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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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会議

 午前11時。そろそろ昼食をどうするか考え始める時間帯。傭兵ギルド出張所の窓口も一時的に空いてきた頃、3組のパーティーが窓口にやってきた。どのパーティーも完全武装である。皆、用件は「副所長のディアスに呼ばれた」というものだった。

 6頭級傭兵のフィリップもその1人であった。彼は『緑風の誓い』という5人組パーティーのリーダーを務めている。昨日の昼に森の奥から帰ってきて仲間たちと夜中まで騒いでいたのだが、早朝にギルド職員がやってきて叩き起こされた。詳細を聞かされないまま呼び出され、完全武装で来いとの指定までされて至極不機嫌だった。パーティーメンバーも同様で、合流した時からずっと文句を言っている。

 とはいえ、案内された会議室に着く頃には黙っていた。さすがにそこはわきまえている。

 会議室に入るとそこには既に2組のパーティーがいた。名前は知らないが、装備品を見る限り自分たちより下の等級だろうと思われる。向こうもこちらを見て上の等級だと分かり少し緊張した面持ちになった。

 空いている席に座ってギルドの説明を待つことにする。今この場には14人の傭兵がいる。先に来ていたパーティーは4人組と5人組だ。4人組の方は装備に統一感は無いが、5人組は全員黒を基調とした装備を身につけている。一種異様な集団だ。

 皆、会話もせずに黙って座っている。重たい空気に嫌になる。何か話しかけようか迷っていると、会議室のドアが開いた。副所長のディアスが入ってきた。副所長が出てくるということはそれなりに危険な話のようだ。緑風の誓いの面々は気を引き締めた。


「お前ら、よく来てくれた。聞いているとは思うが、今日ここに呼んだのは緊急依頼のためだ。その内容を話したら断れなくなるから、降りるなら今だぞ。」


(よく言う。ここに来た時点で拒否権はほぼ無いじゃないか。)

 フィリップは心の中で思わず毒づいてしまう。


「誰も動かないってことは、緊急依頼を受けると判断した。それじゃ、依頼の内容だ。今夜、明気薬密売拠点の摘発を行う。お前らはその時の補助だ。具体的には、6等級の緑風の誓いは突入部隊。4等級の黒猟犬(こくりょうけん)と森の恵は外縁部隊だ。」


(なるほど。黒猟犬は黒尽くめの方だな。となるともう1つが森の恵か。傭兵というより店の名前みたいだな。)


「今回摘発する拠点は路地裏にあるため人数は制限させてもらった。ここにいる面々で対処してもらいたい。詳細は警備隊の南街詰所で確認してくれ。なお、1つ注意点がある。これから摘発する組織の用心棒に刺穿(しせん)のアルベルトがいる可能性が高い。」


(刺穿だと?随分厄介な奴が出てきた。なるほど。だから俺らに声がかかったのか。摘発だけで呼ばれるにはおかしいと思ったんだ。)


「すいません。質問よろしいでしょうか。」


(む?森の恵のリーダーか?)


「なんだ?言ってみろ。」

「その、しせんのアルベルトって誰ですか?」

「そうか。お前らは知らないのか。アルベルトはな、かつてこのギルドにも所属していた傭兵だったんだ。恐ろしく強くてな、パーティーを組まずにソロで5等級までなった。ソロだった理由は性格に難があったせいなんだが。とにかく酷い戦闘狂で、魔の森の魔物を相手にしているうちは良かったんだが、魔物に飽きて人間と戦うようになった。誰彼構わず喧嘩を売って歩くようになってしまったんだ。そして起きたのが、5年前の騎士団の襲撃だ。街に帰ってきた30騎の騎士を北門の前で襲撃したんだ。その時襲われた騎士は全員死亡。救援に向かった騎士も返り討ちにされ負傷者23人、死者11人という大損害を被った。最終的には矢で手傷を負わせたところで逃げられてしまった。」

「なんですか、それ。ただの化け物じゃないですか。」

「あいつと騎士団の相性が最悪だった結果だな。あいつはとにかく速く動くことを信条としている。だが、騎士団は全身鎧だろ?速度が違いすぎた。しかもあいつの武器はエストックだ。鎧通しとも言われる剣だからな。速度に対応できず次々とやられていったそうだ。そこで付いた二つ名が『刺穿』だ。ま、二つ名というより悪名だがな。」

「そんなヤツと戦えっていうんですか?無理ですよ。」

「まぁ待て。まず、今回は摘発がメインだ。だから戦って捕まえようとしなくてもいい。これは警備隊にも確認済みだ。お前ら4等級はもし見つけても無理に手出しするな。交戦しても勝とうとせず逃げていい。あいつとの戦闘は緑風の誓いに任せる。ただし個別で当たるな。必ずパーティーで当たれ。屋内での戦闘が想定されるからこちらが有利だと思うが、得物がエストックだけとは限らん。実際、今回は投げナイフの使用が確認されている。」


(ん?確認されている?どういうことだ?)

 気になったので質問をしてみる。


「あー、すまんがディアスさん。確認されているってことは、既に戦ったやつがいるってことだよな?」

「その通りだ。警備部長の話だとかすり傷程度で逃げ切ったそうだぞ。まだ2等級の新人魔法使いだって話だ。」


(おいおい、なんだその化け物じみた新人は。あの剣を避けられるってまともじゃないぞ。)

 フィリップは実際にアルベルトの戦いを見たことがある。それは今説明のあった北門での事件を現場で見ていたからだ。それゆえにその恐ろしさをよく知っている。

 あの日、2等級だったフィリップたち緑風の誓いは街の外の依頼を終えて帰ろうとしていた。薬草採取か何かの依頼のあとだったと思う。北門に入るための列に並んでいると、後方から全身銀色の鎧に身を包まれた騎士たちが現れた。全員が馬に乗り、ゆっくりと歩いていた。その威風堂々とした姿に目を奪われた。だが、騎士たちの前にふらりと現れた男の前に次々と倒れていった。その動きはあまりにも速く、横で見ていてもはっきりとは分からなかった。強いはずの騎士たちの動きが緩慢に見えてしまうほどだった。

 30人の騎士が全て倒れるまで多くの時間を要さなかった。混雑している門前ということもあり騎士は騎馬の利点を活かせなかった。一突きで騎乗している騎士を貫き、時には馬を貫いた。最後の方はわざと攻撃させて躱すのを楽しんでいるようにすら見えた。

 近くに傭兵はいたが誰も手を出せなかった。北門にいる傭兵など基本的には下級の傭兵しかいないのだ。皆足が動かなくなっていた。

 増援が来た時には安心したものだ。群衆も歓声を上げていた。しかし歓声はすぐに静かになった。先ほどよりも善戦しているが依然として翻弄され続けた。業を煮やしたのか弩を斉射してようやく手傷を負わせたが、それでも利き腕に一本当てるのがやっとだった。

 利き腕を潰されたアルベルトはその場から走って逃げた。騎士団も追撃しようとはしたが、門前に倒れている騎士や馬が邪魔で追いかけることはできなかった。

 この間、他の傭兵と同様にフィリップは見ていることしかできなかった。あの時何もできなかった悔しさが未だに心の奥底で燻っている。だが、今思い出してもあれとまともに戦えるイメージが湧かない。それだけに、かすり傷程度で逃げ切ったという新人の技量が異常だということが理解できる。

 しかし、アルベルトの強さを知らない4等級パーティーは違う。新人を評価するのではなく、アルベルトを過小評価してしまう。


「けっ!なんだよ。二つ名があるからもっと危険なヤツかと思ったら、新人の魔法使いも殺せないような雑魚かよ。警戒して損したぜ。」


 黒猟犬のリーダーと思しき男が吐き捨てるように言う。他のパーティーメンバーも口には出さないが頷いている。

 森の恵はというとパーティー内で相談している。レベルを測りかねているのだろうか。


「そんな奴なら俺らでも十分倒せんじゃねぇか?なぁお前ぇら。」

「おぅよ!そんな奴相手にもならねぇさ!」

「逃げるだけなんて情けねぇこと言わず討ち取ってやろうぜ!」


(マズイな。このままじゃこいつら死ぬぞ。)

 黒猟犬が盛り上がり騒ぎ始めた。

 ディアスを見るが特に何も言う気は無いらしい。むしろフィリップを見てニヤリとしている。

(めんどくせぇな。俺から言わそうとすんなよ。ったく。)


「お前ら、相手が本当にあのアルベルトなら、舐めてかかると死ぬぞ。おとなしく逃げに徹しろ。」

「あん?なんだ?そうやって手柄を独り占めするつもりか?」

「そんなんじゃない。あいつの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだ。俺はあいつの戦いを見たことがあるからわかる。たぶんその新人は逃げに徹したからかすり傷程度で済んだんだ。それでも十分おかしいレベルだがな。」

「ふん。どうせさっきの話の事件から腕が落ちたんだろ。今まで名前を聞かなかったのがいい証拠だ。」


 どうやらもう考えを改める気は無いようだ。無理をしなければいいのだが。


「お前ら、そこまでだ。今フィリップが言ったように、その新人は最初から逃げるつもりだったそうだ。実際には組織の構成員に囲まれて逃げられず、仕方なく交戦したらしいが。その時に刺穿と魔法使いはサシでやり合い、他の2人で構成員を相手にした。結果として6名を捕縛して2名を殺害している。はっきり言って新人レベルのパーティーではない。だから、新人魔法使いが逃げ切った話も鵜呑みにせず、用心して事に当たれ。いいな!」


 ディアスが情報を上乗せして釘を刺す。さっきまで騒いでいた黒猟犬も一気に静かになる。


「質問がなければこれから警備隊の南街詰所へ直行してくれ。くれぐれも死ぬなよ。」


 そう言うとディアスは会議室を出ていった。

 緊急依頼だからまともな話ではないと思っていたが、まさか自分たちがあのアルベルトと戦うことになろうとは。パーティーメンバーと顔を見合わせてため息をつき、警備隊の南街詰所へ向かうことにした。

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