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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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望まぬ遭遇

 巡回依頼3日目。警備隊の事務所に行くと、隊員から今後の方針について伝達された。昨夜の報告に基づいて警備隊が裏取りを開始したが、その捜査の邪魔にならないよう昨日の路地裏付近は巡回コースから外すようにしろとのことだった。

 もとよりそのつもりだったため、この指示は渡りに船だった。これでアルベルトと遭遇する可能性は低くなった。3人はほっと胸を撫で下ろした。

 このような事情で巡回コースから昨夜の路地裏付近を外した。外すよう指定された場所は担当区域の壁側一帯だった。思っていたよりも広範囲だ。

 残っている区域を見ると、初日と2日目に巡回した場所とまだ行っていない川沿いくらいしか残っていない。川沿いには船での運搬で使用される波止場がいくつかある。ただ、夜間は立ち入り禁止となるのでそこは行かなくていいという。本当に川沿いを歩くだけでいいそうだ。

 そんなわけで、今は川沿いを歩いている。事務所を出た辺りで雪がちらつき始めた。クインティナのとんがり帽子に雪が付着し白と黒のまだら模様になっている。

 雪が積もり始めたこともあり、カナメの持つランタンの光が反射して周囲はいつもよりも明るく感じる。時折、川の方に異常が無いか確認するため、川沿いに設置された腰高くらいのフェンスから身を乗り出して確認する。3mほど下には人が歩けるようなスペースがありネズミが走っているのが見える。積もったばかりの雪に小さな足跡と尻尾の跡が残る。


「それにしても寒いですね。降り始めた雪がすぐに積もっちゃいました。」


 エイミィが寒そうに手をさすっている。槍を持つ手が濡れて真っ赤になってしまっている。


「まさかこんなに降ることになるとはな。傘を持ってくれば良かった。」

「本当ですね。頭にも積もってきちゃってます。」


 自分の頭に着いた雪を払ったあと、ついでにとカナメの頭や肩の雪も払う。


「ありがとな。助かる。」

「いえいえ、どういたしまして。」

「エイミィちゃん、私の雪も払ってくれると嬉しいなぁ。」

「何言ってるんですか。カナメさんは杖とランタンで両手が塞がってますけど、クインさんは片手が空いてるじゃないですか。」


 クインティナを見ると黒い部分がかなり減っていた。ここまで積もっていてなぜ帽子のつばが折れないのか不思議だ。


「も〜、ケチ。」


 頬を膨らませて文句を言った後、体を猫のように震わせて帽子とローブに付いた雪を振り払った。一瞬にして元の黒尽くめに戻る。


「器用ですね。そんなことができるならエイミィの手を借りるまでもないじゃないですか。」

「何言ってるのよ。自分でやったらそれまでだけど、人にやってもらえば心も暖かくなるのよ。」

「は、はぁ⋯⋯。」


 分かったような分からなかったような、変なことを言い出した。思わず生返事しかできなかった。


「クインさん!それ、凄く分かります!さっきはごめんなさい!次からは遠慮無く言ってくださいね!」


 エイミィにはなぜか刺さったようだ。女同士通じるものがあるのだろうか。


「やっぱりそうよね。じゃあ次はお願いしちゃおっかなぁ。」


 クインティナがエイミィには見えないような角度でこちらを見たと思ったらニヤリとした。エイミィに刺さりそうなことを言って誘導したということか。悪い人だ。


「分かりました!その時は言ってください!その代わり、私の時もお願いします!」

「え?」

「後で私の頭に積もった雪を払うのを手伝ってくださいね!」


 クインティナが驚いたような顔をしている。だが当たり前だ。やってもらうなら、やり返してあげるのが仲間というものだ。

 予想外の反応に困惑しているクインティナを傍目に周囲を見る。このような雪の日に歩いているのは自分たちくらいなもので、通りに人はいない。あまりにも人がいないせいで自分たちの話し声が近所迷惑にならないか不安になるくらいだ。

 先ほど下を覗いた所からだいぶ歩いてきたので再び川の方へ身を乗り出す。ランタンの光で下の通路が照らされる。先の方に人が通れるようなトンネルのようなものが見える。そういえば、昨日の老人の話によるとどこかに隠し階段があるという話だった。きっとこういう場所に降りるために作られたのだろう。後から作るのは難しそうなので作業員の点検用なのではないかと考える。

 だが、ここで違和感を覚える。トンネルの前だけ雪が積もっていない。水が流れているわけではない。トンネルから川への1m位の距離だけ雪が無く、その周辺に人の足跡がいくつか見える。まるで大勢の人に踏み荒らされたような感じだ。密漁にしては足跡が多いように思える。


「2人とも、ちょっとこっちに来てください。」


 未だにじゃれている2人を呼び寄せ下のトンネルを見せる。


「あれ、どう思います?」

「足跡ですね。」

「足跡ね。なんか、大勢歩いたように見えるわ。川から何か運んだのかしら。」

「こんな夜中に、わざわざこんな場所で物を運んだりしますかね。荷物の積み下ろしをするには不便すぎますよ。」

「川から通路までだいぶ高さがあるものね。それにも関わらずここを使ったということは、普通のルートを使えないということよね。となると、おそらくこれは――」

「密輸の可能性が高い、ですね。何を運んだか知りませんが、警備隊へ報告した方が良さそうですね。」


 3人はフェンスから体を上げ、顔を見合わせて頷く。その瞬間、カナメの後ろから雪が軋む音が聞こえた。振り返ると風切り音とともに何かが自分の顔に向かってきた。反射的に顔を横に傾ける。頬が痛い。何かが流れる感覚がある。


「ヒュ〜。今のを躱すとはね。なかなかやるじゃない。」


 目の前には1人の男がいた。細長い剣で突きを放った姿勢のまま止まっている。どうやら、こいつに攻撃されたらしい。

 杖で剣を弾いて横に逃げる。

 痛む頬に手を当てると何かが手に付いた。見ると手が赤く濡れている。血が流れていた。


「カナメさん!」

「大丈夫。かすり傷だ。気をつけろ。こいつはヤバい。」


 クインティナを後ろに下げてカナメとエイミィが前に出る。


「へぇ~。面白いな、お前。魔法使いなのに前に出てくるのか。まぁ女主体のパーティーである以上、男のお前が前に出るのは仕方ないか。」


 男は余裕の表情で剣を構え直す。目元までかかるボサボサの髪のせいで視線が読めない。改めて見ると、その剣は異様に細長い。エイミィの槍ほどの長さがある。そして形状は最早斬撃を考えていない。刺突に特化している。

 あまりにも特殊な武器ゆえにカナメは眉をひそめる。


「エストックだと?」

「なに?知ってるの?」

「刺突専用の武器です。普通は騎馬した騎士が使う物です。それをこの状態で使うということは、余程の自信があるということです。」

「刺突専用?まさか……。」

「おい、お前。なぜ攻撃してきた。さっきは明らかに殺しにきていただろ。」


 物凄く嫌な予感がしつつも攻撃された理由を問いかけた。


「おかしなことを聞くねぇ。まぁいい。殺される理由を知らないのは可哀想だからな。きみたちは今、俺らの仕事を見てしまった。目撃者は生かしておけない。だから、死んでもらう。そういうことだ。」

「仕事?何の話だ?」

「おいおい。誤魔化しても無駄だぜ?さっきそこから下を覗いていただろ?密輸の可能性が高いとか言っていたじゃねぇか。」

「密輸だと?何の?」

「そこまで教える義理はねぇな。それに、こっちも急ぐ身でね。話してる時間が勿体ないんだ。確実に殺らせてもらう。おい!お前ら!囲め!」


 男が声を上げると、近くの建物から10数人の男たちが出てきた。皆武装している。そのうちの1人が全体に指示を出す。


「こいつらの相手は俺らがやる!ブツだけは先に持っていけ!ビョルン、護衛を頼んだぞ。」


 ビョルンと呼ばれた黒髪長髪の魔法使い風の男は無言で頷くと、数人の男たちと暗闇に消えていった。


「ビョルンって言いました?ということはもしかして……!」


 エイミィの声が低くなり、目つきが鋭くなった。槍を構える手に力が入る。


「まずいぞ。アルベルトだ。」


 目の前の男はザックスを殺したであろうアルベルトで間違い無いはずだ。まずい。遭遇したら逃げるということにしていたのに、ゴロツキ共に囲まれて逃げられない。しかも、警備隊の事務所はアルベルトのいる方向だ。後方は壁方面なので、そちらに逃げると敵の巣窟に突っ込むようなものだ。退路を断たれている。


「お、きみたち、俺を知ってるの?もしかして昨日路地裏に来ていた奴らかな?」

「そうだよ。昨日は見逃してくれてありがとな。今日も見逃してくれると嬉しいんだけどな。」

「それは無理な話だ。だってお前、楽しそうじゃん。この前殺った3等級の傭兵より楽しめそうなんだよな。だから、遊ぼうぜ?」

「困ったな。俺は2等級だぞ?傭兵になってからは1年も経ってない新人だ。ご期待に沿えるとは思えないんだが。」

「へぇ~。2等級なのか。その割には落ち着いてるじゃないか。さっきの突きも避けてるし、間違い無くこの前の奴より強いよ。」

「そんなことはないさ。今も足が震えてて立ってるのがやっとなんだぜ?」

「またまたそんなこと言っちゃってぇ。嘘はダメだ、よ!」


 瞬間、アルベルトの体が大きく沈みこんだ。手が動いたような気がする。咄嗟に後ろへ下がると、目の前にエストックの先端が現れた。


「ほら、ちゃんと動けるじゃん。」


 アルベルトが不敵に笑った。

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