第12話〜守護者〜
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己の領土内に侵入したモノを感知したソレは、数百年の間何回か繰り返した作業を行うため、侵入したモノの方角へ移動を開始した。金属の身体を持つソレは錆びることなく、壊れることなく、今から己のやることに疑問を持つこともなく、いつものように己に与えられた唯一無二の義務を果たそうとするだけだった。
己の義務、すなわち侵入者の排除を・・・
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「さ、殺風景というか何という、か・・・行けども行けども岩しか、み見えませんねぇ。はぁ、はぁ。ほんとにこの島には何か住んでいるので、しょうか、ふぅ、ふぅ。歩くのが、け、結構きつく、なって、きましたよ。ふぅ、ふぅ」
アズトが息を切れ切れにさせながら横から言ってきた。出発してから小一時間ぐらいは経ったとは思うが、まだ大して進んではないぞ。でこぼこした岩山を登ったり降りたりしてるだけでそんなに息切れしなくても。
ただ、歩くだけで暇なんで
「そうだな、ここまで進んで分かったことと言えば、このやたらと続く岩山には生き物が居ないっていうことと、アズトが意外におっさんだったってことぐらいか・・・」
真面目な顔で軽く言ってみると、
「わ、私の体力がないのはべ、別に歳のせいじゃありません!いや、商売で、それなりに色んな僻地へ、行ったりするんでむしろ体力はあるほうです!そ、そもそも私はまだ29です!」
と、やたらと興奮していた。おっさんは禁句なのか。
「まあまあ、落ち着いてアズトさん。どうせこいつのことだから暇潰しにおちょくっただけだと思うわよ。だから、あんまり気にせずに。」
とネクがとりなすように言った。付き合い長いだけあって俺のことがよく分かってるなこいつ。
「むぅ。それはそれで何か納得が行きませんが・・・」
アズトが唸りぶつぶつ言っていた。
ちなみにガルディアとミシルは何も喋らず黙々と歩いている。
「ま、あたしはこいつの言動に慣れてるからね。多少何か言われても気にしないけど。」
ネクが何故か自慢げにそう言うとアズトが、
「そうですか。やはり夫婦ともなると性格も何を考えてるかもよく分かるものなのですね。」
うんうんと何か1人で納得していた。ん?聞き間違いか?今、
「べ、べ、別にこ、こいつとあたしはふ、夫婦なんかじゃないわよっ!か、勘違いしないでよねっ!ねっ?トウヤッ?」
そう、やっぱり夫婦って言ったよな。そんなバカな。それにしてもネクもそんなに顔を真っ赤にして怒らなくてもいいんじゃないか。よっぽど夫婦と言われたのが気に入らなかったんだろうな。よし、
「そうだぞ、アズト。どう見たら俺達が夫婦に見えるんだ。俺達はただの幼馴染みだ。」
フォローしとかないとな。
「・・・そうよ、アズトさん。あたし達はただの幼馴染みよ・・・」
何故か項垂れながらネクがそう言った。
と、ガルディアが
「一つ気になったんだが、君たちは見た目に反して結構年齢が上なのか?」
聞いてきたので、俺が、
「見た目に反してっていうのは気になるが・・・俺は15歳だ。ネクも。」
言うとガルディアが、驚いたように
「そ、そうか。やはりそのぐらいか。アズト氏が夫婦と勘違いするからてっきり20歳前後ぐらいかと。」
「ん、ということはレヴィアスではそのあたりの年齢にならないと結婚できないのか?」
聞いてみると、
「ああ、正確には18歳からだがな。」
「なるほどな。ちなみに火の大陸では15歳からだ。そのへんの決まりごととか、文化の違いも興味深いな。」
そうやって俺達は互いの文化の色々な違いなど様々な話をしながら岩山を進んでいった。
そうこうするうちに漸く岩山の切れ目が見え、岩山を降りた先にはやたらと広い平原に辿り着いた。平原の向こう側に森らしきものが見える。
「やっと岩山がおわりましたね!」
アズトが本当に嬉しそうに言った。
「確かにやたら長かったな。まるで・・・」
ガルディアが何やら考えこんでいる。気になった俺は
「ん?どうしたんだ、ガルディア?何か気になることでも?」
「いやな、岩山がいくらなんでも長すぎたと思ってな。まるで、外部からの侵入を防ぐような・・・要塞みたいな島の構造だと思ってな。」
「ああ、なるほどな。言われてみれば確かに。あの岩山なら馬車は確実に使えないし、外から狙撃っていうのも難しそうだな。」
俺が同意すると、アズトが
「いよいよこの島に何か住んでいる可能性が少なくなってきましたね・・・この島から他の場所に移動をするのに手間がかかりすぎますからね。」
若干落ち込んだように言う。
「まあ、まだあの森の奥とかに誰かいるかもしれないから諦めるには早いんじゃないか?光ったと思われる場所も見つかってないしな。」
少し可哀想になって俺は言った。アズトにしたらこのまま何も見つからずに手ぶらで帰ったら大損害だろうからな。まあ、まだ日にちもあるし、
とガルディアが
「おそらく大丈夫だとは思うが。祈祷師が指し示した場所の信憑性は高い。確実にこの島に何かはある。生き物もいないような場所を指し示すというのは考えられない。
今まで一切生き物を見ていないというのは確かに気になるが・・・」
「まあ、諦めるのは島内を隈無く探して何も無いと分かってからでいいんじゃないか?今はとにかく先にすすも」
そこまで言ったところで、俺は何かとても嫌な雰囲気を感じた。ので平原の半ばあたりを見てみると、いつの間にか見たこともない、銀色の物体が立っていた。それを見た瞬間ざわっ、と背筋が粟立つような感覚を覚えたので、
「みんなっ!伏せろっ!」
俺は他のやつへ叫んだ。
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ソレは森の中から平原を挟んだ向こう側の様子を見ていた。岩山に何者かが入った途端感知可能な己のセンサーが感知したとおり、岩山を越えて侵入者が平原まで辿り着いていた。
数は五体。平原の距離は凡そ700m程度。己の侵入者排除機能の射程距離は500mはある。
常ならば平原を半ばまで進んで待ち構えておき侵入者が岩山を降りると同時に排除機能を使用する。だが今回は侵入者を感知してからここに辿り着くまでがいつもより遅いのか侵入者を視認したときは己はまだ森の中だった。
何かいつもと違う点があるか?一瞬そういう考えが己の回路にうかんだが、すぐにそれを打ち消し、自動で目標つまり侵入者が射程内にはいるように音もたてずに移動を開始した。
そして平原も半ばまで進んだソレは侵入者へ向けて排除機能を作動させた。
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俺の焦った声に何かを感じ取ったのか皆が一斉にその場に伏せた。と同時にその銀色の物体の銅あたりから青く光り輝くものが照射された。先ほどまで俺たちが立っていた高さの場所に。
伏せたおかげでその青い光は誰にも当たらなかったが、俺たちの後ろに立つ岩山に当たり岩の表面が抉れていた。
「い、今のはいったい?」
「伏せなかったら明らかに致命傷を負っていたぞ。」
アズトとガルディアが伏せながら話しているのを尻目に俺は銀色の物体へ向かって駆け出した。
距離がだいたい300~400mか。10秒ちょいぐらいはかかる。
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ソレは最初、己の認識機能に異常があるのかと思考した。かつて己の侵入者排除機能「イレイザー」を使用して斃れなかった侵入者などただの1体も存在しなかった。だが今、イレイザーを使用する直前に侵入者の5体はまるでイレイザーが当たる位置を知っていたかのように地に伏せかわした。それどころかその内の1体は凄まじい速さで此方へ近づいてくる。
己の義務を果たすため、ソレは再度イレイザーを放った。その近づいてくる一体へ向けて。
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丸太を2つ立てて、縦に繋ぎ(太さは丸太よりは一回り太いぐらい)それより細い棒を人でいうところの手や足の位置に生やしたような感じの形の(長さは丸太1mずつぐらい手足の位置にある棒は70〜80㎝)銀色の物体が此方へ向けて先ほどのように青い光を照射しようとしている。
一気に走って距離は凡そ10mぐらいまで詰めたが走りながらじゃ回避が間に合いそうにないな、これは。
思った瞬間、光が再度照射された。
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煙が巻き上がり視認が不可能だが、この至近距離からのイレイザーなら確実に捉えた、と判断しさらに他の4体を排除するためにソレは岩山のほうへ進んだ。
否、進もうとした。
だが、
近づいてきていた1体が先ほどと変わらぬ姿でそこに立っていた。
そして己がその姿を視認した瞬間、その1体が一気に己の頭上まで跳んで近づくと同時にそれまで腰に差していた金属を振り下ろした。
その瞬間ソレは思考する機能を失った。
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オーラの使い方には大別して2つある。
1つは自らの体内から練り上げたオーラを使い、身体の筋肉や神経、手持ちの武器防具を強化し攻撃力や防御力、速さ等、威力を底上げする方法(体気術と呼ばれている)
もう1つは、自らの体内から練り上げたオーラと大気中に浮遊している精気(プラーナと言われるもの)を混ぜ合わせ、自らのオーラのみよりも強大な威力を発揮できる方法がある(大気術と呼ばれている)
俺は銀色の光の照射が此方へ当たる直前に大気中の精気と自らのオーラを混ぜ合わせた大気術を使い身体の防御力を大幅に上げたため、光の直撃を受けても特にダメージはなかった。
さすがに自分のオーラだけで受けてたら立ってられなかったかもな。
それにしても・・・
「それは一体何なんでしょうね?見たところ大きな金属の塊にしか見えませんが・・・」
と、いきなり攻撃してきた銀色を倒した後、安全を確認して後ろに居た他のやつを呼び寄せ、考え事をしながら来るのを待っていた俺に追いついたアズトが尋ねてきた。
「ああ。俺も遠目には変わった生き物が居るぐらいにしか思ってなかったが、近くで見ると・・・何だこれ?真っ2つにしたが、血らしきもの出てないし。ガルディア、これが何なのか分からないか?」
俺は銀色を指しながら、同じように合流してきたガルディアに尋ねてみた。
「いや、レヴィアスでもこのようなものは見たことがない。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「金属が動く、というのは見たことがある。」
「ふーん。これとは形が違うのか?」
「そうだ。まだ実用化の目処は立っていないが、自走式貨物車と呼ばれるものが現在研究されている」
「自走式貨物車?それを木じゃなくて金属で作るのか?」
「そうだ。木よりも頑丈で腐りにくいからな。ただ自走式ならではの馬力がある大きな動力装置を使う必要上、どうしても本体を巨大にしなくては作れない。そんな巨大な貨物車を何処にどうやって移動させるかというのが現在の課題だ。それにそこまで詳しいことは分からないが、仮に作れたとしても前後に移動する、という機構を組み込むぐらいが限界だろうと思う。
だから・・・」
「仮にこれが金属だとしたら、どういう仕組みでこの大きさで自走し、しかも攻撃までできるかというのはまったく分からないな・・・」
「そういうことだ。それにしても、トウヤ。」
探索者というのはやはり好奇心旺盛なのか、俺が真っ2つにした箇所を色々な角度から眺めたり触ったりしながら話していたガルディアが不意に俺を振り返って言った。
「なんだ。」
「やはりトウヤの強さはめちゃくちゃだな。この金属は鉄ではないにしろそれに近い固さだぞ。それをこんな風に剣で綺麗に真っ2つにするとは・・・」
「そうか?そのぐらいの固さならネクも出来るぞ?なぁ、ネク?」
俺の横にいつの間にか立っていたネクへ話を振ってみると、
「えっ?あ、ああ、うん。鉄ぐらいの固さだったら斬れるわよ。」
「だよな。通常でも鉄ぐらいは斬れるよな。」
この場合の通常とはオーラやプラーナを使わない状態のことを指す。
すると、ガルディアが
「なんというか・・・火の大陸ではそれぐらいの剣術の腕は当たり前なのか?レヴィアスでいうと、騎士並みの実力だぞ。いや、騎士でも何人が斬鉄をできるか・・・」
鉄を斬ることを斬鉄っていうのか。そのままだな。
一応補足しとくか。
「いや、火の大陸全部じゃないと思うぞ。俺たちの出身の村では剣術が盛んだったってだけだ。」
「いや、それにしてもその若さで・・・凄まじい腕だな・・・」
何かガルディアが落ち込んでいる。まあ実際俺の腕を目の当たりにしたからな。
「むっ?これは?」
と、ガルディアよりも念入りに銀色を調べていたアズトが何かを発見したような声を出した。
「どうした、アズト?何か見つかったのか?」
聞いてみると、
「ええ。全身銀色の金属なのにここだけ色が違うのでよく見ていたんですよ。」
と言って丸太の繋ぎめあたり、人でいうと丁度臍のあたりになるのか。
よく見てみると、そこには
「宝石?」
赤く輝く真っ2つになった宝石らしきものが埋め込まれていた。
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???
「守護者がやられただとっ!」
「いえ、やられたかどうかは分かりません。正確には反応が途絶えたのです。」「反応?精石の反応か?」「はい。通常ならば精石の反応が途絶えるのは考えられない事態です。私もこの250年間の話を色々と知っておりますがそのようなことは初めて聞きました。」「そうだな。確かに俺も初めて聞いた、反応が途絶えるなどと。」
「ですから考えられるのは、精石自体の効力が長年の酷使により切れたか、侵入者がこの島に入り守護者を倒し精石を壊した、という2つの可能性です。」
「前者は考えづらいな。口伝に因れば精石はプラーナを取り込み半永久的に使用可能らしいからな。だとすると、やはり・・・」
「侵入者ということになります。」
「しかしっ!あの守護者だぞ。そう簡単にやられるか?」
「分かりません。ただ、もし守護者すら倒せるような侵入者がすでに大平原あたりまで迫っているとなると・・・」
「ここまで来るのは、あと1日ってところか。あいつらはどうした?」
「あの2人はいつものように島内を散策してますよ。」
「またか・・・いつ帰ってくるかは、分からないよな・・・?」
「見当もつきません」
「はぁーーーーーっ」
「溜め息は女性が逃げますよ。」
「そこは女性が、じゃなくせめて幸せが、にする配慮をしろっ!」
「それはともかくここの守りは手薄ですね」
「ああ。侵入者の目的は分からんが、守りを固めんとな・・・」
「目的はほぼ間違いなくあれだと思いますが。」
「それは言うなっ!もしかすると違うかもしれないだろうが」
「・・・」
「分かった。あれが目的だと認めよう。だからその目をやめろっ!」
「あれだけは何としてでも護らなくてはなりませんからね。下らない現実逃避はやめてください。」
「お前は本当に厳しいな。ああ、分かってる。あれだけは何としてでも護るさ。」
「勿論私も護ります」
そこまで話すと2人は自分達が今居る神殿、その中央の祭壇で体長50㎝程度の光輝く獣がすやすや眠っているのを眺めた。
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