報酬の重みと今後
革鎧を買ってから数日後、3人はギルド出張所に来ていた。今回は呼び出されたわけではない。報酬を受け取るためだ。捜索依頼の報酬と、途中で倒した魔物の報酬だ。討伐証明の査定自体は帰還後に行っていたのだが、捜索依頼の査定が残っていたので報酬の支払いが先延ばしになっていた。これを遂に貰えることになったのだ。
正直なところ、カナメにはこの話はありがたかった。革鎧を買ったことで経済的にキツくなってきていた。何せ今は怪我の影響で仕事を受けられないのだ。このまま報酬が年明けまで払われなかったら野宿せざるを得ない恐れがあった。
「さて。それじゃあ報酬額を報告するわね。」
出張所のロビーにあるテーブルを囲み報酬について話し始める。
今回は金額が大きくなるということもあり、代表者に報酬額を通知する紙が渡された。当然のようにクインティナが受け取ってきた。紙に書いてある内容を見て少し驚いているように見えた。
「今回の報酬は、まずは魔物討伐分から。
ゴブリン:10匹=50,000ルク
ファングウルフ:5匹=50,000ルク
アクアリザード:200,000ルク
ハンタークロウ:200,000ルク
合計で500,000ルクね。」
「おぉ~。さすがに報酬が上がりましたね。これで年が越せそうです。」
「なに?そんなにお金無かったの?」
「怪我で仕事を受けられないから減っていく一方なんですよ。」
「革鎧を買ったあと、後悔してましたもんね。」
「何やってんだか。お金は計画的に使いなさいね。じゃあ次、正規報酬ね。
タグ回収:500,000ルク
救助:200,000ルク
合計で700,000ルクよ。」
これにはカナメもエイミィも声を出せなかった。その報酬の差額が意味するものの重さ、そして無情さを感じてしまう。
「2人とも、思うところはあると思うけど、この報酬額の重さを考えて受け取りましょう。」
クインティナの言葉に2人は無言で頷く。
「それで、報酬の配分だけど、私は少なめでいいわ。あまり戦闘で役に立てなかったもの。」
「いえ、ダメです。僕としてはクインさんが多めでもいいと思ってます。」
「私もそう思います。たしかに私はアクアリザードを倒しましたし、ホブゴブリンも倒しました。でも、それはクインさんがいたからできたことです。」
「クインさんがいなかったら、僕らは間違い無く死んでいます。仮に生きていたとしてもケントを助けられなかったでしょう。戦闘面以外での貢献度が圧倒的に高いです。」
「そうですよ。私なんて戦闘面以外では何もできず、ただ2人の後をついて行ってただけなんですから。」
「あら。私はエイミィちゃんの存在には随分助けられたわよ?あなたが感情的になることで、私は冷静になれたんだから。」
「たしかに、エイミィがいたことで冷静になれたのはあったかもな。それに、エイミィがいなかったらどんどん気持ちが落ち込んでいっていたんじゃないかと思う。」
「だからエイミィちゃんは自分を卑下する必要は無いわ。見えない所でちゃんと役に立ってるから。」
「ま、その代表格がクインさんなんですがね。」
「何が代表格よ。3人しかいないのに。分かったわ。2人がそう言うなら、納得するしかないわね。じゃあ、平等に分ける?」
「そうしてください。」
「私もそれがいいです。」
報酬の配分が決まったところで、カナメは先ほどから気になっていることを訊いてみることにした。
「ところでクインさん。その帽子、新しく買ったんですか?」
クインティナは今まで被っていなかった帽子を被っている。ツバが広く頭頂部がとがっているような黒っぽい帽子。俗にいうとんがり帽子だ。
「ふふふ。やっと触れてくれたわね。このまま何も言われないのかと思ったわよ。この帽子、実は昨日買ったの。魔法使いっぽいでしょ。」
クインティナは得意げに話し、ツバに手を当ててポーズを取っている。余程気に入っているのだろう。
彼女は時折こういった物の選び方をする。『魔法使いといえば』という物を買いがちだ。実用性など関係無い。とにかく魔法使いのイメージに沿うような物で身を固める。その代表例がローブだ。
「クインさんらしいですよね。」
「どんどん絵本の中の魔法使いに似てきますね!」
「そうでしょ〜。3等級になったから自分へのご褒美として買っちゃったんだ。それにね、帽子のこの部分を見てよ。この模様が気に入ったのよね。」
クインティナに促されて帽子を見る。指差されている箇所はツバと本体の間にあるスベリと呼ばれる布だ。頭部を一周するその細長い布には小さな模様が規則的に並んでいる。
「あれ?これってまさか⋯⋯。」
「そう、燕よ!飛燕の燈火なんて名前にしたんだから、装備品にも燕の模様を入れたいじゃない?でも、表にデカデカと書いてあるのは嫌だから、ワンポイントで入ってるものがないかなぁと思ってたのよ。そしたらちょうどいいのがあったってわけ。」
「それ、分かります!私たちもこの前燕の模様が入った革鎧を買ったんです!」
「あら。あなた達も燕の模様入りのを買ったのね」
「僕は嫌だったんですけどね。」
「カナメさんは嫌がっていましたが燕の模様入りにさせました。」
「あれを燕と言っていいのか分からないけど。」
「へぇ~。今度2人のやつ見せてよ。」
「いいですよ。でも、怪我の関係で年内は討伐依頼を受けられそうにないからあれを着る機会も無さそうなんですよね。」
「たしかにそうですね。私も早く使いたいんですけどねぇ。」
「そういうことなら、ちょうどいいのがあるじゃない。もうしばらくすると警備とか巡回の依頼が増えてくるけど、それなら多少の怪我なら受けられるわよ。」
「なるほど。それなら完治する前から受けられそうですね。でも、なんでこの時期になると増えるんですか?」
「年末になるといろんなお店で年越し用の物を売るじゃない。その時の売り上げを狙ってるのよ。」
「へぇ~。街ってそんなことやるんですね。村では祭りくらいしかなかったから考えもしなかったです。」
「カナメくんのいた村って思っていたよりも田舎なのね。まぁいいや。とにかく、カナメくんの怪我が治りかけた頃にその手の依頼が増えるから、その時に依頼を受けましょ。それがパーティー名決定後の初仕事ね。それでいい?」
異論はなかった。カナメにしてみれば迷惑をかけている立場なので何かを言えるわけもない。
警備や巡回の仕事はもうしばらくすると増えるということなので、それまでは各自待機となった。待機中は仕事を受けてもいいということにしたが、許可なく街を離れるのは禁止とした。用事のある時に数日間不在となったりすると都合が悪いためだ。
各自報酬を受け取り解散となる。クインティナとエイミィは軽く常設依頼を確認してから帰るとのことだった。
カナメは1人で通い慣れた道を歩いて宿屋へ戻る。道の端にある雪は未だ山積みとなっている。
「年末、か。」
年末の村のことを思い出す。
広場の中央に薪を組み上げ巨大な焚火を作り、その周りで村人たちが宴会を行っていた。皆で持ち寄ったご飯を食べ、楽器を奏で、踊りたい者は焚火の周りで思い思いに踊っていた。その時ばかりは子供たちも夜遅くまで起きて走り回っていたものだ。
そのようなことを思い出し、懐かしく思う。そういえば数ヶ月前の手紙にアンさんが子供を産んだと記されていた。男の子だったそうだ。自分に兄弟ができたということに違和感を覚えた。
「一度帰ってもいいのかな。」
年越しの時くらいは村に帰ってもいいのではないか。そんなことを思うが、街の年越しがどんなものかも気になる。どちらも捨てがたい。この件については急ぐ必要も無いので、もう少し考えてから結論を出すことにした。
森の狩人捜索編、完結です。
皆さん、アンさんを忘れてないですよね?
カナメの継母ですよ。




