第101話〜合致〜
思えば遠くへ来たものだ・・・・・・いや、遠くと言うよりも遥かなる未来へ、か。
あの頃はただ無邪気に毎日を過ごすだけで、これといった目標も展望もなかったものだが、それはそうだろう。まだあの頃は年端もいかない幼児と言って差し支えないほど私は幼かったのだから。
そんな幼い私には近所の裏山を冒険するうちに共に行動をする者が出来た。その者は幼い私よりもまだ小さな体格でその出会った切っ掛けは・・・
「もう傷は癒えたのか?リル」
私が訊くとその大きな狼はさもおかしくことを聞いた、と言った風に目を細めた。
『当然だ。お前は何時の話をしている』
まぁ・・・照れくさいような嬉しいような、そんな感情から出てきた冗談だ。それを気に留めることもなく私はもっとも訊きたいことを訊いた。
「だが何故だ」
言葉少なに。だがそれでもかつての私の相棒はそれでも得心したのか、僅かに頷いた。
『お前が居なくなってから暫く経った・・・ある日のことだった』
私が居なくなってから、というのは私がこの時代に飛ばされたことを指している。突然居なくなったために何が起こったのかも分からなかったのだろう・・・
私はリルの話を聞きながら一人頷いた。
『・・・というわけだ』
「よく分からないが・・・それで特殊な力が身に付くものなのか?」
『さあ。おそらく、としか言えないな』
事実このように特殊な力を持っているところを見れば納得はできるが、それでもそんな、
「棘が刺さったぐらいで・・・?」
リルの話によればある日山の中で棘のようなものを踏んだらしい、その後に自身の生命力や体格が著しく成長していき、挙げ句の果てには魔力まで扱えるようになったのだとか。
・・・俄には信じられん話だが、
「相変わらずだな、リル・・・」
『・・・・・・』
呆れたように私が言うとリルはその大きな体格に似合わぬほど軽やかに首を竦めた。
そもそも私がリルと出会った切っ掛けというのも、こいつが猟師の仕掛けた罠に引っ掛かっていたのを助けたというものなのだ。どうも注意力が足りないというか・・・
「だが・・・腑に落ちんな」
棘、と言ったがそれはどういう類いのものなのか。私の記憶によればリルは何の変哲もない只の狼だった。しかし、あれから幾ばくかの月日を経たとしてもこのように巨大に、しかも魔力を持つに至るものだろうか、たかだか棘一つで?
・・・棘?
もしや・・・
「リル、その棘というのは・・・」
一つ考えられないこともない、私のその考えを裏付けるようにリルは大きな顔を頷かせた。
〜〜〜
じいさんの持つ刀を指しているその青年は、何故だか急に顔を歪めた。
『とは言ってもね!僕は剣士じゃないから刀を直接使うわけじゃないのさ!アハハハ!』
そして何か面白い冗談でも言ったかのように高らかに笑った。
「じゃあなんでだ?なんでお前は刀を欲しがる、そのクニツナを?」
使わないのなら要らないだろうに。
『分かってないね君は!そのあたりはまだまだ子供だね!その分だと周りの奴等の気持ちもまるで斟酌してないんだろうなあ!アハハハ!』
「なんだと?お前俺を馬鹿にしてるのか!」
『馬鹿に?ああ、これは失敬!君が余りにも無神経だから周知のことだとばかり思ってたよ!つまりは』
「おま、」
「どうでもいいわ」
『はっ?あれあれ!君は梨依奈クン、じゃあないね!』
文句を言ってやろうとしたら横から嘴を入れられた、デュカ・リーナに。
「・・・そうよ。私、達ははあのお婆さんに人生を狂わされた・・・」
『ふうん、そっかそっか!じゃあ君は元サヤに戻ったってわけだお姉さんと一緒に!』
・・・?
何の話だ?
「なっ?・・・貴方は何処まで知って!」
『んー?まあ大体のところかな!』
「だったら話は早いわね・・・あと、私は断片的だけどあのお婆さんの記憶も持ってるの」
『へえ!そうなのかい!それは興味深い実験結果だね!』
「実験・・・?っ!へらへらしちゃって!あのお婆さんがどんな想いで生き永らえてきたのか、」
『知ってるけどね!まあどうでもいいことさ!』
だから何の話だ?
横から口論相手をかっさらわれたみたいになり、黙って話を聴いているもののいまいち意味が分からない。
「あなたはっ!」
『おっとと!そう睨まれても僕は君とやり合う気はないよイルクン!それよりもそれが欲しいのさ!呉れないかなベヒーモスクン!』
『・・・生憎じゃが儂のものではないのでな』
「そうだぞ。大体お前はそれを手に入れて何しようってんだ?」
『何?今君はそう言ったのかい!』
「あ、ああ」
俺の問いにそれまで歪めて(笑って?)いた顔を正し、真剣な表情で俺を見るその青年デュカストテレスは考えを読ませない、その余りに急な平坦な表情に気圧されて俺は口ごもった。
『哀れなるは踊らされるものたち、か・・・まあいいさ!言っても君には理解出来ないだろうし!それに、』
『むおっ!』
「クニツナっ!」
じいさんの手を離れて宙に浮いている刀、クニツナは意志のある生き物のように切っ先を青年へと向けている。
『どうやら実を結んだみたいだ!要はオリハルコンなんかは必要ないのさ!ねえ、そうだろう!』
草薙クン!とあいつは急にこの場に居ない奴の名を叫んだ。
〜〜〜
・・・私は中から外を見ていた。
そのうちに見ているだけでなく自らの意思で動けるようになった、どのようなチカラが作用したのかは分からないが・・・
そして、私がかつてこの島に来た当初頭に聞こえてきた声・・・その声の主が形を持って目の前に現れた。その声に告げられた内容とは、鬼族を創造する上で欠かせないものであり、当時寂しさを紛らせたかった私にとっては・・・何としてでも鬼族(我が子)を創造したかった、そんな猛執に駆られていた私にはその声は神託、と言っても過言ではないほどのものだった・・・
そんな恩のあるその人物を目の前にした私はだが、皮肉なことに動ける状態ではなかった・・・
その人物が、禍々しい魔力の持ち主に徐々に追い込まれていく姿を見ているだけの私は、強く想った・・・かつてのように。
・・・かつての我が子に会いたいと願ったときのように。
すると、
▽▽▽
「させないわ!」
『っ!?この物体』
私はその禍々しい魔力の持ち主目掛けて突進した。
『ちっ!・・・人の造りし』
『この刀は!』
「その老人は私の恩人・・・何者かは分からないけれど容赦はしない!」
『・・・この声?刀が喋っておるのか?』
「ええ・・・私はかつてこの島で鬼族を創造した・・・」
『鬼族・・・?・・・強化生命体のことか!』
「そう・・・貴方の助言で何とか形を造れ」
『・・・物体諸とも止まるがいい!・・・邪眼、発動・・・!』
『「っ!?」』
報いるためにと力を振り絞ったものの、その相手はあまりに強力だった・・・
・・・結果、助力にすらならず、私の動きはその魔法によって止まったのだ・・・
△△△
だが、今。
『それさ!』
私を指している者は、恩人の手に握られている私を見ている者は、私にとっては忘れようもない者だ。
かつて私を唆し力を持たせた者・・・
『いやー!それにしても驚いた!』
その人物は何が嬉しいのか余程上機嫌だ。
「なにがだ?・・・この嘘つき」
『ええー!心外だなあ十夜クン!僕のどこが嘘つきだって言うんだい!』
そして、人の身でありながら・・・いや、人の身である筈のもう1人の者はその青年に対して臆することもなく話しかけていた。
「お前さっき何て言った?剣が使えないとか何とか」
『へっ?あ、ああ!そんなことか!君も意外に細かいところをツッコムね!しょうもな!』
「いや、俺がおかしいみたいになってるけど・・・そんなにおかしいことも言ってないだろ?だって今の剣捌きは」
『そこが細かいのさ!確かに難なく柄を握ったけど、そんなものはたしなみ程度なのさ僕にとっては!』
「いや・・・意味が分からないんだけど」
2人の会話は続く、私を青年が握りしめたままで・・・先程、身の危険を感じた私は青年に向かって突撃した、がその動きを見切られいとも容易く柄を握られた。そのまま今も動きを封じられている・・・何とか魔力を音声と動きに反映できたものの、これでは意味がない・・・
『そうだねえ!利用されているだけの可哀想なモルモットクン達にヒントぐらいはあげてもいいかな!』
「なに?どういうことなんだ?」
・・・確かに、青年の言っていることはまるで意味が分からない。
利用されている?とかモルモット、とはどういう意味なのか?
『うーん、そうだねえ!・・・君は知ってるかな、この刀の中には1人の女性が居ることを!』
「・・・ああ。デュカ・リーナだろ?何でそんな状態になったかは知らないけど」
『そうさ!だから驚いたのさ!この僕が!僕ですら!』
「・・・あのさ、お前は確かに色々不思議なことができるらしい、ってのは知ってるぞ。俺も離れた場所に飛ばされたしな!」
『ああ、そう言えば!アハハハ!どうだい?あの牛クンには会えたかな?』
「・・・つまりはタウラが居るから俺は鉄島に飛ばされたってわけか」
『うん!あれで気は済んだから、もうやらないさ!』
「・・・そうか、それは何よりだ。って、それよりもだ!いくらお前が色々なことができるっていっても何でそんなに偉そうなんだ?」
『ああ!それはそうだよ!僕は想像しうる大抵のことができるからね!ある2つのことを除いてだけどね!』
「なっ?・・・嘘だろ?」
『嘘じゃないさ!1つは昔からどうしてもできないこと、そしてもう1つは自分でやらないと決めたことさ!それ以外なら大抵何でもできるのさ!例えば創造、ものづくりとかね!』
「・・・?じゃあ、あの魔石って奴は」
『そう!僕デュカストテレスお手製のものさ!』
「そういうことか・・・じゃあ、そんなに何でもできるお前がなんでわざわざその刀を盗りにきたんだ、まるで狙いすましたみたいに?」
『そこだよ!いやー、君は中々に鋭いね!これこそ僕が求めたもの、そのための材料になるのさ!』
「材料に?日緋色金ってやつが使われてるからか?」
『いやオリハルコン自体はそうでもないのさ!中身が重要ってわけだ!こんなに確かに融合しているなん、て?』
滑らかに動いていた青年の急に舌が鈍った。その喉元に剣を当てられているために・・・
「・・・そのオニマルが重要ってのは何となく分かった。でもそれは知り合いのもんだから勝手に渡すわけにはいかないな」
『おやおや!君は隙が無くなったんだね!大したプレッシャーだね!』
「・・・そうだな。それに何かお前の希望を叶えるってのは何となく嫌だからな」『へえ!でも僕は、僕のやりたいようにやる!』
私を持つ青年は再びその顔をぐにゃりと歪めた。
そして周囲の空気が暖かくなり、
シャッ!
『OH!』
「逃がすかよ!」
元の温度へ戻った。
今のは・・・
『・・・どうやら君は完全に力を使いこなせるやうだ』
「ああ・・・お前を含め何人かがその魔法を使うからな。それを阻止しただけだけどな」
あの強き人間が転送の魔法の発動を感じとり、それに注入していた魔力の流れを切り裂いた、のだろう・・・あの人間はいつのまにそのような真似が?
「・・・それを置いていくなら見逃してやってもいいぞ?」
その人間、トウヤ・ヒノカは私を指差して言い放った。
『まあ、それでもいいんだけど!』
「じゃあ返せ」
そう言いながら私に手を伸ばそうと、
『だが断る!』
「なに?」
っ!?
・・・この魔力?
『だってさあ!』
「っ!!?・・・嘘、だろ?」
『君にそんな暇はないだろうっ!』
「ミシルッ!!」
・・・あの騎士が立ち上がり、此方を見ていた。
さながら幽鬼のように・・・
〜〜〜
目を覚ますと其処は荒れ果てた地だった・・・
目を覚ます・・・?
私は寝ていた、のだろうか?
・・・それにしては妙に身体が、
「ミシルッ!!」
・・・?
声が聞こえる・・・
この声は・・・
そちらを見ると、立っている者達が見えた。
・・・だが、あれ(・・)の姿は見えない。
・・・討たれた、か。
決して悲しいわけではない・・・だが、あれの力を利用できなくなったのは間違いないだろう。
私1人で・・・剣折れ・・・
ーーーり
・・・?
今の声、は?
・・・あちらのほうから聞こえてきたのか?
ーーー光
それにしてはやけに頭に響くような・・・
あちらで叫んでいる輩とはかなり離れているにも関わらず。
ーーー光の力を
・・・!
やはり気のせいではないらしい。この声は近くで聞こえている?
ーーー利用・・・しろ
「・・・誰、だ」
私の頭に直接話しかけてくるのは。
ーーー我が名は・・・
「・・・どこかで聞いた名かと思えば」
いいだろう・・・!
貴様の言うとおりにすれば奴を!
ーーー越える、かもしれぬ、我が肉体を封じしあの者を・・・
「勇者という輩、だったか・・・?」
その仇の名は。
「貴様の策略に乗ってやる・・・!」
ーーーセフィロト・・・生命の力・・・
「いくぞ!・・・バロール!」
黒き魔神が頭に巣くう、とはな・・・
・・・しかし。
当たり前の如くその事実を受け入れている自分が居る・・・
何故だろうか?
・・・考えるまでもない。
ーーーただひたすら勝つために・・・
・・・そう。私を突き動かすものはその想いだけだ!
・・・そしてバロールもまた、
ーーーアルス・・・我が追い求めし強者・・・