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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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雪上の戦い①

 なんだ今のは。アルベルトとの距離は3m近く離れていたはずだ。なぜその距離を一瞬で詰められる。


「ほら、ちゃんと動けるじゃん。」


 冗談じゃない。今のは攻撃してくる素振りが見えたから動いただけで、攻撃なんか見えてない。


「2人とも、雑魚を頼む。俺はこいつを足止めする。」

「でも、それじゃカナメさんは――!」

「言うことを聞け!俺しか相手にできない!クインと2人で退路を確保しろ!」

「エイミィちゃん、カナメくんの言う通りよ。あなたなら周りの奴らくらいなら倒せるはず。なにせ、あいつらに私たちを殺す気が無さそうだから。」


 クインティナが言うように、アルベルト以外のゴロツキ共の目はこれから生死を賭けた戦いをする者のものではなく、欲に塗れたものであった。クインティナとエイミィからすると激しく嫌悪する目だ。


「これは、負けるくらいなら死んだほうがマシですね。」

「同感よ。始めから全力でいくわ。エイミィちゃんも隙があれば遠慮しなくていいわよ。」

「分かりました。でも、魔物じゃないから魔法を使う時間がないかも。」

「そうね。とりあえずまぁ、先手必勝ね。木槍!」


 遠巻きに様子を窺っていたゴロツキ共にクインティナは速度重視の魔法を撃ち込む。それを見て避けたところにエイミィが飛び込んで1人の腹部を刺し貫いた。槍を引き抜き横にいる男を狙うが避けられてしまう。槍に付いた血が雪の上に飛び散る。

 エイミィの後ろから男たちが襲いかかってくる。気がつくのが遅れた。捕まる。そう思った瞬間、男たちの前に木製の壁が出現する。突然現れた壁に男たちは痛烈に顔面を打ちつける。


「おーおー、後ろじゃもう派手に始めたねぇ。思ったより槍の子やるじゃん。躊躇無いね。まぁあいつらがだらしないせいかもしれないけど。」

「そこら辺の雑魚相手ならあいつらが負けるとは思えない。」

「ふ〜ん、信用してるんだね。それじゃ、俺らも遊ぼうか。」


 アルベルトが一気に距離を詰めてくる。先ほどとは違い近距離でやり合うつもりだ。

 とはいえエストックのリーチは長い。こちらの間合いの外から攻撃してくるのは間違い無い。

 後ろに下がって回避しようとした場合、2人の所にアルベルトを近づけてしまう。横に回避すれば位置関係が逆転して2人が孤立する。そうである以上、ここに留まるしかない。

 アルベルトの手が動くのが見えた。体を横に傾けると先ほどまで体のあった場所をエストックが通過する。目の前には刺突をしたことで隙だらけとなった胴体が見える。一歩前に踏み込み間合いを詰めようとするが、その前に腕が畳まれた。そして2撃目の準備が整う。あまりにも速すぎる。

 再び腕が伸びる。だが先程と軌道が違う気がする。揺れている。何かまずい。杖を回転させてエストックを上に弾き上げた。


「凄い凄い。この前殺ったやつはこれに反応すらできなかったのに。なかなかいいじゃん。」

「さっきから言ってるこの前殺られた人ってのはザックスのことか?」

「ん?憶えてねぇなぁ。たしかそう呼ばれていたような気がするけど。お仲間2人は最初の突きを躱せなくてすぐ死んじゃったしな。最後の奴も加減した突きをギリギリ避ける程度だったよ。何度か刺しても戦意を失わなかったのは良かったけど、それだけだった。つまらなかったよ。」

「そうやって弄んで殺した挙句、装備品を剥いで売っていたのか?」

「装備品を剥ぐ?そんな面倒なことするわけないじゃん。でも、死体の処理をあいつらに任せたから、あいつらが剥ぎ取って売ったのかもな。そこまでは俺も知らねぇ。」


 最低だ。何らかの理由で遭遇してしまったザックスたちはアルベルトの楽しみのために殺されたのだ。そしてその後にゴロツキ共に装備を剥がされて売られた。救いがなさすぎる。


「とりあえず、お前がいけ好かない殺人狂だということは分かったよ。」

「殺人狂だなんて失礼だな。せめて戦闘狂と言ってくれ。」

「嫌だね。できればもう会いたくない。石棘!」


 アルベルトの足元の雪から光が漏れ、雪を突き破って石の棘が飛び出した。だがアルベルトは後方へ飛び退いて躱す。

 着地した勢いをそのまま前進する力に転換し再び距離を詰めてくる。立ち上がっている石棘の横を回り込み斜め前方からの突きが放たれる。いや、突きではない。横薙ぎだ。だが刺突武器での横薙ぎなど大した脅威ではない。杖で受け止めたが、妙な感覚を覚え目を向けるとエストックが杖を支点にしなり先端がカナメの顔面に迫ってきていた。咄嗟に頭を回転させる。風切り音とともにエストックが鼻先を掠めた。血の臭いがする。

 態勢を崩しながらアルベルトの足元に小さな穴を作り出す。アルベルトは足を取られてバランスを崩すがすぐに立て直し間合いを詰めてくる。

 カナメも態勢を立て直しアルベルトへ向かう。エストックは槍なみに長い武器だ。距離を取ろうとすればかえって向こうの間合いになってしまう。ならば、敢えて距離を無くしてしまう方が安全だ。一気に距離を詰めてアルベルトに肉薄する。

 カナメの予想外の動きにアルベルトは対応が遅れる。杖による振り降ろしをエストックで受け止めた。

 これを好機と見たカナメは瞬時に石槍を手の中に作り出し、腹部を狙う。だがこれを寸でのところで回避された。前蹴りを食らい強引に距離を離された。


「いやいや、きみ、本当に魔法使い?あそこで近づいてくるかね。しかも腹を刺しにきたよね。近接戦に慣れすぎでしょ。」

「剣を持たずに魔法で戦うヤツが魔法使いじゃなくてなんだって言うんだよ。」

「まぁそうなんだけどさ。槍の生成速度からすると普段から作ってるんだろうし、その槍での奇襲がきみの奥の手なのかな?楽しいねぇ、こういう変なヤツと戦うのは。」

「お前に変なヤツ扱いされるのは心外だな。」

「まぁそう言うなよ。それにしても、きみに槍があるとなると迂闊に近づけなくなったなぁ。」

「よく言うぜ。お前の間合いなんか長すぎて近づく必要無いじゃないか。」

「それを言ったらきみもだろ?槍と魔法のどっちが来るか分かんないなぁ。」

「白々しいことを。とにかく、お前は後ろの2人に近づけさせない。」

「その気概はいいけど、その2人はもう捕まってるよ?」


 嘘だろ?たしかにさっきから2人の声が聞こえないけど、そう簡単にやられる訳が無い。

 思わず後ろを振り返る。そこにはゴロツキの剣を弾き返して突きを繰り出すエイミィと、蔓状の木材でゴロツキを簀巻きにして拘束しているクインティナがいた。騙された。

 向き直ると風切り音が聞こえ、目の前にエストックとは違う物が見えた。体を横に傾けつつその物を杖で打ち据えた。金属音が聞こえ雪の上に銀色の刃物が落ちた。投げナイフだ。

 正面から踏み込む足音が聞こえる。しまった。態勢を崩されたうえに目線まで投げナイフに誘導された。

 受け切れないと判断し態勢を崩した際の勢いを利用して雪の上を転がる。


「ちぇっ。躱されちゃった。でも、まだまだ行くよ。」


 地面に伏した状態から立ち上がる前に上から突きが降り注ぐ。これを転がりながら回避するも、これがそう長くもつものではない。手を地面に付けたタイミングで魔力を流し体の下に石柱を生成。魔法の力で強制的にアルベルトから距離を取り立ち上がる。


「逃げられたか。しかしまぁよくそこまで機転が利くもんだね。」

「必死なんだよ。それより、戦闘を楽しみたいとか言って随分姑息な手を使ってくれるじゃねぇか。」

「まぁ俺も仕事だからね。楽しみたいけど確実に殺らなきゃいけないんだよ。でも、結構時間経っちゃったからそろそろ終わらせたいんだよね。」

「俺は今すぐにでも逃げ出したいんだが?そうすれば早く終われるぞ。」

「それはできない相談だ。さっきも言っただろ?目撃者は殺さないといけないんだ。ここからは仕留めに行く。じゃあね。楽しかったよ。」


 アルベルトの雰囲気が変わった。仕留めに来るというのは本当のようだ。

 カナメは手に魔力を込めて魔法の準備を始めた。

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― 新着の感想 ―
土壁とかでパーティー全員囲めば済む話だと思うか
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