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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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カナメの奥の手

 カナメの杖に魔力が流れる。杖が淡い光を纏う。

 初めて見る光景にクインティナが目を丸くする。


「え?カナメくん、武器に魔力を纏わせられるの?」

「いえ、できませんよ。これはそう見えてるだけです。」

「でも、杖に魔力を流してもこんな風にはならないわよ。」

「そうなんです。杖全体が光りはしないですよね。でも、そもそもの話、僕が杖に魔力を込めてるのって見たことあります?」

「⋯⋯そういえば無いかも。」

「見たこと無いですね。」

「そう。僕は杖に魔力を流したことがないんです。この杖、この状態だと魔力媒体としての機能が無いんですよ。まぁ見ててください。どうやらあいつは僕を狙っているみたいなんで、離れてもらっててもいいですか。」


 上空では烏が降下を始めていた。両翼には魔力の光が見える。今度は飛びながら魔法を放って確実に仕留めにくるつもりのようだ。

 カナメは杖の中程を左手に持ち腰の位置に固定する。右手で杖の上部を持ち前傾姿勢になって烏を待ち受ける。

 羽根の魔法が飛んでくる。顔をかすめ、体に当たる。その一撃は重くはないが無視できるほど軽いものではなかった。藍色の服でなかったら今頃蜂の巣になっていただろう。

 凄まじい羽音とともに眼前に鉤爪が迫る。

 離れた所にいる2人には絶望的な状況に見えた。思わず短い悲鳴が漏れる。

 ――やられた!

 そう思った次の瞬間、烏が悲鳴を上げて墜落していた。片足がなくなっている。

 何が起きたのかとカナメを見ると、剣を抜き放った姿勢のまま止まっていた。


「え?剣⋯⋯?」

「剣⋯⋯ですね。」


 目の前では残心の姿勢からカナメが動き出している。

 カナメは剣を杖の形をした鞘に収めると烏の方を見る。烏は片足がなくなったことで上手く動けず地面でもがいている。止めを刺すべく近寄ろうとするが烏も黙って待つようなことはしない。羽根の魔法を放ってくる。だが直線的に飛んでくる羽根など脅威ではない。杖で叩き落とす。すると、地面に落ちた羽根が舞い上がりカナメを中心にして回り始めた。

 ――目眩ましか。

 瞬時にそう判断し、強引に突破しようとする。しかし、妙な違和感を覚える。羽根の数が増え、速度が上がっている。徐々に羽根が空を切る音が大きくなってきた。

 嫌な予感がした。念のため石槍を生成し、高速で回転している羽根の中に入れてみると、強い衝撃を受けて石槍が弾かれた。石槍を見ると欠けている。これが1枚の羽根の威力だと考えると、今自分の周りを回っている羽根が当たったらどうなってしまうのか。想像するだけで恐ろしい。

 どうしたものかと考えていると、徐々にカナメを包囲している羽根が近づいてくる。


「仕方無い。ゴリ押しだ!」


 カナメは再び杖に魔力を流し剣を抜く。剣は水を流したような冷たい輝きを放っている。先ほど烏の足を切断したとは思いない。これに更に魔力を流す。魔力による輝きを増した剣を両手で地面に突き刺し魔法を放つ。


「円冠!」


 剣に流れ込んでいた魔力が一気に地面へと流れる。剣を中心に地面に光の線が走る。カナメの周囲に光の輪が作られ、そこに沿って丸太のような太さの石棘が飛び出した。その形はさながら棘で作られた冠のようだった。

 生成された棘はカナメを包囲している羽根の壁に一斉に突き刺さる。羽根が飛び散る。棘に当たる羽根は尽く弾かれ、傷一つ与えることはできない。

 眼前の羽根が激減したのを確認して、カナメは走り出す。羽根の包囲を抜け出して未だ地面に倒れている烏へ迫る。

 烏は自身の魔法が破られて驚いている。いや、鳥の表情など分かるわけもないが、そのように見えた。とにかく、こちらを見て硬直していた。

 そこに駆け抜けざまの一閃が走る。烏の頭が石の上に落ちた。


「ふぅ〜⋯⋯。」


 カナメは額の汗を拭いながら軽く剣を振る。表面に着いた烏の血で川原に線が描かれる。再び冷たい輝きを取り戻した剣を鞘に収めて杖にしてからクインティナとエイミィのもとへ行く。


「終わりましたよ。」

「ちょっと、ちゃんと説明してくれるかしら。」

「杖のことですか?」

「それもそうだけど、あなたのこともよ。どこから突っ込めばいいのかしら。」


 クインティナが頭を抱えてしまった。


「カナメさん!凄かったです!剣も使えたんですね!」

「まぁな。黙ってて悪かった。小さい頃から剣術は叩き込まれてきたんだ。ただ、腕はそれほどでもないから褒められても困る。」

「そんなことないです!今だって一振りで倒しちゃったじゃないですか!」

「まぁあれくらいはな。正直言ってそれほど硬くないから、正確に振れば誰でもできると思う。」

「それをできるのが凄いです。私なんて剣はまともに扱えなかったですから。」

「そんなものかなぁ?」

「そうだと思います。それで、カナメさんの⋯⋯杖?はどうなってるんですか?」

「これか?これは仕込み杖で、魔力を流すと剣が抜けるようになってる。」


 エイミィの前で実際にやってみせる。杖に魔力が流れ淡い光を纏うと、鍵が開くような音が聞こえた。杖の上部を持ち剣を引き抜く。


「きれぇ〜⋯⋯。」


 エイミィの言うとおり、刃は吸い込まれそうなほど美しい。細長く、真っ直ぐな剣は一見すると強度に不安があるように思える。細い剣は強度が足りず斬撃に向いていないというのは常識だ。だがカナメの剣は斬撃に耐えうる。先程のハンタークロウへの斬撃がその確たる証拠だ。


「そういえば、よく見えなかったんですけど、さっき剣を地面に刺してなかったですか?」

「あの状況でよく見えたな。」

「羽根が石棘で散らされた時に見えました。あの石棘もいつもより強そうでしたけど、関係あるんですか?」

「そうだな。実はこれ、剣そのものが魔力媒体なんだ。だからこれを使うといつもより強い魔法が使えるようになる。さっきの魔法もこいつがあって初めて使えるんだ。ただ、剣を抜かないと使えないから使い勝手が悪くて困ってる。」

「へぇ~。でも、あんなに強い魔法を使えるなら、アクアリザードと戦った時に使っていればもっと楽だったんじゃないですか?」


 痛いところを突いてくる。特に悪気があるわけではなく、ただ純粋に疑問に思っただけという様子だ。


「たしかにそうなんだけど、これを使って魔法を放つと凄い疲れるんだよ。あの時に使っていたら早々に倒れていたと思う。」


 そう言うカナメの額には汗が滲んでいる。ハンタークロウを倒した直後にも汗を拭っていたことを考えると、嘘ではないようだ。


「凄いわね、エイミィちゃん。私が聞きたいことをほとんど聞いちゃった。どうやって聞き出してやろうか悩んでいた自分がバカみたい。」


 クインティナが自嘲気味にぼやく。


「まぁいいか。それで、カナメくんはなんで仕込み杖まで使って剣術が使えないと装っていたの?まぁだいたい予想できるけど。」

「たぶんクインさんの想像どおりです。他の魔法使いからの嫌がらせを受けたくないからです。」

「やっぱりね。前からそんな節はあったものね。じゃあ、なんで私たち見せたの?」

「そうですね。パーティーを組んだから、ですかね。」

「でも、パーティーは離脱することもあるし、解散することもあるのよ?いつまでも一緒にいるわけではないの。すぐ言いふらすかもしれないのよ。」

「分かってます。でも、2人はそんなことしないですよね。2人を信用しているからこそ、剣を抜いたんです。」


 これを聞いた瞬間、クインティナは驚いたような顔をした後目を逸らした。エイミィは目を輝かせてこちらを見ている。ずいぶん対照的な反応だ。


「よ⋯⋯よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるわね。」

「聞いてきたのはクインさんじゃないですか。」

「そうだけど!⋯⋯あぁ~もう、調子狂うなぁ。」

「とにかく、私たちは仲間として認めてもらえたってことですよね!」

「そういうことだ。昨日からの戦いを見て、このまま組んでいてもいいと思ったんだ。ただ、これからも組み続けるなら話しておかないといけないことがある。これはもっと余裕のある時、この捜索を終えてからしよう。」

「そうね。まだ訊きたいことがあるけど、今じゃない気がする。街に戻ったら洗いざらい話すのよ。」

「洗いざらいって⋯⋯。そんなに秘密は無いですよ。」

「どうだか。」

「⋯⋯俺ってそんなに信用できないか?」

「そ、そんなことないですよ!私は信用してます!」


 クインティナに不信の目を向けられ落ち込んだカナメをエイミィが必死にフォローする。だが、クインティナとて本気で言っているわけもなく、2人の様子を見て声を出して笑っている。この一件でパーティーの絆が深まったことは言うまでもなかった。

カナメがハンタークロウに狙われた理由→生臭いから。美味しそうな匂いのする獲物に見えました。

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