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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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悪魔

 暗い夜道を男たちが走る。緑風の誓いの5人、ディアス、森の恵の4人、警備隊の5人だ。彼らは今、摘発現場から逃走した3人を追っている。逃げた方向はなんとなく分かっている。3人のうちの1人である『カシラ』は足を怪我して引き摺っている。そのため、地面には少しだけ跡が残っていた。その方向に逃げただろうと思われた。

 それを根拠に移動を始めた。だが相手は刺穿のアルベルトと鉄の魔法の使い手だ。人数が多ければ被害が拡大される。故に追跡メンバーを限定した。本来なら戦力的に傭兵だけで対処するところだ。だが、警備隊主導の現場に警備隊員を連れて行かないわけにはいかないので、怪我の影響の残る黒猟犬の代わりに警備隊の管理者級を連れてくることになった。

 とはいえ、端から捕まえられるとは思っていない。カシラ以外の2人を警戒区域から追い出せればそれでいい。その時にカシラも逃げてしまうのはやむを得ない。今は目標を達成した状態だ。これ以上を求めて被害を拡大させるわけにはいかないのだ。


「ディアスさん、しっかりしてください。先に行っちゃいますよ。」

「フィリップ……。お前ら現役と、同じにするんじゃ……ない。こっちは、引退して長いん……だからな。」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。早く行かないと、たぶんあの新人がやられますよ。」

「そうだけどよ。徹夜してる人間を……走らせるのは……どうかと思うぜ。」


 フィリップはディアスの横を走りながらハッパをかける。ディアスは最後方で息も絶え絶えになりながらなんとかついてきていた。


「フィリップ!石の壁で通りが塞がれてる!どうする!?」


 前を走っているジョンがフィリップに指示を仰いできた。前方を見ると人の背丈よりは高いくらいの壁が見える。誰が何のために作ったものなのか。鉄の魔法を使うビョルンという男の仕業ではないだろう。ビョルンならば何枚もの板を組み合わせたような壁は作らないはずだ。となると、ここを封鎖していた者が作った可能性が高い。


「この壁は、警備隊の報告にあった物にそっくりだな。昨夜刺穿とやり合った新人がこれと似たようなものを作ったらしい。」

「ということは、彼がこれを作ったのか。それほど追い詰められた状況だったんだな。逃げ切れたのだろうか。」


 耳を澄ますと壁の向こう側から声が聞こえる。金属のぶつかり合う音も聞こえる。


「まずい。戦っています!壁を乗り越えるぞ!」


 フィリップとディアスが壁の上部に手をかけてよじ登る。壁の上に顔を出して下を見たとき、2人は目を疑った。アルベルトの剣が折られた瞬間だった。


「なんだ……あいつ。」

「刺穿の剣を折りやがったぞ。」

「とにかく、これは好機ですね。早く行きましょう。」

「待て。刺穿の様子が何かおかしい。」

「何かって、様子がおかしいなら助けましょうよ。」

「静かに。何か言っている。」


 たしかに何か話しているようではある。

 アルベルトは折られたエストックを見ながらカナメに話しかけていた。


「おいおい、やってくれたなぁ。俺の愛剣へし折ってくれやがって。真っ二つじゃねぇか。」


 今までのような余裕が見えない。エストックの先端が揺れている。米噛みの辺りがピクピクと震えている。相当頭にきたようだ。


「悪かったな。だが、そんなに大事なものならしまっておけば良かったんだ。」

「ああ"?てめぇ言わせておけば好き放題言いやがって。その減らず口をきけなくしてやろうか。」

「来るなら来い。エルシャールさんのことを聞かせてもらわないとな。」


 カナメは剣を構える。アルベルトが想像以上に怒りを露わにしているため飛び込むようなことはしない。何をしてくるか分からないからだ。


「その態度、気に食わねぇナ。俺の突きで摩り下ろしてヤルヨ!」


 折れたエストックで突きを繰り出してくるが、明らかに精彩を欠いている。今までとは動きが違う。それに様子がおかしい。ただ怒っているだけではなさそうだ。

 余裕を持って回避し、違和感の正体を探る。


「そんな突きじゃ当たらねぇよ。力み過ぎなんじゃないか?」

「黙れだまれダマレ!この剣は俺ノ誇りダ!これを折ったヤツはユルサナイ!」


 目を血走らせて顔に血管が浮き出てきた。この顔、見たことがある。


「嘘だろ?お前、中毒者、なのか?」

「ぐっ――!うぅ……違う。これはソンナンジャナイ。」


 顔を押さえて蹲る。指の隙間から見える顔からは浮き出た血管が引いていくのが見える。


「そんなんじゃないって、どう見ても中毒症状じゃないか。だから早く決着をつけたがっていたのか。」

「違う!ソレハ関係ナイ!」


 アルベルトは立ち上がって顔をこちらに向けた。それを見た誰もが声を失った。顔の半分近くが黒くなっている。ただ、その境界線は今もじわりじわりと黒い部分が侵食していっている。


「お前、それは一体……。」

「くくく。やっと私の出番か。こんな小僧1人にはしゃぎおって。まぁ面白い玩具ではあったか。」


 声が変わった。酷く耳障りな声だ。


「アルベルト、なんなんだそれは。何を言っているんだ?」

「私はアルベルトではない。フェリックスだ。」

「は?何を冗談を、ってそういうわけでもなさそうだな。それで、フェリックスとやら。お前は一体なんだ?アルベルトはどうしたんだ?」

「質問の多い奴だ。まぁいい。アルベルトは今寝てるよ。そして私は『選定の円卓』が1人、享楽のフェリックス。君たちに分かりやすく言うと、悪魔だ。」


 悪魔。父が傭兵を引退することとなった原因。カミュが行方不明となった原因の可能性がある存在。それと同一の存在が向こうから現れた。これ以上幸運なことはない。思わず笑みが溢れる。

 だがカナメ以外は違う。ある者はその耳を疑い、ある者は絶望的な存在が現れたと認識する。


「え?悪魔?悪魔ってあの伝承に出てくる悪魔?」

「でも悪魔が入ってこないように街の門を閉めてるんですよね?」

「そうよね。もしかして、薬の副作用?幻覚とか思い込みの類かしら。」


 クインティナとエイミィは前者だ。突然何を言い出したのか理解できていない。未だに薬の影響ではないかと思ってしまう。


「マズイな。刺穿はこんなのに取り憑かれていたのか。」

「ディアスさん、どうしたんですか血相を変えて。悪魔なんかいるわけないじゃないですか。」

「おい新人。あとは俺らがやる。お前は下がってな。」


 ディアスはアルベルト、いや、フェリックスなる者が悪魔を自称したことで血相を変えて壁から飛び降りカナメの元に駆け寄り拳を構えた。フィリップはわけも分からずついてきただけだ。後ろからは他の傭兵もついてきた。


「お断りします。相手が悪魔なら、確認しないといけないことがあります。邪魔をしないでください。」

「なんだお前ぇ、悪魔の存在を信じてるのかよ。」

「悪魔と戦った人を知っていますので。」

「なら話が早い。さっさと逃げな。足手まといだ。」

「無理です。ディアスさんがどれだけ強いか知りませんが、現役の8等級や9等級には及ばないですよね?なら、勝ち目は無いです。」

「はっ!相手の実力まで分かってんのかよ!……じゃなおさら消えな。命を懸けて逃してやるって言ってんだ。最期に花持たせてくれよ。」

「そんな必要はないです。元々アルベルトは時間稼ぎだったんです。悪魔になったからって役割が変わったわけではないと思います。」

「悪魔がアルベルトの約束を守ると?馬鹿言っちゃいけねぇ。」


 2人の相談を聞いたフェリックスは笑みを浮かべている。


「ふふっ。この場を早く離脱することは私にとっても重要なんだよ。なんせカシラから指示されちゃってるからね。とりあえず一気に片付けさせてもらうよ。」


 フェリックスは掌をこちらに向ける。手に魔力が集まるのが見える。だがアルベルトは魔力を硬化させる魔法の使い手だった。魔法が飛んでくることは無い。

 いや、本当にそうなのか?今は悪魔のフェリックスだ。今こちらに向いている手も黒くなっている。嫌な予感がする。剣に魔力を流して何が来ても対応できるようにする。

 フェリックスの手がまばゆく光る。そしてしばらくすると逆に光が収まっていく。この魔法、似たようなものを見たことがある。


「これは――!ヤバい!全員伏せろ!」


 カナメはその場にいる人に聞こえるように叫ぶ。

 だが誰も反応しない。遠くにいるクインティナとエイミィしか伏せていない。近くの者からは何を言っているのかと変な目で見られる。


「遅い。」


 フェリックスの手から光の球が射出された。やはり見たことのある球だ。このままでは全員死んでしまう。

 剣を石畳に突き立てて魔力を解放する。


「石壁!」


 光の球の射線上に普段より分厚くした石壁を作る。壁が下から出てくるが、光の球も物凄い速度で迫ってくる。その球が壁に隠れて見えなくなった瞬間、爆音とともに石壁が砕かれた。飛び散った石が散弾のように襲いかかり、カナメたちに打ちつける。

 咄嗟に頭をガードするが、その代わりに腕がやられた。片腕の肘から下が動かない。

 周りを見るとディアスは籠手で防いだため手や頭は無事だが足を負傷している。フィリップもガードしたようだが剣を持つ手から骨が見えている。その後ろの者たちはたいした傷はないようだ。


「なるほど。お前、面白いな。アルベルトがはしゃぐだけはある。よくこの魔法が分かったな。」

「似たような魔法を知ってるんでね。直撃したら死ぬってすぐ分かったよ。」

「ほう?人間でこの魔法を使うものがいると?興味深いな。ぜひ紹介してもらえないかな。」

「お断りだ馬鹿野郎。」

「そうか。残念だ。では――。ぐ、貴様、邪魔をするな!」


 フェリックスは話している途中で突然頭を押さえて苦しみ始めた。顔の黒い部分が減っていっている。手も指先から白くなり始めた。


「ぐぅ……!おのれ、なんて精神力だ。仕方無い。今は引いてやろう。」


 フェリックスの顔から完全に黒い部分が消えた。膝をついて肩で息をしている。


「はあ……はぁ……。悪かったな。相棒が失礼した。」

「アルベルトなのか?」

「あぁ。今はな。」

「なんだったんだあいつは?」

「教えてやる義理は無いね。とにかく、今ので消耗しすぎた。逃げさせてもらうよ。カナメっていったか。またどこかで会おう。」

「待て!お前には聞きたいことが山ほどある!」

「それはまた今度ね。遊んでくれたらその礼に教えてあげるよ。」


 そう言うと通りを走り去っていった。

 魔法使い風の男が追いかけようとしたが、これをディアスが引き止めた。いくら手負いとはいえ、あんな奴を追いかけたら犠牲が増えるという判断のもとだ。英断だと思う。

 それにしても、アルベルトからは聞くべきことが多すぎる。こらからは目標の中にアルベルトの捜索も入れなければならない。そんなことを考えながら、石畳の上に座りこんでしまった。

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