のほうへ向けていた。


「へえ。とりあえず何があったか聞かせてもらってもいいか?」


「・・・・・・」


「おい」


ミシルが急にそっぽを向き口を閉ざしたので思わず突っ込んだ。

と、そこへ


「推測だが、多分そいつの因縁はなんとなくわかる」


先ほどまでおれと同じく傍観していたガルディアが口を挟んできた。


「どういうことだ、ガルディア?」


「その男、ミシルとか言ったな。おそらくはウォルス王国出身の騎士だ」


「ガルディアが言っていた1晩で消滅したって国か?」


「そうだ。その生き残りだろう。どういう手段で生き延び今この火の大陸に居るのかは知らんがその男の戦いを見る限りでは、間違いない」


「成程な。だとすればミシルがあそこまで激昂しているのはあの少女がウォルス消滅に何らかの形で関わっていたと考えるべきか・・・」


俺が何となく理解したところ、


「・・・違う」


ミシルが呟いた。


「ん?違うって何が違うんだミシル?」


「関わっているどころの話ではない・・・!やつが、やつこそがウォルスを消滅させた張本人だっ!」


と少女を指して言った。


「えっ?そうなのか?でもあんな弱そうなやつがどうやって?」


とミシルの言葉に疑問を覚えた俺は少女を見ながら言った。すると、


「あらあら。弱そうだなんて。久しぶりに言われたわ」


言われた本人が楽しそうに言った。


「いや、鬼族だから何か俺には分からない強さがあるのかもしれないけどな。見た目でいえばあんたの横のでかいのの方がよっぽど強そうだぞ。それにあの銀色の奴も」


「ええ、まあ見た目はね」


くすくす笑いながら少女はそう言った。そしてふと疑問に思ったのか、


「銀色?」


と聞いてきた。ので、俺は


「ああ。なんか青白い火のようなものを吐くやつだった。いきなり此方を攻撃してきたんで叩き斬ったが。魔物かとも思ったが、血もでないし金属みたいな皮膚だったし、あれはなんだったんだろうな。赤い石とか妙に綺麗だったけどな」


未だにあれの正体がいまいち分からない俺は、この島のやつならなにか知っているだろうと思い軽い気持ちで聞いた。すると、


「な、なんだとっ!精気兵プラーナマシンを斬っただとっ!ばかな・・・あれの材質は鋼と銀の合金だぞ。いや、そんなことよりもイレイザーで消し炭になっていないだと・・・?魔法も使えない脆弱な人間風情がいったいどうやって・・・」


横の鬼族らしき大男が何か驚いてた。というか今さらっと馬鹿にしたよなこいつ?

その発言に軽くムカついた俺は、


「どうやって?知りたいか?・・・・・・こうやっただけだっ!」


オーラを開放し大男と少女にプレッシャーをかけた。


「ぬぐっ!?なんだこれはっ?プラーナ?いや、違う・・・!」

「へえ。魔力じゃないのにこの圧倒的なチカラ・・・彼も可能性があるわね。ううん、それどころか今の所最有力候補ね♪」


大男は苦しげに顔を歪めていたが、少女は平然としむしろ楽しそうですらあった。


「・・・あんた、何者なんだ?」


結構全力でプレッシャーをかけているのに少女があまりにも平然としているので思わず聞いた。


「?わたしのことかしら?何者・・・そうね、私の名前はデュカ・リーナ、鬼族よ」

「デュカ・リーナ・・・?何か聞いたことがあるような・・・」


俺は何となく聞き覚えがあるような名前を聞いて首を捻っていたが、そこへ


「小僧、俺が説明してやるよ」

レンジのおっさんが言ってきた。

おっさんは先ほどまで鬼族の大男や少女と色々話をしていたらしく、俺の疑問についての説明や分からない点がいくつかあったが納得できる点もある話をした。

魔神とはな・・・どうりで聞き覚えがあるわけだ。俺はそう言った昔話とかモノガタリは嫌いじゃないのでよく本を読んだりしていたからな。ただ、鬼だの魔神てっきり空想の産物だとばかり思っていたが、俺の目の前に立つ少女を見ると、そんな考えは吹き飛んだ。少女が放つオーラでもない不可思議な空気は魔力といい、その魔力を使い様々な不思議な技を繰り出すことを魔法というらしい。

ただ、さっき見た感じではオーラの使い方と似たような部分もあったが・・・発想が同じなのか?

「でも、また辿り着ける可能性がある人間に出会えたなんて、今日はとてもいい日だわ♪」


少女デュカ・リーナが上機嫌にそう言った。


「どういうことだ?また、とか辿り着ける、とか?」

訳の分からないことを言うので聞いてみると、


「んー。そこの騎士もそうだし貴方もなのだけれど、要は可能性の話ね」


ミシルをちらりと見ながら言うが俺はますます分からず、


「可能性?」


「そう。闇の大陸に行ける可能性。」


「闇の大陸?」


「そう。人間がそこに行くためには最低でも、ある程度以上の強さ、もしくは誰かに対する尋常ならざる憎しみや恨み、それか新しいモノを産み出せる程の発想や閃き、等が必要なの。」

「あまり良く分からないんだが・・・」


「まあ、今は別に分からなくてもいいわ。それに、仮にそれらを兼ね備えている人間だろうと辿り着けるとは限らないのだから」


「ふーん?」


分からないながらも何となく納得したような気がした俺は一応相槌を打った。

そこへ


「貴様らの事情など知らんと言った・・・!」


俺達の話にしびれを切らしたのかミシルが再びデュカ・リーナへ剣を突き出した

「まあ、以前から考えると貴方は格段に強くなったわ。それに何より私への憎しみが増加しているのが一番良いところね。楽しいからこのまま貴方の相手をしていたいところね」


デュカ・リーナはミシルの剣を全て避けながらそんなことを言っている。


「でもね、私はまだまだ色々やらなくちゃいけないことがあるの。だから貴方にばかり構ってもいられないのよ」


「私の知ったことかっ!貴様だけはっ!」


ミシルが先ほど見せた4連突きを再び放ったが、今度は全てかわされた。


「くっ!」


「それに自分でも分かっているのでしょう?今の貴方の剣では決して私を倒すことなどできないと。先ほどより剣速が鈍っているわよ。これもほら」


デュカ・リーナは先ほどミシルが与えた傷を見せながら言った。そして手で傷に触れた途端、深手に見えたその傷がみるみる癒えていく。


「なっ!?」


「ねっ?まだまだ今の貴方程度じゃ私に傷を残すことすら無理ね。もっと戦いの経験を積まないと、闇の騎士(ダークナイト)には触れることすら出来ないわよ」

「闇の騎士(ダークナイト)?」


「まあ、別に会うかどうかも分からないけれどね。じゃあ私はそろそろ行かないといけないから・・・ジンくん?」


ミシルの剣を避けつつデュカ・リーナは横の大男に話しかけた。


「ハッ!」


「この場はおまかせしても良いかしら?」


「勿論です。デュカ・リーナさまっ!貴女に言われるのなら人間どもを皆殺しにでもしてみせましょうっ!」


「うん、それは無理だと思うからしばらくの間足止めだけして頂戴」


「・・・はい。承知しました」


最初は意気込んでいた大男がデュカに言われて落ち込んだように項垂れていた。まあ、デュカはともかくあの大男ぐらいなら一閃できるだろう、俺なら。


「さすがに貴方だけじゃ分が悪すぎるだろうから・・・召喚(サモン)!牛鬼!」デュカが杖を地面に向けて叫んだ途端地面が妖しく光り、その光の中に大きな人影が見えた。


「じゃあ、あとはよろしく」


とデュカは言うやいなや姿を消した。

と同時に光も薄れ中の人影もはっきり見えるようになった。


・・・そこには鬼族の大男よりも一回りはさらに大きな身体をした鬼族みたいな角の生えた牛が立っていた。

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