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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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魔物素材の武器というもの

 街へ戻るとまずはギルド出張所の解体所へ向かった。討伐証明の提出とホーンラビットを引き渡すためだ。

 解体所に入ると、最近馴染みになってきた解体部員の元へ行く。


「お、カナメか。今日は何を持ってきた?ってホーンラビットか。お前がこんなの狩るなんて珍しいな。」

「そうですね。たしかに普段はやらないです。でも、今日は僕が狩ったのではなくて、こいつが全部やりましたよ。」

「へぇ~。やるじゃねぇか坊主!1人で5匹なんざ大したもんだ!」

「ありがとうございます!カナメさんのご指導のおかげです!」

「そうかそうか。今日のカナメは研修依頼だったのか。」

「いえ、違いますよ。自己判断で勝手にやってるだけです。」

「お前、なんでそんな慈善事業やってんだ?」

「ん〜⋯⋯乗りかかった船ってやつですかね。研修依頼で担当した子が落ち込んでるのを見つけて話しかけたらこうなったと言いますか⋯⋯。」

「面倒見良すぎだろ。普通は見て見ぬふりするぞ。」

「そんなものなんですかね?それはそうと、この角、1本貰ってもいいですか?」

「そりゃ構わねぇが、それをすると報酬が減るぞ。」

「どうせ大した報酬じゃないから構わないですよ。」

「かぁー!2等級のくせに追加報酬貰いまくってるやつは言うことが違うねぇ!」

「人の懐事情を推測できるようなことは言わないでください。」

「で、その角、どうするんだ?」

「そうですね。こいつの初討伐記念で、これを使った武器でも作ってもらおうかなと思ってます。」

「こいつで武器?まぁお前なら大丈夫か。」

「なんか引っ掛かる言い方ですね。」

「いや、気にするな。間違いなく良いものになるから店選びは慎重にな。」

「はい。この後受付で加工してもらえる店を紹介してもらうつもりです。あ、受注書のサインありがとうございます。出張所に行ってきますね。」


 依頼受注書と追加報酬の記載された紙を受け取って出張所に向かう。

 出張所の前に来るとエイミィが不安気な顔をしていた。そういえば、ギルド出張所に行くのが怖いと昨日の朝漏らしていたな。


「エイミィ。大丈夫だ。今日のお前はしっかり仕事をしてきている。胸を張っていい。それに傭兵になって1ヶ月程度の奴のことなんか皆気にしてない。考えすぎだ。」

「そ、そうですね。今日の自分は頑張りました。大丈夫です!」


 よし。覚悟を決めたようだ。表情から緊張感は抜けていないのは仕方無い。

 中に入ると傭兵たちがロビーで報酬の分配やパーティーの作戦会議が行われており賑やかであった。そんな中でも受付の女性は黙々と仕事をしている。その中の一人がカナメの足音を聞いて顔を上げた。


「あ、カナメさん、どうされましたか。」

「凄い。カナメさん、名前覚えられてるんですね。」

「まぁ最近よく来てるからな。普通の討伐報酬の他に、ファングウルフとアイアンウルフの素材の報酬とかゴブリンソルジャーの斧と鎧の報酬も受け取りに来てるし。」

「こうやって週に何度か来る方は自然と憶えられますよ。エイミィさんだってそうですよ。」

「え!?私のことも憶えてるんですか!?」

「はい。最初に見た時から日に日に元気がなくなってきていたから心配してたんですよ。今日は前みたいに元気そうなので良かったです。それで、今日はどうされたんですか?」

「あぁすいません。まず達成確認書です。」

「ホーンラビット4匹ですね。カナメさんにしては簡単な仕事ですね。どうしたんですか?」

「今日はエイミィの付き添いだったんです。ホーンラビットも狩れないと言っていたので。まぁ致命的な原因は改善させたのでもう大丈夫でしょう。今日の討伐も全部エイミィ1人でやりましたから。」

「そうなんですね。エイミィさん良かったですね。普通、こんなに面倒見てくれる人いないですよ。やっぱり研修を担当したからですか?」

「そうですね。というか、落ち込んでるのを見たら放っておけなかったって感じですね。話を聞くだけにしてここまでする気は無かったんですが。」

「いいんじゃないですか?傭兵の皆さんは個人主義の方が多くてパーティーメンバーでもなければ面倒見ないですけど、ギルドとしては本当は皆さんで助け合ってほしいですから。あ、それではこちらが報酬です。」

「ありがとうございます。それと、教えてもらいたいのですが、ギルドの提携してる店で魔物素材を加工してる店ってありますか?」

「ありますよ。作りたいのは武器ですか?防具ですか?アクセサリーですか?」

「武器ですね。」

「武器だと⋯⋯この近くなら赤髭部防具店と南街武器店と花橋武器店ですね。大きいのは南街武器店です。」

「なるほど。その中だと赤髭部防具店に行ったことがあるので、まずはそこに行ってみます。」

「え?あそこに行ったことがあるんですか?」

「はい⋯⋯?イアンさんの紹介で。」

「イアンの紹介でですか。それなら問題無いでしょう。」

「⋯⋯あのお店、なんかあるんですか?」

「いえ、ただ店主が変わった人なので気に入った人しか相手にしないんです。」

「そうなんですか。たしかに杖で殴るって話をしたあたりから対応が良くなった気がします。じゃあちょっと行ってみます。ありがとうごしました。」


 受付を後にした2人はその足で赤髭部防具店へ向かう。出張所からは徒歩5分ほどであるが、人目につきにくい場所のため相変わらず人がいない。

 店の中は以前と変わらず整然と陳列されている。今日はその奥のカウンターに店主がいた。座って何かの作業をしている。ドアが開いた音を聞いてこちらをチラリと見たが、また作業に戻ってしまった。


「あの⋯⋯すみません。素材の加工をお願いしたいのですが⋯⋯。」


 人を寄せ付けないオーラを放っていて話しかけにくいが、意を決して話しかけてみた。案の定、嫌な顔をしながら答えてきた。


「ぁあ?魔法使いが何のようだ。」

「先日、イアンさんの紹介で来た2等級のカナメです。あの藍色の服を買った。」

「あ〜、あの行儀の悪い魔法使いか。」

「行儀の悪いって⋯⋯。」

「カナメさん、何やったんですか?」

「何もやってないよ。杖で殴るって言ったら行儀の悪い魔法使いだって言われただけ。」

「で、カナメだったか。今日は何のようだ。」

「はい。こちらで魔物素材を使った武器を作っていただけるとギルドで伺いまして。」

「おぅ。やってるぞ。でも何を作りたいんだ?お前はそのおかしな杖で十分だろ。」

「いえ、僕ではなく、こいつの武器です。」

「あの⋯⋯よろしくお願いします。」

「ぁあ?この坊主の?こんなヒョロイのが武器なんか振れんのかよ。」

「いえ、振れないです。だから、こいつで作ってもらいたいんです。」


 カナメに促されエイミィは腰に下げている小袋からホーンラビットの角を取り出しカウンターの上に置いた。


「ほう?これはまた随分と珍しい物を持ってきたじゃねぇか。」

「珍しいですか?ホーンラビットの角ですよ?」

「あぁ、珍しい。これを武器にしようなんてやつはそうそういないぞ。」

「でもこれ、軽くて硬いから武器に良さそうですけどね。」

「武器の素材としては申し分無い。そこら辺にいる雑魚のわりにはいい素材だ。だがな、高いんだよ、加工費が。駆け出しにしちゃ高くて払えない。そして、払えるようになってくると、それよりも安くて良いものが手に入る。だから誰も使おうとしねぇんだ。」

「なるほど。だから使っている人を見たこと無いんですね。ちなみに、どのくらいかかるものなんですかね。」

「まぁ物にもよるが最低でも300,000ルクってところだな。」

「さん⋯⋯。納得です。」


 300,000ルク。2等級のゴブリン討伐の基本報酬が25,000ルクであることを考えるとそう高くないように見えるが、毎日仕事をするわけではないし、戦っていれば装備品が損耗するためメンテナンスや買い替えなどで費用がかさむ。ゆえに、2等級の傭兵にそれほど金銭的な余裕は無い。3等級も似たようなものだ。そして、これだけの金額の武器ならそれなりにいい武器が買える。

 ホーンラビットの角を使った武器には基本的な欠点が存在する。それは重量だ。軽くて硬いというメリットの反面、軽すぎるのだ。軽すぎて威力が落ちてしまうのだ。

 そのような致命的ともいえる欠点を抱えた武器を駆け出し以外で使いたい者はいない。だが駆け出しでは手が出せず、買えるくらいの稼ぎができる頃には必要無くなっている。

 だがカナメは違う。武器防具の損耗がほぼ無いので生活費しかかかっていない。だから蓄えがある。


「それでも作るか?」

「まぁ、それくらいなら払えるので構いません。」

「い、いえ!そんな高価なものいただけません!」

「そうは言っても今のままじゃ使える武器が無いぞ。」

「それはそうですけど⋯⋯。」

「初討伐記念を兼ねて作ろうって提案したのは俺だからな。気にしないでくれ。じゃあご主人、お願いします。」

「分かった。で、どんな武器にするんだ?」

「エイミィ、どうする?」

「あ、はい⋯⋯。私でも扱える重さなら特に要望はありません。まだ技術も未熟なので⋯⋯。」

「ん?ちょっと待て。坊主、お前女なのか?」

「はい。よく間違われるので気にしてないです。」

「そうか。これは悪かったな。で、武器の要望が無いならこっちで体に合いそうなものを作らせてもらう。ちょっとそこの椅子に座ってくれ。筋肉の状態を確認する。そのボロい胸当ても外せ。」


 エイミィは言われるがまま胸当てを外し椅子に座る。そして店主が手、腕、背中、足を触っていく。太ももの辺りを触られている時にエイミィが笑いを堪えていた。くすぐったかったのだろうか。


「ふむ。だいたい分かった。この感じならたしかに重い武器は振れないな。ホーンラビットの角で武器を作るというのも納得だ。恐らく嬢ちゃんに向いてる武器は槍だな。最も向いてるのは投擲武器だが、この辺じゃ使いにくい。短剣類は素早さと技術が必要だが、どちらも無い。もちろん槍も筋力と技術が必要だが、一定の距離を保てる分、短剣よりはマシだ。恐らく性格的にもその方がいいのではないか?」

「たしかに、今日見ていて魔物に近づくのは苦手っぽかったですね。」

「はい。剣の間合いでも怖かったです。」

「やはりな。それなら槍にすればいい。森の中でも使えるように短めにしてやる。柄も軽くて丈夫な物にしてやる。」

「ありがとうございます。完成にはどのくらいかかりますか?」

「そうだな。1週間といったところか。1週間後にまた来い。請求もその時だ。」

「分かりました。それでは、よろしくお願いします。」


 こうしてエイミィの新しい武器を発注して店を後にした。

 店を出るとエイミィが深いため息をついた。


「どうした?」

「いえ、ちょっと緊張してしまいまして。凄く話しにくそうな方だったので。」

「たしかにちょっと話しにくいけど、商品に関しては信用できる。このナイフもあそこで買ったけど使いやすいしよく切れるよ。」

「あ、それ昨日魚を捌く時に使っていたやつですよね。ここで買ったんですか。」

「そう。まぁメインは防具の服だったけどね。あれはまだ使いこなせてないからよく分からない。」

「服って使いこなすものなんですか?」

「俺のはそういうやつなんだ。さて、これで一段落だ。後は槍の完成を待つだけだな。腹も減ったし、どこかでご飯でも食べてから帰るか。」

「いいですね!私、ずっと気になっていたお店があるんです!」


 その後、2人は花橋付近の飲食店で食事をしてそれぞれの宿泊する宿屋へ帰っていった。

 なお、カナメはそれから1週間、金策のためにエイミィに同行する日以外も毎日討伐依頼を受けることになった。

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