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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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初討伐

 街に戻ってきた2人はその足でギルド支部へ行った。ギルドの依頼掲示板の前には人がまばらにいる程度で特に混雑していない。とりあえず翌日以降の街の外の依頼を探す。

 王道なのはゴブリン討伐だろう。だが、その場合だとエイミィが何もできずに終わってしまう。武器は無い、魔法も使えないでは戦力にならない。ではどうするか。ゴブリンよりも弱い魔物で試すしかない。群れることはなく、単独で行動するため狩りやすい魔物。ホーンラビット。一角ウサギとも呼ばれるこのウサギは新人がパーティーを組まなくても倒せる。そのくせ妙に好戦的なので見つけるのも容易だ。そんな魔物なのでソロで受けることも可能だ。

 それなのにエイミィは討伐に失敗しているらしい。理由を聞くと、なかなか見つけられず見つけたと思ったら逃げられるからだという。たしかにホーンラビットの足は速いが、普通は逃げられることはない。そのスピードを活かした突進で不意打ちされることがあるほど好戦的なのだから。

 どんな状況なのか分からないので、とりあえずこの仕事を受けて実際の様子を見てみることにした。

 翌朝、2人は南門を出て草原へ向かった。何人かの傭兵がカナメを見て不思議そうな顔をしている。なぜ魔の森に行かないのかと言いたげだ。ただ、隣にいるエイミィを見てなんとなく状況を察して声をかけてくることはなかった。どういう解釈をされたのかが非常に気になるところだが、それはいずれ分かることだろう。

 ホーンラビットは主に街と魔の森の間の草原に生息している。今は冬の始めのため背の高い草は生えていない。それゆえに草むらからの不意打ちに注意する必要はなさそうだ。のんびり歩いていれば向こうから姿を現すだろう。


「いないですねぇ、ウサギさん。」

「まぁ見つけやすいとは言っても、これだけ広い場所で1匹⋯⋯1羽?を探すんだから、そんなにすぐ出てこないだろ。」

「そうですよね。それに、もしかしたら冬眠しちゃってるかもしれないですしね。」

「ん?ホーンラビットは冬眠しないぞ。」

「え?しないんですか!?だってウサギですよね!?」

「あぁ。だってあいつら、ウサギの見た目をしてるだけでウサギじゃないからな。」

「知らなかった⋯⋯。」

「いや、分かれよ。角が生えて牙のたくさんある肉食動物って考えればウサギなわけないんだから。」

「そうなんですけど、あの見た目でウサギじゃないと言われても信じられないというか⋯⋯。」

「気持ちは分かるけどな。⋯⋯⋯⋯ん?」


 前方の草が動いたと思ったら角の生えたウサギが出てきた。


「あ!いました!いましたよ!わぁーーー!!」

「ちょ、うるさっ!」


 ホーンラビットを見つけたエイミィが急に大きな声を出しながら剣を振りかぶって走り出した。これを見たホーンラビットは驚いたように身を縮こまらせ目を見開いている。そして体を小さく震わせたと思ったら反転して逃げ出した。


「あぁ⋯⋯。また逃げられちゃいました。」


 カナメは肩を落として落胆しているエイミィの背後から近づき頭を引っ叩いた。


「いたっ!なにするんですか!」

「こっちが聞きてぇよ!あんなの威嚇行動だろうが!魔物が逃げる威嚇ってなんだよ!ある意味凄いぞ!」

「うぅ⋯⋯。声を出さないと怖くて。」

「まったく。⋯⋯まさか、他の狩りの仕事の時もやったんじゃないだろうな。」

「⋯⋯⋯⋯。」


 エイミィは目を逸らして頬を掻いている。これは、やりやがったな。


「お前な。そりゃ怒られるし報酬もカットされるわ。狩りの研修の時何やってたんだ?」

「えっと⋯⋯後ろで黙って見てました。」

「その前に静かにするように言われていただろ。」

「そんな気がします。」

「俺が斥候のやり方を教えた時も静かにしろって言ったよな。」

「⋯⋯⋯⋯ごめんなさい。」

「また同じことするなよ。次やったら強制終了だぞ。」


 予想外のエイミィの暴走を見て、彼女がなぜ失敗続きだったのかの原因の一端が分かった気がした。武力が無いだけならそこまで問題にならないはずなのに、誰とも仲良くなれないレベルで失敗するというのはおかしいと思っていたんだ。だが、これなら納得だ。皆邪魔されれば険悪にもなる。武器の扱い方と魔法の検証の他に『静かにさせる』という課題を追加しないとな。

 しばらく歩いていると遠くにホーンラビットを発見した。今回は後ろを向いている。こちらにはまだ気がついていないようだ。


「とりあえず、今回は声を出さずに歩いていけ。見つからないようにゆっくりだぞ。あと、事前に剣は抜いておけ。」

「分かりました。」


 エイミィは努めて小さな声で返事をすると、言われた通り剣を抜いてソロリソロリと歩き始めた。これでは時間をかけすぎて逃げられかねないが、うるさいよりはマシだ。

 だがこちらの心配を他所にエイミィはウサギを剣の射程に収めるほどの接近に成功した。そのままゆっくりと持っている剣を振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろす。しかしホーンラビットに気取られ躱されてしまい、剣は地面に深々と刺さってしまった。


「あぁ!逃げられた!」

「反撃くるから気をつけろー。突進を狙ってくるから躱して斬れ。」


 目の前では剣を躱したホーンラビットが体を反転させてエイミィに向き直っていた。当のエイミィはようやく地面から剣を抜いて構える。一瞬、辺りが静かになったような気がした。

 ホーンラビットは後ろ脚の脚力に物を言わせて突進。相手に向かって跳躍し、角で相手の体を串刺しにしようとする。だが、直線的すぎる。威力も速度も十分脅威だが、軌道が読めてしまう。ゆえに、エイミィのような戦闘や狩りの初心者でも容易に避けられてしまう。

 大きく体を横に動かして躱したエイミィは、なんとか転倒を免れ態勢を整える。少し離れた所に目の前を通過したホーンラビットが着地した。そこに再び剣を振り下ろす。今度は確実にその背を捉え絶命させるに至った。


「やった!やりましたよ!」

「よくやった。これで無事にホーンラビットを狩れたな。」

「はい!初めて自分で魔物を倒せました!」

「お、初討伐か。おめでとう。」

「はい!ありがとうございます!」


 エイミィが満面の笑顔で駆け寄ってきた。


「それじゃ討伐証明部位を取るか。こいつはたしか角だったな。ただこれ、取るのが結構大変なんだよな。硬くて。」


 ホーンラビットの死体を手に取り、角に傷がないことを確認し腰のナイフを利用して角を折る。


「エイミィ、ホーンラビットは角は討伐証明、体毛は毛皮、肉は食用と捨てる場所が無い。ゴブリン討伐より実入りは少ないが、体ごと持ち帰れば意外といい収入になるぞ。そしてこの角。意外と使い道が多くてな、工芸品や武器に使われ⋯⋯武器?」

「どうしたんですか?」

「いや、ホーンラビットの角は武器にも使われるんだ。軽くて硬い、意外といい素材らしいぞ。すっかり忘れていたよ。」

「え!?この角で武器が作れるんですか!?」

「あぁ。短槍の穂先とか短剣に加工できるらしい。使ってる人を見たこと無いけどな。」

「なんでですか?」

「さぁ?俺は使わないから理由なんて知ろうともしなかったしな。でも、これで武器問題が解決するかもしれないぞ。こいつで武器を作れば強度が高くて軽い武器が作れる。そうすれば力の弱いエイミィでも扱える武器になるはずだ。」

「わぁ!いいですねそれ!」

「そうだな⋯⋯。初討伐記念として、初討伐の証であるこの角を使って武器を作ってもらおう。お金は俺が出す。」

「いいんですか!?」

「構わないさ。これからしばらくは同行することが増えるんだから、戦力強化に投資するのは当然だろ?それに、素材であるホーンラビットの角はこっちの持ち込みなんだから、そんなに高くはならないだろうしな。」

「ありがとうございます!」

「じゃ、あと何匹か狩ったらギルドに戻ろう。そしたらそこで角を加工してくれる店を紹介してもらって、行けそうなら店にも行ってみよう。」

「はい!」


 ご機嫌になったエイミィはその後もホーンラビットを狩り続けた。最初の一匹で自信がついたようで、無駄に叫ぶことも急に走り出すこともなくなった。その結果、1人で5匹の討伐に成功。これ以上狩っても持ちきれないため、討伐を切り上げて街へ帰ることにした。

 帰り道は重くなった荷物とは対照的にエイミィの足取りが非常に軽くなっていた。最初に討伐したホーンラビットの角を手に、時々ニヤけていた。初討伐の達成感に浸っているのか、新しい武器のことに思いを馳せているのか。そんな姿を横目に街へと向かった。

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