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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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警備隊への報告

「君たちねぇ、困るんだよ。昨日に続いて今日も通報が来てるんだよ。まさかと思って来てみたら、そのまさかじゃない。しかも今日は棺が2個ときた。なんだい?1日1個ずつ増やす気かい?明日は3つか?従者は大変だよなぁ〜。」


 カナメたちは通りの真ん中で警備隊員に怒られていた。理由は単純だ。『魔女と従者が棺を引いて歩いている』と通報されてしまったからだ。


「申し訳ありません。」


 クインティナが謝っている。この件に関しては完全にクインティナの落ち度だ。言い訳がきかない。


「それで、また中毒者を捕まえたのか?」


 どうせ生け捕りにしてもすぐ死ぬから捕まえる意味なんか無いのにとでも言わんばかりだ。


「いえ、2人とも中毒者ではありますが、軽度だと思います。遭遇時は会話ができました。喧嘩中だったので取り押さえて尋問していたところ、このようなことになってしまいまして……。」


 クインティナが木棺の魔法を解除する。通りに中毒者2人の体が現れる。その姿を見て警備隊員の顔が強張る。


「生きてるんだよな?」

「生きてはいます。ただ、凄く呼吸が弱くなっているので予断を許さない状況です。この状態で少ない人数で運ぼうと思ったら、あの方法しかなくて。」

「分かった。やむを得ない状況だったんだな。怒って悪かった。とにかく、こいつらはすぐに病院へ搬送しよう。まずは事務所に連れて行くぞ。それにしても、こんな中毒症状は初めて見た。」


 それはそうだろう。薬の影響ではないのだから。

 上手いことクインティナが魔法の影響であることを隠し、そのうえ木棺を使ったことまで正当化した。よくそこに話をつなげられるものだと感心してしまう。


「ところで、この2人が意識を失う前に、薬物の取引場所を教えてくれました。その件について報告をしたいのですが。」

「なんだと!?そしたら事務所に戻り次第調書を取るから、急いで事務所に戻るぞ!」


 そう言うなりカナメを呼び寄せ片方を背負わせると、自身も1人を背負って走り出した。呼吸が弱くなっている人間を扱うとは思えない雑さだ。

 事務所に着くと当直の警備隊員が2人奥から出てくる。簡単に状況を説明して中毒者を引き渡すと、当直の警備隊員は中毒者を背負って病院まで走っていった。いくら中毒者とはいえそんな扱いでいいのかと心配になる。

 残った警備隊員が調書の準備を終えたので、カナメが報告を行う。見聞きしたことの全てを話した。薬物の取引場所、用心棒の存在、ザックスらパーティーはこの用心棒に殺害された可能性が高いこと、そして『カシラ』なる人物の存在。

 ここまで話し終えると、警備隊員は難しい顔をして腕を組んだ。


「随分、危険なことをしてきたね。あまり褒められたことではないけど、この情報量だとそんなことがどうでも良くなるな。危険な橋を渡った甲斐があったということか。とにかく、これはすぐに本部へ報告する。きみたちは引き続き巡回任務に就いてくれ。」


 警備隊員が支度をして詰め所に報告するため走っていってしまった。


「ねぇ、どうする?」

「どうするも何も、とりあえず巡回するしかないですよ。」

「でも、事務所に誰もいなくなっちゃうのは良くない気がします。」

「そうなのよね。巡回しないとサボってるように見えるし、巡回に行くと事務所が空になって危ないし。どうしたものかしら。」


 結局、誰か1人が事務所に残って、他の二人が近場の巡回をすることにした。

 しばらくすると病院へ行っていた警備隊員が戻ってきたので、再び3人で巡回をすることにした。その後は危険なことはせず、事務所からそう遠くない場所を回った。それでも路上に寝ている酔っぱらいを起こしたり大声で騒いでいる酔っぱらいを静かにさせたりで忙しかった。こういう時、カナメは活躍できない。酔っぱらいを起こす時はなぜかエイミィが最も効く。騒いでる酔っぱらいはクインティナが効く。後者は出で立ちが不審者だからじゃないかと思うが、前者は謎だ。子どもに起こされたような気分になってしまうのだろうか。

 ちなみに、カナメがやると両方とも逆上させてしてしまう。「うるせぇ」「黙れ」ならまだいい。「家に帰って母ちゃんのミルクでも飲んでやがれ」と言われた時は思わず笑顔で白煙を出しそうになった。小さい頃に死んでるんだよ、その母親が。エイミィに止められなかったらどうなっていたことやら。そんなことがあってから酔っぱらいの対応は2人に任せることにした。

 酒場が近くにあるというわけでもないのにやたら多い酔っぱらいの相手をしているうちに夜が明けた。この区域での2日目が終了した。

 事務所に戻ると先ほど報告に走った警備隊員が戻ってきていた。向こうの反応がどうだったのかを訊いてみたところ、かなり慌ただしく動き始めたそうだ。今まで大きな手掛かりがなかったところに舞い込んだ情報だったためその情報の裏取りをするらしい。すぐに動いて貰いたいものだが、仕方ない。

 事務所を後にして帰る途中、クインティナが珍しく不安を口にした。


「たぶん、警備隊が摘発に動くのってしばらく後よね。このまま巡回してて大丈夫かしら。」

「どういうことですか?」

「だってさ、それまではあの薬を売ってるやつらが野放しじゃない。ていうことは、ザックスたちを殺したヤツがその辺をうろついてるのよ。で、そいつは荒事を望んでいる。そんなの、向こうから来てもおかしくないじゃない。」

「いや、さすがにそんなことはないと思いますよ。アイツだって用心棒なんだから、自分から探しに来るようなことはしないですって。」

「でも、ザックスたちは殺られたのよ?あんな路地裏にいるようなヤツに。普通はあんな所に入らないから、現場は別の場所だと思うのよね。」

「そういうことですか。となると、アイツは街の何処かに現れることがあるって言いたいわけですね?」

「そうなのよ。カナメくんが勝てそうにないなら、誰も勝てないわよ?」


 さっきの話では、投げナイフを投げたアルベルトはザックスと思われる3等級の傭兵を何度も刺したらしい。このことから推測するに刺突が得意か刺突特化型の武器を使用している可能性が高い。

 それを考えると、クインティナは魔法を発動させる前に投げナイフを食らえば終わりだ。大した防具も装備していないクインティナなら、どこかに命中すれば刺さる。刺されば怯む。怯んだら刺される。容易に想像できる流れだ。

 エイミィはおそらく近接戦で太刀打ちできない。ほぼ同種の武器での戦闘になることが想定されるが、練度が違うはずだ。それに、彼女の魔法は街の中で使える代物ではない。周囲の被害を顧みなければ勝てるかもしれないが、エイミィがそれをするとは思えない。ゆえに勝てないだろう。


「たしかに、そうかもしれません。もし出会ってしまったなら全力で逃げましょう。エイミィもそれでいいな?」

「悔しいですが、仕方ないと思います。私は槍ではまだそれほど戦えないですから。魔法の威力の調整も上手くできないなら、勝ち目はないです。」


 エイミィは俯きながら答える。

 意外なことに、彼女は自分の力量と相手の力量を冷静に分析していた。感覚派の彼女からは考えられない反応だった。


「なんですか?私、そんなに変なこと言いました?」

「あ、あぁ、悪い。思っていたより冷静だったから。」

「私だってそれくらいのことは分かります。あの人がどれだけ強いかは分かりませんが、3等級の方が弄ばれたようですから圧倒的に強いんだと思います。たしか殺られた方の中には魔法使いもいたと思いますが、その人も魔法を使う前に殺られたのであれば魔法の練度も低い私じゃどう頑張っても無理です。」

「そうか。そこまで分かっていれば大丈夫だ。その用心棒、アルベルトと対峙するようなことがあったら逃げよう。」


 万が一のことを想定した対応を決め、それぞれの宿屋へ戻っていった。

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