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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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洞窟

 洞窟の中を覗いてみる。暗くて何も見えない。冷たい空気が流れてきていることを感じる。

 カナメは自らの手に可視化した魔力を纏わせて洞窟内を照らしてみる。奥に広くなっているようで、入口付近しか見ることができない。


「エイミィ。悪いけど中を照らしてくれ。」


 指示を受けたエイミィは即座に魔力の光球を発現させて洞窟内へ送り込んだ。

 再び洞窟内を覗く。今度は中がよく見えた。思いのほか奥行きがあり、天井も高くなっている。


「奥は人が歩けそうです。入ってみましょう。」


 カナメを先頭に匍匐前進で中へと入る。少し進むと天井の高い空間に出た。光球によって洞窟内は昼間のように明るい。

 立ち上がって中を見回していると、2人も中に入ってきた。


「凄いわね。エイミィちゃんの光球ってこんなに明るいのね。」

「今回は結構多めに出していますから。どのくらいの広さなのか分からなくて。」

「この明るさは凄いですよね。でもエイミィ。これだと外に光が漏れて魔物に居場所が分かってしまうから、少し数を減らしてくれ。」

「分かりました。」


 エイミィが掌を上に向けて前に出すと、宙に浮いていた光球がエイミィのもとへ戻っていく。周囲が一気に薄暗くなる。


「それにしても、この洞窟は当たりかもしれませんよ。」

「たしかに。足跡が3人分あるもの。ただ、このうち1人は腕が無いのよね。」

「そうですね。それに、誰かが足をやられてますね。足を引き摺ったような跡があります。」

「まずいわね。生きていてくれればいいけど⋯⋯。」

「とにかく、奥に行ってみましょう。エイミィ、奥の方を重点的に照らしてくれ。足元は自分たちで何とかなるから気にするな。」


 エイミィに進行方向を照らしてもらいながら歩く。自分たちの足元は各々が手に纏わせた可視化した魔力で照らす。

 洞窟内は所々で水が落ちてきている。そのため、足元には水たまりがある。これを避けながら進む。

 奥の方から水の落ちる音が聞こえる。3人も人がいるにしては異様に静かだ。奥が広いのか、外に繋がっているかであってほしいと願う。

 だが、その希望を打ち消すように、周囲の臭いがキツくなってくる。


「――っ!」


 光球で照らしていたエイミィが何かを見つけた。言葉が詰まっている。槍を持っていない方の手で口を押さえている。嫌な反応だ。

 視線の先へ目を遣る。薄っすらではあるが何かが見える。壁にもたれかかって誰かが座っているようだ。ケントだ。


「ケント!」


 濡れる地面の上を走る。靴が濡れ、水が染み込んでくるが気にしない。


「ケント!ケント!!無事か!?」


 目を閉じているケントに声をかける。大きな外傷は無い。首に手を当てる。脈はある。だが、手が冷たい。


「ケント!おい!起きろ!」

「カナメくん!そんなに乱暴にしちゃダメ!」


 体を揺すって起こそうとしたところ、クインティナに止められた。後ろから肩を掴まれる。


「カナメくん!落ち着きなさい!ケントくんの体が悪化したらどうするのよ!」

「でも⋯⋯!」

「でもじゃない!とにかく落ち着いて!ケントくんがいるなら、他の人もいるはずよ!ケントくんは私が看てるから、カナメくんはそっちを探してきて!」

「くっ!分かりました。ケントを⋯⋯お願いします。」


 自分でも驚くほど取り乱していた。これではケントの近くにいるとかえって迷惑になるかもしれない。クインティナの指示に従う他なかった。

 ケントから離れて周囲を探す。とはいえ、狭い洞窟の中である。歩けるほど広いと言ってもたかが知れている。残る2人、リーとニコラスを見つけるのにさほど時間を要さなかった。だが、2人は既に物言わぬ姿になっていた。ケントよりも洞窟の奥に横たわっていた。2人の遺体を仰向けしてタグを回収する。その時に気がついたが、リーの手は右手がなくなっていた。先ほど見つけた腕はリーのものだったようだ。そして、ニコラスは足に怪我をしていたようだ。足を縛って止血していたが、傷口が変色していた。

 2人の死因はこの怪我だろう。傷口からの失血か、そこからの感染症か。いずれにしても、湿度の高いこの環境下では体力の回復が図れず弱っていったことは想像に難くない。やるせない気分になる。


「クインさん。ダメでした。」

「そう。そんな気がしてたわ。でも、ケントくんは生きてる。今はケントくんを無事に帰すことを考えましょう。」


 クインティナはその身に羽織っていたローブを脱いでケントに被せていた。エイミィもケントの手を握り温めている。


「とにかく、一度この洞窟からケントを出さないといけないですね。ここでは火も起こせないですからケントを温めるのにも限界があります。」

「そうね。――!」

「う⋯⋯。」


 ケントが弱々しく目を開き、小さいながらも声を発した。


「ケント!大丈夫か!?」


 思わずケントの目の前に行き声をかける。


「う⋯⋯。カナメ⋯⋯か?」

「あぁ。あぁそうだ!カナメだ!」

「なんで、こんな明るいんだ?そうか、俺は死んだのか。死んですぐ会うのがカナメなんて華がねぇな。」

「バカ野郎!死んでねぇよ!」

「死んで⋯⋯ない?」

「周りを見ろ!俺以外にもクインさんとエイミィもいる!」

「本当だ。そうか、俺は、みんなに生かされたか。」

「生かされた?」

「リーさんとニコラスさんは、俺を庇って怪我をしたんだ。あの怪我さえなければ、死ぬことはなかったのに。」


 ケントは体を動かさず、目を閉じたまま語り、涙を流した。


「あいつら、俺たちで遊んでいたんだ。すぐに殺れるのに、わざと遠巻きで追ってきやがって⋯⋯。」

「ケント⋯⋯。もういい。もう喋るな。詳しい話は街に戻ってから聞く。今はとにかく、ここを出よう。立てるか?」

「すまない、カナメ。無理だ。足に力が入らない。」

「怪我か?」

「いや、怪我はしていない。」

「じゃあ体力を消耗してるだけだな。何か食べたか?」

「何日か前に魚を食べたのが最後だ。」

「分かった。じゃあこれでも食べておけ。ゆっくり、時間をかけて食べろよ。水もあるから安心しろ。」

「助かる。」


 干し肉を1枚渡そうとするが、手も思うように動かないようだ。仕方がないので小さくちぎった干し肉をケントの口に入れる。時間をかけて咀嚼して飲み込む。これを繰り返すと、顔に生気が戻ってきた。


「良かった。ケントさん、手が温かくなってきました。」


 体温も少し戻って来たようだ。そろそろいいだろう。


「よし。ケントも少し回復したな。あまり長居したくない。移動するぞ。」

「そうね。暗くなる前に移動しないと。」

「じゃあ、また前の方を照らしますね。」

「いや、帰りはそれぞれの魔力で照らしていこう。特に危険な場所はなかったからな。」


 カナメはケントを背負うと足元に気をつけながら歩き始める。


「済まない、カナメ。ってお前、臭いな。なんでこんな生臭いんだ?」

「色々あってな。気にするな。」

「ご、ごめんなさい。」

「なんでエイミィちゃんが謝ってるんだ?」

「ここに来るまで色々あったんだよ。」


 洞窟の入口に到着し、まずはカナメが外に出る。木々の隙間から見える空の色は昼過ぎくらいのようだ。周囲を見回す。特に異変や魔物の気配は感じられない。洞窟内に声をかけてケントの準備をさせる。

 カナメはケントを洞窟から引き摺り出した。続いてクインティナとエイミィが這い出てきた。外の明るさに目を細めている。

 ケントを背負い街へ戻るため歩き始める。今回はカナメが足元の確認をできないこともありエイミィが先頭となり、カナメ、クインティナが後ろに続く。

 足元の悪い森の中を北へと進んでいると、急に辺りから鳥の声が聞こえなくなった。冷たい北風が森の中を通り抜ける。風に乗って獣の臭いが鼻についた。


「エイミィ、この先に何かがいる。気をつけろ。」

「はい。凄く嫌な感じがします。」


 警戒を強めゆっくり進む。エイミィは槍を構え、クインティナは杖に魔力を流す。

 正面には倒木が見える。右手の坂の上にも倒木がある。左手は平坦な森が広がっているが大きな岩が見える。


「ここはマズイ。進路を変えた方がいい。」

「賛成です。あの木の辺り、何かがいます。」


 歩を止め、後退しようとしたところ、右手の坂の上から何かが飛んできた。咄嗟に体を反転させる。ケントの驚いたような呻き声が聞こえた。それと同時に地面に重いものが落ちた音が響いた。音の方を見ると、そこには斧が刺さっている。坂の上を見ると、倒木の影から3匹のホブゴブリンが姿を現していた。これにより飛んできたものは斧であり、それは投げられたものだと認識した。


「坂の上から敵襲だ!逃げるぞ!」

「ダメです!前の倒木からも出てきました!」

「左の岩陰からもよ!」

「くそ!後ろに逃げるしか無いということか。」

「いえ、嫌な予感がします。強行突破しましょう。」


 エイミィは決意に満ちた表情でカナメに提案した。

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