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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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雪上の戦い②

 アルベルトが半身の姿勢から鋭い突きを放つ。たまらず横へ回避する。これを妨害するように剣をしならせた突きが回避先から飛んできた。後方へ下がって避けると突然アルベルトの体が下に沈み下方から突き上げが襲ってくる。仰け反って躱すが鎧に剣の跡が残る。その姿勢のまま顔を正面へ向け直すと、頭の位置が高くなって剣先が下へ向いているのが見えた。上から突き下ろされる剣を杖で弾く。アルベルトの剣が横へ泳いだところで姿勢を整える。

 危なかった。最初の突き以外は視界の外からやってきた。避けるので精一杯だ。速度こそ今までと大差無いが、軌道が読めない。

 アルベルトは今も剣を構えている。先ほどまでの余裕が感じられなくなった。体を真半身にして前傾姿勢を崩さない。だが、前傾姿勢ということは軸足をどうにかすれば対応も容易になるということだ。

 アルベルトの軸足の下に竪穴を作ろうとする。しかし足元が僅かに光ったことに気がつかれた。竪穴が発動するよりも速く一歩踏み出され、突きが飛んでくる。剣先が揺れている。前へ踏み込むと剣先が当たってしまいそうだ。体を傾けるだけというのも危険だ。後方へ下がるしかない。

 これを追いかけるように上下に打ち分けられた突きが襲ってくる。必死に避け続けるも、徐々に体が追いつかなくなる。重心が後ろに下がりすぎだ。足がもつれ始めた。

 この異変を見逃してはくれなかった。腹部を狙った突きが襲ってくる。大きく一歩下がりギリギリのところで回避したが、足を開きすぎて体が硬直してしまう。そこにさらなる一撃が放たれる。腕が見えない。間違い無く今日最速だ。なんとか回避しようとして体に力を入れた瞬間、後ろに下げたままの足が溶けた雪で滑り体が大きく沈む。剣が髪の生え際付近を掠め、雪の上に血飛沫が舞い散る。

 ここでようやくアルベルトの動きが止まったので距離を取ることができた。額から流れる血が目に入り片目の視界が奪われる。

 今のは危なかった。反撃の余裕も無かった。こちらも全力で行きたいのに、剣を抜く余裕が無い。息もつかせぬ連撃だった。


「ちっ。運のいい。仕留め損ねたか。」


 今までの余裕のある口調とは違う。明らかに苛立ちが感じられる。また、さすがにあれだけ動いただけあって肩で息をしている。今追撃が来なかったのはこの疲労によるものが大きいのだろう。あの態勢でもう何回か突かれたら確実に直撃していた。


「さすがに疲れたようだな。」

「きみを殺すのにこの程度の疲れは問題にもならないさ。」

「そのわりには、疲れの無い時の攻撃で殺せなかったじゃないか。」

「運良く死ななかっただけなのによく言うね。」

「まぁな。結果が全てだからな。」

「間違い無いね。でも、その運も何回も続かないよ。」

「分かってるさ。だから、俺は全力で逃げる。石棘!」


 アルベルトの前方の地面から斜めに石棘が飛び出した。魔法の発動に気がついていたアルベルトは後ろに飛び退いた。しかし、この程度では時間稼ぎにもならないことは知っている。案の定、目の前では反撃に転じようとしている姿が見える。すぐさま2発目の石棘を放つ。場所はアルベルトの進行方向だ。移動先を潰せば後ろに下がるしかないはず。体の向きや重心の位置から進行方向を推測し、潰す。雪の下が僅かに光る度、アルベルトは後退を余儀なくされる。これを何度か繰り返したことでカナメとアルベルトの間の距離が広がった。この状態を狙っていた。


「石壁ぇ!!」

「ぬぉわ!てめぇ!なんてことしやがる!」


 手を地面に着けて地面に魔力を流す。剣無しの状態でできる魔法の限界まで魔力を込める。轟音と共に高さ3m程度の壁を連続して生成する。川から建物までの5mほどの距離に隙間無く並べた。これによりアルベルトを分断することに成功した。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。よし、今のうちに2人の加勢だ。」


 後方を見るとエイミィが槍を横薙ぎにして男の頭を打ち据えていた。血を流して地に伏している者や棺に詰め込まれて叫んでいる者などがおり、ゴロツキ共は半分程に数を減らしている。


「クインさん!エイミィ!こいつらを蹴散らして逃げるぞ!石棘!」


 高さ数10cm程度の石の棘が地面から突き出しゴロツキの足を貫く。


「カナメさん、ありがとうございます!って大丈夫ですか!?」

「ちょっと、凄い血よ!大丈夫なの!?」

「大丈夫だ!それに、今はそんなことを気にしてる場合じゃないです!」


 カナメは短く言葉を交わすとゴロツキ共に向き直る。


「くそ!アルベルトは何してやがんだ!魔法使い1人殺せねぇのかよ!」

「でも、こいつを殺せばアルベルトより強いってことにならねぇか?魔法使いなんか近づけばどうってことねぇよ。」


 そう言ってカナメの近くにいた男が剣を振り降ろしてくる。が、遅い。アルベルトと比べると止まっているようなものだ。

 剣を乱暴に横に弾き、隙だらけの頭部に力の限り杖を叩き込む。鈍い音とともに何かが潰れるような音が響いた。

 周囲が静寂に満たされた。その場にいる全ての者が動きを止めてカナメを見る。カナメの持つ杖は男の血で赤く染まっている。頭の形が変わってしまった男は鼻血を噴き出して崩れ落ちた。

 ゴロツキ共に動揺が走る。今まで女2人相手に苦戦していたのにもう1人増えてしまったうえ、もう1人の人物はアルベルトでさえも仕留めきれなかったという事実。そして目の前で見せつけられた力の差。容赦の無い一撃。これらが戦意を削ぐには十分だった。

 ゴロツキ共が互いに視線を交わす。ジリジリと後退を始めた。

 それを視界の端で確認しながら努めて低い声で忠告をする。


「お前ら、逃げるなら今だぞ。今ならギリギリ射程外だからな。」


 嘘である。ここにいる全ての敵は射程に収めている。だが、戦闘を今すぐにでも終結させたいがためにそういうことにして、相手に選択の余地を与えた。

 剣を構えながら徐々に後退していたゴロツキ共はカナメが一歩踏み出したのを見て同じだけ後ろに下がる。一歩、また一歩と前進すると、ゴロツキ共の背中が建物についてしまった。見て分かるほど狼狽え始める。そして、更にもう一歩踏み出したところで、ゴロツキの1人が悲鳴を上げる。


「ひ、ひぃぃー!俺には無理だ!」


 泣きそうな顔になりながら叫び、背を向けて逃げ出した。


「あ!てめぇ、待ちやがれ!逃げんな!」


 纏め役のような男が大声で呼び止めるが最早止まらない。振り返ることもなく路地に入っていった。

 これをきっかけに他の連中も一斉に逃げ出した。


「お前ら!待て!戦え!」

「うるせぇ!俺は死にたくねぇ!戦いたきゃ1人でやれ!」


 纏め役のような男を残して全員が路地へと逃げていった。


「くそ!どいつもこいつも役に立たねぇやつらだ!」

「で、お前はどうする?」

「ちっ。さすがに俺1人じゃ3人を相手に勝てるわけねぇ。逃げさせてもらうぜ。」

「好きにしろ。」


 男は剣を構えたまま後退し、路地の横に着いた時点で路地へ走っていった。

 これで目の前にいる敵はいなくなった。後は逃げるだけだ。クインティナとエイミィが駆け寄ってくる。エイミィがカナメの顔の血を拭う。


「カナメくん。今、どういう状況?」

「石壁を作ってアルベルトを向こう側に置いてきました。でも、そう長く持つとは思えません。そろそろ逃げましょう!」


 その時、石壁の方から声がした。


「逃さねぇぞこの野郎!」


 どうやったのか知らないが石壁をアルベルトが飛び越えてきた。着地した瞬間に周囲に雪が舞い上がる。

 3人はカナメを中心にアルベルトへ向き直る。


「おいおい。全滅してんじゃねぇかよ。ようやくちょうどいい箱を見つけて登ってきたってのに。って数が少ないな。さては逃げたな?」


 そこら辺に置いてある箱を踏み台にしてよじ登ってきたようだ。破壊されるのではないかと思っていただけに、意外と普通の方法で拍子抜けした。

 それにしても、この場には戦闘不能となっている者しか残っていないのに相変わらず余裕の態度だ。先ほどまでの勝負を急ぐ素振りも無い。その不敵さが不気味だった。


「見ての通り、お前のお仲間はもう動けないぞ。元気な奴は逃げた。大人しく退散した方がいいんじゃないか?」

「う〜んそうするしかないかなぁ。護衛対象がいなくなったし。何より興が削がれた。」

「それは良かった。お帰りはそちらの路地からでお願いします。」

「とはいえ、手ぶらで帰るのも嫌なんだよ、な!」


 アルベルトが突然投げナイフを投げてきた。だが狙いはカナメではない。クインティナだ。

 クインティナは反応できていない。あまりにも普通に話をしていて、逃げるとまで言っていた時の奇襲だ。想定外だったのだろう。腕で頭を抱えるようにして防御姿勢に入ってしまった。


「くそったれぇ!」


 カナメが投げナイフを杖で弾く。なんとかクインティナに当たりはしなかったが、カナメの体が泳いでしまっている。ここを狙われたら躱せない。

 しかしアルベルトは来なかった。しかしナイフを投げた場所にもいない。どこに行ったのか。エイミィの方を見ると、既にアルベルトが体を伸ばして突きを放つ態勢に入っていた。

 ここにきて投げナイフの意図を理解した。奴は最初からエイミィを狙っていたのだ。クインティナにナイフを投げればこの状況を作れることが分かっていたということだ。ナイフがクインティナに当たれば良し、当たらなくてもカナメを遠ざけることができるので問題無い。確実にエイミィを仕留める手段を採り今に至ったようだ。

 エストックがエイミィの体を貫き外套の裾が後方へ流れる。


「エイミィ!」

「エイミィちゃん!」


 だがエイミィもただではやられない。片手に持った槍を伸ばし突きを放つ。アルベルトが頭を傾けて躱すも頬をかすめたらしい。頬に赤い線ができる。

 エイミィは雪の上に転がった。


「ちっ。こいつも仕留め損ねたか。勘のいい女だ。これ以上はマズイな。時間をかけすぎた。じゃあな。」


 アルベルトが素早く態勢を整えて走り出し路地へと消えた。


「待ちやがれ!逃さねぇぞ!エイミィの仇だ!」


 カナメが激昂して追いかけようとすると後ろから呼び止められた。


「カナメさん!私は大丈夫です!追いかけたらダメです!」


 エイミィの声だ。振り返ると外套に雪を付けた状態のエイミィが立っていた。体を見るがどこにも傷が無い。


「エイミィ!怪我はどうなったんだ!?」

「私は突きを躱したんです。刺されてません。」

「躱した?あの突きを?」

「はい。なんか狙われてるような気がしたので見ていたらこっちに来たので、体を捻って攻撃したんです。そしたら偶然躱せました。正直、何をされたか分かってません。気がついたら外套の裾が破れてました。」

「は、はは。そうか。とにかく無事で良かった。」


 位置関係上、攻撃を食らったように見えてしまっていたようだ。クインティナも同じだったようで、無事だと分かって腰が抜けてしまっていた。

 とにかく、突然始まった最も避けたかった遭遇戦はなんとか乗り切った。今はとにかく休みたい。カナメは激しい疲労感に襲われその場に座り込んでしまった。

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