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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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路地裏での報告

 緑風の誓いは治療を終えて階段を下りる。怪我をした面々もポーションによって無事回復している。とはいえ、有利なはずの状況で一方的にやられてしまったのでその表情は暗い。

 踊り場辺りまで来ると血の臭いが鼻をついた。1階は血の臭いが充満し、構成員の死体がいくつもあった。警備隊のものは見えないので犠牲者は出なかったのだろう。

 廊下の奥の方では未だに抵抗している構成員がいるようだ。ドアが開かないように物を置いているのだろう。ドアを開けろと警備隊員が叫んでいる。

 放っておいてもそのうち開くのだろうが、見て見ぬふりをするわけにもいかない。イワノフが警備隊員にどいてもらいドアに水球を放つ。

 水球がドアに当たると枠を残して砕けた。向こう側にはドアの前に木箱や棚が置かれており、これで押さえ込んでいたのが見える。だが、こうなってしまえば大したことはない。警備隊員が障害物を排除して中にいた構成員を取り押さえた。

 これで建物内の摘発は粗方終わったはずだ。このあとの捜索や後処理は警備隊の方でやることだろう。

 建物裏に行って様子を見てみることにする。

 とは言っても裏口があるわけではない。皆窓から逃げ出して裏に回ったのだ。ということで、それに倣って窓を乗り越える。建物と建物の狭い隙間を通っていくと、建物の裏手には周囲を警戒している警備隊員や捕まえた構成員を護送する警備隊員がいた。それらの隊員と軽く挨拶をしてディアスのいる方へ行く。


「お疲れ様です、ディアスさん。」


 疲れた顔のディアスに声をかける。昼の時点でかなり疲れている様子だったが、今は少しやつれているように見える。何歳か年をとったような印象だ。


「フィリップか。もう中は終わったのか?」

「はい。ほとんど終わって俺らのやる仕事が無くなったので様子を見に来ました。それで……申し訳ないです。」


 フィリップは道の端を見る。そこには顔に布をかけられた2人の隊員の遺体が並んでいた。2人とも胸を一突きにされたようだ。


「お前のせいじゃねぇ。やり合って分かったが、あれは昔より強くなってる。想定以上だ。俺が到着するまでに6人やられた。あいつが遊ばなかったらこの程度じゃ済まなかったはずだ。最低でも1人は追加で死んでたな。」

「たしかに、あれは尋常じゃない強さでした。」

「どうだった?」

「かすりもしなかったです。ハンスが腹を刺された時にエストックを押さえて使えないようにしたのですが、素手で投げ飛ばされたうえに腕を壊されました。ギャリーも前蹴りで気絶しましたし。あと、水球がエストックで無効化されました。あのまま続けていたら間違い無く殺されてましたね。」

「そうか。それでも死ななかっただけマシだな。」

「こちらで殺られたのは警備隊員だけですか?」

「あぁ。他に黒猟犬の4人がやられたが、今のところ全員生きてる。2人は死にそうだがな。」

「あのバカ共。本当に戦いに行ったのか。ジョン!あいつらにポーションを少し分けてやれ。」


 フィリップの後ろで話を聞いていたジョンは少し驚いたような顔をする。


「いいのか?自業自得だぞ。」

「たしかに、傭兵なんだから自己責任でどうにかすべきだ。だが、ここで死なれるのは後味が悪い。」

「優しいねぇ。ま、フィリップらしいか。じゃあ行ってくる。」


 ジョンは黒猟犬のいるという場所へ走っていった。


「悪いな。代金は黒猟犬の報酬から天引きしとく。」

「お気遣いありがとうございます。これに凝りてもう少し考えるようになればいいんですけどね。」

「いや、あれは無理だな。リーダーが感情を優先しちまう。感情を抑え込めるようになる頃には引退の歳だ。勘が鋭くなれば別だがな。」

「なるほど。上手く立ち直っても前途多難というわけですか。ところで、この足元にある線はなんですか?」


 足元には真新しい1本の太い線ができている。かなりの長さがあるようだ。


「これか。これはカシラとかいうやつの護衛をしていたビョルンという魔法使いの仕業だ。」

「あぁ、いましたね。カシラと先に逃げたと思ってました。」

「なんでも、カシラが階段から落ちて怪我をしたせいで逃げるのが遅くなったらしい。」

「うわ、鈍臭いですねカシラ。で、そのビョルンは何をしたんです?」

「魔法で俺等との間に壁を作りやがった。それも鉄の壁を隙間無くだ。そのせいで誰も追いかけられなかった。」

「なるほど。って隙間無く?この距離をですか?」

「そうだ。恐ろしく腕の立つ魔法使いだ。それも鉄の魔法だぞ。なんでこんな組織にそんなヤツがいるのか不思議でならねぇ。」

「アルベルトに鉄の魔法使い。用心棒としては過剰戦力ですね。」

「裏に何かありそうな気がする。それは警備隊の捜査に任せるしかないがな。後でエルマーに報告だ。」

「そうですね。ちなみに1つ聞きたいんですが、鉄の壁ってどうなったんですか?」

「数分経ったら消えちまったよ。」

「意外とあっさり消えたんですね。」

「まぁな。だがあいつらは危険すぎるから追手は出さなかった。」

「となると、後は通りを封鎖している連中が手を出さなければ被害は最小限に留められるわけですね。」

「そういうことだ。あの新人たちの所に行かなければいいんだがな。」

「大丈夫ですよ。ここに来る前に少し話しましたけど無茶なことはしないタイプじゃないですか。」


 フィリップは配置に着く前にカナメたちと会っている。

 現場に向かう時に通りを歩いている時だった。通りの封鎖作業をしているところを見かけた。全身黒尽くめの魔女と髪の短い槍を持った女と頭に包帯を巻いた男。直前にディアスから聞いた新人パーティーの特徴と合致した。そのため、彼らがアルベルトと戦った新人パーティーであるとすぐに分かった。

 向こうもこちらの姿を見てすぐに等級が上の傭兵だと気がついたようだった。魔女が帽子を取って挨拶をしてきた。槍を持った女も駆け寄ってくる。男だけが険しい顔をして遠くを見て座っていた。

 少し興味があったので話してみた。


「きみたちが飛燕の燈火?」

「はい。飛燕の燈火のクインティナです。こちらがエイミィ。あそこで座っているのがカナメです。」

「エイミィです。よろしくお願いします。」

「よろしく。俺は緑風の誓いのフィリップだ。後ろにいるのがギャリー、ハンス、イワノフ、ジョンだ。」


 紹介に合わせてそれぞれが挨拶をする。


「ところで彼はどうしたんだい?ずっと遠くを見ているけど。」

「さぁ。今日はずっとあんな感じなんです。普段はこういう時にちゃんと挨拶するんですが。カナメくん、こっちに来なさい!」


 カナメは名前を呼ばれ一瞬体を震わせる。こちらに顔を向けると驚いたような顔で立ち上がり走ってきた。


「クインさんごめん。気が付かなかった。」

「もう、何してるのよ。ほら、挨拶しなさい。」

「あ、どうも。カナメです。よろしくお願いします。」

「フィリップだ。きみがカナメくんか。昨日は大変だったみたいだな。」

「大変なんてもんじゃないですよ。もう2度とあんな目には遭いたくないです。」

「まぁ今日は戦わなくてもいいって話だしのんびりしていたらいいと思うよ。」

「どうですかね。通りを通って逃げてきたら遭遇しかねないですよ。」

「その時はまた逃げてくれればいいさ。」

「簡単に言わないでくださいよ。逃げようとして頑張ってもこの有り様ですよ?」

「その程度で済んでるのが凄いんだけどね。しかもきみ、まだ諦めてないだろ。できれば戦いたいとか思ってないか?そんな目をしてるぞ?」

「ちょっと、カナメくん?それは本当なの?」

「カナメさん、それは無謀じゃないかと。」

「そ、そんなわけないじゃないですか!フィリップさん突然なに言うんですか!」

「昨日の話をするきみの目はまだ死んでないんだよ。また噛みつこうとしている目だ。」

「な、なんてこと言うんですか!」

「いい。カナメくん。私たちじゃあいつには勝てない。だから戦わない。分かってるわよね。」

「分かってます。大丈夫です。絶対に仕掛けません。」

「分かってるならいいわ。」

「ハハハ!クインティナくんが手綱を握ってるなら問題なさそうだな。じゃあ、ここは任せたよ。」


 あのカナメという魔法使いは昨日の戦闘の熱が冷めていないようだった。だが、そこを他の2人がサポートすることで上手く均衡が保てている。特に魔女の子がしっかり抑え込めている。あれなら無茶なことはしないだろう。

 だがそれを分かっていながらディアスは不安を口にする。


「そうなんだがな。頭も悪くないから自分から行くことは無いと思うんだが、刺穿が執着してるようでよ。黒猟犬のリーダーがあいつらと比較されて煽られまくったらしいんだ。もしかしたら、口直しとばかりに襲われるかもな。」

「だとしたら、今からでも彼らの持ち場に向かった方が良くないですか?」

「あいつらの持ち場を知らねぇ。」

「マジすか……。」


 フィリップは予想外のディアスのうっかりっぷりに言葉を失いかけた。自分たちは場所を知っているが、もし戦闘になっていたとしても自分たちではまたやられてしまうかもしれない。それならばと、この中で一番強いであろうディアスを引き連れてカナメたちの配置されている通りへ向かった。

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