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第14話〜風〜

〜〜〜


火喰い島(大陸の者や人間には鬼ヶ島と呼ばれているらしい)は、その全長が数十㎞ありその道の険しさと合わせて島内を全て歩こうと思えば数日はかかる。並みの人間や動物ならば・・・自分は生まれて物心ついた時からずっとこの島に居り、他の場所がどのような様子なのか知らないということもあるが、広いこの島から出る必要も外との交流も必要もないと考えている。ただ此方がそう思っていても外からは数十年に何回かは侵入者がやってくる主に人間だ。どういう理由でこの島へ来るのか、例えばこの島を自らの領地にしたいのか、亜人と呼ばれる我々を捕まえたいのかは不明だが友好的な者は1人として居ない。それに外から来る人間はどいつもこいつも皆弱い。唯一の例外を除いてはだが。


そんな今までの経験から、ロナン・サタクは侵入者を見つけたとき、いつもするようにすぐさま排除しようと決めた。暇潰しに多少は話してみたが、やはり侵入者の目的が録なものではないということもあり特に躊躇いもなかった。あいつらには後で結果の報告だけしとけばいいと、島の中央部に居る者たちを思い浮かべて、自らの風魔法を放って1人を吹き飛ばした。死んだかどうか分からないがおそらく致命傷だろう。続いて残った奴等へもまとめて同じ魔法を放った。



〜〜〜


目の前のロナンと名乗った男が両手を前にかざしたとき、私は無意識に物理障壁を展開していた。見えない攻撃・・・先ほど男性が飛ばされたことを考えればおそらく物理的な圧力があったのだとは推察できたので、選択としては間違いないと思う。


ゴォォォー


風が吹くような音が耳に響く。

魔法?と言っていたが、いったい?この障壁にかかる圧力がその魔法というものなのか。するとロナンが私と私の物理障壁を見ながら

「ほぅ。疾風(はやて)を防ぐとはな・・・貴様も魔法使いか?」

疾風(はやて)?それが魔法の名前ということなの?魔法を使った覚えはないのだけれど」


私はその物理的な圧力を障壁で抑えながらそう言った。が、


「そうだ。だがっ!」


と言うとロナンの両腕がさらに力を入れたのか膨れ上がり圧力が明らかに強くなった。


「くっ、押しきられるっ!」


すると横からユリナが、


「・・・手伝う」


と、同じ物理障壁を展開させ此方の方が優勢になる。

「もう1人だとっ?ばかな?貴様らは何者だ?」


ロナンが驚いて言う。


「何者と言われてもね。ただ退魔術を使う退魔師ってだけよ」

今度はアリナがそう言いながら弓を構えた。


「退魔師だと?聞いたこともないぞそんな奴等は。だが俺の魔法を防いでいるのは紛れもない事実。魔法の一種では、グハァ!」


「へへ。どう?退魔術式弓術の威力は」


アリナの障壁の此方側から放った矢がロナンの右太もも当たりに突き刺さっている。だけど・・・

実際、退魔術式弓術の破壊力は岩も砕くぐらいある。それは、プラーナと呼ばれる大気中の精気を弓矢に取り入れ弓矢自体の強化、矢の速度を上げるのに利用される。アリナは未だ結界を張ったり障壁を展開させることは出来ないがその代わり武器等の身の回りの物にプラーナを纏わせたり格闘の際に自らの身体の強化をすることができる。それにしても2人分の結界を貫いた上にさらにあの風の中を通すなんて、そんなに威力があったのかしら。


「さ、3人だと。き、貴様ら全員魔法使いかっ!全員?侵入者は五匹居たはずだっ!」


先ほどまでの余裕が消えたロナンが焦って周りを見回すと、


パァン


音がした。


「グァァッ!」


ロナンが急に右腕を押さえて痛がりだした。

見るといつの間にかレヴィアスの男性がロナンの右側5mぐらいのところにたっており銃を構えていた。


「グッ。何だこれは。貴様がやったのか?今何をした?」


ロナンが腕を押さえて男性のほうを睨みながらそう言った。

男性は、


「どうやら亜人とはいえ銃は通じるようだな。今度は決めさせてもらうっ!」


そう言って再度引き金を引いた。だが・・・


「ハァッ!」


銃弾はロナンの手前で一瞬止まり地面に落ちた。


「なっ!くそっ!」


それを見て焦った男性は再度引き金を引いたがまたしてもロナンに当たらず地面に落ちた。


「俺に鎧風(がいふう)を使わせるとはな・・・だがここまでっ?グァッ!?」


再度、アリナが矢を放ちロナンの左肩辺りを掠めた。

「あれ?外したっ?」


アリナがそう言うとロナンが、


鎧風(がいふう)を貫くだとっ?いったい何なんだ貴様らっ!?」


何故か怯えたように私たちのほうを見た。


「だから、あのオジサンはともかく私たちは退魔師って言ってるじゃない」


アリナが若干呆れたように言う。


「くっ。退魔師かなんだか知らんが此方の分が悪い。追い風っ!」


と、ロナンが叫ぶと、どこからともなく突風が吹いた。一瞬目が開けられず、


アリナが

「きゃっ!あ、あれ?」


と言ったので、目を開けてみると、そこには


「あいつは何処に?」


男性が言うようにロナンの姿がどこにも無かった。

成る程。私は合点したように、男性へ


「おそらくですが、私たちに倒されそうになったため魔法とやらを使ってこの場所から逃げたのでしょう。」


「ということは我々はあの亜人を退けたのですねっ!」


助かったと言いながら男性は安堵していた。そして


「そうだっ!あいつを」


と言いながら飛ばされた男性のほうへ駆け寄っていった。私はそれを見ながら、

「大丈夫かしら?」


と呟き、


「師匠が居るから何とかなるでしょ」

「・・・師匠が居るから大丈夫」


アリナとユリナがそんなことを言った。まあ確かに退魔術には怪我をしたときの為に治癒をする技もあるのだからそのとおりなんだけど・・・それにしても、


「アリナちゃん?」


「ん?何、師匠?」


「貴女はいつあんなに腕を上げたの?矢で障壁を突破する破壊力なんて以前はなかったでしょう?」


「うーん、私もまさかあれほど威力があるとは思ってなかったんだよね。ただ、矢にプラーナを溜めるとき何時もより遥かに精気が集まっていくのは感じたよ?」


「そう。何となく分かったような気がするわ。」


そう言われてみれば私もユリナちゃんも何時もより大分障壁の展開が早かった。だとすればおそらく、


「えっ?どういうこと?」

「多分だけどね。この島には大陸よりも遥かに濃いプラーナが大気に漂っているの。だから私たちみたいなプラーナを利用する退魔師は何時もより強大な力を発揮できるというわけ」


そう言うと、2人は納得したような顔をしていた。

と、もう1人の様子を見に行った男性が、


「大丈夫ですっ!こいつは所々怪我をしてますが気絶しているだけですっ!」


向こうのほうから此方へ大声で叫んだ。


「よかった。じゃあ行きましょうか。」


私は2人へ促すと男性が居るほうへ歩いていった。



〜〜〜


「くそっ!人間風情がっ!」


ロナンは風の魔法を使って飛んで移動しながら悪態をついていた、時速約200kmぐらいで。

今まで侵入者、それも人間にここまでの手傷を負わされたことなどなかったから急いであの場所から離れた。だが・・・


「いったい退魔師とはなんだっ?何故人間が魔法じみたものを使える?」


自問しても、知らないことが分かるはずもない。そもそも脆弱で戦う術もないものが人間だ。我々のように亜人と蔑まれながらも、人間ではもちえない能力もないのに、あそこまで強いのが信じられない。


「どちらにせよ一度戻って報告する必要があるな・・・」


そう考えるとロナンは憂鬱になった。傷を治す必要もあり侵入者の目的も話さねばなるまいが・・・この傷を見てあいつらは小言を言うだろうな。独断で行動するなとか油断したバカ者とか。ただ、あいつらは間違いなく強い。下手をすればあいつよりも・・・今もおそらく自分のように島の何処かに独断で彷徨っている仲間の顔を思い浮かべ、首を振った。まさかな、あいつは我々の種族の中でも飛び抜けて魔力が高い。それはないか。

そこまで考えたところで

島の中央部が見えてきた。


〜〜〜


その男は魔力を感じる能力を持っていた。だから自分の仲間の1人が自分の居るここから島の反対側辺りで、おそらく侵入者であろう者たちと交戦していたのは分かっていた。だが、


「・・・おかしいな。ロナンのやつは何故帰ったんだ?」


思わず呟いていた。何故なら侵入者らしき3つの魔力がそのままその場所に残っているのに、好戦的な仲間であるロナンがそれを残して帰るなど何時もなら考えられないからだ。


「逃げ帰ったか?」


多分それしか考えられない。そんなにあの侵入者は強いのか。それに・・・


「もう1つのほうも気になるな」


先ほどロナンが居たのとは別の場所で一瞬だが凄まじい魔力を感じた気がしたのだが。まあ、あの辺りは守護者の範囲内なので、仮に侵入者が居ても守護者に排除されたとは思うが・・・

男はそこまで考えると、前方に気配を感じた。



〜〜〜


「レンジさん。漸くそれっぽいものがありましたよっ!」


リクオが前方を見て、弾んだような声を出したので見てみると、そこには木で出来た巨大な門があった。


「ほぉ。でかいな。」


「いや、感想がそれだけですか?レンジさん。あれは明らかに建造物ですよ。つまりこの島には何者かが確実に居るということでしょうっ!」


リクオがやたら興奮していた。まあ、島の入り口から四時間ぐらい歩きっぱなしだったからな。何もなさすぎて心がおれそうだったんだろう。分からんではないが、


「まあ、落ち着けリクオ。まだ住民が見つかったわけでもないだろう、なあ?」

おれは後ろについて来ているレヴィアスの3人へ言った。だが、


「おお」

「これは・・・」

「やはり神獣はこの島に・・・」


3人はリクオと同じように前方の門を見てそれぞれ感嘆の声を漏らしていた。

俺は苦笑して、


「お前らなぁ。仮にも探索団だろ?こういうのは大して珍しくもないのじゃないか?」


と言うと、1人が


「そうは言いますがレンジ殿。我々はこういった未知なるものを発見するという行為のためにこの仕事をしているのですよ。それに、門があるということはこの先にこの島の住民の集落がある筈です。ここまでくれば一気に神獣に近づいたと言っても過言ではありません。」


リクオと同じく興奮した様子で言った。

ちなみに俺たちは歩きながら話しているので先ほどは遠くに見えた門まであと数mというところまできていた。


「まあ、そうだけどな。でも結局神獣が見つからなければ、それも」


その時その巨大な門の陰から1人の男がのそりと出てきた。そして、


「ようこそ、侵入者の諸君」


と言った。その姿を見て


「な、何者だっ!」

とリクオが言う。若干怯えたような声なのはその男の姿によるものだろう。なにせその男は・・・


「ほう。中々度胸があるな、人間よ。以前見た侵入者は私の姿を見ただけで怯えて声もだせなかったがな」

見た目は、顔こそ赤茶けた髪を立てた火の大陸の者とそこまで違わない造詣だが、体は二mを越える大男で体は筋骨隆々なのに妙に落ち着いた口調で話しかけてくる。・・・何よりその額からは二本の角が生えている。その姿はまるで伝承にある、


「お、鬼かっ!?」


再度リクオがそう言うと


「ふふっ。面白いものだな。侵入者はいつも私の姿を見てそう言う。それか亜人とな」


その男が微笑みながらそう言った。


「違うのか?」


俺がそう言うと、


「まあ、間違ってはいない。我等は鬼族(きぞく)と名乗っている。呼び方は好きにすればいい。今後の付き合いをどうするかは今からの展開次第だな。」


「今からの展開次第?どういうことだ?」


「簡単だ。諸君らのこの島に来た目的次第ということだよ。もし、我々と友好を結びに来た、というなら歓迎しよう。だがそうでなかった場合・・・」


「なんだ?」

言い淀んだので俺が聞くと、


「ここで全員死んでもらうことになるな」


と言って此方を鋭い目で睨んできた。

その瞬間リクオをはじめ他の3人も驚愕で固まった。おれは、


「死んでもらう、とは穏やかじゃないな」


「まあ、気にすることはない。例えば今までこの島にやって来た侵入者の目的は大抵我等を捕まえるだとか、この島を自らの陣地にしようとか、おろかにも自分の弱さを理解していないようなものばかりだったからな。諸君もそうならば、という話だ」


穏やかな口調で話しながらも此方を睨みプレッシャーをかけてくる。


「いや、俺達の目的は神獣探しだ。そういったことじゃない」


と、俺が言うと男は僅かに目を見開き、


「神獣とはな・・・やはり人間の中にも魔力を感じ取れる者が居るようだな。だが、何故神獣を求める?あれは我等にとっては必要だが諸君ら人間にとって不必要なチカラだと思うが」


この男の口ぶりだと神獣が居るのは間違いないな。


「ああ確かに。俺は、というより火の大陸には別に必要ないな。ただの調査だ。だが、」


と後ろの3人を見ながら、

「この水の大陸の奴等にはどうしても必要らしい。というのも・・・」


俺は目の前にいる男に、ガルディアから聞いた水の大陸の状況を聞かせてやった。さすがに驚いたようで、

「一晩で国が消滅しただと。そんなことが・・・もしや・・・」


「心当たりがあるのか?」

「あ、ああ。さすがにそんな真似ができる存在は限られている。だが目的が分からん。」


「知っているやつなのか?」


「知っていると言えば知っている。我々からすれば雲の上の存在だ。太古の昔から存在しているお方だ」


「太古の昔?御伽話みたいだな。」


「そうだな。私は精々500年ぐらいしか生きていないがそのお方は少なくとも数万年前から存在しているはずだ。」


「何者だ。そいつは?」


我等鬼族(きぞく)を創造した、とされているお方だ。」


「創造?それはまるで神様みたいだな・・・」


「ある意味では間違ってはいない。そのお方は魔神と呼ばれている」


「魔神?」


「そうだ、そして創造主であると同時に我等の始祖だとも言われている」


「つまり、あんたら鬼族の産みの親でしかもご先祖ってことか・・・」


「ああ。だが伝え聞いた話に因ればあのお方は此処より遥か彼方の大陸に居られるはずだ。それにわざわざ国を潰す目的が」


目の前の男がそこまで言ったとき、生暖かい風が吹き周りが見えなくなった。



そして、


「何のお話をしてたのかしら?私にも聞かせて頂戴」



声のしたほうを見てみると銀色の杖を持ち、黒いローブを着た小柄な少女が立っていた。

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