第11話〜探索者たち〜
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『大いなる守護者により、この地は護られている。
かつて大地は荒れ果て、海は猛り、およそ生物と呼べるものはその存在さえ叶わなかった。
だがある日、この地に神が舞い降りた。巨大な水龍に姿を変えたその神の御力により、川は流れ出し、大地が潤い、生物が生まれ落ちた。この地と肉体を分けた彼の6大陸と共に。
我らは決して忘れてはならない。今こうして我らが在るのは水神の御加護によるものだということを』
レヴィアス国聖書より抜粋
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「つまり、その祈祷師とやらの御告げに因って、貴方逹はこの島を目指して来た、というわけですか?・・・しかも私達を略奪者と勘違いして攻撃してきたと?」
アズトは憤慨しながらそう言った。まあ、怒るのも無理はないだろう。こちらからすれば、いきなり大砲をぶっぱなされて殺されかけたのだからな(リシナがいなければ間違いなく船に直撃していた)
言われたガルディアは、
(先ほど自分のことをレヴィアス国レヴィアタン探索団団長ガルディア・ソーイと名乗った)
「そのことに関しては申し訳ないとしか言い様がない。だが、我が国が置かれた状況も察していただけると助かる・・・」
若干すまなそうに言い訳がましく言うが。口だけならなんとでも言えるからな。それにしても、
「まあなんだ、その隣国のウォルス王国だっけか?そこが一夜にして壊滅、いや消滅して、早急に対応策を練る必要性があるっていうのは分かるが、他にやりようがなかったのか?」
と、レンジが疑問に思ったことを言った。
「他に、と言ってもな・・・我が国の王や知恵者、科学者などが全員で相談しても一体何が起こったのか見当もつかない様子だった。」
ガルディアは答える。
が、俺は改めて考えた。
そんなことがあり得るのだろうか?
聞いたらウォルス王国というのは、国土こそ火の大陸の5分の1もないが、人口は約10万人程度しかも文明は明らかに火の大陸より進んでいるであろうレヴィアス国と遜色ない程度だったということだ。建物も木造はあまりなく土を練った硬く燃えにくく崩れにくい材質だったらしい。
もし、ガルディアの話が本当だったとしたらどうやってそんな状態になったのか全く見当がつかないというのは理解できる。
「襲われたことはともかくとして、あの島に何かありそうなのは確定だな。」
俺はそう納得した。いや、おそらく俺以外も皆納得している。が、
「いやいや、それは確かにそうかもしれないけどっ!でもこいつらはあたしたちを殺そうとしたのよっ!」
ネクがガルディアのほうを見ながら興奮した様子で文句を言う。
「まあ、そうだけどなぁ。でも、こうやってみんな無事だったし。
それに正直鬼ヶ島で何があるかは全然分かってない状態だから少しでも戦力はあったほうがいいと思うぞ?しかもレヴィアス国の技術は大陸に持ち帰ったら丸を稼ぐよりも割がいいんじゃないか?」
「うっ・・・」
俺の説得(?)によりネクは納得できたのか口をつぐんだ。すると、
「いやぁ、それにしてもトウヤさんがあれだけ強いとは思いませんでしたよ。」
アズトが妙ににこにこしながら言った。
アリナが、
「そうね、ちょっと離れててよく見えなかったけど、それでも凄い速さで動いてた。何人も一撃で倒してたし。いきなりあの距離を跳んだときは一瞬何が起こったか分からなかったよ。」
と、言った。
俺はそこまで本気でやったわけでもないし驚かそうと思ってやったわけでもないのだが。とりあえず一件落着したからよかったんじゃないかな。
横でガルディアが苦虫を噛み潰したような顔をしているのはさておいて、
「まあ、さっさと行って片付けたほうが安全だと思ってやっただけなんで。それよりもリシナさんのほうが凄かっただろ?」
「師匠はねぇ。確かに凄いけど、もうその凄さに見慣れたっていうか・・・師匠なら間違いなく何とかしてくれるっていうか・・・特に驚くことでもないんだよね。」
そう誇らしげにリシナのほうを向きながら言った。
「私も大砲ぐらいなら何とかなると思ってましたからね、退魔術で。ただ、防いだあとはどうしようかと考えてなかったので助かりました。」
此方を微笑みながらリシナがそう言った。
「まあ、こいつらの処遇に関しては、降伏したんだしこのまま上陸して一緒に調査をしたあとで考えたらいいんじゃねえか?」
レンジがそう言うと、リクオが、
「そうですね。ただ単に割のいい仕事だと思ってたら雰囲気が怪しくなってきたんで、仲間は多いほうがいいですね。」
と言った。話を聞くうちに光の正体がいよいよ得体の知れないものに思えてきたのだろう。神獣って。
俺も神獣をどう調べればいいのかさっぱりだしな。
「ああ。此方は殺されても仕方ないぐらいのことをしたので、殺されないのなら勿論協力させてもらう。正直な話を言えば大幅な戦力増強になるのでとても助かる。
ただ・・・」
ガルディアが言いにくそうにしたので、
「なんだ?」
レンジが促すと
「島内を調査したあと、もしその光の正体がレヴィアタンだったら、我々を解放してくれないか?国に戻りどうしても報告しなくてはならない。
勿論相応の見返りは支払う。現在、我が国は大変押し迫った状況にある。平たく言えばいつ得体の知れない輩に襲撃されるか気が気ではないのだ・・・だからどうしても結果を報告する必要がある。」
「うーむ・・・どうするよ坊主?」
レンジが何故か俺に振った。坊主って。俺はそんなに子どもに見えるのか?
確かに、実際に降伏させてこの船に連れてきたのは俺だから分からなくはないが・・・しょうがないな。
「いいぞ、ガルディア。解放してやる」
「ほんとかっ!感謝する!」
「ただし、俺も連れていけ。他の大陸それも文明が進んだ大陸を見てみたい。」
「あ、ああそれは構わないが、あの最新式の船でも片道で約1週間かかるぞ。国でも用事を済ませるのに少なくとも10日ぐらいはかかるからこちらへ連れ帰るのは一ヶ月ぐらいはかかるぞ。いいのか?」
「ああ、構わない。」
「あたしも行くっ!相棒のあたしも忘れないでよね!」
急にネクが言い出した。相棒ってお前・・・この仕事が済んだら別行動しようと思ってたが、別に断る理由がないな。
「だそうだ。ガルディア、いいか?」
「大丈夫だ。」
「あのー、私も連れて行ってもらえませんか?それともう一人。」
今度はアズトが言い出した。ガルディアとミシルのほうを交互に見ながら。
「アズト?あんた仕事はいいのか?」
「いや、むしろ稼ぐために行きたいんですよっ!そもそも水の大陸まで行くにはカグツチにある最新式の蒸気船でも片道一ヶ月は早くてもかかりますからね。それに伴う費用が尋常じゃないのですよ。
ガルディアさん、あの速度と大きさの船なら少々の荷物は大丈夫ですよね?」
「ああ、人があと何十人か乗っても余裕がある。その点については問題ない。」
「じゃあ、よろしくお願いしますっ!」
旅費やら護衛費がかからずに莫大な費用を使わずにいける、とか言うアズトの声が聞こえてくるが、気にしないことにした。
ガルディアがミシルを見て
「その男もだな・・・全部で4人か。まあ、こちらとしては断われる立場でもないし、特に問題はないのだが・・・それとは違うちょっとした疑問というか謎というか・・・」
言うべきが言わざるべきかという風にガルディアが言い淀んでいたので、
「どうした、ガルディア?どういうことだ?」
聞いてみると、
「いや、な。その男、もしかしたら水の大陸の者ではないかと思ったのだが。」
と、ミシルを見ながら言う。
「何故だ?」
「うむ。先ほど言った水の大陸の国の1つウォルスの騎士があの男が持っているような大剣を好んで使っていたからな。ただウォルスはもうないし移動手段やウォルスの国交を考えてもこんなところに居るはずがないと思ってな・・・」
こいつは水の大陸から来たのか?と思ってミシルを見てみたが、
「・・・・・・」
ミシルは何も言わなかった。
「ま、まあそれはどちらでもいいじゃないですか?そんなことよりも時間が惜しいので早く島へ行きましょう!」
アズトが僅かに慌てたように言った。確かに早くしないと時間がもったいないな。夜になったら調査どころじゃないし。
皆が顔を見合せ頷き、
ガルディアが、
「お前ら島へ行くぞっ!!この船に付いてこいっ!!!」
自分の船へ叫んだ。
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あのガルディアという男、そう言えば何年か前に見たことがあるな。レヴィアスのウォルス担当の行商人のお供か何かだったか。先ほど黙っていたのは別に素性を知られたくないとかじゃなく、単に我が身に起こったことを説明できなかっただけだ。いや、できなかったというよりむしろ説明しても信じないだろうと思ったからだ。特に不都合はない。
それにしても神獣か・・・あの少女もその類のものだったのかもしれないな・・・
ミシェールはそこまで考え他の者と一緒に上陸の為の準備を始めた。
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そして、
俺達は漸く鬼ヶ島へ上陸した。総勢20人。
ガルディアの船には19人乗っていた。その内何故か未だに立てないやつが5人その看病で1人もう2人は船の管理、整備のために残した。つまり上陸したのはガルディアの船からは11人(銃はとっくに返している)、俺達は9人だ。
話してみて俺達を殺すよりは(無理だろうが)協力したほうが遥かに効率的だと考えたのだろう。皆協力には納得していた(俺のほうを見て若干怯えていたが)
そして、調査の効率を上げる為に班分けをした。
もし戦いになった際に強さや連携、親しさのバランスも考えた結果、
1班
俺、ネク、アズト、ミシルガルディア(この期に及んでないと思うが万が一の裏切りに備えて俺と一緒にした)
2班
リシナ、アリナ、ユリナ、ガルディアの仲間二人
3班
レンジ、リクオ、ガルディアの仲間三人
4班
ガルディアの仲間五人(1人は副団長とか言っていた)
以上の五人ずつ4つの班に分けて、東西南北へそれぞれ進むことにした。
再会は船があるここで3日後の予定。もしそれまでにもどれそうにない場合は合図を送る(火薬を利用した技術で狼煙という物をガルディアからもらった)ことにした。
さあ、行くか!
鬼が出るか神獣が出るか?楽しみでしょうがない。
探索者20人は4方向へそれぞれ歩き出した。