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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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捜索②

 ファングウルフを倒したあと、一行は更に森の奥に進む。未だ森の狩人の足跡は掴めない。さすがに5日前の痕跡は残っていないためだ。闇雲に捜索するのは悪手だとは分かっているが、もう少し奥に行けば何かしらの手がかりが掴めるかもしれないという可能性にかけて先に進んだ。

 しかし時間だけが過ぎていく。一行の表情には疲労の色が滲み出てきていた。


「カナメくん、少し休みましょう?ここで私たちまで倒れてしまうわけにはいかないでしょ。」

「そうですね。じゃああそこの木の下で軽く何か食べましょう。」


 少し離れた所にある木まで行って、それぞれが木を背にして座った。


「ふぅ〜。疲れました。」

「エイミィ、大丈夫か?森のこんな奥まで来たのは初めてだもんな。」

「はい。大丈夫です。でも、少しお腹が空きましたね。」

「たしかに。森の中だから分かりにくいけど、既に昼過ぎみたいだからな。」

「え!?もうそんな時間なんですか!?」

「出てくるのが遅かったからそんなもんじゃないかな。たぶん今日は夜営することになると思う。」

「えぇ!?そんな準備してないですよ〜。」

「まぁ俺らもしてないわけだけど、何とかなるだろ。」

「カナメくん、簡単に言うけど、寝床や食料をどうするつもりなの?食べ物なら少しは持ってきてるけど、寝床なんて持ってないわよ。」

「そうですね。食べ物は現地調達するしかないでしょうね。倒した魔物を焼いて食べるのがいいと思います。寝床については我慢するしかないです。そもそもこの3人で見張りをしなきゃいけないんですから。」

「見張り⋯⋯ですか?」

「あぁ。夜行性の魔物に襲われた時に対処できる者がいないと危険だからな。」

「うわ⋯⋯。大変ですね。」

「まったく。初めての夜営が冬の夜になるなんてついてないわね。凍えないようにしないと。」

「そうですね。どこか適当な洞穴でもあればいいんですけど。」


 カナメは周囲を見回す。最初の頃に比べて凹凸が大きくなり地面に高低差が出るようになっている。もう少し奥に行けば洞穴くらい出てきそうな気がする。


「とりあえず、ここからは夜営できそうな場所を探しながら進みましょう。食料もなるべく現地調達します。」

「そうするしかないわね。水はどうする?」

「そうですね。これだけ魔物がいるんですから、どこかに水場があるはずなんですが。」

「カナメさん、私、そろそろ水が足りなくなるかもしれません。」


 エイミィは革の水袋を触って水の量を確認しながら伝えてきた。


「そうか。じゃあまずは水場を探そう。」

「探すって言ったって、どうやって探すの?」

「そうですね。まずは動物の足跡でも探しましょうか。それを辿っていけば水場に出るかもしれません。」

「それだと水場と逆に行く可能性もあるわよね?」

「そうですね。でも、他に手段が無いならやるしかないですよ。この辺りの植物に水が溜まる木は無いですから。」

「そっかぁ。まぁ仕方ないか。じゃあカナメくん、任せた。」

「分かりました。⋯⋯水についてちょっと気になったことがあるので試してみてもいいですか?」

「いいけど、なに?魔法で作った水なら飲まないわよ。」

「そんなことしませんよ。ちょっと待ってください。」


 カナメはその場で手を地面に着けて魔力を流す。地中にある水を魔力で感じる。水がどこにあり、どこを流れているのか。その点を意識してみるとなんとなく水が流れている方向が分かる。水の多い場所、少ない場所も感じることができる。分かるのは魔法の射程範囲内だけではあるが、それだけでも十分な情報だ。


「なんとなくになりますが、向かうべき方向がわかりました。」

「どういうこと?」

「地面に魔力を流したんですよ。僕らは水を理解できていて、水の魔法が使えるじゃないですか。それなら、地中の水を感じ取れば水場のおおよその方向が分かるかなと思ってやってみたんです。そしたら、案の定水の動きが分かりました。ただ、そんなに遠くまで魔力を流せないので、方向だけしか分かりませんでした。」

「へぇ~。そんなことができるんだ。ちょっと私もやってみよ。」


 クインティナもカナメと同じように地面に手を着けて魔力を流してみた。しかし表情は冴えない。


「⋯⋯う〜ん。水の存在は感じるけど、流れまでは分からないわ。なんか水以外のものに魔力が邪魔されてる感じがする。私にはできないみたい。」

「そうなんですね。もしかしたら土の魔法が使えるかどうかが関係してるかもしれませんね。」

「そうかも。ちょっと残念だけど、とりあえずカナメくんができるならそれでいいわ。今の情報だけでも十分でしょ。動物の足跡を探すよりは確実な方法に思えるわ。その方向に行ってみましょ。」


 軽く干し肉を食べたあと、先程水の流れていった方向へと歩を向ける。ある程度歩いたら水の流れを確認し、その都度方向を修正する。

 これを何度か繰り返したところで水の音が聞こえてきた。全員が川が近いことを理解した。

 音のする方へ歩くと少し小さな川に出た。小さいとは言っても街の川に比べてというだけであって対岸まで5m位はある。河原は石だらけではあるが視界は開けている。


「良かった。川に出てこられた。」

「なに?不安だったの?」

「当たり前じゃないですか。地中の水の流れを読むなんて初めてやったんですから。間違っていたらどうしようかってドキドキしてましたよ。」

「でもカナメさん、ちゃんと着いたじゃないですか!凄いです!これで水が飲めます!」


 エイミィが革袋の中の水を飲み始める。


「エイミィ、飲むのはいいけど川の水は煮沸してからじゃないと飲めないから少しは残しておいたほうがいいぞ。」

「はぅ!そうでした!うぅ⋯⋯飲みきっちゃいました。早く言ってくださいよ。」

「いや、そんなことするとは思わないだろ⋯⋯。」

「エイミィちゃん、喉が渇いたら私のを飲んでもいいけど、これからはちゃんと考えて飲むのよ。」

「分かりました。気をつけます。」

「とりあえず、この辺で夜営するのにちょうど良さそうな場所を探そう。あまり時間が無さそうだ。」


 空を見ると既に黄色がかっている。もうじき日が暮れそうだ。


「そうね。たしかにここじゃ眠れそうにないわ。」

「でも、ここって魚が釣れそうですよね。今のうちに釣っておけば食料問題も解決できそうですよ。」

「たしかにエイミィの言うとおりだ。でも、まずは寝る場所を確保しよう。しっかり眠れないと明日の行動に障るからな。」

「そういうことよ。悪いけど、釣りはまた夜営場所を決めてからにしましょ。」

「分かりました。――でも、そんな余裕は無さそうですよ。釣りも諦めたくなりました。」


 釣りへの未練からか川を見ていたエイミィは、いち早く川の異変に気が付き槍を構えた。

 カナメとクインティナはそんなエイミィを見て川に視線を向ける。

 すると、川の中から顔を出してしている生物が見えた。それが徐々にこちらへ移動してくる。水から出てくると巨大なトカゲのような魔物が現れた。細長い顔に黒っぽい灰色の鱗に覆われておたその見た目は完全にトカゲだ。縦長の瞳孔のある目をキョロキョロとさせ、先が2つに割れている舌を出しては戻す動きをしている。だが、これを魔物たらしめる特徴があった。川から出てきた途端、二足歩行になった。手には錆びた剣を持っている。


「おいおい、マジかよ。リザードマンか?」

「いえ、あれはアクアリザードね。リザードマンの下位種よ。」

「それを聞いて安心しました。それでもまだ格上の相手のようですが。」

「そうね。2人とも、とにかく水の中には入らないで!陸地で戦うのよ!こいつらは群れないから他にはいないはず。目の前の敵に集中して!」


 クインティナが簡潔に注意点を共有。それを元にしてカナメとエイミィがアクアリザードを挟むようにして位置につく。クインティナは少し離れた所から魔法を狙う。

 カナメとエイミィは互いに視線でタイミングを確認する。そして、エイミィの突きが開戦の合図となった。

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