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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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聴取直前

 決闘騒ぎから1週間、カナメたちはギルド支部のロビーにいた。ギルド側から指定された通り、武器を持ってきている。

 ロビーには前日に雪が降ったこともあり雪かき依頼を受注するために集まった傭兵があふれている。外とは対照的に暑いくらいであった。

 時折、ロビーを歩く傭兵がカナメを見て驚いたような顔をすることがある。おそらくレオとの決闘を見ていた者なのだろう。誰彼構わず攻撃するような危険人物だと思われているのだろうか。まったくもって心外だ。

 だが、これはまだ良い方だ。あれからというもの、何を血迷ったか弟子入したいと言ってくる傭兵がいる。

 街を歩いていた時に突然声をかけられた。


「カナメ兄さん。俺を弟子にしてくれ。」

「……人違いだろ。俺にお前みたいなデカい弟はいない。」

「いやいや!人違いなわけがないだろ!その服、その杖、その名前。この特徴が全て一致する人物なんて他にいないって!」

「知らん!俺はそんな奴は知らん!」


 突然わけのわからない事を言い出した男に軽く恐怖を感じてその場から走って逃げた。さすがに毎日走り込んでいるカナメには追いつけなかったようであっさりと撒けた。だがしばらくはあの道を怖くて歩けなくなった。

 このことを2人に話したら笑われてしまった。クインティナに至っては腹が捩れるほど笑っていた。


「その人、きっとこれからもついてくるわよ。諦めて弟子にしたら?」


 クインティナが笑いをこらえながら言う。よく見ると目尻に涙が出ているじゃないか。そこまで笑うようなことかよ。


「もし弟子にしたらこのパーティーに入っちゃいますよ。」

「それは嫌ね。」


 急に笑顔を消して真面目な顔になった。どういう切り替え方をしているのだろうか。


「その方、なんでカナメさんの武器を知っているんでしょうか。この前持ってなかったですよね。」


 エイミィが思いついたように疑問を口にした。たしかにその通りである。薬草採取の仕事の時に杖は邪魔になると思って宿に置いてきていた。だからあの時は手ぶらだったのだ。それなのに奴は杖のことを知っていた。


「まさか、既にいろんなことを調べ上げているのか?ということは2人のことも?」

「やめてよ気持ち悪い。魔法使いと思われてるから適当に言っただけでしょ?」

「そ、そうですよ。私たちのことを調べても意味ないですし。」

「だよな。考えすぎだな。は、はは……。」


 そうは言ったものの、皆心のどこかで不安を拭い去れずしばらく黙ってしまった。

 さすがにこのような事は1回しかなかったが、衝撃は大きかった。今もあの時の男がロビーにいるんじゃないかと目で追ってしまう。


「ところでカナメくん。今日はアルベルトの件の聞き取りよね。なんで私たちまで来ることを条件にしたの?」


 クインティナが訊いてきた。おそらく、ずっと気になっていたのだろう。


「ここでは話せないですけど、僕らの活動方針に大きく関わる話があるからですよ。」

「そういえばこの前もそんな話をしてましたよね。後で話してくれるんですか?」

「もちろん。むしろ今日はそれが本題だと思ってるくらいだよ。」

「となると、私たちはほとんど話すことがないわけね。」

「たぶんそうじゃないですかね。ギルドが聞きたいことのほとんどはざっくり言うと僕の素性に関することみたいですから。」

「私たちには今さらな気がするんだけど。」

「えぇ。でも、全部は話していないので。今日はそこも含めて話しますよ。」

「ふ〜ん。私は『実は王都で遊びまくってました』って言われても信じるわよ。」

「なんでそんな話になるんです……。」

「カナメさん、あけぼの町で変な人たちと仲良くなりすぎなんですもん。」

「変な人とか言うなよ。優しいお爺さんじゃないか。ちょっと歯がなかったりお酒を飲んでる時間が長過ぎるだけで。」


 話が逸れたところでクインティナがギルドの受付にある時計を見る。ちょうどいい時間になっている。


「さ、バカなこと言ってないで。そろそろ時間よ。行くわよ。」


 あまりにも早すぎる切り替えにカナメは驚いてしまい小声で毒づく。


「自分が言い出したくせに。」

「なに?なにか言った?」

「エイミィ、なにか言ったか?」

「言ってないです。」

「そう?ならいいわ。受付に行ってくるわね。」


 クインティナは宿に届いた召喚状を持って受付に行く。ロビーに残った2人はクインティナを待つことにする。


「カナメさん、さっきのは卑怯です。」

「頭脳プレーと言ってくれ。」

「クインさんに言いますよ?」

「待って、言わないで。今度ご飯奢るから。」

「聞きましたよ。楽しみにしてますね。」


 エイミィがいたずらっぽく笑う。クインティナとは違うタイプだか、彼女も油断ならない相手だと感じる。


「カナメくん、エイミィちゃん。こっち来て。」


 クインティナに手招きされて後ろについていく。ギルド職員の女性を先頭に、ロビーにある階段から2階へ上る。この階段を上るのも数カ月ぶりなのだが、その時はこんなに大勢の傭兵から見られることはなかった。階下がざわついているように聞こえるのは意識しすぎだからだろうか。

 2階の一番奥の扉へ案内される。そこを開けると事務室となっており壁側の通路をまっすぐ進む。今までに無い展開で緊張が走る。

 突き当りの扉の前で職員の女性が立ち止まる。重厚な扉だ。そこに金色のプレートが貼られており、『支部長室』と書かれている。つまり、この街のギルドドップの部屋だ。3人の緊張は一気に跳ね上がった。こんな所に武装してはさ入ってもいいのだろうか。

 部屋に通されると、奥の机に白い髪を後ろで束ねた男性が座っている。書類に向き合って作業中のようだったが、手を止めてこちらを見る。


「きみたちが飛燕の燈火か。申し訳無いがもう少し待っていてくれないか。ディアスのやつがまだ来てないんだ。そこに座ってゆっくりしてくれたまえ。」


 再び支部長は手元に目を落とす。静かな空間に羽根ペンを走らせる音と紙のめくれる音が響く。

 3人は言われた通り机の前にある応接セットのソファーに、クインティナを真ん中にして腰をかける。程よい硬さのクッションで、滑らかな革からは革の匂いが漂ってくる。これだけで高級なのが伝わってきてゆっくりする気になれない。

 先ほどの女性が紅茶を淹れてきてくれた。落ち着かない状況ではあるが何か飲めば好転するかもしれないと思い紅茶を一口飲む。味が分からない。ただ熱いだけだ。

 横を見ると膝の上にとんがり帽子を置いたクインティナの持つ紅茶のカップは小刻みに震えており、エイミィは落ち着き無く周りを見ている。皆一様に緊張しているようだ。早く誰か来てこの静かな空間を変えてもらいたい。

 その願いが通じたのか、ドアがノックされた。返事も待たずに開いたドアの先にはディアスとイアンがいた。


「支部長悪い。待たせたか?」


 ディアスが申し訳なさそうにしている。

 支部長はちらりと机に置いてある時計を見た。


「いや、問題無い。時間通りだ。」


 そう言って立ち上がると応接セットの前まで歩いてきてソファーに深々と座った。それに続いてディアスとイアンが座る。


「カナメくん、久し振りだね。まさかこんなことで会うことになるとは思わなかったよ。」


 イアンがこちらの緊張を解すかのように話しかけてきた。


「そうですね。僕もまさかこんなことになるとは思いもしませんでした。普通に仕事をしていただけなんですけどね。」

「普通の傭兵は薬物の密売拠点の場所を聞いても確認には行かないよ。」


 その言葉には反論の余地が無い。たしかにあれはやりすぎたと思う。


「いや、まったくその通りですね……。ところで、イアンさんはなんでこちらに?てっきりエルマーさんがいらっしゃるのかと思っていました。」


 これに答えたのはディアスだった。


「警備隊には説明済みだからだろ。俺らが今から聞きたいことは警備隊とは違うからな。」


 それもそうか、と思う。なにせ事件とは直接関係無い話なのだから。


「それでは、そろそろいいかな?」


 支部長が口を開いた瞬間、空気が変わった。いつも豪快な雰囲気のあるディアスまでもが居住まいを正している。


「私は傭兵ギルド支部長のモーガンだ。よろしく。」


 支部長が名乗りが、聴取開始の合図となった。

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