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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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突入

 フィリップは通りの端に座って装備の確認をしていた。これから行く場所にはあの刺穿のアルベルトと目される人物がいるかもしれないのだ。装備の状態を確認しておくにこしたことはない。しかも今回は屋内戦だ。普段あまり使わない短めの剣を使う必要がある。整備不良で負けたとなっては示しがつかない。念には念を入れておく。


「なぁフィリップよぉ。アルベルト、いると思うか?」


 横に座っているギャリーが中空を見つめながら話しかけてきた。


「いるんじゃないか?さっきディアスさんから聞いた話だと先週も3等級が3人やられてて、そいつら全員刺し傷しか外傷が無かったって言うじゃないか。普通はそんなこと無いだろ。得物がエストックってのもそうだ。あんなもの伊達や酔狂で使うものじゃないって。」

「そうだけどよ。直接戦ったのは新人の魔法使いだけなんだろ?そいつの勘違いかもしれねぇじゃねぇか。」

「勘違いでも構わないさ。やることは変わらない。エストックを持った用心棒がいるんだ。警戒するにこしたことはない。」


 短剣を鞘にしまい立ち上がる。パーティーメンバーの状態を確認する。

 隣のギャリーは既に剣を腰にさしている。革鎧も着ているため準備万端ということなのだろう。

 少し離れた所にいるハンスは腕に円盾を着け終わったようだ。腰に剣をさそうとしている。

 イワノフは暇そうに杖の上に顎を置いている。魔法使いだから特に準備という準備も無いようだ。

 ジョンは小袋の中身を確認している。彼には小物類の管理を任せている。昨日まで魔の森にいたから在庫が不安なようだ。短剣を横に置いて指折り数えている。


「しかしよぉ。ディアスさんも人使いが荒いよなぁ。俺たちは帰ってきたばかりだったんだぜ?やっと休めると思ったら魔の森より危険な仕事じゃねぇかよ。やってらんないよな。」

「まぁそう言うなよ。俺も思うところはあるけど、その分報酬が高いんだ。なるべく怪我をしないようにやるしかないだろ。さっさと終わらせて帰ろうぜ。」


 そこへ警備隊員がやってきた。突入準備が整ったらしい。すぐに配置に着くように指示をされる。

 全員を改めて見ると、今の話が聞こえていたのかいずれもがこちらを見て頷いている。準備が整ったと判断し移動を始めた。

 路地裏への道の前には武装した警備隊員が集まっていた。物々しい雰囲気が漂っている。この場には現場指揮官として警備部長のエルマーが来ていた。エルマーは書類を見ながら部下に指示を出している。その指示に従い、緑風の誓いの面々も配置に着く。

 今回の摘発は建物の正面から突入する。先頭は警備隊員で、その次に緑風の誓いが行くことになる。最初は警備隊が形式的な対応をし、抵抗されたら緑風の誓いらが突入し制圧する手筈だ。この時、建物の裏に逃げていく者も大勢いるはずである。それを見越して裏側にはディアスを指揮官として黒猟犬と森の恵を含めた部隊が配置されている。

 午後10時。エルマーの号令により先頭の隊員が路地に足を踏み入れる。極端に狭い道を歩く。やけに静かな路地裏に装備品がこすれる音や金属が小さく動く音が響く。

 フィリップは違和感を覚える。事前に聞いていた話では路地を入ってすぐの辺りに広場のよう場所があり中毒者がたむろしているはずだが、今は誰もいない。薬の特有の臭いも薄い気がする。いくら通りを封鎖していても封鎖前から人がいてもおかしくない。どうもおかしい。後ろに続くパーティーメンバーに注意を促す。

 静かすぎる道を進み黒い扉のある建物の前に来た。警備隊員が扉をノックする。反応は無い。だが、中で人が動く気配はある。声もする。

 再びノックするが相変わらずだ。そのためドアを開けようとするが鍵がかけられていて開かない。表に鍵穴は無い。破壊するしかなさそうだ。警備隊員から促されイワノフが杖に魔力を込める。イワノフの持つ杖の前に直径50cmほどの球形の水が形成される。


「水球」


 勢いよく射出された水球は黒い扉に命中すると扉を破壊した。破壊された扉が室内へ吹き飛び、扉の奥にいた構成員を2人ほど巻き込んだ。

 突然の出来事に剣を抜いてた構成員も動きを止めてしまった。蝋燭の灯だけが揺れている。一瞬の静寂が訪れる。


「南街警備隊である!お前らには違法薬物密売の容疑がかけられている!おとなしく縄につくなら殺しはしない!抵抗するようなら命はないと思え!各員、確保しろ!」


 その静寂を破ったのは先ほどドアをノックした隊員だ。周囲に響き渡るような大音声で命令を下した。居留守を使ったうえ抜剣している状況から強制執行をするには十分な状況と判断したのだろう。形式的なやり取りを完全にすっ飛ばした。

 警備隊員が一斉に抜剣し動揺を見せる構成員へと迫る。


「どうせ助からねぇ!やっちまうぞ!」


 構成員の1人が室内に響くように声を上げる。これに呼応した者たちが警備隊に突っ込み乱戦の様相を呈する。とはいえ、常に鍛錬をしている警備隊と欲望のままに生きている下っ端構成員では練度が違う。数合打ち合えば容易に対処できる。1人、また1人と警備隊によって斬り伏せられる。残り2人となったところで入口付近の構成員は投降した。

 フィリップはあまりにも鮮やかな制圧に呆気に取られてしまったが、前方の隊員たちから先に行くよう促されて動き出す。この建物の構造は把握している。奥に細長いウナギの寝床のような2階建ての建物だ。したがって、組織の親玉がいるなら2階の真ん中以降の部屋だろう。そしてそこには用心棒がいるはずである。いくら警備隊が強くても、アルベルトには敵わない。だが、自分ならまだやりようはある。個の強さもそうだが、自分はアルベルトを知っている。だからこそ警備隊より先に着いて相手にしなければならない。警備隊の損害を減らすために。自分も怪我をしないようにするのは難しいだろうが、回避に徹すればあるいはとも思いながら階段を上る。

 階段の踊り場に到達するとキリキリという音が聞こえた。嫌な予感がして1段下がると踊り場の壁に矢が刺さった。上階から矢を射かけてきた。

 そこで、イワノフが前に出てくる。上階の構成員の位置を確認し魔法を放つ。


「水矢」


 空中に浮いた複数の小さな水の粒が矢のような形に変形し、上階へと飛翔する。男の悲鳴が聞こえたと思ったら矢を放ってきた男が階段を落ちてきた。

 これを横目に階段を上り廊下に出ると、男が剣を大きく振りかぶって振り下ろそうとしてきた。だがその男の剣は天井に深々と突き刺さり止まってしまう。両手を大きく振り上げた状態のため胴体がガラ空きだ。フィリップは駆け抜けざまに胴を斬る。後方で男の悲鳴と床に崩れ落ちる音が聞こえるが確認はしない。目の前にはさらに2人の男がいる。今度は刺突をしてきたが遅い。弾くまでもなく躱して首を斬る。血が噴き出してフィリップの顔に血がかかる。

 フィリップの後ろをハンスが駆け抜ける。その先にいる男が短剣を振り下ろす。これを腕につけた円盾で弾き喉に剣を突き立てた。口から血を吹きながら男は倒れる。

 廊下は一気に血の臭いが充満した。壁も床も血で汚れている。この先に構成員はいない。後は部屋の中にどれだけの構成員が残っているか。とにかく部屋を開けて調べてみるしかない。


「みんな、階段側から慎重にドアを開けていくぞ。」


 声を潜めて指示を出す。

 このフロアにはドアが4つある。横に3つ、正面に1つだ。順々にドアを開けて回る。開けるのはハンスだ。体を低くして円盾を装着している腕を使ってドアノブを捻る。

 階段側の部屋には誰もいない。余程慌てていたのか、机の引き出しは乱雑に開けられたままとなっており、本棚の本も床に散らばっている。

 隣の部屋もその隣も同じような状態だった。ここまで構成員の1人も出てきていないのが却って不気味だ。こうなってくると考えられるのは、既にいないか、余程信用できる護衛と一緒にいるかだ。後者ではないことを祈りつつ最後のドア、廊下の突き当たりのドアノブを捻る。

 ハンスが先程同様しゃがむようにしてドアノブを捻り始めたところ、ドアノブ上部の板が砕けた。何かがハンスの頭上を通過する。そこには異様に長い剣のような物が突き出ていた。反対側から突き刺してきたのだ。用心していた距離を取っていたおかげで助かった。


「あれ?刺さらなかったよ。用心深いねぇ。確実に殺ったと思ったのに。」


 ドアの向こうから軽い調子の言葉が聞こえてくる。

 ドアから剣が抜かれた直後、ハンスはドアを蹴破り距離を取る。

 部屋の中は明かりが灯っている。異様に長い剣を構えるボサボサ頭の男、魔法使い風の黒い長髪の男、そして顔に傷のある体格のいい短髪の男の3人がいた。


「ほらカシラ、言ったじゃないですか。早く逃げないと来ちゃいますよって。」

「うるせぇ!元はと言えばお前が雑魚傭兵を殺せなかったせいだろ!自分で何とかしろ!」

「へいへい。分かりましたよ。ビョルン、悪いけどまたお前の仕事取っちまうわ。」

「構わねぇよ。俺は仕事が楽になる分には文句はねぇ。」

「そうだったな。じゃあ、カシラは頼んだぜ。先に下に行っててくれ。お前らは俺と遊んでもらおうか。」


 男は楽しそうに微笑みながら剣を構える。

 その後ろでカシラと呼ばれた男とビョルンと呼ばれた男が本棚の後ろに入っていった。


「なるほど。あの隠し通路を使って逃げた奴らを追うためにはお前を倒さなければいけないってことか。」


 フィリップが部屋の中に入って剣を構える。


「そういうこと。でも、それができるかな?」


 この場にいる全員が気がついている。この見た目、この得物。この男はアルベルトだと。そして、あの日見たアルベルトから腕が鈍ったなどということは無いことを確信した。

 階下では警備隊と構成員の争う音が聞こえる。何人かが階段を上がってくるのも聞こえる。後続が来るのはあまりいい状況ではない。

 できるだけ早く仕留めなくては被害が拡大する。そのためには廊下に押し戻されるのだけはまずい。そう考えアルベルトより先に一歩踏みこんだ。

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