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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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食べ歩き

 頬を刺すような冷気を感じ目を覚ます。木製の窓からは光が漏れ入っている。光の強さから昼前くらいであることが分かる。どうやら眠りすぎたようだ。

 昨夜、食事をとったはいいものの、それぞれが肉体的にも精神的にも限界が近かったようで食が進まなかった。エイミィは何口か食べたらウトウトし始めていたくらいだ。そのため、早々に解散して帰ることになった。

 眠そうにしているエイミィを宿まで送り届けて自分の部屋に戻ってきたのが日付を回った頃。ドアを開けた瞬間の部屋の臭いには絶望を感じた。だが、それでも疲労が勝った。布団の上に倒れ込むと意識を保つことはできなかった。

 いつの間に布団を被っていたのか疑問に思いつつも、布団から出ようとする。しかし体が思うように動かない。とてつもなく痛い。


「くそ。筋肉痛か。こりゃしばらくまともに動けないな。」


 ベッドに腰を掛けながらボヤく。体の状態を確認すると腕と足がとにかく痛い。そして背中。昨日2人から聞いた話では打撲程度の影響しかないということだった。実際、何の問題もなく動けていた。だがこの痛みは尋常ではない。


「病院、かな。」


 そうと決まれば早速動き出す。痛む体に鞭をうち窓を開ける。冷たい空気とともに日の光が入ってくる。中庭では宿屋の従業員が洗濯物を干していた。それを見て、一緒に服を干してもらえないか考えるが諦める。迷惑になりそうだ。おとなしく窓を開けた状態で出かけることにしよう。早々に支度を終えて病院へと向かった。




「肋骨にヒビが入ってるね。」

「え?本当ですか?」


 ギルド提携の病院の診察室で背中の状態を診てもらうと、思っていたよりも重傷だった。せいぜい酷い打撲程度にしか考えていなかっただけに驚いてしまった。


「本当本当。こんなことで嘘言っても仕方ないでしょ。背骨の近くでヒビが入ってるからしばらくは何しても痛むと思うよ。」


 たしかに、昨日は気にならなかったが、今日は起きてから絶えず痛い。これではしばらく仕事ができないではないか。


「あの、治るのにどのくらいかかるでしょうか?」

「早くて2週間、長くて1ヶ月。無理に動かすと悪化するかもしれないから訓練は禁止ね。」


 1ヶ月も訓練しないなんて考えられない。一体どれほど筋肉が落ちてしまうんだ。何とかして早く治そう。


「とにかく、治るまでは安静にしておくこと。焦ってもいいことは無いよ。いい機会だから、今しかできないことに力を入れなさい。きみたち傭兵は命を粗末にしがちだから、勉強でもして世界を広げるといい。もしかしたら傭兵以外の生き方も見つかるかもしれないよ。きみは傭兵にしては言葉遣いが丁寧だ。悪いことは言わない。さっさと足を洗って別の道に行きなさい。」

「は、はあ⋯⋯。」


 ギルドと提携してる病院なのに転職を勧められた。いいのか?大丈夫なのか?でも、たしかに今しかできないことをやるというのは賛成だ。どうせ体を使う仕事ができないなら、他の仕事をするしかない。それに、今はギルドへの詳細報告やケントの見舞いなんかもある。パーティー関連の話もある。意外とやることは山積みだ。

 カナメは薬草を練り込んだ布の入った袋を貰って病院を出る。ツンとする臭いの布だ。これを痛む箇所に貼れと言うのだが、位置的に厳しい。それに臭い。部屋の中でいろんな臭いが混ざって大変なことになりそうだ。

 そんなことを考え憂鬱な気分になりながら宿に戻ると、宿の前にエイミィがいた。外から宿の中を窺っている。いったい何をしているのか。


「おい、何してるんだ?」

「――ひぃ!」


 後ろから声をかけたら飛び上がって驚いている。


「か、カナメさん!急に話しかけないでくださいよ!」

「じゃあどうやって声をかけろっていうんだよ。」

「そ、それは……。とにかく、驚かさないでください!」

「分かった分かった。で?何の用だ?」

「そうでした!さっき私の所にギルドの方が来て、この後全員で支部に来てくれって言われたんです。その時にカナメさんが不在だったって聞いたので来てみたんです。」

「不在だったら来ても意味ないだろ。それにしても、もうギルドから呼び出しが来たか。何時に行くのか憶えてるか?」

「あ、時間聞くの忘れてました!どうしましょう!」

「危なっかしい奴だな。まぁ大丈夫だろ。たぶんここの受付に伝言か封筒を残していってるだろうから。確認してくる。」


 エイミィをその場に残して宿屋に入る。受付にいる女性に確認してみると、案の定召喚状が届けられていた。数日前にも見たような封筒だ。今回は封蝋がされていないから、不在時用の簡易的なもののようだ。

 封筒を受け取ってエイミィのいる所に戻る。


「なになに。『本日午後3時に傭兵ギルド支部へお越しください。昨日の報告をお願いします。』か。今何時だ?」

「まだ12時前ですね。少し時間が空いちゃいましたね。」

「そうだな。じゃ、飯でも食べに行くか。」

「いいですね!昨日あんまり食べられなかったからお腹すいてたんです!」

「朝飯食べてないのか。」

「いつもは食べるんですけど、今日は起きるのが遅くなっちゃいまして。」

「そうか。まぁ俺もだ。で、起きたら体中が痛くて動けなかったよ。」

「あ、私もそうでした!もう足が筋肉痛で立つのもやっとでした。もしかして、カナメさんはそれで病院に行かれたんですか?」

「お、よく病院に行ったって分かったな。」

「その袋から薬草とかの凄い臭いがしてきているので、そうなのかなと。」


 あの薬の布、そんなに臭うのか。部屋に置いておいて大丈夫だろうか。他の宿泊者の迷惑にならないだろうか。


「病院に行ったのは正解だけど、理由が違うな。背中の怪我の状態を診てもらいに行ったんだよ。起きてからずっと痛いから不安でさ。」

「たしかにそうですよね。胸当てが壊れるくらいの衝撃ですから。それで、どうでしたか?」

「肋骨にヒビが入ってるって。」

「え!?結構酷い怪我じゃないですか!」

「そうなんだよ。だからしばらくは体を使う仕事も訓練もするなって言われた。あと、転職を勧められた。」

「え?なんでですか?」

「さぁ?傭兵が嫌いなんじゃないか?ギルドと提携してるのに。」

「ギルドと提携してる病院でそんなこと言われたんですか?不思議ですね。」

「だろ?予想外すぎて何も言えなかったよ。」

「そんなことを言って大丈夫なんですかね?」

「大丈夫なんだろうな。あんなこと言う人が今まで俺以外に言ったことがないとは思えないよ。ところで、昼飯はどうする?たまには東門の方に行ってみるか?」

「いいですね!東門前の屋台で食べ歩きとかしてみたかったんです!」

「よし、じゃあ決まりだな。この袋を置いてくるから少し待っていてくれ。」


 袋を置きに自分の部屋に戻る。窓を開けたまま外出したので臭いは気にならない。このまま窓を開けておこうか悩むが、帰ってきてから寒いのは嫌なので窓を閉めることにした。

 部屋から戻ったカナメは、エイミィと2人で東門の方へ移動した。

 東門前の通りには屋台が連なっている区域と、その横に雑貨、服飾、装飾等を扱う露店が集まっている区域がある。時間を潰すにはもってこいの場所だ。

 今は昼時ということもあり、通りには肉やタレの焼ける匂いが漂い、包丁のリズミカルな音が響いていた。屋台には人が列を作り、買ったものをその場で食べる者もいれば、持ち帰る者もいる。汁気の多い物を紙に包んで提供している店もあるが、なぜ汁が漏れてこないのか不思議だ。


「わぁ~!凄いですね!私、一度来てみたかったんです!」

「東門に来るのは初めてじゃないだろ。」

「この時間に来るのは初めてなんです!ん〜⋯⋯いい匂いがします!どれから食べましょうか!」


 エイミィは目を輝かせて辺りを見回している。通りの両脇に並ぶ屋台に目移りして行ったり来たりする。何度か往復した結果、最初は王道ということで肉の串焼きを選び列に並ぶことにした。カナメの腕を引っ張り最後尾に並ぶ。カナメが痛みに呻くが気が付かない。カナメの怪我のことなど忘れてしまっているようだ。

 その後、エイミィは串焼きの塩とタレ、チーズたっぷりサンドイッチ、ピンクマッシュスープ、とろけるキノコのコンキリエを平らげ、今は何かよく分からない植物を絞ったジュースを飲んでいる。


「ふぅ〜!どれも美味しいですね!次は何を食べましょう!」

「ちょっとまってくれ。初めて聞く名前の料理が多すぎて頭が追いつかない。ここってこんな謎料理があったっけ。今飲んでるジュースはなんなんだ?怖すぎて買えなかったぞ。」

「これですか?よく分からないけど甘くて美味しいですよ。」


 満面の笑みで美味しいと言っているけど、その『よく分からない』が嫌なんだよ。怖いんだよ。

 そんなことを口にするわけにもいかないので、適当に「へぇ~」とだけ答えておく。エイミィの味覚を信じないわけではないが、嗜好が心配になる。


「楽しんでるところ悪いけど、そろそろギルドに行くぞ。あと30分くらいだ。」

「え!?もうそんな時間なんですか!?残念です。」

「まぁまた来ればいいだろ。」

「そうですね!また今度来ましょう!」

「そうだな。今度はクインさんも連れてこよう。どんな反応するか見てみたい。」

「クインさんがこういう所に来るイメージ無いから面白そうですね。」


 一瞬、なんとなく不満そうな顔をした気がしたが、すぐにいつもの調子に戻って笑っている。ジュースの味に飽きてきたのだろうか。


「じゃあ急いでギルドに行くぞ。」

「待ってください!最後にブルーマッシュ串だけでも――!」

「お前どんだけキノコが好きなんだよ!ていうかブルーマッシュは毒だ、やめとけ!なんであんなもん売ってんだ!」


 30分後。ギルドに着いたカナメはクインティナから白い目で見られた。


「カナメくん。エイミィちゃんのあれはどういうこと?」

「いや、なんというか、食べすぎた状態で走ったから気持ち悪くなったそうです。」


 クインティナの視線の先にはイスに座って項垂れているエイミィの姿があった。

 結局、あの後ブルーマッシュ串こそ食べなかったがピンク、イエロー、グリーンのトリプルマッシュ串を食べたせいで時間が無くなりギルドまで走ってくることになってしまった。その影響で胃の中身が全部出てきそうになっているというわけだ。


「まぁいいわ。邪魔さえしなければいいし。」

「面目ない。」

「じゃあエイミィちゃん、行くわよ。」


 クインティナが歩き出すと、エイミィはイスからのっそりと立ち上がり血の気の無い顔でくっついていった。そしてそのまま3人で面談室へと入った。

 なお、捜索依頼の詳細報告自体は30分で終了した。

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