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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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未明のギルド

 傭兵ギルドは眠らない。早朝だろうと深夜だろうと受付は開いている。なぜか。それは夜間に仕事を終える傭兵がいるから。夜間でないと活動しない市民がいるから。ゆえに受付窓口は昼夜で数の差こそあれ常に開いている。

 今日も傭兵ギルド出張所の受付は開いている。まだ夜が明ける前の出張所。当然利用者は少なく、受付の担当となった者は暇を持て余している。いや、受付担当だけではなく後ろに控えている管理職も仕事が捗りすぎて暇になってしまっていた。


「あぁ~暇だ。年末なのになんだこの暇さは。いつもならまだまだ仕事があるのに、溜まってた仕事が片付いちまった。おいセレス、なんか仕事ないか?」

「ありませんよ。あったら私もこんなことしてませんって。」


 セレスと呼ばれた女性は机の上を拭いたりインク瓶にインクを補充して回っている。


「ディアスさんも暇だからってそんなことを言わないでください。仕事が来ちゃいますよ。」

「そうだよなぁ。いや、でもここは仕事があったほうがいいのか?」


 ディアスと呼ばれた管理職の男性は出張所内を見回す。セレス以外に男女1人ずつ職員がいるがいずれも暇そうだ。無言で手を見つめていたりうたた寝をしている。暇だから仕方ないかと思い何も言えない。

 自分も今日何周目かになる昨日の新聞を読もうとしたところ、入口のドアが開く音が聞こえた。どうせ依頼を探しに来たか報告をしに来た傭兵だろうと思い入口の方に目をやることもなく新聞に目を落とす。だが、すぐにセレスから呼ばれることになった。


「ディアスさん。警備隊のエルマーさんがお呼びです。」


 ディアスは耳を疑った。なぜこのような時間に南街詰所の警備部長であるエルマーが来るのか。受付を見ると、たしかにそこには強面でガタイのいい壮年の男がいる。エルマーで間違い無い。


「こんばんはエルマーさん。いや、おはようございますかな?突然どうされたんですか?」

「ディアスくんしかいないのかね。まぁいい。緊急で話したいことがある。」

「『緊急』なんて穏やかじゃないですね。ゆっくり伺いましょう。応接へどうぞ。」


 エルマーの話しぶりから重要な話だと考え場所を移すことにする。セレスに飲み物の準備をお願いしたら「ほら言わんこっちゃない。」とこぼされた。

 エルマーを応接室に通し対面に座る。


「それで、エルマーさん。あなたほどの方がこちらに出向いたということは、何かあったんですね?」

「そう言うことだ。用件から言おう。6等級以上のパーティーもしくは7等級以上の個人を今夜派遣してもらいたい。」

「それはまた急な話で。何をしようっていうんです?」

「明気薬の密売拠点の1つを摘発する。」

「明気薬の?情報は確かなんで?」

「間違い無い。何時間か前、日付が変わる前くらいだな、ある傭兵パーティーが巡回中に明気薬の密輸現場に遭遇した。そこで小競り合いが発生し、6名を捕縛。2名を殺害した。この時に捕縛した構成員の証言と、戦闘を行った傭兵の情報から密売組織の拠点を特定した。」

「なるほど。そういうことですか。組織の末端とはいえその証言は信用に値しますね。状況は理解できました。ただ、それでなぜ6等級以上なんですか?この時期に巡回依頼を受けてるってことは3等級パーティーだと思いますが、彼らに対処できるような相手なら、数を集めればどうにでもなりそうですが。」

「これがまた厄介でな。用心棒に『刺穿(しせん)のアルベルト』がいるようなんだ。」

「刺穿が?」

「あぁ。エストックを使うボサボサ頭の戦闘狂なんてのはあいつくらいしか思いつかん。」

「そうですね。ていうことはもしかして、そのパーティーはあいつから逃げ切ったってことですか?」

「そのようだ。しかも刺穿とはサシでやり合ったらしい。やり合ったというヤツはさすがに怪我はしていたがピンピンしていたよ。小競り合いをした現場から構成員の護送もやったそうだ。本人は随分文句を言っていたがな。」

「随分と余裕がありますね。」

「ふっ。後で褒めてやるといい。名前はカナメといったか。まだ傭兵になって1年に満たない2等級だそうだ。ちなみにこのパーティーはリーダーこそ3等級だが、他は2等級と1等級の3人パーティーだ。1等級の子は今日初めて人を殺したらしくてな。さっき話した時にはリーダーにしがみついて泣いていたよ。」

「傭兵なら誰もが通る道ですが、1等級で経験するには早すぎますね。とはいえ、可哀想ですが、頑張って乗り越えてもらいましょう。」

「そう祈るしかないな。」


 応接室のドアがノックされる。返事をするとセレスが紅茶を持って入ってきた。紅茶のカップを机に置いてそそくさと出ていった。


「さて、話を戻すが、刺穿がいる以上、それなりの等級の傭兵が必要だ。できる限り上位の等級の傭兵をお願いしたい。」

「分かりました。でも、今日中に集めようとしても難しいですよ。何日か貰えませんか?」

「ダメだ。構成員が捕まったことは組織の方でも知っているはずだ。そうである以上、早急に動かねばならん。取り逃してしまう。本来なら日中にやりたいところだが準備が間に合わん。だから今夜なんだ。」

「う〜ん、仰ることは分かりますが、期待しないでくださいよ?そもそも数が少ないうえに街にいなかったり他の仕事を受けてる可能性が高いですから。しかも相手が刺穿だと聞いたら、上級の傭兵とはいえ拒否される可能性があります。誰も怪我したくないですからね。」

「拒否するようならカナメくんの話をすればいい。新人傭兵でもかすり傷程度で逃げ切れた、とな。」

「かすり傷だったんですか?」

「実際にはもう少し酷いが、見た目は頬と鼻と頭の傷だけだったな。本人は肩と膝も痛いと言っていたが。」

「刺穿を相手にその程度の怪我って新人の域じゃないですよ。そんな話をしたら油断して被害が拡大しそうなんですが。」

「なに。別に刺穿を捕らえる必要は無い。今回の狙いは組織の壊滅とその他の組織の情報だ。撃退だけしてくれればいい。」

「はぁ……。分かりました。今の言葉、聞きましたからね。刺穿と対峙しても倒す必要は無いという条件で話しましょう。数はどれだけ必要ですか?」

「今回は拠点摘発の補助だからな。6等級以上を1組、4等級以上を2組ってところだ。人数が多すぎると逆に困るんでな。6等級以上のパーティーは突入部隊に組み込む予定だ。他は外の警戒。逃げ出した雑魚どもを捕まえたり侵入者を防ぐ役目だ。」

「分かりました。それで調整しましょう。昼までには派遣人員の報告をします。」

「よろしく頼んだよ。」


 一通り話を終えてディアスは紅茶を一口飲みエルマーに質問する。


「ところで、さっき話しのあった傭兵パーティーの名前って分かりますか?ギルド内で書類を作るにあたって必要な情報なんで。」

「それもそうだな。たしかメモしておいたんだ。」


 エルマーは懐のポケットからメモ帳を取り出してページをめくる。


「おぉ、あったあった。パーティー名は飛燕の燈火。リーダーは3等級の魔法使いクインティナ。メンバーは2等級の魔法使いカナメと1等級の槍士エイミィだそうだ。詳しいことは巡回依頼の報告書で読んでくれ。」

「分かりました。って刺穿とやり合った傭兵って魔法使いなんですか?」

「ん?そういえばそうだな。でも、直接話した感じだと武の匂いが相当強かったぞ。」

「エルマーさんが言うならそうなんでしょう。となると、魔法剣士の可能性がありますね。そうでないとサシで逃げられるとは思えないです。そこら辺も確認しておきましょう。」

「そうした方がいいだろうな。ギルドの貴重な戦力になる。国境が騒がしくなったらここも無関係とはいかないからな。」

「そんなことは起こらないと嬉しいんですがね。」

「同感だ。」


 エルマーは紅茶を飲み終えてカップを皿の上に置いた。


「じゃあ、さっきの件、よろしく頼む。こっちはこれから拠点の監視と突入準備だ。」

「承知しました。早速該当者をあたらせます。」


 応接室を出たエルマーはさっさと詰め所へと戻っていった。

 ディアスは奥で掌を見つめている男性職員に声をかける。


「おい。緊急依頼だ。至急街にいる4等級以上の傭兵パーティーをリストアップしろ。」

「街にいるっていうのは、今動けるってことですか?」

「そうだ。夜が明け次第、目ぼしいやつから声をかけていく。」

「承知しました。それじゃ、ちょっと待っててくださいね。ちなみに、緊急依頼って何があったんですか?」

「それはまだ言えん。ま、明日の朝には分かるだろ。」

「なるほどねぇ。誰にも言えないのに調整をしなきゃいけないってのは大変ですね、副所長になるとそんなこともするんですね。」

「分かってくれるなら代わってくれると嬉しいんだが。」

「それは御免被ります。」


 男性職員はわざとらしく丁寧に言って書類を探し始めた。

 ディアスはため息をついて自分の席に座る。刺穿のアルベルトを相手に軽傷で逃げ切った新人。どんな人物なのか。支部に問い合わせて情報を取り寄せてみようと考えつつ、緊急依頼の書類を作り始めた。

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