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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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初会議

 ギルドへ捜索依頼の詳細を報告した3人は、一旦ロビーで今後の予定について話し合うことにした。

 夕方の傭兵ギルド支部。そろそろ仕事を終えた傭兵たちが報告に来る時間帯。今は空いているが、もうしばらくすると人で溢れるだろう。そうなる前に話し合いを終えるか、場所を移すかしないといけない。


「さて、報告も終えたことだし、今後について話し合いましょ。」


 クインティナが話を切り出す。


「今後、このパーティーが活動を続けるにあたって確認したり決めないといけないことがあるわ。1つ、パーティー名。2つ、カナメくんの秘密の共有。3つ、活動方針。」

「僕の秘密の共有っていうのが納得できません。」

「何言ってるのよ。この数日で秘密を幾つも暴露しておいて。」

「そんなに秘密にしてたことなんてないですよ。杖くらいです。」

「他にもエイミィの槍のこととか、教会絡みの話があったでしょ。」

「あぁ〜、ありましたねそんなこと。」

「どうでもいいことのように言ってるけど、私にとっては衝撃的だったんだからね。」

「私も驚きました。教会の話は常識的には考えられない話だったので。」

「まさか、エイミィまで俺のことを変人だと?」

「い、いえ!そういうわけではなく、そういう考えもあるんだなという意味で驚いたってことです!」

「良かったわね、エイミィちゃんがいい子で。とにかく、これ以上後になって驚くのは嫌だから洗いざらい話してもらうわよ。」

「なんか納得いかないですね。まぁでも、パーティーを組む以上は僕からも話しておかないといけないことがあるので、秘密を話すのではなく意識を共有するという意味では賛成です。ただ、それは人の少ないところで話したいですね。」

「そう言えば昨日そんなこと言ってたわね。」

「あまり多くの人に聞かれたくないので、場所を変えましょう。」

「分かったわ。じゃあお茶でも飲みながら話しましょ。」


 簡単な話し合いを終えギルドを後にする。

 パーティー初会議となる店は図書館近くにあるクインティナおすすめのカフェだ。なんでも、図書館に行って特に疲れたと感じた日はこの店に来るらしい。静かな店内で街の空気を感じながら飲むハーブティーが絶品だとか。ただ、今日は全員で話し合う日なので静かすぎると迷惑になる。どうするつもりなのかと思ったら、クインティナがお店の人に話をすると2階席に通された。2階席と言ってもテーブルが2脚しかなく8席分くらいの狭い部屋だ。通りに面してガラス製の窓が張られていて景色がいい。クインティナがなぜこんな場所を知っているのかと訊いてみたら、1階が満席の時に通されたことがあったからだという。

 それぞれが注文した飲み物が席に届いたところで話し合いが始まった。


「さて、それじゃ、カナメくんが話しておかないといけないことについて教えてもらおうかしら。」

「分かりました。クインさんには以前話しましたが、僕が傭兵になった理由は行方不明の魔法の師匠である9等級傭兵のカミュを探すためです。」

「え?カミュ?それって銀騎士のカミュさんですか?」

「ん?エイミィ、カミュさんを知ってるのか?」

「はい。私が憧れて、傭兵になりたいと思ったきっかけの方です。町の外でゴブリンに襲われたところを助けて貰ったんです。」

「あの人らしいな。やっぱり剣と魔法で助けられたのか?」

「いえ、私は魔法だけでした。石の塊が飛んできたと思ったらゴブリンの体がなくなってました。」

「うわ、何その威力。えげつないわね。」

「あの人の石弾はそんな感じですよ。まともに3発食らった盗賊は防具を着けていたのに形が残ってなかったですからね。エイミィ、ちなみにそれって何年くらい前の話だ?」

「えっと、私が10歳の時の話だから4年前ですね。」

「ん?だとしたら5年前だろ?」

「いえ、4年前です。」

「え?」

「エイミィちゃん⋯⋯。」


 一瞬、時が止まった。エイミィが計算を間違えたのかと思った。横でクインティナが頭を押さえてため息をついている。これで確信した。この2人、隠し事をしている。


「2人とも、何かとんでもない隠し事をしてるな?今の話だと、エイミィは14歳ということになって、傭兵になれないはずなんだが?」

「⋯⋯あ!」


 エイミィが口に手を当てて驚いたような顔をしている。いや、これは『やってしまった』という顔か。


「い、いいいえ、まままちがえました。5ネンマエデス。」

「その狼狽えっぷりで間違えたってことは無いだろ。白状しろ。年齢詐称したな?」

「うぅ⋯⋯。はい。どうしても傭兵になりたくて。」

「なんであと1年待てなかったんだよ。」

「反対した親が、私が傭兵になれないように商人見習いの修行に出そうとしてきたので逃げてきたんです。」

「なるほど。それが昨夜クインさんが言っていたエイミィのえげつない秘密というわけか。クインさんはいつから未成年だって知っていたんですか?」

「はぁ⋯⋯。1ヶ月くらい前からよ。カマかけたら引っ掛かったの。」

「本当にそれだけですか?クインさんが確証も無しにそんなことするとは思えません。」

「そうね。あなたの秘密を聞こうっていうのに私が秘密にしてるのはフェアじゃないわよね。と言っても、私の秘密というよりエイミィちゃんの秘密なんだけど。私がエイミィちゃんの年齢について知ったのは先輩からの情報がきっかけよ。ヤードの町から帰ってきた先輩が、傭兵になりたいと言って家を飛び出した青緑色の長い髪の女の子を探している夫婦に会ったって言っていたの。その女の子の名前はエイミィで年齢は14歳だ、て。それでピンときてカマかけて聞いてみたら、さっきと同じようにあからさまに動揺したの。」

「そうでしたか。それで、その先輩はエイミィを探していたんですか?」

「断ったらしいわ。ギルドを通していない依頼は受けられないって言って。」

「なるほど。当然の流れですね。この話は誰かに話したんですか?」

「いいえ。話してないわ。ギルドに報告したほうがいいのは分かってるけど、そんな事をしたらエイミィちゃんの魔法が調べられなくなるじゃない。せっかく面白くなってきたのに奪われたくなかったの。」

「状況は分かりました。」

「カナメさん、ここにいたらだめですか?」

「ダメだ。と言いたいところだけど、俺もギルドからお前を教育するように言われているから帰れとも言えない。」

「ということは?」

「好きにしろ。でもこの件で何かあっても俺等は何もできない。それだけは理解しておいてくれ。」

「ありがとうございます!」

「ただ、1つだけやって欲しいことがある。親に手紙を書け。」

「手紙ですか?嫌です。」

「ダメだ。このまま放置しておくとギルドに捜索依頼が入る。いや、既に出てるかもしれない。その捜索にかかる時間を延ばすためにも手紙は重要だ。傭兵になったとは言わず、元気にしてますくらいでいい。それだけでも時間稼ぎにはなる。ここで傭兵を続けたければ親をあきらめさせないといけない。そのために、時間を稼いで簡単には戻れない状況を作り出せ。」

「⋯⋯分かりました。」


 エイミィは渋々といった様子で承諾した。


「まったく。とんでもない事しやがって。何の話をしていたか忘れちゃったじゃないか。」


 珍しく苛々した様子のカナメは、気持ちを落ち着かせるように目の前のハーブティーを啜った。


「それで、あぁそうだ、カミュさんが行方不明になった理由を話そうと思っていたんだ。」

「それ、前から気になっていたのよね。銀騎士のカミュ程の人が行方不明になるっておかしいじゃない。しかも、行方不明になったことが世間に知られていない。本当に行方不明なの?」

「間違い無いと思います。村に来た行商人がそんな噂を聞いたって言ってましたし、何より僕の送った手紙が届かなくなって向こうからも送られなくなったんです。」

「そんなこともあるんじゃない?面倒になってやめちゃったとか。」

「それは無いですね。そうだとしても、父さんに手紙を送ってこない理由が無いです。」

「そういえば、カナメさんのお父さんはお師匠さんと仲が良かったって言ってましたね。まさかカミュさんだとは思いませんでしたが。」

「銀騎士のカミュと仲のいいお父さんってなによ。」

「父さんもカミュさんと同じパーティーだったんですよ。15年くらい前に引退してますが。」

「あなたのお父さん、銀の騎士団のメンバーだったの?」

「銀の騎士団?」

「呆れた。師匠のパーティー名も知らないの?」

「パーティー名なんですか?でも4人しかいないパーティーでしたよ。騎士団っていうほどのものじゃないです。全員銀色の装備で身を固めてましたけど。」

「名前の由来なんて知らないわよ。でも、銀騎士のカミュと言えば銀の騎士団で、メンバーは銀騎士、銀熊、百人斬りが有名ね。まぁ百人斬りは随分前にいなくなったって聞いてるけど。⋯⋯まさか、あなたのお父さんって?」

「父さんは百人斬りって言われるのをすごく嫌がっていましたよ。」

「嘘でしょ?伝説的な剣豪じゃない。」

「百人斬りのハヤテ、私も知ってます。絵本で読んだことがあります。」

「え?あいつ、絵本になってるの?」

「20年くらい前の戦争で大戦果を挙げた英雄として有名です。まさかカナメさんがそんな凄い方のお子さんだったなんて。」

「いやいや、本人からは兵の士気を上げるためにでっち上げられたって聞いてるぞ。カミュさんたちも小馬鹿にするように話していたからそれが事実なんじゃないかと。」

「それでもよ。私たちからすると本の中の人なの。でもこれで腑に落ちたわ。魔法と剣の両方が使えて当然ね。」

「そうですね。子供の頃から百人斬りに剣を教えられていて、短期間とは言えカミュさんに魔法を教えてもらっているんですから。」

「何が『武術は使えません』よ。生粋の剣士じゃない。」

「武器の相談をした時にギルドよりも的確に教えてくれたのはそう言う事情があったからだったんですね。」

「そりゃ杖で殴りもするわよ。剣士なんだもの。剣と同じように扱うわよね。そもそも杖でもないし。」


 女たちが思い思いに話し始めて収拾がつかなくなってきた。一体いつになったら話が進むのか。


「あの〜、そろそろ本題に入りたいんですが。」


 申し訳なさそうにカナメが告げたことで、2人はようやく話すのをやめ、カナメの話を聞くことにした。

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