魔法の訓練①
カナメはカミュと共に庭に出ていた。
あの後、父に叱られて部屋を追い出された。そのため、剣の訓練で少し汚れた状態のままここにいる。せっかくの訓練初日だというのに少し残念である。カミュはそんなことは気にしていないようではあるが。
「さて、それじゃあ魔法の訓練を始めようか。」
「はい!よろしくお願いします!」
始まった。期待に胸を膨らます。
「実際にやってもらう前に、まず魔法について教えよう。カナメくんは魔法がどういうものなのか知ってるかい?」
魔法についてはほとんど知らない。昨日見たカミュの魔法が、初めて見た魔法なのだから。だがその現象を思い出せばなんとなく分かる。
「えっと⋯⋯魔力で物を作り出す?」
この答えにカミュは満足したようだ。
「そうだね。だいたい合ってる。魔法は大きく分けて2つの種類があるんだ。1つは体に纏うもの。体に纏うタイプのものは、魔力を纏わせた所が硬くなるんだ。だから腹に魔力を纏わせれば腹を殴られても痛くない。拳に纏わせれば普通に殴っても金槌で殴ったようになる。これは使える人が多い。ギンガも使えるし得意だ。
もう1つは自然にあるものを魔力で作り出して操作するもの。これは昨日見たから分かるね。使える人は少ないけど強力だ。作れるものは石や水、土、火なんかが有名だ。でも、なんでも作れるわけではないんだけど、その理由は分かる?」
さすがに分からない。そんなことは今初めて聞いたのだから。だが、少し考えてみる。たしかになんでも作れていたら世界が変わってしまいそうだ。
「なんだろう?肉は作れないとか?」
とりあえず自分の生活をもとに答えを出してみた。動物の肉を作り出せていたら狩りをする者は仕事を失ってしまう。
「うん。たしかに肉は作れないね。ただ、この場合の答えは、生き物や植物は作り出せないってことになる。その理由は研究中らしいけど、とにかく作れない。」
それならたしかに理解できる。魔法で作られた魔法人間みたいな人がいたら怖すぎる。
「あと、それ以外のものでも、大きすぎるものは作れない。家くらいの大きさの石を作ろうとしても、先に魔力がなくなっちゃう。だから、魔力さえあれば作れるけど、そんな膨大な魔力をもっている人がいないから無理だということになる。」
なるほど。ということは森の中にあるような巨大な岩は作れないということか。
「次に、魔法で作った物は術者の意思か時間経過で消える。」
時間経過で消えるのは意外だったが、それも納得できる。消えなかったら世界中に魔法使いが作った物が溢れているだろう。この前カミュの放った石弾が見当たらなかったのはそういうことだったのか。
「ただ、作り出した物が与えた影響は消えない。石で岩を砕けば砕けたまま、水で土を流せば流されたまま、薪に火をつければ燃えたままになる。ちなみに魔法で生み出した水を飲んだ場合、時間経過で消えないし術者の意思で消すこともできなくなる。でも、とてつもなく不味い。最低でも1週間は舌の痺れと味覚障害が残る。だから、飲まないようにな。」
一種の毒のようなものらしい。妙に実感がこもっているのが気になる。
「カミュさんは飲んだことがあるんですか?」
その瞬間、カミュは口を押さえて伏し目がちになる。
「昔、ちょっと⋯⋯。任務で砂漠に行った時に迷ってしまって、死ぬよりはマシだからと⋯⋯。あの時は数日間何も飲んでなかったんだ。だからその時いた水を出せる魔法使いに出してもらった。後悔したよ。舌が痺れて話せなくなるし、食事もほとんど飲み込めなくなるし。偶然近くに街があってなんとか助かったよ。」
なるほど。それは致命的だ。街に辿り着いたことで治療できたのかと思う。
「街に着いて後遺症を治してもらえたんですか?」
「無理だったね。当時持っていた毒消しとか麻痺薬を使っても治らなかった。医者に診てもらってもダメだった。原理は知らないけどそう単純なものではなかったよ。
さて、話がそれちゃったけど、話を戻して次に行くよ。たぶんカナメくんの1番知りたい部分、習得方法だ。」
ついに来た、本題。思わず身を乗り出してしまう。
「魔法はさっき言ったけど2種類ある。覚え方はそれぞれ違う。ただ、人それぞれ得手不得手がある。だいたいはどちらかしかできない。」
なんだと?それでは体に纏うことしかできない場合、とてつもなく地味ではないか。ギンガには申し訳無いが、カッコ悪い!
「まず、体に纏う魔法の覚え方は単純だ。手に魔力を見えるようにした状態にした後、それを硬くするんだ。これができれば第1段階終了。硬い拳の完成だ。実際、これだけでも十分戦力になる。
第2段階は硬くした魔力を腕、肩、体へと伸ばしていく。これを全身に纏わせることができれば準備完了。その状態で動けるようになれれば第2段階終了だ。これができると戦場で怖いもの無しだ。要塞が走り回るようなものだ。これができる人はほとんどいない。ギンガの他に数人しか聞いたことがないな。
最終段階は装備品に魔力を纏わせることができれば完成だ。だけど、最終段階まで行った人は見たことがない。理論上できると言われていて、過去にも使い手がいたらしいんだけどね。」
おぉ!地味だとか思ってごめんなさい!最終段階が夢がありすぎる。魔力を纏う武器ってやっぱり魔力で光るんだよな!?魔力を纏って光る剣とかカッコいい!
「次に物を作り出す魔法の覚え方だ。作りたい物を理解する。それに尽きる。」
ん?急に話が見えなくなった。
「あの〜⋯⋯。理解するって、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。やり方はいくつかあるけど、一番簡単なのは手に魔力纏った状態で物を触れること。そして魔力でその物を調べるんだ。物に魔力を浸透させて、ひたすら調べる。それがどういう物かを理解することができたら、今度は魔力で再現する。これができれば成功だ。でも、魔力の質によっては理解することができない人がいる。
そんな人のために第2の方法。書物で調べる。調べて、研究して、正しく理解できれば魔法で再現可能となる。凄く難しいけど。
あと、第3の方法として魔力で触れ続けるというものがある。これは凄く非効率的で、普通の物には使えないと言っても過言ではない。唯一、火の魔法を使えるようにするためには有効なやり方だね。ただ、これをやるには魔力で手を守るか魔力を火の所まで伸ばすかしないといけない。でも魔力を火の影響が無い場所から火のある場所まで伸ばすのは不可能だ。魔力はそんなに自在に動かせない。だから、火の魔法を使う人は例外なく手に火傷の痕がある。そして殆どの人が手練れだ。頭のネジが外れている人も多い。
話を戻すよ。今言った3つの方法があるわけだけど、これだけ努力をしてもその物理解できなければこの魔法は使えないし、理解できていても魔力の質によっては魔力で再現できないことがある。そのため、物を作り出す魔法を使える人は少ない。」
つまり、魔力で物に触れて調べて理解できればいい。分からなければ本を読んで理解する。そして理解したら魔力で物を作るということか。なかなか大変だな。
「体に纏う魔法と物を作り出す魔法の覚え方は分かったのですが、どうやって向き不向きを調べるんですか?」
「ん?調べるなんてしないよ。そんな便利な方法は無いって。やっていく中で判断するしかないに決まってるじゃないか。だから、今日から両方やるよ。」
カミュが不思議そうな顔で答えた。なんてことだ。それこそ非効率的すぎる。
「それじゃ、早速始めようか。まずは体に纏う魔法からやってみよう。」
地獄の訓練の幕開けだった。
水の魔法は拷問でも使いません。万が一口に入ったら話せなくなるし、食事が摂れなくなるため最悪の場合死ぬからです。じわじわと殺すのが目的なら使うでしょうが。
なお、適切な処置をすれば死ぬようなことはありません。食事が液状のものになって辛い程度です。だから暗殺にも使えません。




