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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
プロローグ
9/63

魔法の訓練②

 カナメは昨夜教えてもらったことを思い出しながら、魔力を見えるようにした。昼前の光の中だというのに手を覆う魔力の光がよく見える。昨夜よりも光が強くなったような気がするほどだ。


「カミュさん、できました。ここからどうするんですか?」


 カミュはカナメの手を見ながら少し驚いているようだったが、我に返り質問に答えた。


「その状態にしたら、魔力が硬くなることをイメージしてみて。魔法はイメージが大切だから。」


 なるほど。イメージが大切なのか。そういえば昨日も魔力を見えなくするときに『光が消えるのをイメージしろ』と言われた。

 今回も硬い物をイメージすればいいのだろうか。硬い物⋯⋯。さっきまで振っていた木剣のような硬さをイメージして意識してみる。

 しばらく目を閉じて意識を集中させていると、カミュから声がかかった。


「カナメくん、一旦中断しよう。」


 声をかけられて目を開けると、心配そうにカミュがこちらを見ていた。何かやらかしたのか?


「ちょっと手を触らせてね。」


 そう言うとカミュはカナメの手を取った。魔力の光はカミュの手を素通りさせている。硬くさせることには失敗しているようだ。


「そうか。硬くはできなかったか。まぁ初日だし仕方ないか。」


 カミュは少し残念そうにしている。しかしなぜ中断したのかが分からない。


「そうですか。やっぱり難しいですね。ところで、なんで中断したんですか?」

「それはね、きみが急に汗をかき始めたからだよ。実はきみは目を閉じたまま10分くらい動かなかったんだ。魔法の訓練だからそういうこともあるんだけど、声をかけるちょっと前に急に汗をかき始めたんだ。これは魔力を使った時の疲れとかで出る症状なんだ。だから声をかけさせてもらった。」


 そう言われて額を触ると手が濡れた。物凄い汗をかいている。少し驚いてしまった。


「とりあえず、水でも飲んで一旦休憩しよう。」


 この提案には頷くしかなかった。さすがにこの状況で拒否はできない。


「ちょうどいいから魔力の使いすぎについて説明しようか。」


 休憩時間を利用して再び講義が開始される。休憩時間とは一体なんなのか。


「今きみがなっている症状は、さっきも言ったけど魔力の使いすぎによる疲れが原因だ。一般的に魔力疲労と言われている。今は魔力を見えるようにしているだけで疲れてしまうけど、慣れてくるとその程度じゃ疲れなくなるよ。体に纏う魔法を使う人によく見られる症状だ。もちろん物を作り出す魔法を使う人もなる。主な症状は急な発汗、急な眠気、急な息切れ、激しい頭痛等。これを無視して使い続けると気を失う。死にはしないけど、戦闘中にこれをやったら確実に殺されるね。

 これとは別に魔力切れという症状がある。魔力を失いすぎてなるやつだ。魔力を失う理由は2つ。体に纏った魔力が衝撃によって飛び散ってしまったり、魔力で物を調べたり作り出した時に失われる。だから物を作り出す魔法を使う人がなりやすい。主な症状は軽いものから急な目眩、嘔吐、一時的な視力の低下、全身の脱力、意識の喪失等。最悪の場合死に至る。

 どちらも魔法を使う者として最も注意しないといけない症状だ。」


 たしかにそのとおりだ。どちらも戦闘中に陥ったら足手まといにしかならない。


「それは危険ですね。ということは、自分の限界を知ることと、魔力を使うための体力や魔力量の底上げが重要になりますね。」

「そのとおりだ。体力や魔力量の限界については魔法を使っていくうちになんとなく分かるようになるから、敢えて訓練する必要はない。でも体力や魔力量は訓練しないと増えない。そしてその訓練法がかなりキツイ。正直勧めたくない。」


 カミュが物凄く嫌がっているのが分かる。恐らく自分も通ってきた道で、相当辛かったのだろう。だが、体力も魔力量もなければ訓練もままならない。


「カミュさん、教えてください、その方法。どんなに辛くても耐えてみせます。」


 これを聞いた瞬間、カミュがニヤリと不敵に笑った。何やら策に嵌ってしまったような気がする。


「そうか、カナメくん!やってくれるか!きみは凄いな!」


 大袈裟に感動しているように見せる。それはいいから訓練の内容を教えてもらいたい。


「あの⋯⋯どんな訓練なんですか?」


 恐る恐る訊いてみた。


「あぁごめん。まだ言ってなかったね。体力と魔力量を上げる方法は簡単だよ。魔力疲労と魔力切れ、これを起こすことだ。少し大変だと思うけど大丈夫。ちゃんと見ていてあげるから。」


 先程の軽はずみな発言を後悔した。これは文字通り吐くまで訓練をする、気を失うまで訓練をする、死ぬまで訓練をすると言っているのだ。正気の沙汰ではない。


「そ、それは、大丈夫なのでしょうか?」


 カナメは顔を引き攣らせながら確認する。


「大丈夫大丈夫。死なないラインは分かってるから。」


 そういうことを聞きたいんじゃないんだと思うが、諦めるしかなかった。


「よし!じゃあ休憩終わり!次は物を作り出す魔法の訓練だ!ほら、カナメくん!元気だしていこう!」


 カミュは、明らかにテンションが下がって俯きながら歩き始めたカナメにわざとらしく明るく声をかける。正直ウザい。


「今の僕の気持ちを考えるなら、その明るさは逆効果ですよ。」


 俯きながら抗議の気持ちを伝え、精一杯の抵抗をした。だがカミュは意に介さず説明に移った。


「まずは魔力を見えるようにしたら、この石を持ってみて。それに魔力を通してみるんだ。」


 カミュは庭に落ちている石ころを拾ってカナメに渡した。こうなってしまったら諦めるしかない。気持ちを切り替えて訓練を始める。


「石に魔力を通すって、どうやればいいんですか?」


 魔力を見えるようにしたカナメは掌に石を持ちながらやり方の説明を求める。


「そうだね、これもまたイメージだよ。石を割ったことはある?」

「はい。石を岩に当てて割ったりしてました。」

「それじゃ、まずは手に持っている石の表面を魔力で触って、魔力で石を触っている感覚を得るんだ。その次に割れた石の中を思い出しながら、そこに魔力が流れていくようにイメージしてごらん。」


 言われるがまま試してみる。魔力で石を触るとはどういうことなのかイマイチ分からないが、魔力の光が手のようになって石を触っている状況をイメージしてみる。すると、手で触っていないはずの石の表面に触れているような感覚がする。少しざらついているのが分かる。不思議な感覚だ。

 これに少し驚きつつ、次の段階を試す。手に持っている石の中に魔力が入り込むことをイメージするが上手くいかない。そこで、割れた石を思い出しながら魔力を這わせていくようにイメージする。すると、頭の中に石の中を魔力が駆け巡っている様子が流れ込んできた。


「うわ!」


 驚きのあまり、思わず持っている石を投げ捨ててしまった。


「その様子だと、その石を理解したようだね。」


 カミュは真剣な表情でこちらを見ている。


「理解したかは分かりませんが、頭の中に、石の中を魔力が物凄い速さで移動している様子が浮かびました。」

「なるほど。きみは石との相性がいいみたいだね。最初に見た魔法が私の石弾だったのもあるのかな?で、どうだい?初めて物を理解した感覚は。」


 どう答えればいいのか分からない。とりあえず感じたままを答える。


「なんというか、気持ち悪かったです。急にいろんなものが見えて驚いてしまいました。慣れるまでは大変そうです。それにしても、石の中は綺麗でした。あんな小さくて土まみれのザラザラな石なのに、中にはキラキラと輝く物がたくさんあって、夜空みたいでした。」


 カミュが少し驚いたような顔をしている。


「きみはこの短時間でそこまで見えたのか?」

「はい。あ、あの石はあまり硬くないようでしたね。」

「ふふふ、きみはなかなか鍛え甲斐がありそうだ。」


 カミュが不気味に笑っている。少し怖い。


「カナメくん。今きみにやってもらった『物の理解の訓練』だが、普通は何日もかけて行うものだ。これはその物と魔力の相性や、元々の理解度によって左右される。だからこそ、きみに石を割ったことがあるか訊いてみたんだが、驚くほど早い。」


 これは褒められていると思っていいのだろうか。そう思うことにしよう。


「ここまで早いと計画を少し変更せざるを得ないな。でも、とりあえず今日は倒れるまで他の物も理解する練習をしよう。」


 この日、カナメは昼食前に魔力切れで全身の脱力感に見舞われ地を這うことになった。

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