聴取①
静かな室内にイアンが紙をめくる音が響く。聴取開始にあたり、まずはパーティーメンバーの簡単な紹介をイアンから行うことになった。これはイアンが人事担当だからなのだろう。
「3等級パーティー、飛燕の燈火。リーダーの記載は特に無いが、3等級のクインティナがリーダーということでいいか?」
「はい。今は実質的に私がリーダーを務めています。」
「分かった。ではクインティナ、3等級。レーベン出身。カナメ、2等級。オークリー出身。エイミィ、1等級。ヤード出身。間違い無いな?」
イアンがこちらを見てくる。それぞれが頷き返す。
「では、まずは本題から入ろう。ディアス、よろしく。」
「あいよ。まずは状況のおさらいだ。摘発を行った時、現場からカシラことネロ、刺穿のアルベルト、鉄の魔法使いのビョルンが逃走。その逃走先で飛燕の燈火が鉢合わせて交戦状態になった。これで間違いないか?」
「はい。概ね間違いありません。付け加えるならば、訳も分からないうちに攻撃を仕掛けられ、逃げようとしたところを襲撃されました。」
クインティナが補足をすると、それに合わせて確認が行われる。
「最初に攻撃を仕掛けてきたのはビョルンだったな。」
「そうです。木の魔法で防ぎましたが、威力と連射力が凄かったです。削られていくのが魔力を通じて分かりました。」
「どんな魔法か分かるか?」
「たぶん鉄の弾です。直接見ることはできなかったので形は分かりませんが、長距離を飛ばすなら必然的にその形状になるかと思います。」
「なるほど。まぁあり得る話だな。で、木の壁で防ぎきれなくなってカナメが石の壁を作ったと。」
「そうですね。強度は僕の石の壁の方があるので。とりあえず逃げるために通りを塞ぐようにして作ったんですが、アルベルトが飛び越えてきました。それで僕とアルベルトの戦闘になったんです。」
「間には色々あったんだろうが、最終的にはアルベルトの剣を折ったんだよな。」
「はい。そしたら悪魔が出てきました。」
「悪魔が出てくる前に兆候はあったか?異変でもいい。」
「兆候……ですか。話し方が少しおかしくなったくらいですね。あとはプライドを傷つけられたのか物凄く怒りだして動きに精彩を欠いたくらいです。」
当時のことを思い返すがこれといった兆候は無かった。ただ、1つだけ異常なことがあったのを思い出す。
「そういえば、顔に一瞬だけ薬物の禁断症状のようなものが出ていました。」
「具体的に教えてもらってもいいか?」
「はい。目が充血してこめかみ辺りまで血管が浮き出たんです。これが前に見た禁断症状で死ぬ前の人の症状と同じでした。本人は違うと言っていましたが。」
「なるほど。その後、悪魔が出てきて魔法を放ったがお前の石の壁で防いだ、と。状況整理は以上だ。ここからはあの時教えてもらえなかったことを答えてもらうぞ。お前の剣のこと、エルシャールとの関係、悪魔の存在を知っていた理由だ。1週間前にも見たが、お前の剣術は明らかに誰かに師事していたものだ。」
ついに本題に入った。だがこれについてはおそらく一言で終わる。
「分かりました。僕の剣は父に教えてもらったものです。父は元8等級傭兵のハヤテです。」
これを聞いてモーガン、ディアス、イアンの3人は驚きの表情を浮かべる。そしてモーガンは全てを察したようだ。
「なるほど。ハヤテの息子なら悪魔を知っていても不思議ではない。エルシャールを知っていると聞いていたからヤツの関係者かと思ったが、もっと厄介な人物の息子だったわけか。エルシャールと知り合ったのは5年前だな?」
「はい。父に会いに来たと言って村に来た時に会いました。なぜそのことをご存じなんですか?」
「俺があいつらを村に派遣したんだから知っていて当然だろ?」
驚いているカナメを見てモーガンはニヤリとした。
目の前にいるモーガンはカミュらに言ってハヤテの周辺を確認させた張本人だった。ということは悪魔を探す側の人間だ。間違い無く信用できる相手だ。
「ハヤテの息子ということは、悪魔の話は5年前から知っていたのかな?」
「いえ、知ったのは今年です。カミュさんたちパーティーが行方不明になった話を聞いた時に教えてもらいました。」
「さすがに簡単には教えなかったか。この事は誰かに話したのか?」
「いえ。誰にも話していません。悪魔がどこに潜んでいるか分からかったので。」
「ふむ。賢明だな。」
ここでディアスが割って入る。
「すいません支部長、話の途中に。2人が話が見えなくて困っているようなので説明してやってもいいですか?」
横を見るとクインティナとエイミィが不安そうな顔でこちらを見ている。おそらく、ある程度状況が理解できているが確信を持てないでいるようだ。
「僕から説明します。2人とも、前に父さんの話をしたよな。あの時、敢えて悪魔関連の話だけ隠していたんだ。」
「それは今の話で分かったわ。でもお父さんの話と悪魔が結びつないのよ。」
「そうなんです。8等級の傭兵だったので知っていてもおかしくはないですけど、だからといってカナメさんに教えることはないと思うんです。」
「それがそうもいかなかったんだよ。まず、父さんが傭兵を引退したのは魔物に片目を潰されたからなんだけど、その魔物が5年前に悪魔だったことが分かったらしい。その悪魔が父さんを探してこの街の方に飛んでいったのが確認されたから、カミュさんたちが村に来たんだ。そして、カミュさんはそこから悪魔捜索の仕事をしている中で行方不明になった。だから悪魔が関与してる可能性が高い。」
「え?ということは、銀騎士を捜索するなら悪魔と戦う可能性があるってこと」
「そういうことです。」
クインティナの顔が明らかに青ざめている。軽く魔法を放っただけであれだけの被害が出たのを目の当たりにしたのだ。恐怖を感じてもおかしくはない。
「カナメはなんでカミュを探しているんだ?」
今の話を聞いていてディアスが疑問を感じたようだ。
「カミュさんは僕の魔法の師匠なんです。」
「お前、ハヤテの息子で、ハヤテから剣を習って、魔法はカミュから習うって贅沢すぎんだろ。」
「カミュさんとは2週間くらいしかいられなかったのでほぼ独学ですけどね。ちなみに、この剣はカミュさんに旅先から贈っていただきました。」
杖を手に取りテーブルの上に置く。ディアス以外は訝しげな目で見ているためディアスに視線を送る。ディアスは無言で頷いた。許可が下りたので杖に魔力を通して剣を抜く。
「なるほど。仕込み杖か。初めて会った時から見ていたのに気が付かなかった。」
イアンが納得したような顔でこちらを見ている。
「そうです。父とカミュさんの話では僕は魔法の才能の方があるという話でした。だから最初のうちは魔法使いとして過ごすことにしたんです。まぁその目論見も先週の一件で破綻しましたが。」
これに関しては事情を知っている者は苦笑いをするしかない。ただ1人、イアンだけが笑いをこらえていた。
「イアンさん。どうしたんですか?」
「いや、すまんね。実はきみたちに関しては少しばかり身辺調査をしていたんだが、ここ最近カナメくんに新しい二つ名、いや、あだ名かな?が付いたんだよ。」
「へぇ~どんなやつなんですか?ちょっと気になりますね。」
これにはクインティナとエイミィも食いついた。さすがにまだ不安そうではあるが、目の前の面白そうな話に興味を惹かれたようだ。
「カナメくんは最近『狂犬』と呼ばれているみたいだよ。」
「はい?」
横では2人が声を殺して笑っている。
「きみ、4等級のレオを容赦無く叩きのめした後にクインティナくんに謝っていたそうじゃないか。それが由来らしいぞ。」
「そんな……。」
もちろん、この名前は一時的なもので長続きはしないだろう。とはいえ、もう少しまともな名前をつけてもらいたかった。いつまでこう呼ばれ続けるのか。少し不安になってしまった。




