傭兵パーティーとの邂逅
カナメが目を覚ますと外にいた。父の背中に背負われ、日の暮れかけた村の中を歩いているところだった。村の外から戻ってきた男たちが家族の無事を確認して笑っているかと思えば、家族を失い泣いている者、家が荒らされ呆然としている者もいる。
それらを見て、再び言いしれない不安感を覚え父にしがみついた。
「お、カナメ、起きたのか。大丈夫か?」
しがみつかれたことで父はカナメが起きたことに気がついた。ついさっき抱きついたまま眠ってしまったため心配をしてくれているようだ。
「うん。大丈夫。」
不安になって抱きついたなど恥ずかしくて言えない。少し強がってみた。
「それより父さんこそ大丈夫なの?足、まだ痛いんじゃないの?」
教会で治療はしているが低級ポーションだから完治していないというようなことをダンテス神父が言っていた。足がまだ痛むようならもう少し休むべきだ。
「大丈夫大丈夫。この程度は痛いうちに入らん。」
豪快に笑いながら言い放ったが、やはり治っていないようだった。
「まだ治ってないんじゃないか!ダメだよこんなことしてたら!俺も歩くから降ろして!」
そう言って多少強引に背中から降ろしてもらった。
「なんだよ。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
「傷が心配だから言ってるのに!さ、早く家に帰って休むよ!」
父を促して家に向かう。急ぐと傷に障るのでゆっくりと歩く。
家に帰ると瓶に入れている水をコップに入れて勢いよく飲み、居間の椅子に座って一息ついた。
父は奥へ行った。ズボンを履き替えるようだ。股関節付近まで片足だけ無いズボンでは生活できないからだろう。この後カミュが来ることを考えると、あれで迎えるのは恥ずかしい。
しばらくすると父が戻ってきた。コップに水を入れて出してあげると、美味しそうに飲み干した。やはり疲れていたのだろう。
「ふぅ。ようやく落ち着いたな。ところでカナメ。今日はアンを助けたんだって?よくやったな。」
父は頭を撫でてきた。今回は褒めてもらえたことが嬉しく、甘んじて受け入れた。
「うん。アンさんが危なかったから必死に弓で。でも狙いが外れて⋯⋯⋯。」
思い出してしまった。初めて人に向けて矢を射たことを。そして殺したことを。落ち着いたらより実感が湧いてきた。気分が悪くなる。
「カナメ、よくやった。そして後悔するな。今、お前が考えていることは傭兵や兵士なら誰もが通る道だ。俺もそうだった。だから慣れろとは言わない。だが、乗り越えろ。それに、お前がやらなければアンは死んでいたかもしれない。そしてその次はお前だったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。お前は被害を防ぐことに成功したんだ。罪の無い村人を盗賊から守ったんだ。俯くことはない。胸を張れ。」
顔が青くなったカナメを見て、その心情を悟った父はカナメを励ました。しかし、頭で分かっていても気持ちの整理がつかない。
カナメは父の言葉に頷いたものの、何も言葉が出なかった。
しばらく沈黙の時間が続いた。時折コップの水を飲む。蝋燭の灯りが揺れている。
父はこれ以上何も言わず、簡単ではあるが夕食を作ってくれた。だが、食欲が湧かない。そんなカナメに、父は無理矢理にも食べるよう言った。食べれば多少マシになると。気は進まなかったが父に従い夕飯を食べることにした。
食べ終わると、先ほどよりも気持ちは落ち着いた。父の言っていたことは正しかったようだ。過去の自分の経験を踏まえたうえでの助言だったのだろう。もしかしたら同じような姿を何人も見てきたのかもしれない。
そのようなことを考えていると、玄関のドアがノックされた。こんな時間に誰だろうかと思っていると、外から声が聞こえた。
「ハヤテ、いるか?カミュだ。」
カミュが来訪してきた。たしかに来てもらう約束だった。完全に忘れていた。
急いで玄関へ行きドアを開けた。
「カミュさんこんばんは。どうぞ。」
ドアを開けると外にはカミュの他に3人の男性がいた。皆一様に銀色の鎧や胸当てを身に着けている。パーティーメンバーなのだろうか。家の中へ入るよう促す。
「ありがとうカナメくん。ハヤテ、入るぞ。」
ぞろぞろと家の中に入ってくる。
「お邪魔します。」
「ハヤテ、元気かー!?」
「⋯⋯⋯。」
皆それぞれに挨拶している。1名だけ無言だが。
「おう!お前ら、久し振りだな!10年ぶりくらいか?」
父が満面の笑顔で迎える。やはりカミュのパーティーメンバーだったようだ。
「そうだ!紹介するよ。こいつが倅のカナメだ!今日は大活躍だったんだぞ!」
いきなり父に腕を掴まれて引っ張られたと思ったら雑に紹介された。しかも大活躍だったと話を盛られた。
「は、はじめまして、カナメです。大活躍なんてしてないです。」
「なに謙遜してんだよ。お前がアンを助けたんだろうが。」
たしかにそうなのだが、大活躍なんて大袈裟すぎる。そしてあの時のことを思い出させないでほしい。
「まぁまぁハヤテ、お前がカナメくんを自慢したいのは分かるが、今はそっとしておいてあげなって。まだ消化できてないだろうからさ。」
カミュがカナメの心情を察して父を止めてくれた。ありがたい。
「なんだよ、つまんねぇなぁ。」
残念がっている父を他所に、カミュが話しかけてきた。
「カナメくん。彼らは私のパーティーメンバーだ。」
カミュに促されそれぞれに自己紹介を始めた。
「俺はエルシャールだ。主に斥候をやっている。よろしくな。」
痩せぎすな人だ。斥候というだけあって軽装備だ。胸当てと脛当て程度しか装備が無い。腰に片手剣をさしているから剣士も兼ねているのだろう。気さくな印象を受ける。
「フレインです。後方支援担当です。弓で遠距離攻撃したり、ポーションの管理をしてます。よろしくお願いします。」
物腰の柔らかい人だ。この人も銀色の胸当てをしている。後方支援というだけあって体格は大きくない。しかし後方支援だからといって鍛錬を怠っていないことはその佇まいから伺うことができる。
「ギンガだ。よろしく。」
無口だ。無口なんだろう。さっきも無言で入ってきた人だ。最も体が大きく、黒髪に黒い髭を蓄えたその風貌は熊のようだ。全身に銀色の鎧を装着し、背中には斧を担いでいる。明らかにパーティーの火力を担っている。
「あー⋯⋯ギンガについて補足すると、彼はその見た目から『銀熊』の二つ名を持っている。それと、普段は大きな盾を持っている。今は邪魔だから宿泊用の家に置いてきた。」
カミュが補足説明を入れた。なるほど、銀熊とはまた⋯。安直ではあるが、そうとしか言えない気もする。それにしても盾は置いてきたのに斧や鎧は置いてこないのかと思ってしまう。
「で、私はカミュだ。もう知ってるね。ちなみに二つ名は『銀騎士』だよ。よろしく。」
最後にカミュが名乗った。知ってるもなにも、命を助けてもらった恩人だ。銀騎士というのもバルドが言っていたので憶えている。銀色の鎧を着た騎士然とした雰囲気。しっくりくる。しかし他にメンバーと比較してパーティー内の役割がイマイチ掴めない。
「カミュさんはパーティーだとどんな役割なんですか?エルシャールさんは斥候兼剣士で前衛、フレインさんは弓士で後衛、ギンガさんは戦士だから前衛ですよね。カミュさんは⋯魔法使いだから後衛ですか?」
今の自己紹介を踏まえ、自分なりの解釈を加えて訊いてみた。
「おしいね。僕の役割は、強いて言うなら遊撃かな。剣も魔法も使える、いわゆる魔法剣士だからね。前衛も後衛もできる。」
魔法剣士などという職業は聞いたことがない。それだけ特殊ということか。
「魔法剣士!?初めて聞きました!なんだかよく分からないですがカッコいいです!!」
カナメは目を輝かせてカミュに詰め寄り見つめる。
「あ⋯⋯えっと⋯⋯、ありがとう。」
カミュはカナメの急な態度の変化に動揺する。
「魔法剣士、カッコいいです!俺も剣を使えるから魔法剣士になれますか!?」
カミュの動揺には気が付かず、ただ「カッコいい」というだけの理由で魔法剣士になりたいと思い、憧れで胸がいっぱいだった。
「えぇぇ⋯⋯?どうだろう?」
あまりに純粋なカナメの質問に答えを窮する。本当はとてつもなく難しいのだが、夢を壊してしまいそうで正直に言えない。
「どうやったら魔法剣士になれますか!?」
食い気味に質問する。もしかしたら今日一番の大声かもしれない。
「え⋯⋯と、魔法⋯⋯使ってみたい?」
カナメの勢いと純粋な瞳に気圧されてたじろいだカミュが、その場を逃れるために苦し紛れに訊いてみた。しかしそれに対する反応は凄まじかった。
「はい!魔法、やってみたいです!魔法剣士、カッコいいです!」
「そ、そうか⋯⋯。ははは⋯⋯。」
カミュは狼狽えつつハヤテに目だけを向ける。そこには頬杖をついて見守っていたハヤテがおり、ニヤリと笑った。
「カミュ、ちゃんと責任取れよ。」
こうして、カミュはカナメに魔法を教えることになってしまった。
実は東洋風の名前の人は漢字もイメージしてます。
・カナメ→要
・ハヤテ→疾風
・ギンガ→銀牙
みたいに。
今後も名前は東洋風、西洋風、中東風、南米風などごちゃ混ぜで出す予定です。




