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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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訓練場の決闘

 傭兵ギルド訓練場。支部と出張所の両方にあるが、支部の方が大きい。打ち込み用の木人や矢の練習をするスペースの他に演習場があり、その中で模擬戦を行うことができる。

 夕方の訓練場は人は多い。ただ、そのほとんどが訓練終わりで休憩していたり帰る準備をしていたりと実際に訓練をしている者は少ない。そのため、今も演習場には誰もいなかった。

 そこに1人の男が入っていった。くせ毛の金髪碧眼で革鎧を着ている。何やら妙に殺気立っている。その様子を見てその場にいた傭兵たちは、ここで決闘が始まることを理解した。

 傭兵は原則として傭兵同士の私闘を禁じられている。だが、例外として演習場での決闘は認められている。いや、正確には決闘を模擬戦と称してしまえば取り締まりようがないため、制度の抜け穴のようなものだ。それゆえに、しばしば傭兵同士の喧嘩の最終的な決着の場として使われることがある。

 当然カナメもこの原則を理解している。そのうえで、先ほどレオに対して路上で戦わないのかと聞いていたのだ。それもこれも合法的に排除するためだ。まんまと乗ってきたのはいいがすぐにフィリップに止められてしまった。フィリップの判断の早さにレオは助けられる形になっていたことに、レオ本人は気がついていただろうか。

 傭兵たちが演習場を見ていると、藍色の服を着た茶髪の男が入ってきた。防具など装着していない。手に持っていた外套を後ろにいる髪の短い女に渡している。服装を見る限り魔法使いのようだ。


「待たせたな。ちょっとフィリップさんに用事があって話していたんだ。」

「構わねぇよ。どうせその話も無駄になるんだからな。」

「そうだ。まだ名乗ってなかったな。飛燕の燈火のカナメだ。2等級。まだ傭兵になって8カ月ってところだ。」

「マジかよ。ど新人じゃねぇか。クインのやつ、どんだけ仲間が作れなかったんだよ。情けねぇなぁ。」

「お前、仮にも4等級だよな?クインさんと一緒にいて何も感じなかったのか?」

「あ?感じたさ。すげぇいい女だったからな。パーティーに入れて口説こうと思ったんだが、女のくせにあーでもないこーでもないとうるさいし、肝心の魔法は使い物にならねぇし。お荷物だったんだわ。お前はどうなんだ?どうせクインの見た目に釣られただけなんだろ?」

「お前と一緒にするなクズが。俺はクインさんを尊敬している。あの人のおかげで何度も命も拾った。あの人だから信用して戦える。そんなクインさんを侮辱するお前を許せない。」


 カナメの外套を持っているエイミィは演習場の外周で何度も大きく頷く。横を見るととんがり帽子のつばで顔は見えないが、鼻をすするような音が聞こえ、目のあたりに手を持っていっている。


「クインさん。私たちはあなたのことを信頼しています。私たちは絶対にあいつみたいなことをしません。」


 クインティナは無言で何度か頷いた。

 カナメの言葉を聞いたレオは険しい表情で話し始めた。


「ふん。所詮新人か。何も分かっちゃいねぇ。だが、お前にはそれが分かる日は永遠に来ねぇ。今日ここで引退することになるからな。」

「そっくりそのまま返すぜ。熨斗をつけてな。」

「減らず口を……。このまま話してても埒が明かねぇな。ルールの確認といこう。武器は剣のみ。魔法は禁止。どちらかが参ったと言うか戦闘不能になるまで続ける。そして負けた方が引退。これでいいか?」

「構わない。剣はそこの架台にある木剣でいいんだよな?」

「いいぞ。お前は剣を持ってないからな。そこは俺も合わせてやる。」


 2人はそれぞれに剣を選び始めた。

 そして、演習場での会話とルール説明を聞いた傭兵たちが仲間内で賭けを始めた。いくつものグループで賭けをしているが、大半はレオの勝利に賭けている。カナメに賭けているのはごく僅かだ。理由は単純だ。4等級と2等級、しかもど新人との戦いであること。カナメが魔法使いのようであるのに魔法禁止であることが挙げられる。カナメの勝利に賭けたのは同情票によるものだけだ。

 本人たちとは別の盛り上がりを見せる傭兵たちをエイミィが呆れて見ていると、賭けをしている集団の中にフィリップが混ざっているのを発見した。当然のようにカナメの勝利に賭けている。


「フィリップさん。何やってるんですかこんな所で。」

「え?あ、いや、エイミィくん、だっけ?せっかくだから俺も楽しもうと思って。」


 フィリップはひどく動揺し始めた。後ろめたいのならやらなければいいのにと思ってしまう。


「なんだ?お前もやるのか?」


 賭けの元締めのような傭兵がエイミィに聞いてくる。


「私はいいです。パーティーメンバーなので。」

「それはしょうがねぇな。身内なら賭けに参加できねぇからな。」

「そういうものなんですか?」

「当たりめぇだろ。身内なら仲間にしか賭けねぇんだからよ。」

「納得です。じゃあフィリップさんはどうなんですか?」

「あん?フィリップの旦那は彼らの仲間なんですかい?」

「俺は仲間じゃないさ。まぁカナメくんとは顔見知りくらいだな。戦っているのは見たことがない。」


 嘘はついていないが公平とは言えないなとエイミィは思う。たしかに、あの夜フィリップが来たのは悪魔が出てくる直前くらいからだ。そこからは大した戦闘も無かったし、フィリップからカナメは見えなかったと思う。ただ、戦っている様子は見たことが無いとはいえ、実際にアルベルトと戦ったフィリップはカナメの実力をよく知っている。その時点で賭けは成立していないようなものだ。


「なら構わねぇですぜ。フィリップの旦那がいなけりゃ賭けが成立しなかったから好都合だ。さぁ!他に賭ける奴はいねぇか!?魔法使いに賭ければ10倍だぞ!」


 演習場外周の喧騒を他所に2人は剣を持って2m程の距離で向き合っていた。レオはごく普通の木剣、カナメは少し長めの木剣を選んだ。


「ふん。少しでもリーチを長くして有利にしたつもりか?」

「いつも持っている杖と同じような長さじゃないと使いにくいだけだ。気にするな。」

「魔法使いの杖なんてあんなの飾りだろ?あれで攻撃してるやつなんか見たことねぇ。」

「いや、殴るぞ、普通に。」

「は?」

「いや、あんな硬いもの持ってて殴らないなんてもったいないだろ。」

「なるほど。それで多少は自信があるからこのルールをあっさり受け入れたのか。だとしたら軽率だったな。俺にそんな小細工は通用しないぞ。」

「そうだといいな。それじゃ、そろそろ始めるか?」


 カナメはそんなことを言いつつも片手に剣を持ったまま構えようとしない。


「なんだお前。構えないのか?」

「いや、あんたも構えてないから。」

「俺はいいんだよ。魔法使い相手に全力なんて可哀想だからな。」

「魔法使い不利のルールにしておいてよく言う。」

「当たり前だろ?お前が一方的にやられる所をクインに見せてやるつもりなんだからな。」

「何がしたくてそんなことをするのかサッパリ分からないけど、発想がクズだってことだけは分かった。」

「よし分かった。お前は死んだほうがマシだと思わせてやる。」


 レオが片手で剣を振り上げながら一歩踏み込む。それで十分届く距離なので問題ないと考えたのだろう。あまりにも舐めすぎている。振り上げて、振り下ろす。この動作を一歩の間に行おうとしている。遅い。遅すぎる。無駄しかない。カナメには攻撃しない方が難しいくらいの隙が見える。だが、敢えて攻撃しない。振り下ろされた剣を横に躱す。その時にわざと足を残す。レオは躱されたことに驚いて目でカナメを追ってしまい足元に気が向いていない。カナメの足に躓いて前のめりに転んでしまう。


「くっ――!今のは偶然転んだだけだ!」

「まだ何も言ってないけど?」


 地面に伏せながら喚くレオを見下ろしながら答える。わざと転ばされたことにも気がついていないようだ。

 レオは立ち上がって剣を構えた。


「ふっ。今のチャンスに攻撃しなかったのは失敗だったな。もう2度とこんな機会は来ないぞ。」


 レオは不適な笑みを浮かべているが、カナメには哀れに見えてしまいため息をついてしまった。

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