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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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巡回依頼終了と打ち上げ

「飛燕の燈火の皆さん、巡回依頼お疲れ様でした。いろいろあったみたいですが、無事完了できたようで良かったです。」


 3人は今、傭兵ギルド出張所に来ている。最後の巡回の仕事を終え、その足で完了報告を行ったところだ。

 摘発現場から逃れてきたアルベルトと戦ったのが昨日のこと。あのあと、持ち場の撤収を行って通行止めの看板を詰所に持っていったらエルマーに捕まって話を聞かれた。カナメは可能な限り答えることにしたが、ディアスが質問してきたことと同じ内容に関してだけは後日ギルドを交えて話すということにさせてもらった。

 その日は戦闘後ということを考慮して休ませてもらえたが、残っていた最終日の依頼は通常通り行うことになった。

 最終日は特にこれといった問題は起こらなかった。薬物密売の組織がなくなったから禁断症状の出た中毒者がいるかと思ったのだが、そのようなことはなかった。どうやら他にも密売組織があるようで、売っている場所が変わったという程度の影響しかなかったようだ。この街の闇の根深さを感じてしまう。

 とはいえ、これで依頼は完遂した。無事に報酬が貰えるはずだ。ディアスからは調査の関係があるのでしばらくは長期依頼を受けないよう言われている。呼び出しが来るまでは単発で日銭を稼ぐくらいしかできないようだ。しばらくは休みたいからちょうど良かったのかもしれない。最近は街の中で荒っぽいことが多かったから気分転換に薬草でも採取しに行こうかとも思う。


「そういえば、今日はディアスさんはいらっしゃらないんですか?」


 報酬を受け取ったクインティナが受付の女性に訊いている。たしかに奥の方に姿が見えない。それに、あれから何日も経っていないのだ。いたら声をかけてきそうなものだ。


「ディアスは今日は休みです。もしかしたらしばらく休むかもしれません。」

「何かあったんですか?」

「徹夜した状態で夜中に外で仕事をしていたんです。昨日報告書を作っている時から苦しそうだったんですが、やはり熱が出ていたみたいで。」

「なるほど。風邪を引いてしまったんですね。そういえばカナメくんもあんなに寒い寒い言っていたのに風邪引いてないわね。」

「僕はずっと動いてましたし徹夜なんてしてないですからね。」

「それもそうね。じゃあ、ディアスさんが出てこられたらよろしくお伝えくださいね。」

「分かりました。伝えておきますね。」


 報酬を受け取り窓口を離れる。早朝のため出張所内に人は少ない。そこで、ロビーの一角にある机で報酬の分配を済ませ、今後の予定について話し合う。


「ギルドからの呼び出しがあるから長期依頼が受けられないのよね。しかもディアスさんがしばらく出てこられなさそうだから呼び出しはしばらく先になりそうね。そうなるともう年末よ。」

「そうですね。単発の討伐依頼とかなら受けられそうですが。」

「私はとりあえず人が少ない仕事がいいです。普通じゃない人ばかり相手にしていて疲れちゃいました。」

「言えてるわね。」

「僕もちょうどそう思っていたところです。その辺で討伐します?それとも薬草でも取りながらのんびりします?」

「薬草取りながらのんびりするのいいですね。お弁当でも持っていきましょう!」

「あのね、薬草の生えてる場所なんていろんな傭兵がいるのよ?そんな所で暢気にお弁当なんて食べていたら何言われるか分かったものじゃないわ。それならいっそ南門の外で兎狩りしていたほうがいいわ。」


 意見が割れた。でも、たしかにエイミィの言うように弁当を食べ始めたら白い目で見られそうではある。クインティナの言うことはもっともだ。気になっていることもあるので薬草採りは諦めたほうがいいかもしれない。


「たしかにそっちの方がお金がいいですよねぇ。ポーションの支払いもあるし。」

「あれは飛燕の燈火からとして私がもう払ったわ。だからあとは2人から貰えばそれで終わり。」

「ありがとうございます!クインさんってそんなにお金持っていたんですね。」

「まぁね。私は装備にお金かからないから。」

「僕からはしばらく待ってください。この前話した通り金欠気味なので。」

「私も待ってもらいたいです。」

「大丈夫よ。まだ余裕あるから。」


 予想外のクインティナの富豪っぷりに驚いてしまう。たしかにクインティナは大した怪我もなく装備の更新も無い。出会ってから今までの間で購入した装備品はとんがり帽子くらいなものだ。毒消しの薬を買ったとは言っていたがそんなものはいくらでもない。


「そうなると、そこまで急いで工面する必要は無いわけですね。本当にありがとうございます。」

「いいのよ。パーティーのためだもの。それで、どうしましょうか。」

「そうですね。僕としてはあまり危険の無い仕事がしたいですね。南門から出るなら兎狩り程度でいいです。」

「私はなんでもいいですが、ギルドの件があるので怪我の心配が無い仕事がいいです。」

「なるほどね。じゃあとりあえず明日は休みにして、明後日は薬草採りでもして気持ちを変えましょうか。」


 簡単な方針が決まったところで出張所を出る。朝日が眩しい。朝靄で街が霞んでいる。


「さて、これからどうする?軽く打ち上げでもする?」

「いいですね!私お腹空いてたんです!でも、花橋の方のお店はまだ開いてないんじゃないですか?」

「あ、それなら僕が良い所を知ってますよ。行ってみます?」

「カナメさんのおすすめですか!?行ってみたいです!」

「たしかに気になるわね。案内してもらっていい?」

「分かりました。いつか2人を連れて行ってみたいとは思っていましたが、こんなに早く行けるとは思いませんでしたよ。」

「なんか、嫌な予感がするわ。」

「大丈夫です。きっとすぐに気にならなくなりますよ。」


 元気に歩き出すカナメに、クインティナは一抹の不安を感じながらついていく。エイミィは気にしていないようだが、妙に早足なのも気になる。普段は歩速を合わせているのに。向かっている方向も西側だ。

 かくして、クインティナは嫌な想像をする自分と、それを否定する自分とで内なる戦いを繰り広げていたが、嫌な想像が勝ってしまった。カナメは意気揚々と小汚い飲み屋街へと足を踏み込んでいった。


「クインさん。ここって、カナメさんがお腹を壊した毒魚の出た所ですよね。」

「そうだと思うわ。何考えてるのかしら、あいつ。」


 あけぼの町を前に、女2人は完全に足が止まっている。今からここに自分たちが入るのかと、さっき嫌がっていたような人たちが多くいる場所になぜ行かなくてはならないのかと思う。だが、目の前で楽しそうにしているカナメに対してそれを言えるかというと、そんなわけも無い。一体何が彼をここまで虜にしてしまったのか。不思議でならない。


「カナメくん、どういうこと?なんでここに連れてきたの?」


 不快感をあらわに問い質す。


「いえ、たいした理由は無いです。ただ、この街のこういう側面に触れておいて損はないかなと思いまして。それに、ここで話したおじいさんの話がきっかけで昨日のことが起こったんです。巡回依頼の締めとしてはちょうどいいじゃないですか。」

「分からなくはないけど、女連れで来る場所ではないでしょ。」

「気にしない気にしない。ここのご飯、意外と美味しいんですよ。」

「でもカナメさん、お腹壊しましたよね。」

「う……。大丈夫。あれを食べなければいいだけだから。」


 都合の悪いことを言われたからかカナメは再び歩き出した。こうなっては今さら抗議をしたところで変わらないと思いおとなしくついていく。すると、カナメが誰かに呼ばれた。


「おーい!兄ちゃん!また来たのか!今日は早いな!」

「あ、またお会いしましたね。この前は色々教えていただきありがとうございました。それにしても、いつも飲んでるんですか?」

「馬鹿言っちゃいけねぇ。俺は今飲み始めたところなんだよ。なぁ兄弟。」

「兄弟じゃねぇって。そうだな。日が昇る頃からだからまだそんなに時間は経ってないな。」

「いやいや、もう1時間以上経ってるじゃないですか。」


 どうやら、この前カナメに情報を教えてくれた人のようだ。隣の席に座って話し始めた。


「なに、これ。なんでこんな親しげなの?」

「こうやって情報を教えてもらったんですね。真似できそうにないです。」

「真似しなくていいわよ。でもカナメくんって本当に辺境の村育ち?怪しくなってきたわ。」


 2人で遠巻きに話しているとカナメと話していた酔っぱらいに気が付かれた。


「おぅ?嬢ちゃんたち、この兄ちゃんの連れかい?こっち来て一緒に飲まねぇか?」


 よりにもよって誘われた。カナメに止める気配はない。クインティナは腹を括った。


「エイミィちゃん、行くわよ。こうなったらやってやろうじゃないの。」

「え?クインさん?」


 戸惑うエイミィを他所に、作り出した満面の笑顔を張り付けて輪の中に入っていった。

 この後、クインティナはカナメを酔い潰して上機嫌で帰っていった。カナメを介抱することになったエイミィには甚だ迷惑なことであったが、帰る前にポツリと呟いた一言には耳を疑った。


「また来よう。」


 クインティナはこの飲み屋街を大いに気に入ってしまった様子だった。

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