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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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2日目の朝

 翌朝。ケントおよび森の狩人捜索2日目。カナメたちは洞穴から姿を現した。


「うぅ……。臭い。臭すぎる。この臭い、ちゃんと洗えば落ちるかな?」

「たしかに酷い臭いね。今晩また洗ったらどう?」

「そうするとまた生乾きじゃないですか。今もまだ濡れてて気持ち悪いのに。」

「臭いよりマシじゃない?」

「否定できないのが辛い……。」

「ま、まぁ元気出していきましょう!日の光を浴びてれば臭いも落ちるかもしれませんよ!」

「そうかもな。まぁここは森の中がほとんどなんだけど。」

「う……。でも、昨日話したじゃないですか。とりあえず川沿いを確認してみるって。日当たりいいですよ!」

「そうだな。気を取り直して捜索を再開するか。」


 日の光が木立の間から森の中に差し込んできている中、川へ向かって歩いて行く。洞穴から川までは緩やかな傾斜になっていた。川の音が聞こえるので本当に近くにあったようだ。

 目の前の坂を下ると、昨日アクアリザードと戦闘を行った川原に到着した。


「これはまた……凄まじいな。実際見てみると恐ろしくなる。」


 カナメの視線の先には形状の変わった川と対岸の倒木があった。爆発時の状態は知らないが、この状況がその威力の強さを物語っていた。


「凄かったわよ。放った本人が爆風で飛ばされたくらいだもの。」

「見てみたかったな。でも、魔力の制御ができるようになるまでは緊急時以外使用禁止だから、しばらくは見れないか。」

「ごめんなさい。急いで加減ができるようになります。」

「気にすんな。ゆっくりでいい。とりあえず、捜索を開始する前に俺の胸当てを回収させてくれ。」


 昨日のような突然の襲撃にも警戒しつつ石だらけの川原を歩き始める。川原には昨日打ち上げられた魚や水棲生物の死骸が散らばっている。その中に、カナメの胸当てが落ちていた。応急処置を施すために体から外したままその場に置いてきていたのだ。カナメを移動させる際、エイミィが魔力切れと魔力疲労で動けないため、クインティナ1人で運んだ。その時に余計な重量を削減するために損壊の著しい胸当ては置いていったのだった。不要だと判断してのことだった。

 だが、カナメはこの胸当てを欲した。父から譲り受けた胸当てだったらしい。大切なものだからどうしても回収したいと主張した。洞穴からは大した距離ではなかったので、クインティナもエイミィも承諾した。


「あったあった。俺の胸当て。本当に背面が砕けてるな。でも、まだ着けられそうだ。」


 落ちている胸当てを手に取り状態を確認する。背面は砕けており芯材の木が剥き出しになっていた。だが破損しているのは背面のみであり、背中の無い状態でも装着することはできそうだった。


「よし。これなら何とかなるな。」


 実際に装着して動きを確かめる。動きを阻害することは無く、違和感無く動かせる。


「さて、それじゃ更に南の方、この川だと上流の方へ行きましょう。」


 少し離れた所に待たせていた2人の所に戻って捜索再開を伝えた。

 3人は川に沿って南下を続ける。時折動物を見かけることはあるが魔物には遭遇しない。魔物がいないことに違和感を覚えつつも、動物がいるので問題は無いと考える。野営や戦闘の痕跡を探しながら歩いた。


「2人とも、正面を見てください。野営の跡っぽいですよ。」


 カナメが指差した方向には焚火の跡が残されていた。ここで誰かが火を使っていたようだ。その場へ3人で駆け寄る。


「この感じ、5〜6人くらいのパーティーで使ったようですね。」

「よくそんなことが分かるわね。」

「いや、だって、焚火を囲むように石が並んでるじゃないですか。魚の骨もちょうどその周りにありますし。」

「え?これ、並んでるって言えるの?」

「私も並んでいるようには見えません⋯⋯。骨は分かりますけど。」


 焚火の周りには一定間隔で魚の骨が捨てられていた。その周辺には人が腰をかけるには小さすぎるように思える石が置かれていた。ただ、同程度の大きさの石は他にもいくらでもある。人間が意図して置いたと見分ける根拠が分からなかった。


「並んでますよ。平らな面が上になってますから、人が置いたのは間違い無いと思います。」

「そうなんだ⋯⋯。」

「とにかく、これでやっと痕跡らしいものを見つけましたね。でもこの焚火、1週間近く前のものっぽいです。魚の頭が腐り始めてます。」


 カナメの指摘通り、地面に捨てられた魚の頭には蝿がたかっており、腐敗が進んでいることが伺える。


「ここを野営地とした後に、どこへ行ったか。この時期だから川を渡るようなことはしないはず。となると川沿いか、森の中か。」

「森の中じゃないかしら。森の狩人は森の中での戦闘を得意としてるから、わざわざ森を出たりしないと思う。」

「私は川原を歩いて南へ行ったと思います。新しいエリアに行くなら川沿いの方が分かり易いですから。」


 それぞれが予想を出す。どちらも考えられるような理由だ。それだけにどちらとも言えなかった。

 周辺の状況を見ても分からない。川原は石で埋め尽くされているため、足跡が残らない。焚火のような異物でもなければ気がつくことはできない。

 判断がつかず上空を見上げて考える。何か違和感はないか。

 上空には旋回している烏がいる。黒くて大きな烏だ。


「ん⋯⋯?烏が⋯⋯旋回⋯⋯?」

「どうしたの?」

「いえ、あの烏なんですが、上空で旋回してるんですよ。でも、烏ってそんな動きしましたっけ?」

「何言ってるのよ。烏はそんなことしないわ。鳴きながら飛んでいくでしょ。」

「ですよね。じゃあ、あれはなんでしょうね?」

「あれねぇ⋯⋯。ってあれ烏の大きさじゃないわよ!たぶんハンタークロウよ!」


 クインティナが声を上げるが早いか、上空の烏が急降下してきた。

 速い。カナメとクインティナを狙って猛スピードで降りてくる。


「皆、離れて!」


 カナメが散開するよう指示を出す。それぞれが対処できるように臨戦態勢を整える。が、それよりも早くハンタークロウがカナメに肉薄した。

 大きい。翼を広げ、カナメに向けて鉤爪を突き出したその姿はとてつもなく大きい。体の大きさは人間の背丈ほどあり、翼はその倍ほどある。あまりの大きさに萎縮してしまい反応が遅れる。


「ぐぅ――!」


 顔を狙ってきた鉤爪を躱すも、肩に掠ってしまう。その衝撃により胸当ての肩部分が破壊され、弾き飛ばされた。

 ハンタークロウはカナメと交錯したことを気にもとめず翼を羽ばたかせ、再び上空へと舞い上がる。


「カナメさん!大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。⋯⋯くそ。胸当てが完全に壊された。それにしてもデカすぎだろ。あの大きさであのスピードは反則だって。また空に行ったから反撃もできないし。」

「でも、これって逃げるチャンスなんじゃない?」

「たしかに。じゃ、森に逃げましょうか。」


 3人は川原を離れて森に向かって走り出す。森まではたいして遠くない。あの高さからなら森に入るまでに追いつかれることはないだろう。森に入ってしまえば、あの巨体が中に入って来られるとは思えない。

 だが、それでもやはり心配だ。念のため追ってこないか確認するために上を見る。烏はその場から動いていない。その代わり、烏の翼が光っているのが見えた。

 まさか――。

 烏の翼が一際強い光が放たれたあと、何かが飛んでくるのが見えた。


「危ない!」


 最後方を走っていたカナメは2人の服を掴んで思い切り引っ張った。その直後、2人の足元に幾つもの黒い羽根が突き刺さる。


「なにこれ?羽根?」

「たぶん魔法です。上を見た瞬間、放ってくるのが見えました。光が見えたので魔法で間違いないでしょう。」

「何よそれ。羽根なんて自分の体の一部でしょ?なんで魔法で作れるのよ。」

「知りませんよ。体から離れた羽根はただの物だからじゃないですか?」

「お2人とも、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!来ます!」


 上空を見ると先ほどまでの位置に烏の姿はなく、既に降下してきている。だが今回は降下角度が違う。先ほどよりも垂直に近い。ゆえに、速い。

 少し離れた所まで急降下した烏は、勢いを殺すことなく、滑らかな曲線を描いて迫ってくる。


「木槍!」


 クインティナが魔法での迎撃を試みる。だが槍が狙った場所に到達する頃には烏はその場を通過している。


「木壁!」


 続いて烏と3人の間に木製の壁を生成する。


「皆伏せて!」


 クインティナは指示を出す。おそらくこの壁は倒されるだろう。アクアリザードの魔法でも傾いたのだ。きっと無事に立っていることは無いだろう。そう思っての指示だ。

 だが次の瞬間、壁の上部が破壊され木片が周囲に飛散する。圧倒的な質量を前には無いに等しかった。

 カナメの頭上を鉤爪が通過する。


「嘘でしょ?壁が壊された。アクアリザードの魔法にも耐えきったのに。」

「大丈夫。目隠しにはなるので助かります。」

「カナメくんも魔法で応戦してよ!」

「いや、あいつ僕の魔法の射程外なんですよ。あの高さまで石の魔法も土の魔法も出せないですし、あのスピードじゃ水の魔法も意味無いですから。」

「嘘でしょ!?それじゃあ何もできないじゃないの!」


 たしかにその通りだ。今のままでは何もできずに逃げ回るしかできない。


「たしかに、今の状況は良くないですね。確実に当てるなら、あれしかないか。」


 そう言うと、カナメは杖全体に魔力を流し始めた。

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