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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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戦闘の後始末

 カナメは積もった雪の上に座ったまま、エイミィから応急処置を受けている。額の傷に布を当て頭に包帯を巻かれる。溶けた雪が服から染みてきて尻が冷たいが、贅沢も言っていられない。手当てが最優先だ。

 クインティナは気絶している男の拘束を行っている。生きていることが分かった者は止血をしたうえで木棺に入れる。倒れている男は3人だった。そのうち1人は死んでしまっているようだ。おそらく最初に腹を貫かれたやつだろう。


「はい、できましたよ。警備隊事務所に戻ったら消毒しましょう。」

「お、ありがとう。助かったよ。」


 包帯の状態を確認しながら立ち上がる。ちょっときついが止血である以上やむを得ない。

 周囲を見回すと雪が踏みしだかれて溶けている。この場の戦闘の激しさを物語っていた。


「エイミィも大変だったな。よく持ちこたえてくれた。人間と本気の戦闘をしたのは初めてだっただろ?」

「はい。でも、ゴブリンとはよく戦っていたので対応できました。」

「それでも、人間相手ってのはきつい。心にくるものなんだ。」

「そうでしょうか?あいつらのあの目、ゴブリンと大差無かったですよ。」


 一体どんな目をしていればゴブリンと同じ扱いをされてしまうのだろうか。とにかく、エイミィの中では嫌悪の対象だったということなのだろう。とはいえ、無理をしてはいけない。


「そんなこと言ってるけど、お前、顔が青いぞ。俺の方はもういいから休んでろ。」

「私は大丈夫です。気にしないでください。」

「とはいえなぁ。手が震えてきてるぞ。時間が経って実感してきたんだろ。」

「こ、これは疲れたからです!」

「分かった分かった。今は特にやることも無い。警備隊が来てくれればいいけど、来なければこいつらを俺らが運ばないといけないんだ。疲れてるならそれまで雪の当たらない所で休んでろ。」

「む〜…。仕方無いですね。」


 エイミィは渋々了承し、ゴロツキ共の出てきた建物の軒下に座った。

 カナメは雪の上を歩く。雪の上に落ちている刃物を拾った。アルベルトの投げたナイフだ。あまり大きくなく柄が無い。細身ではあるが厚みがあり、ずっしりとした重みを感じる。こんな物をどこに隠し持っていたのか。きっとまだ持っているのだろう。また遭ってしまう可能性を考えてしまう。

 ふと、石壁の向こうから声が聞こえた気がした。石壁を解除するのを忘れていたことに気がつき、石壁を消す。光の粒となって消失した向こう側には2人の警備隊員がいた。1人は壁を触っているときに消えたため転びそうになってしまっている。


「――!きみ、大丈夫か!?」


 見慣れた警備隊員が走ってきた。


「えぇ、まぁ、なんとか。」

「これは、一体どういう状況なんだ?」

「どうやら密輸現場を目撃してしまったらしく、襲われてしまいました。用心棒のアルベルトもいて死ぬかと思いました。」

「そんなことが……。私たちはこの辺りで傭兵が戦っていると報告を受けて急行してきたんだ。」

「報告?通報じゃなくて?」

「色々あるんだ。察してくれ。」


 なるほど。路地裏の店の裏付け捜査をしていた警備隊員が偶然近くにいたのか。でも彼らが手を出すと捜査をしていることが公になってしまうから、止むなく事務所に行って報告したということか。すぐ助けて欲しかったところだが、仕方無い。


「ところで、こいつらはどうしましょうか。」

「む。また棺か。生きてるんだよな?」

「中には死んでる者もいます。こちらも必死だったので。」

「まぁ相手も武装していたんだ。仕方無い。とりあえず詰め所に報告して人を派遣してもらおう。取り調べも詰め所でやることになるだろうから、その方が早いだろ。その時はきみたちも一緒に行くといい。怪我の手当てをしてもいなさい。ついでにきみたちからも話を聞くことになるとは思うけどな。」


 そう言うと警備隊員は2人で相談した後、片方が詰め所へと走っていった。

 残った警備隊員はクインティナから棺について確認している。おそらく拘束した人物の怪我の有無や護送方法を相談しているのだろう。

 エイミィを見ると寒いのか立って体をさすっている。たしかに動かずに立ってるだけなら寒くもなる。自分もそろそろ寒くなってきた。傘もない状態で雪の中にいるのだし、雪の上を転がったりしているのだ。このままでは風邪を引きそうだ。

 とりあえず雪から逃れるためにエイミィの横に行く。寒さに震えるエイミィと警備隊員の増員を待つことにした。

 しばらくすると、先ほど走っていった隊員が10人程の隊員を引き連れて戻ってきた。これで詰め所に行って暖かい部屋で怪我の手当てをしてもらえる。そう思ったのだが、詰め所に行く前にといって現場の説明をさせられた。

 寒さに耐えながらカナメは概要を説明した。フェンスから身を乗り出して川岸を見たら、川からトンネルまでの間に雪が無かったこと、アルベルトに襲われたこと、ゴロツキ共が建物から出てきたこと、ゴロツキの何人かとアルベルトに逃げられたこと。これらを話すと、現場に来ていた隊員のうち半分ほどがゴロツキ共の出てきた建物の中に入っていった。現場の確認をするのだろうか。自分も中を見てみたい。しれっと隊員の後ろにくっついて中に入ろうとしたら、入口の所で気が付かれて追い出された。

 建物を見るのは諦めて外で待つことにすると、護送担当の隊員から呼ばれた。護送を手伝ってもらいたいとのことだった。


「勘弁してくださいよ。結構体を打ってるからいろんな所が痛いんですよ?」

「分かるけどさ、この中に入ってる奴を見たらみんな気絶してるんだよ。閉じ込めた時は元気だった奴もみんなだ。」

「え?まさか中毒者ですか?」

「いや、そうじゃなさそうだ。呼吸が落ち着いてるからな。」

「となると、まさか、窒息?」


 クインティナを見ると何食わぬ顔で呟いた。


「そのようね。」

「いや、何暢気に言ってるんですか。なんで空気穴を作らなかったんですか。」

「棺には存在しないからよ。」

「そうですけど。まぁ死ななくて良かったです。」


 思わず額に手を当ててため息をついてしまった。


「まぁまぁ、そんなわけで人手が足りなくてね。1人1つだと1個余るんだよ。」

「僕は昨日これを2つ曳かされましたよ。普段から訓練を怠らない隊員の方なら僕にできるようなことならできるんじゃないですかね?」

「そんな意地悪を言わずに手伝ってくれよ。」


 これは本当に嫌だった。表面上は顔の傷だけだが、戦闘中の打撲が所々あり痛むし、霜焼けの状態で手足が痛い。まともに動ける気がしない。

 棺を見るとたしかに6個ある。白い雪の上にこれだけの棺がある光景はなかなかシュールだ。

 なんとかして自分が運ばなくて済む方法を考える。そもそもこんな物を雪の日に運ぼうということがどうかしている。雪が付着していつもより重くなるに決まっている。雪の影響を受けなければまだマシなんだが。

 そんなことを考えていたら、思い出した。あの方法がある。


「クインさん。そり、作れますか?」

「そり?あ~そういえばそんな物があったわね。見たこと無いから忘れてたわ。」

「良かった、ちゃんと知っていて。知ってるってことは、作れますよね?」

「まぁ、作れはするけど、実物を知らないから不格好な物になるわよ?」

「それでもいいです。あるのと無いのじゃ全然違いますから。」

「分かったわ。ちょっと待ってて。」


 クインティナが杖に魔力を込める。イメージが固まっていないからか杖の補助を受けて魔力を使っている。

 少し離れた所に徐々に木の板ができていく。幅、長さ共に問題無さそうだ。板自体も真っ直ぐで反りがある。だが、何かがおかしい。


「クインさん、このデザインは……。」

「これはそりじゃないよね。」

「うん。そりではない。」

「別の何かだな。」

「なんか、船っぽい。」

「そうだよ。船首だよこれ。」


 カナメが出来上がったそりのデザインについて口にしたところ、隊員たちが感想を言い始めた。


「もー!仕方ないじゃない!そりって馬が曳いてるんイメージだったんだもの。混ざっちゃったのよ。」


 そこに現れたのは前方に馬の頭が船首のように伸びているそりだ。馬には鬣が再現されており、妙にリアルな造形になっている。だが、この馬のせいでバランスが崩れて大きく傾き、馬の顔が雪に埋まってしまった。


「馬で曳くことはあまりないと思いますが……。まぁ、知らないなら仕方ないですよね。とりあえずこの調子であと5つお願いします。」

「やんなきゃだめ?」

「お願いします。これ無しで曳くのは辛いので。」

「仕方ないわね。じゃあちょっと待ってなさい。」


 クインティナは再び杖に魔力を込めて更に5つのそりを作った。作る度に馬の要素は少なくなり、最終的には馬の頭は無くなった。少し変な形をしている程度となった。

 このそりに棺を乗せて移動することにする。最初の方の明らかな失敗作を作り直したいとクインティナが申し出ていたが、時間が惜しいということで却下された。

 そして、隊員たちの手により馬の頭のそりを先頭に棺が曳かれていった。その列の最後方に不服そうな顔をしてそりを曳くカナメがおり、その横をこれまた不服そうな顔をしたクインティナが、寒そうにしつつもどこか不安気な顔をしたエイミィが歩いていった。

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