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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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初めての武器

「500,000ルクだ。」

「⋯⋯はい?」

「500,000ルクだ。」

「え?300,000じゃ⋯⋯。」

「あれは()()()()という話だ。今回は槍だからただでさえ材料費が高くなるうえに柄に使う木材もこだわってんだ。」

「うわ⋯⋯あぶねぇ⋯⋯。」


あれから1週間。カナメはエイミィを伴って赤髭部防具店に来ていた。今日も他に客はいない。静かな店内に店主の低く重たい声と、カナメの焦りが混ざった声が響いた。金銭のやり取りを行うのでエイミィには店の外で待ってもらっている。


「まぁなんとか払えますけど⋯⋯。」


この1週間、カナメは休日を入れずに討伐依頼をこなした。そのおかげで先週よりも貯蓄が増えていたが、それがなければ破産していたかもしれない。ここ1週間の自分を褒めたくなった。

予想外の大出費をする事になってしまい深いため息をつきながら、懐から現金を出す。


「なんでぇ。持ってんじゃねぇかよ。金の無い振りしやがって。」

「いや、無い振りではなくて本当に無いんですよ。これは万が一に備えて持っていただけです。」

「へっ!まぁ払ってもらえればなんでもいいさ。」

「なんでそんな野盗みたいなことを言うんですか。エイミィに聞かせられませんよ。」


そう言いながら店の入口に行ってエイミィを呼んだ。


「待たせたな。手続きは済んだから入っていいぞ。」

「ありがとうございます。その⋯⋯最終的においくらになったんですか?」

「ん?まぁ気にするな。これは俺が言い出したことなんだから。気にするならこいつを使ってその分強くなってくれればいい。」

「ま、そういうこったな嬢ちゃん。あんまり詮索するもんじゃねぇぜ。」


そう言うと店主はカウンターの上に真新しい1本の槍を置いた。


「じゃあこいつが注文の品だ。貰ったホーンラビットの角は穂先の芯材に使っている。刃は鋼鉄製だ。柄は樫を使っている。もう少し軽くしてやりたがったが、丈夫にするためにはここは妥協させてもらった。だがこれでも今の剣より軽いはずだ。」


穂先を包んでいる黒い袋を取り除くと銀色の刃が姿を現した。穂先は芯材にホーンラビットの角を使ったということだけあり、素材本来の長さより少し長い刃渡り20cm程の刃物が付いている。穂と柄の間の口金には鉄が使用されているが、花の彫刻があしらわれている。柄は木材の色を活かした塗装となっており、石突には球形の金属が付いていた。全長で120cm程の短槍となっている。


「武器製作の依頼は久し振りだったから、本当は他にも色々やりたかったんだがな。初心者用ということと、こいつが使われる期間の短さを考えたらここで過度に詰め込むと新しい武器に移れなくなってかえって苦労すると思って最低限の機能性に留めてある。」

「凄い⋯⋯。こんな立派なもの、いただいてしまってもいいんですか?」

「いいんだよ。お前の初討伐記念だから。」

「ありがとうございます!絶対強くなってカナメさんのお力になれるようにします!」

「まぁしばらくは同行する約束だもんな。次はお前の魔力の使い方を考えないといけないし。」

「そうですね。もうしばらくお世話になります。」


エイミィは槍を両手で受け取り決意を新たにしてカナメに告げた。エイミィとしてはこの槍の金額を知ってしまい多少の負い目があるのかもしれない。だが、これは自分が勝手に言い出して、自分の目算が誤っていただけのこと。気にしてなんか欲しくない。


「⋯⋯カナメよぉ。お前、変な奴だな。」


このやり取りを見ていた店主が頬杖をつきながら呟いた。


「今の話を聞くと、お前らパーティーメンバーでも特別な関係でもないんだろ?なんでそんなに面倒を見てるんだ?」

「なんででしょうね?先週同じことを何度も聞かれて自分でもよく分からなくなっちゃいました。ただ、目の前で壊れそうになっている後輩を見捨てられなかったんだと思います。」

「ふん。お人好しなことだ。だが、嫌いじゃねぇ。来な。嬢ちゃんに槍の手解きをしてやるよ。」


店主は椅子から立ち上がり店を閉めてから店の奥に行ってしまった。慌てて2人で追いかける。

奥に行くと中庭があり、そこには幾つもの武器が並んでいる。店主はその中から木製の槍を手に取って構えた。エイミィも急いで店主の横に行き構えた。


「いいか。槍は両手で持って右手で押し、左手で穂先の通り道を作れ。そこを通すように押し出す。基本的には突き主体の武器だ。だが、振り回して柄をぶつければ棍として、近接戦では剣として使用できる。思っている以上に活用範囲が広い。」


店主は見事な槍捌きで使い方を披露した。その振るう槍からは風を切る音が聞こえてくる。槍もしなっているように見える。

エイミィも同じように動かしているが、穂先の軌道が安定せずただの乱れ打ちとなっており、動きも遅い。お世辞にも上手いとは言えない。


「嬢ちゃんの槍は穂先が軽い分棍としての威力は落ちる。剣としても優秀とは言えない。だが、突きに関しては申し分無い。だから、まずは突きを練習しろ。そのためには日々の鍛錬を怠るな。突きの練習を毎日行え。そうすれば、いずれ筋力が付いて次の段階にいける。」

「はい!ありがとうございます!分からないことがあったらまた教えてもらいに来てもよろしいでしょうか!」

「ぁあ?構わんが、たいしたことは教えられんぞ。俺は所詮武器屋で、自分で作った物の出来を確認するためだけの技だからな。実戦用じゃねぇ。」

「それでも構いません!よろしくお願いします!」

「ちっ!仕方のねぇ奴だ。カナメもおかしな奴だが、嬢ちゃんも変わった奴だな。」


その後、エイミィは店主から基本的な動きを教えてもらった。指導されているエイミィからは今の自分から脱却したいという気持ちが気迫となって溢れていた。これを感じたのか、店主の指導は熱を帯びていった。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。ありがとうございました。今教えていただいたことを毎日練習します。」

「おう。頑張れよ。金に余裕ができたらまたうちに来い。胸当てを見繕ってやるよ。」


2時間程の熱のこもった指導を受けたことで、冬の始めだというのにエイミィは頬を赤らめ滝のような汗をかいている。なんとなく湯気のようなものも見える気がする。


「エイミィ。水だ。」

「あ、カナメさん、ありがとうございます。」


エイミィは石の魔法で作ったコップに入れた水を勢いよく飲む。


「大丈夫か?だいぶ消耗しているが。」

「はい。まだ⋯⋯いけます。討伐依頼、行きましょう。」

「いや、やめておこう。そんな疲れた状態で戦うべきじゃない。」

「いえ、大丈夫です!」

「はっはっはっ!嬢ちゃん、やめときな!その気持ちは認めるが、基礎的な動きだけとはいえこれだけやったんだ。もう限界だろ。とりあえず飯食って休め。」

「そうだぞ。手を見せてみろ。やっぱりな。こんな状態じゃまともに槍を振れない。戦闘は危険すぎる。」


エイミィの手は赤くなっており、マメがいくつもできていた。指にも力が入っていないらしく小刻みに震えていた。


「でも、今日はカナメさんと討伐に行く予定です!」

「いや、そんなことよりもお前の体調が優先だ。初めての槍なんだから使い方を習うのは必要なことだし、練習もすべきだ。だが、怪我した状態で行くのはダメだ。死んだら元も子もない。」

「でも⋯⋯!」

「いいから。さっきご主人が言っていたように飯でも食って休もう。」

「そうしとけ。そんな状態で行けば後悔することになる。」

「⋯⋯分かりました。」


渋々といった様子でエイミィは承諾した。


「それじゃ、飯食いに行くぞ。ご主人、ありがとうございました。」

「フォルクスだ。」

「⋯⋯はい?」

「俺の名前だ。これからも何かあったらうちに来い。面倒見てやる。」

「⋯⋯!ありがとうございます!」


急に名前を告げられて驚いたが、どうやら自分たちは気に入られたようだ。自分の装備品を全て把握してくれている店があるのはありがたい。


「次はエイミィの胸当てを買う時にお世話になりますね。」

「おう。待ってるぜ。」

「それじゃ、エイミィ、行くぞ。」

「はい!フォルクスさん、ありがとうございました!」


店を後にするとエイミィは真新しい槍を見ながらニヤニヤしている。


「どうしたんだ?」

「いえ、自分で初めて討伐した魔物の素材で作られた自分専用の武器って、特別な感じがして嬉しいんです。それにこの彫刻も綺麗で可愛いじゃないですか。」

「その花の模様か。そこはやっぱり女性用として意識して作ったんだろうな。武器にそんな装飾は必要ない気もするけど。」

「それでもいいんです。可愛いは正義です。」

「そうか⋯⋯。」


なんだかよく分からないことを言っているが、こういうのは女性特有の感覚なんだろうか。そうなると、女性の感性をよく理解しているフォルクスはさすがだ。自分にはよく分からない感覚だと思い、その点について考えるのをやめた。

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