因縁
クインティナが意外にも富豪であり酒豪であったことを知ってから2日後。カナメたちは薬草採取の仕事を終えてギルド支部に戻ってきた。
今朝、集合場所に集まった時はクインティナがカナメに謝り、カナメもクインティナに謝り、そして2人からエイミィに謝りと気まずい雰囲気だった。だがそれも最初だけで、それ以降はいつも通りだった。そこで、東門を出た辺りでエイミィは気になっていることを訊いてみた。
「クインさん。一昨日、帰る前に『また来よう。』って言ってましたけど。本当ですか?」
「え!?そ、そんなこと言ったかなぁ?」
クインティナが斜め上を見て顔を赤くしながら否定している。完全にとぼけている。
「言ってましたよ。私、あの時お酒飲んでないのでよく憶えてます。」
「そ、そっか。聞かれちゃってたか。」
少し恥ずかしそうに俯いた。
「え?クインさんそんなこと言ってたんですか?じゃあ今度魚食べましょうよ。」
「それは絶対嫌。」
「何がそんなに気に入ったんですか?」
「そうねぇ。安くて美味しい料理があるからかしら。あと意外と親しみやすかったし。」
「そうですけど、あの辺治安悪いですよ?」
「そこよねぇ。昨日の人たちが特別かもしれないのよねぇ。まぁ1人で行くことはないから安心して。」
エイミィは少し心配ではあったが、それ以上の追求はやめることにした。あまり追求して自分が巻き込まれるのは嫌だし、カナメに変なスイッチが入るような気がしたからだ。
その後は何事も無かった。河原の草むらで薬草を採取し、雑談をしながら摘んでいった。時折、エイミィはカナメから薬草と雑草を間違えているという指摘をされたが、エイミィはまだ1等級なので間違えるのは仕方無い。教えてもらいつつ仕事をこなした。
昼過ぎにギルド支部に戻るとロビーや窓口に傭兵はいるが混んでいるというほどではなかった。目についた窓口で受注書と薬草の査定書を見せて完了報告を行った。
報酬を受け取った3人がギルドを出た所で、それは起こった。
「あれ?クインじゃん。変な格好してるヤツが薬草採取の達成報告してるかと思ったらお前だったのか。」
妙に馴れ馴れしい男がクインティナに話しかけた。ただ、あまり親しい感じではない。その証拠にクインティナの態度が硬い。
「レオ……。うるさいわね。関わらないでちょうだい。」
明らかに迷惑そうにしている。一体誰なんだあいつは。
「カナメさん。あの人、たぶんクインさんの前のパーティーメンバーです。この前、支部のロビーでクインさんに絡んでいるのを見ました。」
なるほど。たしかクインティナは前のパーティーを『魔法を馬鹿にされた』という理由でやめたと言っていた。ということはあいつがそうなのだろう。
「なんだお前。遂に仕事ができなくて1等級の仕事を受けるようになったのか?」
「そんなんじゃないわよ。もう関係無いんだからどっか行って。」
「そう邪険にするなよ。俺とお前の仲じゃないか。」
「そんなに仲良くなった記憶は無いわ。邪魔だからどいて。」
さすがに見るに耐えない。何がしたいんだ。クインティナに話しかける。
「クインさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫。行こ。」
「お?なんだお前。もしかしてパーティー組んだの?物好きだねぇこんなのと組むなんて。」
「 初めて会ったのに随分失礼な奴だな。こっちは用事があるから自分の用事を済ませに行ってくれないか?」
「あ、なるほど〜。そういうことか。」
レオはニヤニヤしながらこちらを見ている。何を言おうとしているか想像できる。不快な輩だ。行く手を遮るように目の前に回ってきた。
「お前、色仕掛けされたんだろ?そうじゃなきゃ組まないもんな。口うるさいだけの女となんて。」
分かってはいたが、かなり不愉快だ。だがここで感情的になってしまっては何を言われるか分かったものではない。それに今は周りに人がいる。先ほどから視線を感じる。無視をするしかない。
しかし1人だけ黙っていられない者がいた。
「クインさんはそんな人じゃありません!今すぐ取り消してください!」
エイミィが食ってかかった。クインティナを侮辱されて我慢の限界を超えてしまったようだ。
「あ?なんだ?お前もパーティーメンバーなのか。パーティー組む相手がいなくてこんなのにまで声をかけたのかよ。」
「クインさんへの侮辱を取り消してください!」
「エイミィ、やめとけ。馬鹿の相手をしてると馬鹿が移るぞ。」
「あ?てめぇいまなんて言った?」
「俺か?馬鹿の相手をしてると馬鹿が移ると言ったんだ。頭が悪いからよく理解できなかったのかな?」
「てめぇ……。ちょっと面貸せや。」
「何をする気だ?お前と違って忙しいんだが。」
「ビビってんのか?訓練場で揉んでやるよ。」
「ここじゃだめなのか?あ、そうか。頭が弱くても路上でやると捕まるかもしれないってことは分かるのか。意外とビビりなのな。」
「言わせておけば――!」
相当頭に来たのだろう。突然拳が飛んできた。ちょっと驚いたが余裕で躱す。
「遅。」
「訓練場と言わず今ここでのしてやってもいいんだぜ?」
余裕で躱されているのにその自信はどこから来るのか。やはり馬鹿なのではないだろうか。
「あれ?なんか騒がしいと思ったらカナメくんじゃん。こんな所で何やってんの?」
遠巻きに様子を見ていた野次馬の中から見知った顔が出てきた。
「あ、フィリップさん。先日はありがとうございました。」
「いいって。それで、これはどういう状況?」
フィリップがカナメとレオの顔を見る。レオがフィリップの顔を睨む。
「彼がクインさんに絡んできたのでエイミィが止めに入ったら興奮して殴りかかってきた感じです。」
「殴りかかってきたのは私を止めるふりしてカナメさんが煽ったからじゃないですか。」
「煽ってなんかいないさ。事実を伝えてあげていただけだよ。」
「何が事実だ!さっきから人をバカ呼ばわりしやがって!」
「いや、だって事実だろ。ずいぶん前にパーティーを抜けたクインさんに絡むって普通じゃないぞ。正常な判断ができない頭のおかしな人間にしかできない異常な考えだ。」
「こんのぉ……!」
「待て待て。カナメくん。わざと丁寧に言って煽るのはやめなさい。それときみ、すぐに手を出さない。で、そこのクインティナくんに絡んだっていうのは本当かい?」
「うるせぇな。話しかけただけだよ。そもそもおめぇ誰だよ。関係無いやつが口出してくんじゃねぇよ。」
「あ〜ごめんごめん。名乗ってなかったね。6等級のフィリップだ。縁あって彼らとは一緒に仕事をした仲だ。」
フィリップは胸元から傭兵タグを引き出してレオに見せた。
「6等級……。あ、俺は4等級のレオだ。」
「4等級?」
ここまで何も言わなかったクインティナが口を開いた。
「そうだよ。お前とは違って仕事ができるから昇級したんだよ。」
「バカみたい。私より傭兵歴が長いんだから当然じゃない。だからあなたは浅はかで思慮が足りないって言ってるのよ。」
「てめ、女のくせに!」
クインティナに対して手を上げようとするレオをフィリップが制止する。
どうやらクインティナが前のパーティーを抜けた原因は魔法を馬鹿にされたことだけではないようだ。この男の人格的な問題もありそうだ。
「やめないか、レオ。傭兵に男も女も無い。同じように命をかけているんだ。」
「ちっ。分かったよ。だが、こいつは許せねぇ。散々コケにしてくれたからな。」
レオはカナメを指差して怒りをぶつけてくる。
「だ、そうだが、カナメくん。どうする?」
「いや、どうすると言われましても。でもそうですね、条件次第ではレオの望む方法でお受けしますよ。」
「レオはどうだ?」
「どうするもこうするもあるか。最初に言ったように訓練場でボコボコにしてやるよ。」
「分かった。ルールはどうする?任せるよ。」
「魔法禁止で剣だけで勝負だ。」
「それで構わない。ただし、レオが負けた場合はもう2度とクインさんを侮辱するようなことを言わないと約束しろ。」
「いいぜ。代わりにお前が負けたら引退してもらう。」
「俺は問題無いが、それだと賭けるものが釣り合わないよな。レオがそれを要求するなら俺からもレオの引退を要求する。」
「しょうがねぇな。ま、俺が負けるわけないから構わねぇぜ。来な。訓練場に行くぞ。」
レオは1人でさっさとギルドの中に入っていった。
これを見てフィリップはため息をついた。
「まったく。一度攻撃を躱されているのに実力差が分からないなんて……。ここまで死なずにいられたのは奇跡だな。」
「あ、見てたんですね。」
「まぁね。きみたちがどうするのか見ていたんだ。でも思っていた以上にカナメくんが煽るもんだから驚いたよ。」
「最初は無視するつもりだったんですけどね。さすがに気分が悪すぎてつい……。」
「まぁ分かるけどさ。とりあえず、やりすぎないようにね。」
「どうでしょう。約束はできません。ところで、フィリップさんはなんでここにいたんですか?」
「この前の件でギルドからの呼び出しさ。ディアスさんが復帰したから、きみたちもそろそろ呼ばれると思うよ。」
「分かりました。それじゃ、ちょっと行ってきます。」
「乗りかかった船だ。俺もついて行って横で見てるよ。」
フィリップは用事が終わった直後のため時間があるようだ。訓練場まで行くということなのでカナメと話しながらギルドの中へと入っていった。その後ろから怒った様子のエイミィと呆れ顔のクインティナがついて行った。




